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狂人の本質-嘘つきに取材して聞いたしょうもない作り話と、その精神医学的分析【後編】

人間以外に、嘘をつく生物はいるか?

この質問に、あなたは答えられるだろうか。


他者を”騙す”動物は数多くいる。自分を小枝や枯れ葉のように見せかけて敵の目を欺く昆虫の姿を、一度は見たことがあるだろう。

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よく見るとこの画像の小枝は実は昆虫である。言われないと絶対に気づかない。美しさすら感じる、完璧な擬態だ。

この完璧な擬態によって捕食者は騙される。餌である昆虫を発見できずに、黙って通過してしまう。散歩している僕らだってこの昆虫は見落とすんだから、空を飛んでいる鳥はなおさらだろう。

では、完璧な擬態によって捕食者を騙すこの昆虫は「嘘をついている」と言えるのだろうか?

その答えはNoだ。昆虫は別に「自分を小枝に似せて鳥を騙そう」と思っているワケではない。血の滲む努力によって小枝のフリをする技術を習得したワケではない。単に進化の結果そうなったのだ。

「少しだけ小枝に似た個体」と、「全然小枝に似ていない個体」だと、前者の方が生き残る確率が高い。したがって、次世代に生き残るのは「少しだけ小枝に似た個体」の遺伝子である。

更に次の世代でも「より小枝に似た個体」の方が生き残る確率が高い……ということを、この昆虫は何度も繰り返してきた。気が遠くなるような自然淘汰の連続の中で、どんどん「小枝に似ている」という特徴が強化されて今に至っている。

だから、彼らが小枝に似ているのは単に進化の過程でそうなったに過ぎない。彼らは一度も「自分を小枝に似せて鳥を騙そう」と思ったことはないし、自分が小枝に似ていることを自覚してもいないだろう。

これを「嘘をついている」と表現するのは変だ。小枝に似た昆虫は、嘘をついていない。


では、もっと高度な”騙し”をやる生物はどうだろう?例えばオマキザルだ。オマキザルは餌を発見した際に、敵がいないにも関わらず警戒信号の鳴き声をあげることがある。

仲間が慌てて避難したところで、自分だけがゆっくりと発見した餌を独り占めできる。これはかなり高度な”騙し”で、「嘘をついた」と表現してもいいように思われる。


だが、実際のところ彼らは「嘘をついている」とは言いがたい。なぜなら、他者の心の動きを予測して騙しているワケではなく、単に「こうしておけば餌にありつくことができる」という一つの技術を実行しているだけだからだ。

だから、彼らは新しい騙しのパターンを発明したりしない。カニを相手に、美味しいおにぎりと無価値な柿の種の交換を持ちかけたりしないのだ。「こう伝えれば相手はこう思うはずだ」と想定して嘘をつくことはできない。決まりきった技術を実行することしかできない。


結論はこうだ。「嘘をつく」という能力は人類に固有の能力である。

「自分の考えていることと他人の考えていることは異なる」という素朴な認識(進化学者の間で「心の理論」と呼ばれている)ができるのは、ゴリラやチンパンジーなど、高度に発達したごく一部の類人猿だけだ。

嘘をつくためにはこの「心の理論」が必須になる。当然だ。相手の視点と自分の視点が異なるからこそ、嘘には意味がある。

更に、この「心の理論」を活用して、相手に誤った考えを埋め込むのが、嘘である。

ゴリラやチンパンジーは原則として心の理論を高度に活用できないので、嘘はつかない。(例外もある。ココというゴリラは手話で嘘をついたとされている

したがって、「嘘をつく」という行為は高度に発達した人間特有の認知能力の証左であり、ある意味では「素晴らしいものだ」と鑑賞に値する行為なのかもしれない。ちょうど、小枝に完璧に擬態する昆虫を美しいと感じるように。


そういうワケで、今回は前回に引き続き、しょうもない作り話をインタビューで堂々と喋る人を鑑賞する記事にしたい。


なお、ここまでの「嘘をつく生物は人間だけ」議論に関しては、書籍『われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか』を参考にした。

今日はこの本と、もう1冊、精神医学の観点から嘘つきについて分析した本『平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学』をフルに活用していく。


これらを使いながらしょうもない嘘つきを分析して『狂人の本質』を解き明かしていく。

この記事を読み終わる頃には、嘘つきに対するあなたの悪口語彙が激増していることを保証する。嘘つきに対して「排便のしつけが不適切だったんだな」「精神病理が圧倒的だ」「お前、居場所なくなるぞ。ホモサピエンスだから」などの悪口が使えるようになるはずだ。使えたからといって特に何も役には立たないが、嘘つきに遭遇した時に楽しい気持ちで鑑賞できるようにはなると思う。


なお、前回の記事を読んでない方は先に前回の記事を読んでほしい。

前回の記事では「インタビュー取材をしにいったら相手が嘘つきで、ず〜っとしょうもない作り話を聞かされた」インタビュー内容を書いた。

いわば前回は「事例」を扱った内容だった。

今回はこの「事例」を踏まえて、分析しつつバカにする作業に入っていく。したがって、前回の内容を読んでないと何がなんだか分からなくなってしまうので、ぜひ前回の記事とセットで読んで欲しい。

以下、具体的に嘘つきの顔や内容が出てくるので有料になるが、くれぐれも後編だけ買うのはやめて欲しい。

ちなみに、前編も後編も単品購入(300円)もできるが、両方買うと600円になる。それよりも「炎上ノート2020年6月分詰め合わせ(750円)」を購入するのをオススメしたい。6月分の記事5本が全部読めるので、詰め合わせを買う方が明らかにお得だ。


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