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インターネットにランダムな出会いを求め続けた半生と、そこからの脱却【後編】


好きなクリエイターが自分の作品を褒めてくれる喜び

インターネットを介して人と会うことを恐れなくなった僕は、それから無限に人と会い続けた。コーヒーミーティングに限らず、初対面の人と会うためのあらゆる入り口があった。

大学3年生の終わりからは、ブログをたくさん書いた。ブログをおもしろがってくれた人とよく会った。デイリーポータルZライターの江ノ島さんに「おもしろいですね!僕がやってるメディアで一緒に書きませんか?」と言われたとき、天にも昇る心地だったのをよく憶えている。自分がおもしろいと思って見ていた人が、おもしろいと褒めてくれるのは本当に嬉しい。片思いが両思いに変わるような、恋が実るような喜びがある。

江ノ島さんがやっていたメディアに、僕はたしか5本ぐらい記事を寄稿した。そしてその後、一瞬にして空中分解してしまった。雑記おもしろ系のWebメディアの存続は本当に難しい。金にならないからだ。

それでも、このときの経験は貴重だった。外部メディアに寄稿しながら編集者(江ノ島さん)のフィードバックを受けて直して、記事が掲載された。学生ながら、Webライターの端くれになったつもりだった。


そして、気づけば本職のWebライターになっていた。自分のことをWebライターと自称したことはあまりないが、強いて言えばそういう類の人間だっただろう。

僕は学生時代、インターネットを介した知らない人との出会いに夢中になった。単に知らない人に出会う喜び以上に、「好きなクリエイターに、自分の創作物を褒められる」という喜びが大きかった。今になって思えば、この喜びの中毒になっていたのかもしれない。麻薬中毒者が社会からゆるやかにドロップアウトしていくように、僕もドロップアウトした。大学院進学は取りやめたし、就職もしなかった。


生活費をクラウドファンディングした

2016年のブロガー・ライター界隈を振り返ると、一番のバズワードは「クラウドファンディング」だっただろう。

「まったく新しい資金の調達方法!」「夢を熱く語ればお金が集まってくる時代!」「無名の人間にとって大チャンス!」「お金を理由に夢を諦めることはなくなる!」などという美辞麗句が並べ立てられていた。

周知の通り、クラウドファンディングは何の実績もない人間が「シェアハウスを作りたい!」と何の魅力もない夢を語り、1円も集められずに終わることが多い。無名の一文無しは無名の一文無しのままである。

クラウドファンディングで成功する人は、往々にして優秀である。他人から見たときに魅力的な説明を書くコピーライティング能力や、魅力的なビジュアルを作るデザイン能力や、市場のニーズを理解したリターンを設定するマーケティング能力が求められる。こういうものがそれなりに備わっている人は、たいていの場合無名の一文無しではない。

そういうワケで、クラウドファンディングで成功するのは、最初からそれなりにお金を持っている、それなりに優秀な人である。夢のようなプラットフォームの出現でも、格差は縮まらなかった。「無名の一文無しが駆け上がれる夢のようなツール!」というビジョンは、白昼夢にすぎなかった。


僕はそんな白昼夢の数々を尻目に、なんとか逆張りできないだろうかと考えていた。ひねくれた人間だから、大きな流行があれば、いつでも逆張りすることを考えてしまう。

僕が出した逆張りの結論が、「生きたい!」というプロジェクトだった。

https://camp-fire.jp/projects/view/9598

クラウドファンディングのプラットフォームには「○○を☓☓したい!」という構文のプロジェクトが並んでいるので、「生きたい!」というシンプルすぎるプロジェクトを作ったら面白いかと思って作ってみた。社会貢献が好まれるクラウドファンディングにおいて逆張りの、個人的すぎるプロジェクトだ。リターンも概ね全部ボケることにした。「ジャムの賞味期限を言っておいてもらえれば、電話でリマインドします」とか。

実際、割と面白かったらしく、まあまあバズった。目標額は一瞬で達成した。この辺の顛末については当時の僕のブログに詳しい。

リターンは他にも、「僕の1日を自由に使えます」とか「僕の2時間を自由に使えます」とかも用意した。「あなたのお陰で生きながらえた1日を、あなたのために使います」というような説明で。

とはいえ、「オレの2時間を自由に使っていいぞ!」と言われても、ほとんどの人は途方に暮れるだけだ。大抵の場合「メシ奢るので一緒に行きましょう」と言われるだけだった。結果、僕はたくさんの人とご飯を食べに行くことになった。


ヒマな人間は、ご飯を奢られてインタビューされたい

すると何が起こるか。クラウドファンディングでお金を出してくれた人がご飯を奢ってくれる上に、めちゃくちゃ褒めてくれるのである。

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