エジソンの苦悩と救いから考えたこと。科学的な幸福論を信じすぎる危険について。
ゆる言語学ラジオ、ゆるコンピュータ科学ラジオのフランチャイズ企画である「ゆる学徒ハウス」運営をものすごく頑張っている。
(ゆる学徒ハウス)
良質な知的ふざけラジオが大好きなので、それを世界に増やしていきたい(そして、あわよくば既得権益を手にしたい)ので、フランチャイズを頑張ろうという魂胆である。
この企画は
1次選考:5分間の一人喋りの動画を送ってもらう、動画審査
2次選考:堀元と一緒にラジオ収録をしてもらう、収録審査
最終選考:鴨川のテラスハウス的なオシャレ物件で候補者たちが共同生活。噛み合った人たちがラジオを始める
という流れで進んでいく。
そして、ここ最近は2次選考の収録審査に追われていた。なんといっても、ひとり1時間×40人=40時間を短期間のうちに収録したのだから。土日ぶっ通しで23本撮ったときは、疲れすぎて死ぬかと思った。
で、昨日最後の候補者の収録も終わり、無事に全40人との収録を終えた。疲労は凄まじかったけれど、みんなウィットに富んだ台本を用意してきてくれて、とても楽しい時間だった。候補者ひとりひとりに心からの敬意を払いたい。
当初の予定では2次選考に進むのは20人のはずだった。結局2倍に膨らんでしまったのは、想定以上に候補者のレベルが高く、送られてきた動画がおもしろかったからである。「この人はぜひ1本ラジオを録らせてほしい」と思った人を通していたら、あっという間に40人になってしまった。
したがって、この40人は全員「定員を埋めるため」ではなく「基準をクリアしているから」呼んだ人であり、喋らせておもしろいのは当然だ。
そういうことで、昨晩はひとりPCの前に座り、「だいぶおもしろい素材が40本撮れたな」と喜ばしく思いつつ、「この中から10人を選ぶのか…」と頭を抱えることになった。良い選択肢がたくさんあると、選ぶ困難は計り知れないものになる。現代は選ぶのが難しい時代だ。結婚相手も、就く仕事も、ランチのメニューすらも。
大いなる力には大いなる責任が伴う
昨晩の選考作業。候補者のデータをひとりひとり吟味して、夜中まで悩み倒すことになった。
早い段階で10人のリストができて、「これでいいだろう」と思ったのだけれど、「本当にこれでいいのか…?」という悩みは消えなかった。結局、その後も何度か「やっぱりこっちの人の方がいいかもしれない。もう一度動画を見直そう」などと、優柔不断な調整を繰り返した。
結局、完全に納得できる10人のラインナップが完成したのは、午前2時だった。「このメンツがベストだと思う。一番おもしろくなるはず」と感じるリストだ。満足いくものができると、夜中にデスクでひとりで笑ってしまう。
選考作業をやりながら、ひたすらに思い出していた言葉がある。「With great power comes great responsibility(大いなる力には大いなる責任が伴う)」である。
エンジニアならLinuxのスーパーユーザになったときに出る警句としておなじみだろう。そうでない人は『スパイダーマン』のセリフを思い浮かべるかもしれないし、ダモクレスの剣のエピソードを思い出す人もいるかもしれない。
この言葉はシンプルながら、実に的を射ているものだと感心する。言っている内容自体は「そりゃそうだろう」なのだけれど、何か責任を負う立場になる度に「僕はこの真理を、本当は分かっていなかったかもしれない」と痛感するのだ。
お山の大将は、楽しくて仕方ないと思っていた
主体性が希薄な人間だったから、大学生になるまで、何かの責任者になったことがなかった。
19歳。大学生になった僕は色々なコミュニティに顔を出すようになり、様々な形で権勢を振るう人々を見てきた。
その内に、「どう考えても裁量権を持つ人間が一番楽しいだろう」という結論に至った。
また、人間の幸せに関する本をよく読んでいたので、その結論を補強する材料はいくらでも見つけられた。「日々の行動について自分で決められる老人ホームの方が、所属する老人の平均幸福度が高いし死亡率も低い」みたいなデータもあったはずだ。いろいろな本に出てくる。
たとえば、『明日の幸せを科学する』は、ほとんど丸ごと1冊そのテーマを扱っている本だ。幸せとはほぼ「裁量権を持っていること」とイコールらしい。
そうだとするならば、誰かが裁量権を持っている場所にいるのはすごく損なことなのではないだろうか。
そんなことを思ってしまったから、僕の人生は狂ってしまった。就職もせず、誰かからマトモに仕事をもらうこともせず、ほとんど無職でコンテンツを作り続ける人生が始まった。後悔しているワケでもないけれど、もっと賢い立ち回りはいくらでもあったし、自分の幸福度をもっと高めるキャリアプランはいくらでもあった。『明日の幸せを科学する』を読んだ僕は、明日の幸せを喪失した。皮肉な話だ。
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