廃炉と復興を切り分ける

※この記事は、情報を追加して補足、修正されていきます。

政府の方針は、廃炉と復興を一体としてとらえています。これは「復興と廃炉の両立」という言葉に表れています。

福島原発事故で2つの課題がでました。一つは、被害からの回復、再生です。もう一つは、1Fの事故処理・後始末です。

順をおって考えましょう。

被害救済、被害からの回復、再生は、すみやかに行われなければなりません。加害者である東京電力にたいし必要な賠償を行わせること、さらに生活の再建、コミュニティーを再生を進めることは、速やかに行わなければなりません。

一方、事故処理・後始末は、何より安全第一、労働者被曝と環境汚染を最小にする必要があります。この場合、拙速であってはいけません。時間を優先すれば、かえって労働者被曝をもたらし、周辺環境に影響を及ぼしてしまいます。

つまり、2つの課題は関係はありながらも、時間軸も内容も全く別なのです。

ここで問題になったのはALPS処理水海洋放出です。

タンクが林立していると復興にならない、という言説が流れました。政府のALPS処理水海洋放出をさだめた基本方針でも「福島第一原発の敷地内に設置されたタンクについては、その存在 自体が風評影響の一因となっている」と書かれています。

ホントにそうなのでしょうか。タンクは1Fの中に入らないと見えません。タンクがあるから風評被害がでるとはとても考えられませんし、聞いたことがありません。

問題はタンクではありません。東京電力が事故を起こし、放射性物質をばらまいたことが風評被害を含む被害の最大の原因です。いつのまにか、市場関係者や消費者に原因を転嫁していないでしょうか?

そもそも復興が十分に進まない原因の一つは、東京電力が不誠実な態度をとり続けているからです

周辺自治体、例えば影響を受ける浪江町では、集団で和解交渉が東京電力との間で行われました。東京電力は、ADRでの和解仲介案を拒絶しました。賠償での不誠実な対応こそが、地域の復興の妨げになっているのです。

※詳しくは別の機会で述べますが、東京電力は訴訟の場で被害者が求める「ふるさと喪失」損害に対する賠償を真っ向から否定しています。

1F内の事故処理は大変な課題を抱えています。1Fは、非常に汚染されおり、発生する(している)放射性廃棄物も膨大です。簡単に比較できませんが、重量ベースでみると、事故を起こしていない普通の原発のうち、大型の原発を1基廃炉した場合に発生する放射性廃棄物の1000倍以上の量になります。

放射性廃棄物の量は、日本原子力学会の報告書(と元になった論文)に書かれています。

にもかかわらず、政府・東京電力は、1F廃炉を30〜40年(2041〜51年)で終えるという方針(中長期ロードマップ)を持っています。これに基づき、デブリ取り出しのためにALPS処理水放出が必要だとすら言っています。

よく考えていただきたいのは、通常の原発ですら20〜30年かけて廃炉するという事実です。福島原発事故が起きてもう10年たっていますから、あと30年しか有りません。

燃料デブリを含め放射性廃棄物の量は膨大です。どんなに無理をしても30年で廃炉するのは不可能です。デブリを急いで無理にとりだせば、かえって非常に危険です。

むしろすみやかに行うべきは、建屋への水の流入を止める対策を施し、1Fの原子炉建屋に外構シールドを設置し、地震があっても長期管理、保全できるようにすること、放射性物質の漏洩、放出を完全に防ぐことです。まずはこれに傾注すべきでしょう。

根本的には、東京電力と政府に責任をとらせる。周辺住民を含む国民が、廃炉と復興のプロセスに直接関与する。これがとても重要です。

福島原発事故10年の現在、これまでの政策の問題点を洗い出し、国民参加の下で福島原発事故の課題に取り組む必要があります。

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