高校野球と人生と
夏の高校野球地区予選の季節だ。散歩の途中で近くの球場に立ち寄ったら、名の通った某強豪校に対し、部員が極端に少ない都立高校が「がっぷりよつ」で立ち向かっているところだった。たった一人の三年生がサードを守り、強烈な打球を飛びついて好捕する。いつの間にか、頑張れ、頑張れとスタンド中から声が上がる。二年生エースはなかなかの速球を投げていたけれど、少しずつ、少しずつ追い詰められ、にじり寄られ、とうとう痛打を浴び始めた。ついさっきまで1対2だったのが、みるみるうちに突き放されてゆく。仲間で励まし合うけれど、やがて皆、呆然として声も出せなくなってしまう。下を向くな、と言ったって、限界点を超えてしまえばそれもできなくなってしまうのが人間だ。それでも涙をこらえて、唇を噛みながら戦い続ける彼らを見て、僕は人間の、なんというか、ある種の強さと美しさを感じてしまった。
何もかも勝る相手の力を見せつけられたとき、人はどうすればいいんだろうか。そういう問いに対する答えに、たぶん限りなく近いものを、ときおり教えてくれるのがスポーツだ。
試合は1対14で幕を閉じた。