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最近のJ-POPは軽薄か?「なごり雪」的性質は本当に失われたのか。

何年か前に、評論家ぶったオジサンが最近のJ-POPについて語っていた。

最近の音楽は軽薄だ。「好き」とか「愛してる」とか、直接的な表現しか使えない。若者の想像力が減退しているからだ。
その点、往年の名曲「なごり雪」はすごい。「別れが寂しい」という言葉は一切使わずに、別れの寂しさを表現している。聴く者の想像力に委ねる曲だ。最近の若者は「なごり雪」を聞いてもメッセージが読み取れない。

大体こんな内容だった。出典は忘れた。真偽はともかく、考察としては面白いなと思ったので頭に残っている。

さて、この考察は正しいのだろうか。

一理ある、というのが一つの答えだと思う。確かに、最近のJ-POPは直接的な歌詞が圧倒的に多くなった。「なごり雪」と同じテーマを現代風にするなら「君は今日、いなくなってしまう」とか「もう用事もないのに会うことはできないんだ」とか、そんなフレーズが入ってきそうだ。


では、評論家ぶったオジサンが指摘する通り、最近のJ-POPは想像力を要さない、軽薄なものに成り下がったのか。

これは、はっきりと否定したい。そうではない。

「直接的な表現できるようになった」と、「直接的な表現しかできなくなった」とは、全く意味が違う。

現代のJ-POPは「直接的な表現できるようになった」だけだ。

確かに、時代の変化に伴って、「会いたい」とか「寂しい」とか「好き」といった表現をボカす必要がなくなったから、昔はボカしていた部分をボカさなくなった。

では全てが直接的な表現に成りかわったのかというと、そんなことはない。現代のヒットソングにも、間違いなく「受け手の想像力に委ねる表現」はしっかり受け継がれている。


「別の人の彼女になったよ」

事例として、この曲を挙げよう。wacci「別の人の彼女になったよ」だ。

SNSを中心に、若年層に大いに受けている。歌詞も曲調もミュージックビデオも全て、ひたすらに”エモい”。ウケる理由が大いに分かる現代的な一曲。

お時間がある方はぜひ上の動画を再生して聴いてみて欲しいが、この曲はまさに「受け手の想像力に委ねる」ものになっている。

今の彼氏のことしか語らずに、大好きだった元カレのことを表現している」という構成だ。

別の人の彼女になったよ
今度はあなたみたいに一緒にフェスで大はしゃぎとかはしないタイプだけど
余裕があって大人で、本当に優しくしてくれるの
(中略)
キスや態度だけで終わらせたりせずに
ちゃんと「好きだ」という言葉でくれるの
怒鳴り合いはおろか、口喧嘩もなくて
むしろ怒るとこが どこにもないの
(中略)
だからもう会えないや ごめんね
だからもう会えないや ごめんね

この歌詞、額面どおり受け取れば「今の彼氏はとてもいい」ということになるが、実際のメッセージはむしろ真逆だ。「まだあなたのことが好きだ」である。

これはまさに、「今、春が来て君はキレイになった」という言葉で「別れの寂しさ」を表現しているのと同じだ。ボカした表現で、メッセージを受け手の想像力に委ねている。


また、「別の人の彼女になったよ」はボカした表現をしなければいけない理由もよく分かる。新しい彼氏ができたから、「まだあなたのことが好きだ」とはっきり言葉にすることはできない。

「なごり雪」と「別の人の彼女になったよ」は、この点で明確に対比される。前者は、昭和の価値観に従って「好きだ」自体をボカす必要があり、後者は「元カレをまだ好きだ」という問題のあるメッセージをボカす必要があるのだ。


J-POPは衰退していない。進化している。

結論はこうだ。最近のJ-POPは「直接的な表現が使えるようになったので、直接的な表現が見られる。しかし、必要に応じて想像力に委ねる表現も使われる」。

つまり、これは表現の進化である。従来の表現の良さは残しつつ、かつてはできなかった表現ができるようになったのだ。この変化は歓迎こそすれ、軽蔑するべきものではない。

”巨人の肩の上に立つ”という言葉がある。科学者アイザック・ニュートンが学問について語った言葉として有名だ。「先人たちの残してきた業績のお陰で、我々は新たな発見ができる」というような意味だろう。

ニュートンが語った文脈は学問についてだったが、表現の世界でも同じだ。表現者は先人たちの業績の上に立ち、より良い表現にたどり着くことができる。

僕は表現の世界が大好きだ。連綿と続く表現の世界を、クリエイターたちは懸命に少しずつ前に進めていく。巨人が少しずつ育っていく。愛すべき営みだ。僕は、表現の世界が大好きだ。


オジサンの気持ちも分かるけどさ。

「最近のJ-POPけしからんオジサン」の気持ちも分かる。

人間は、慣れ親しんだものが変わっていくことを寂しく感じる生き物だ。反射的に「昔の方が良かった」と思ってしまう。

でもその感覚はあんまり正しくない。表現も学問も、創り手は巨人の肩に立っている。基本的には、進化していくはずなんだ。

だから、悪くなったと思っても、寛容な気持ちで一度どっぷり味わって欲しい。一生懸命な創り手は皆、過去の業績に敬意を払っているよ。「なごり雪」の良さが分からないワケじゃなくて、より良い表現を模索しているだけなんだ。

僕もうっかり「最近の○○はダメだ」と言いそうになってしまうことがあるけど、なるべく言わずに味わってみることにしているよ。


表現が大好きだから、表現について語りたくなるのはすごくよく分かる。

でも語る時に「昔はよかった」フィルターを外して、「表現は進化しているはずだ」という前提に立たないと、ただの困った老害オジサンになっちゃうぜ。

オジサンの気持ちも分かるけどさ、表現を愛するものとして、真摯にコンテンツに向き合おうよ。お互いにね。



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