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わかるろんわからんろん#2 ペペロンチーノ ・タイトル

グラフや表のタイトルについて

保険のパンフレットにはよくグラフや表が載っています。「高齢になるほど、ガンのリスクは高まります」という説明とともにグラフが使用されたりします。でも、そこについているタイトルは「年齢階級別死亡率(全部位20XX年)」などという事務的というか専門的というか、「は?」となるものが多い。これ、どうにかならないでしょうか。

料理研究家の土井義晴さんが、𠮷兆という名門料亭で修行していたときに覚えたまかない料理で、「新たまねぎのけったん」というものがあるそうです。「けったん」というのは、油で加熱するときににカンカンと「蹴る」みたいな音がすることからきた名前だそうで、要するに新たまねぎを油で炒め蒸しした料理です。土井さんによれば、和食はこのように調理法が名前に付けられることが多いとか。「○○のたいたん(炊いたもの)」「○○のあげたん(揚げたもの)」「○○のむしたん(蒸したもの)」といった感じ。要するに「何」が「どうした」がわかる名称です。なるほど、これなら初めて料理名を聞いても、なんとなく調理法が想像できますし親切な気がします。

これに比べるとイタリアンの「ペペロンチーノ(唐辛子)」「カルボナーラ(炭)」とか、フレンチの「ポトフ(火にかけた鍋)」とかは、「それがどうした!」と突っ込みたくなる不親切な名称と言えるでしょう。まあ、ペペロンチーノ は、正式にはアーリオ(にんにく)・オリオ(油)・ペペロンチーノ(唐辛子)と言って、本当はもう少し親切ですが、それでも「それがどうした!」って言いたくなりますよね。「にんにく、油、唐辛子」って、五木ひろしの「よこはまたそがれ」みたいです(古くてすいません)。

この観点からすれば、グラフや表のタイトルはあきらかに不親切です。「給与所得者の年齢別平均貯蓄額」とか「世界の年平均気温の経年変化」とか。使われている言葉が漢字ばっかりのせいもありますが、これらは「ペペロンチーノ」みたいに、「それがどうした」と突っ込みたくなる不親切さがあります。つまり、文章で言ったら主語だけ書いてあるようなもので、述語部分、つまり「それがどうした」は、グラフや表が示す数値などから読み取らなくてはならない

これは推測ですが、グラフや表というのは、もともとは学術論文などに、エビデンス(証拠、検証結果)として添えられるものなので、極めてフラットにタイトルがつけられているのではないでしょうか。むしろ、タイトルには推論や結論(それがどうした)を掲げないように心がけて、主観なしでグラフから読み取ってもらおうという、学術的な公正さがあるような気がします。

それはそれで正しい科学的な態度だと思うのですが、商品パンフレットなどでグラフや表が使われるとき、このタイトルをそのまま使うのはいかがなものか? 慣習上どうしても必要なら小さく入れておけばいいけれど、グラフや表を読み込まなくてもかまわない、というくらい「何がどうした」がタイトルになっている方が、読む人に親切です。「給与所得者の年齢別平均貯蓄額」だったら、「20代から貯蓄をしていれば保険なんていらない!」とか、「世界の年平均気温の経年変化」だったら「止まらない温暖化、50年後には人類滅亡!」とかね。

しかしそうなると、そもそもグラフや表は本当に必要なのか? という疑問も湧いてきます。パンフを作っている側としては、「この結論は、統計から導かれた信憑性のあるものなんですよ」というメッセージを伝える、いわゆる“エビデンス”の役割しかないと思うのですが、グラフや表があることで、読む人の信頼度ってどのくらい上がるのかな? それこそ誰か、統計をとって“エビデンス”を示してくれるとありがたいのですが。


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