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演習"Forestry in Germany":伐採と路網整備

先週は2日連続で演習があり、これは2日目のコース。車で20分ほど離れた場所にあるForstamt Reinhausen の森での演習。午前中は伐採の実務の見学を行い、午後は路線網保全の実務の見学を行った。今回案内してくれたのは、forest work science and engineering研究室のProf. Höfle。実務経験に基づいてきっちりと指導してもらった。きっちりさは、用意された紙の資料が45ページ(!)もあったことからもわかる。

伐採現場には立ち入り禁止の標識を掲げる

ドイツ国内の森林は、所有者が誰であれ原則として誰でも自由に立ち入ることができる。そのため、伐採を行うに際しては写真のようにここは立ち入り禁止という標識を大きく掲げることが大原則になっている。当日は間伐を見学。林業の現場作業者は大変に高いスキルのいる職業なのだが、その日は現場作業者養成コースの学生3名と指導員1名の実習の様子を見せてもらうことになっていた。おそらくこの学生たちは、週に何日かは現場で仕事をして、残りをこういった実習に充てているのだと思う。3年目という学生の作業ぶりはかなり手慣れたものだった。

伐採というと、木を切るだけ、と思ってしまいがちなのだが、木は工業製品と違って地形や品種、日の当たり方等々で生え方が全然違うから、安全に品質を保ったまま切り倒すには結構な知識と技術がいる、ということを知った。現場を見なくては分からない、という言葉の意味を再確認。

目標木には黄色のリボン

もちろんここでも皆伐ではなくて択伐なので、ある一定の面積の林の中で、この木を中心に育てて将来主伐の対象にする、であるから、その周りのこの木とこの木は今切り倒しておく、というように、林の育成計画をきちんと立てられることが、ビジネスとして林業を持続的に行う上での大前提。見学した林では、長期的に大きく育てたい木には黄色のリボンを、途中で間伐する木には赤・青のリボンがまかれていて、その区別が一目でわかるようになっていた(上写真)。

後、特徴的だったのは林業労働者の装備の充実ぶり。次の写真を見てもらえばわかるが、上から下までフル装備。もちろん安全靴だし、ズボンはチェーンソーが木から跳ね返ってきても歯が奥まで食い込まないように特殊な素材で作られている。さらに、ヘッドホンには無線も装備されていて、指導員の指示が的確に学生に届くしくみになっていた。木によっては変な方向に曲がっているものもあり、そういう木を切り倒すには力をうまく逃がすようにチェーンソーを入れていかないと事故につながる。そういう指示を的確に出すことが安全につながる、という思想を感じた。もちろん、こういう装備はお金がとてもかかるわけで、学生一人あたり年間で1-2万ユーロぐらい負担がかかるけど、これは必要な投資である、と当たり前のように述べていたのが印象的だった。林業労働者の労災率はどの産業よりも高いので、それを減らしていくことが産業全体にとって大きな課題だろう。

午後は路線網の整備の様子。ドイツではすでに十分な量の路線網が作られていて新設することはない、と断言していたのが面白かった。なので、あくまで路線網の整備。こういった林道の整備を専門に請け負う業者がいて、作業の様子を見せてくれた方もその一人。元々林業労働者としての訓練を受けた後に、独立してこの仕事をしているそう。今回は、大型トラクターの後ろに大きなトンボ状の装置を付けて、道路の両側にたまった砕石を中心に寄せて踏み固めるという作業。なんてことはない作業なのだけれど、一年に一回程度これをすることで、新たに砕石を追加しないまま20-30年林道としての機能を維持できるそうだ。

路線網の維持を考える際に一番大切なことはメンテナンスコスト、ということを強調していた。上記の作業にかかる費用は幅3.5mの林道で1mあたり0.15-0.20ユーロなのだそう。これがもし、新たに砕石を追加するということになると、10倍以上のコストがかかるらしい。毎年のメンテをちゃんと行うことがとても大事なんだそう。確かにその通りだ。ちなみに、林道はアスファルト舗装されないのが一般的。これもメンテナンスコストを考えてのこと。林道は生活道路ではない、という前提があって成り立つのだが。


オリジナル記事公開日:2012年5月16日

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