見出し画像

「見出し」に著作権があるという主張について

東北地方のブロック紙・河北新報の2月18日朝刊の社会面に「河北新報記事を無断転載 著作権法違反疑い 男性を書類送検」という記事が掲載されました。「情報には対価必要」という小見出しとともに私のコメントも載りました。

新聞を応援する内容となっていることから異論のある方もいるかもしれませんが、個人的にはオールドメディアも必要な媒体であり続けるべきと考えています。特に全国紙よりも地方紙の存在意義を重視しています。

今回、インスタグラムに紙面のスクリーンショットを無断転載したことが刑事事件に繋がったことに驚かれた方もいるようです。しかし、長年にわたって千数百点にも上る記事の複製画像をアップロードしただけではなく、再三の削除要請に応じなかったそうですから、これも致し方のないことでしょう。

河北新報の記事によると、書類送検された男性は、「閲覧者に褒めてもらって、自己満足したかった」などと話していたそうですが、他人の著作物に「ただ乗り」してはいけません。そういった意味では、ファスト映画の投稿により最近逮捕された「ファストシネマ」の運営者にも同じことが言えるでしょう。特に後者はたくさんの利益を得ていたという点でさらに悪質です。

時事通信によると、自らの行為を「合法」と主張する一方、動画に使った映像については「レンタルDVDからコピーした」と話していたそうですから、この時点で既に複製権の侵害であり、完全に論理が破綻しています。

ところで、新聞に話を戻しますと、記事や写真の転載にあたって著作権者の許諾が必要になることは説明するまでもないでしょう。許諾が不要なのは、著作権法32条で規定されている「引用」などの一部の例外に過ぎません。基本的に、著作物を複製する行為には複製権、インターネットにアップロードする行為には公衆送信権が働きます。

そのため、どうしても紙面イメージを伝えたいのであれば、画像全体の解像度を下げるか、モザイクやぼかしなどの加工を施すなどして、記事や写真の内容を視認できないようにする必要があるでしょう。この対処法については、「同一性保持権の侵害になるのでは?」という意見がありました。

(同一性保持権)
第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
三 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

個人的には、前述したような加工は著作権法20条1項にある「その意に反して」にあたらないと思いますし、さらには同条2項4号にある「やむを得ないと認められる改変」にあたるように思います。

新聞社によって見解が違う可能性は否定できませんが、たとえば、鹿児島県の地方紙である「南日本新聞」は、次のような著作権ポリシーを公開しています。

紙面イメージを紹介したい場合には、見出しが分かる程度で、記事が読めないくらいに解像度を低くしなくてはいけません。また写真も同様で、注意が必要です。写真には弊紙の著作権に加え、撮影された人物の肖像権(または商標権を含む)なども絡み、問題となる可能性があります。複製できるほどに高精細での転載は許可されません。写真にはモザイクをかけるか、判然としない程度にぼかしたり、解像度を落としたりする必要があります。

南日本新聞は「見出しが分かる程度」ならばOKとしているようですね。実際に「見出し」は創作性が認められる余地が小さく、多少の工夫が凝らされたものであっても、通常は著作物には該当しないものと考えられています。たとえば、「ヨミウリオンライン事件」の知財高裁判決(平成17年(ネ)第10049号)では、以下のいずれにも著作物性は認められませんでした。

①「マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売」
②「A・Bさん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験」
③「道東サンマ漁、小型漁船こっそり大型化」
④「中央道走行車線に停車→追突など14台衝突、1人死亡」
⑤「国の史跡傷だらけ、ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」
⑥「『日本製インドカレー』は×…EUが原産地ルール提案」

しかし、「見出し」の取り扱いについては、新聞社によって姿勢が異なる点に注意が必要です。まず、「日本新聞協会」のホームページに「ネットワーク上の著作権について」と題する見解が示されています。そこには「見出しにも新聞社としての創意・工夫がこめられており、著作物であるという解釈もあります」と書かれており、なにげに無許可で利用することを牽制しています。

新聞社によっては、もっと強い表現で見出しの権利を主張しているところもあります。ネットサーフィンをしてすぐに見つかったのが、以下の2つの新聞社の見解です。

(産経新聞)
産経新聞社は見出しについても、著作物としての創作性があり、本来、著作権があると考えます。
(日刊工業新聞)
当社では、著作物の見出しについても記事という著作物をベースに制作しており、創作性・創意性が高いため、著作権を有すると判断しています。

さすがにちょっと言い過ぎのような気がします。「表現によっては著作物性が認められることもあり得ます」くらいの控えめな表現がちょうどよいのではないでしょうか?

なお、見出しの著作物性とは関係なく、それを利用する行為が社会的に許容される限度を越えるような場合には、法的保護に値する利益を違法に侵害するものとして不法行為(民法709条)を構成することがありますので注意が必要です。




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