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インフルエンサーは科学が苦手【前編-州法ムスカのスマート・イディオット】


少し前から、イケハヤ氏の行動がネット上で問題になっていた。

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(引用元ツイート:こちら


イケハヤ氏が自分の商品としてサプリを作り始めたのだが、売り方が薬機法違反であるという指摘が多数入ったのである。





ザッと調べてみた感じ、これらの指摘は正当に思われた。「これは老化防止に役立つ成分です!」と標榜して販売するのは普通に薬機法違反のようである。

しかし、イケハヤ氏はこれと言って謝罪などはせず、「またアンチが湧いてきましたね~。見当違いの指摘ばかりでホントに困った人たちです」と相手にしない平常運転。だがその裏では一番アウトだったランディングページの文言をシレッと変更するという面の皮の厚さを見せつけてくれた。


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(引用元:https://b-87gimeronpan.hatenablog.com


裏では修正しつつ、同時に「アンチは見当違いで困るぜ!」というツイートを繰り返すイケハヤ氏。面従腹背というのはよく聞くが、彼の場合は面背腹従である。

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(引用元ツイート:こちら


僕はこれを見て、「なんかかわいいな」と思った。

裏では「ヤベッ!確かにこれ違法な文言だ!修正しよ!」と慌てつつ、Twitterでは「アンチというのはこのレベルの認識なんです」と強がっていると想像すると、なんというかこう……健気なヒロイン的なかわいさを感じるのではないだろうか。


「ハルカって料理とかすんの?」
「いやぁ、私、料理とか苦手なんだよね~」
「だよなー!だと思った!玉子焼きも作れなさそうだもんな!」
「そのくらいはできるわよ!失礼ね!!」
「はっはっは、ごめんごめん。でもマジな話、ハルカもちょっとは京子ちゃんを見習った方がいいんじゃねえの?おしとやかで、女の子らしくて、料理も好きだから、弁当も自分で作ってるらしいぜ」
「うーん、私はそういうタイプじゃないから……」
「そんなこと言ってると、お前みたいなガサツで料理もできないヤツは、一生結婚できないぞ!オレ、ぜったいお前みたいな女と結婚したくないもんな~!」
「はあ!?私だってあんたなんか願い下げだから!」
「うわっ!怒った!ヤベッ!逃げろ~!」

(走っていく少年を見ながら)「………何よ、ヒロシのヤツ……(唇を噛む)」


(場面転換、ハルカの家)
「ああっ!また失敗!玉子焼き、グチャグチャになっちゃった!」

「……もうやめよっかなぁ……私、やっぱり料理とか向いてないのかも……」

「……いや、絶対完璧なお弁当を作ってヒロシに見せつけてやるんだ!」


(場面転換、学校の昼休み)
「あれ、ハルカ、今日はずいぶん豪華な弁当だな」
「ちょっとね。今日は朝早く目が覚めたから自分で作ってみたの」
「えっ!?お前こんなちゃんとした弁当作れるの!?」
「何よ、このくらい、当たり前じゃない。誰でも作れるでしょ」
「いやいや!ビックリだよ!ハルカは料理なんて全然できないと思ってたから!だってお前この玉子焼きなんてめちゃくちゃキレイに……」

「おーい!ヒロシ!何やってんだよ!早くメシ食ってサッカーやるぞ!!」

「あ、悪い!!今行く!」

友人の方に走り出すヒロシ。少しだけ走ったところで立ち止まる。振り返り、ハルカに告げる。

「昨日は、ごめんな」

再び走り出すヒロシ。彼の後ろ姿を眺めながら、ハルカは小さく呟いた。

「思い知ったか、バカ…!」


っていう、ハルカ的なかわいさをイケハヤ氏から感じられるのではないだろうか。

主人公の心ない言葉に傷つきながら、影でこっそり努力して、でもその努力は絶対に見せないハルカ。

ネット民の適切な指摘に慌てながら、影でこっそり修正して、でもその努力は絶対に見せないイケハヤ氏。

構造は完全に一致している。イケハヤ氏、もはや萌えキャラと言っても過言ではないかもしれない。

このまま薬機法違反で行政処分や逮捕などが発生すればもっと萌えると思うので、ぜひ彼にはこれからも迂闊な言動を繰り返して欲しいところである。


科学とは、自分の体で試すこと

まあそういうことで、僕はいつもながら「かわいいな~」とか「面白いな~」とか思いながらこの騒動を眺めていたのだけれど、一番面白かったのはこのツイートだった。


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(引用元ツイート:こちら


僕はこのツイートを見た瞬間、大笑いしてしまった。

イケハヤ氏は「まずは自分の体で試して、確認すること」を科学だと思っているらしい。すごい世界観だ。

この世界観、ちょっと賢い小学生くらいの科学リテラシーがあれば「ウケる」となること請け合いなのだが、どこがそんなにウケるのか、説明しようとすると実は結構難しい問題に踏み込まないといけない。「科学とは何か」を考えなければいけないからだ。

今日は少し、この問題について考えてみよう。


「科学とは何か」が争われた裁判

「科学とは何か」を考える上で、非常に参考になる裁判がある。アメリカ、アーカンソー州の連邦地方裁判所での裁判だ。

1981年、アーカンソー州議会において「公立学校では創造論と進化論の両方を教える」という法律が作られた。理科教師は「生物は何者か(神)によって創造された」という説を教えなければいけなくなったのである。アメリカ南部のアーカンソー州には敬虔なキリスト教徒がたくさん住んでおり、住民が創造論の教育を望んだから、この法律は生まれた。

これに反発したのが理科教師を中心とした科学が分かる大人である。怒り心頭に発した彼らは、この州法は政教分離を定めた米国憲法修正第一条に反するとして提訴した。

この裁判の面白いところは、「科学とは何か」を定義しなければ判決が出せないことである。創造論が仮に科学なのだとすれば、理科の時間に教えても問題はない。


そういうワケで、この裁判は「科学とは何か」を争点とすることになり、証人として呼ばれたのは科学哲学の専門家などであった。彼らは「科学とはこういうものだ!」と口角泡を飛ばして主張した。楽しそうな裁判だ。傍聴に行きたい

そして、1982年に判決が出た。担当したウィリアム・オバートン裁判官は、科学に求められる5つの条件を提示した。

1. 自然法則をもとに導き出される
2. 自然法則を参照しながら説明がされている
3. 実験的に検証が可能である
4. 結論は仮のものである
5. 反証可能である

実に美しく、必要十分な条件だと思う。「科学とは何か」の定義として使うにふさわしい。

恐らく、多くの科学者もそう思ったのだろう。この判決は1982年2月の米科学雑誌『サイエンス』に掲載された。いつもは研究成果が載るはずの雑誌に判決が掲載されるのは、極めて異例の事態である。この判決には、それだけ多くの意味があったと言えよう。


イケハヤ氏の科学

イケハヤ氏の言う「科学」は「自分の体で試して、確認すること」だったが、これは上記の5条件を満たしていない。

具体的には、「3.実験的に検証が可能である」「5.反証可能である」が満たされていない。イケハヤ氏が自分で試して「僕が試したら効いたのでこれは効きます!」と主張した場合、それはただの個人の主観なので、検証のしようがなく、反証もできない。

科学の条件を満たすには、「被験者○名に対して△の投薬をしたところ、□の結果が得られた」という形にしなければならない。これなら第三者が実験的に検証することができる。


……と、長々と書いてきたが、別にアーカンソー州の判例を知らなくても、ちょっとでも科学リテラシーがある人なら「この主張はヤバい」と分かりそうなものである。

しかしイケハヤ氏は堂々と「イケハヤ流の科学」を打ち出し、それを振り回してしまった。どうやら、イケハヤ氏は科学が苦手なようだ。

なぜこんなことになるのだろう?その答えは、この本の中にある。



『人は科学が苦手』である。先ほどのアーカンソー州の判例の話もこの本から抜粋した。

今日は主にこの本を活用して、「イケハヤ氏は科学が苦手」になってしまった理由を分析したいと思う。この本によれば、驚くべきことに、イケハヤ氏は勉強すればするほど科学が苦手になっていくらしいので、そのあたりを深堀りしたい。


また、この記事は前後編だ。来週の後編では「イケハヤ流の科学」を実践していると人はどうなるのか、考えていきたい。

このことについては以前、ごく簡単にツイートした。



ツイートでは「瀉血を復活させたいのかな?」という比較的簡素な悪口を紹介したのだが、改めて関連書籍を読み直したりリサーチしていたらもっと面白い悪口をたくさん思いついたので、来週はしっかり記事として書いておこうと思う。


後編の主な参考文献はこれ。


後編の記事を読んでいただければ、イケハヤ氏に対して「鉛張りの棺に納められる炎帝神農」などの悪口が使えるようになる。ぜひ後編までお付き合いいただければ幸いだ。


以下有料になる。単品購入(300円)もできるが、定期購読(500円/月)がオススメだ。12月は4本更新されるが、定期購読を始めれば4本とも読める。単品で買うよりも2.4倍オトク。ぜひ定期購読を検討されたい。

なお、タイトルの「州法ムスカのスマート・イディオット」は有料部分を読めば意味が分かる。(分かったところで別に良いことはないが、イケハヤ氏の発信を見るのが少し楽しくなるかもしれない)


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