back or enter ⑤

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 いつものように夜にモンハン大会が開かれている。
「最近、ヒロを見ないなぁ…空雄知ってる?」
「わかんないっす」
俺はタバコを吸いながらモンハンを続けた。

 そろそろ皆も小腹が空いただろうと思っていると、ヒロが両手一杯に差し入れを買い込んで教室に入ってきた。
「これ、皆に買ってきたよ」
「どうした!これ」
「いつも矢吹さんに金出してもらってるから、俺バイト始めたんですよ」
「それで最近来なかったのか?」
「うん、週払いのバイト見つけました」
ヒロがなんとなく逞しく見えてきた。
 働いてない、夜な夜なゲームする為に集まっている奴等のためにバイトを始めるなんて…。
「なんでそこまでして?」
「皆でゲームするの楽しいじゃないですか…」
赤松君がゲーム機を置いて近づいてきてヒロに抱きついた。
「ヒロくんありがとう!この恩は一生忘れないよ!そして毎日差し入れをよろしく」
「気持ち悪いから抱きつくなよ!」
赤松君の目に涙が滲んでいたー。
 明日のバイトのためヒロは十一時には帰っていった。
 皆は誰に言われるでもなくヒロにお礼を言っていた。ヒロも満足気にニコニコしながら帰宅した。

「ヒロは一番古い寮生だから皆の兄貴分なんですよね…やっぱり尊敬できるな」
「ニートの世界でも先輩、後輩ってあんの?」
「ありますよ!あの人よりも先に仕事しちゃいけないんですよ」
「なにそれ!」
「俺何回も面接落ちてるぜ」
細田が言った。
「細田君が面接に落ちるのはヒロのオーラによって妨げられてるんですよ」
「だから俺は仕事が見つからないの?」
「そうです」
「まっちゃん、適当な事を言うなよ!」
「俺は寮生じゃないから、自宅警備してるけど、これは仕事?」
「それは自警団みたいなものだから、仕事ではないね」
「良かったぁ、危なく仕事しちゃうところだったわ」
「ところでヒロ君の次は誰なの?古いのって?」
「空雄君でしょ?」
「そうだよ…でも、先に仕事していいよ…俺は仕事する気がまだ無いからね」
「空雄君の次は誰なの?」
「ワキか赤松君か亮一でしょ?」
俺は奴等のワケわからない上下関係を目の当たりにした。ニートの先輩、後輩があったなんてと笑えた。
「君達は以外と義理硬いんだね!」
「矢吹さん、僕らにはこれ以外は無いんですよ」
「そうなの?」
「理解なんて求めてないですよ」
「理解できないもん」
「だから、矢吹さんは僕らとこうやって遊んでくれるんですよ!他の先生達は理解しようとしてくるんですよ」
「ふ~ん、まぁいいさ、誰か逆鱗取りに行くの付き合ってくれない?」
「火竜ですか?」
「うん」
「俺いきますよ!」
俺は空雄と亮一と狩りに森丘へ向かった。

 それからー。
 十七人のメンバーの集まりが、多くて八人位しか集まらなくなった…。
「皆飽きてきたのかな…」
「違いますよ」
「最近少なくない?」
「皆バイト始めたんですよ」
「え?」
「知らなかったんですか?バイトしてる人達で差し入れをローテーションしてるんですよ」
「マジで?」
「はい、でも、皆のバイト先はヒロ君の会社ですよ」
「あいつ何の会社に勤めてるの?」
「ピッキングです」
「…なるほど」
俺は空雄と神村君と赤松君とモンハンをしている。
 何年も仕事してなかったり、働いた事すらなかった人間が友人の為に働いていくなんて…説明の着かない関係性であった。連動するように働いている奴の負担を減らすために次の奴が働き始めていく。この連鎖は凄いとおもった。

 赤松君も仕事をしようと思っていると相談してきた。
「俺はピッキングはやりたくないんですよ。矢吹さんは何をしたらいいと思いますか」
「お勧めの仕事?」
「はい」
「土方かな?」
「何でですか?」
「物造りって面白いし勉強になるよ」
「まったく解りません」
「防具作ったり、スキルを身に付けるのと一緒だよ」
「へぇ」
「真面目に話してやるよ。世の中を生きていくのに必要なのは金じゃないってわかるだろ?そんな事よりも“楽しく生きる”事の方が重要なんだよ。その為の武具とスキルアップが必要なんだよ。それをするのに仕事をするんだよ。誰かに雇われるとは誰かの役に立つ事になる。それを必然にこなしていけば自分も楽だし、金もついてくるよ」
「なんかめっちゃ良いことを聞いた気がします」
「気がする…じゃなくて良いことを言ったんだよ!俺が真面目に話すのはこれが最初で最後だよ…真面目に話すのは疲れるからな!」
赤松君は笑っていた。
 俺も笑った。

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