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[短編小説] 馬耕・五常・デルタロケット

 ザクリッ、ザクリッ。
 すきの歯が硬く乾いた田圃たんぼの土を起こしていく。
 ブルルルッ!
 渾身の力で犁を引く老馬の鼻息が、春先の空気を震わせた。
「ようし、アオ、いい子だな。もう少しだぞ」
 老馬に付き従うように犁を抑え田起こしを進める男が老馬に声をかけると、老馬はまるでそれに答えるようにまた鼻を鳴らす。
 まだ少し冷たさの残る気候だが、男は汗だくだ。きれいに剃髪が成された頭も、鉢巻代わりに巻かれた手拭てぬぐいも、身に纏った野良着も等しく汗と土埃にまみれている。見たところ老年に差し掛かる頃のようであるが、それを感じさせぬほどに活き活きと働くのだ。
「和尚様ぁ、切りのいいところで昼飯にしましょうや」
 畦道あぜみちの向こうから、やはり野良着姿の男が呼びかけた。見上げれば太陽がすっかり高く昇っている。
「うむ、ちょうど腹が減ってきたところじゃ、六助ろくすけどん。昼飯にしようかのう」
 和尚はそう答え、手拭を取って顔の汗を拭った。
「お前も腹が減ったろう? アオ」
 するとアオはまだまだ頑張れると言わんばかりに鼻を鳴らし、力強く犂を引く。和尚とアオはそうして耕しながら、六助の待つ田圃の端に到達した。
 犂を外されたアオは和尚と共に田圃から出ると、大人しく畦道の草を食べ始めた。すると和尚は慈しみに満ちた眼差しで老馬の首筋を撫でるのだった。
 そんな和尚の許に野良着の女が歩み寄り、竹の葉包みを差し出した。六助の妻である。
「ささ、和尚様も。……こんなもんしか出せねえで申し訳ねえだども、どうか食べてくだせえ」
「かたじけない、おさん」
 和尚は包みを押し頂き、畦に腰を下ろす。続いて六助とがその隣に着座した。
 包みを開けば握り飯。漬物が添えてある。和尚が手を合わせると、六助とも続いて手を合わせ、それから三人して握り飯を頬張った。
「なんじゃ六助、もうめしにしとったのけ。和尚様を独り占めにしてずるいぞ。わしらも混ぜてくれや」別の田圃から出てきた野良着姿の男女が、六助の田圃にやってきた。
「おお、弥平やへいどんにおさん。お先に頂いておったぞ。一緒に食べよう」和尚はにこやかに言う。
 そのうちに別の田圃や畑から、さらに何人かの百姓が和尚の元に立ち現れ、和尚を真ん中にして畦に並んで座り、めいめい昼飯をとり始めた。
 皆何かと和尚に話しかけてくる。農作物についての相談から、体調不良の悩み、子供のしつけ、果ては嫁と姑それぞれの愚痴まで。内容は様々だが、和尚は律儀に答えを返す。と、そんな中、
「おおーい、和尚様ぁ、られますか!」
 遠くから和尚を呼ぶ声。皆一斉にそちらを向く。二人の人物がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
 一人はこの村の名主なぬしだが、もう一人には見覚えがない。
 木綿の野袴のばかまに紋付羽織、一文字形の菅笠を脇に抱えている。そして腰には柄袋つかぶくろを被せた刀が二つ――二本差しの侍だ。血色がよく小太りで、中年くらいの年頃であろうか。
 和尚は立ち上がり、名主と侍を待ち受けた。名主は和尚の許に着くなり喋りだした。
「和尚様、こちら代官所から参った交岡こうおか様ですじゃ。お代官様が、和尚様に御用があるとかで直々に参られたという事でしてな、こうしてご案内してきたのです」
 その言葉を受け、侍が一歩前に出て頭を下げる。和尚も同じく頭を下げた。
「お初にお目にかかりまする。拙者、代官所にて手代を勤める交岡逸進いっしんと申す者。此度こたび明顕みょうけん殿のお知恵を拝借したく直々に参った次第にござる」そう言って交岡は再び頭を下げた。
「いやあ、これはご丁寧に。私が明顕です、よろしゅうたのみます。先日ふみを頂いた件でございますな。こんなに早く使いの方が来られるとは思いませんで、文の返事も書いてなければ支度も何もしておりませんでしたわ、ははは」
 明顕は苦笑いをした。その人懐っこさを感じさせる笑顔に交岡の心も和らいだ様子だ。
「ははは、代官もせっかちなお人ですからな。……してみると、色よい返事がいただけるという事でよろしかったでしょうかな?」
「もちろんです。私に分かる事ならば何でもお教えいたしましょう」
 それを聞いて交岡は愁眉を開く。名主も顔が立ったと見えてほっとした顔を見せた。
「――皆、すまぬ。お代官様からの呼び出しじゃ。田起こしはいつもの通りにやっておいてくれ」
 明顕が大声でそう伝えると、畦から好奇の目で見ていた百姓たちは皆口々に好き勝手な事を話し合いながら各々の田畑へ戻っていった。
「和尚様、どれくらいで戻られますか?」六助が明顕の元に歩み寄った。
「まあ、十日ほどで済むじゃろう。新しいすき、具合が良ければ皆にも教えてやってくれ」すると、まるで言葉が分かったように、アオが明顕に擦り寄ってきた。再会を待ち望んでいるとでも言いたげだ。
「六助どん、アオはもう随分年寄りじゃ。あまり無理はさせぬ方が良いぞ。儂と同じじゃ。ははは」
 そう明顕は言い、アオの首を軽く叩いた。
「へえ、よう分かっとります。何せわっちの親父が生きとった時分から働いとりますからね。和尚様こそ、気を付けていってらしてくだせえ。お帰りをお待ちしとりますで」
「うむ、帰った時の田圃が楽しみじゃ。また元気で会おう」
 六助との会話を終えると、明顕は交岡の方に向き直った。
「私は旅の支度をいたしますゆえ、寺に戻りますが、交岡様はいかがしますか?」
「拙者も同行させていただきたい。道々伺いたいお話もございますゆえ」交岡は迷わずそう答え、名主にもその旨を伝えた。名主は意外そうな顔をしながらも頭を下げ、そそくさと自身の家に戻っていった。
「では参りましょう、交岡様。寺はあの山の中です」
 明顕の指差す方を交岡が見ると、畦道の向こうに阿津間あづまやまそびえていた。その中腹に、明顕が住職を務める龍興りゅうこうがある。黒い瓦屋根が木々の隙間からほんの少しだけ見えた。

 龍興寺への道はそれなりにならされているものの、概ね傾斜がはなはだしい。明顕は慣れたものだが、交岡にはかなり堪えたようだ。そんな坂をようやく登りきったところに古ぼけた小さな寺が坐していた。
 明顕が戻ると、一人の小僧しょうそうが出迎えた。まだ少年と言ってもいい年頃だ。
「お帰りなさい、和尚様」
恵心けいしん、早速で済まぬが水を一杯持ってきてはくれぬか。お客さんじゃ」
 明顕の向こうに汗だくの侍が息を切らしているのが見えた。恵心は得心し、急ぎ足で水場へ向かった。
「かたじけない……」交岡はそう言うか言わぬかのうちに、恵心が持って来た水の椀に口を付けると一気に飲み干してしまった。
「いや面目ない。若い頃はこれでも剣術で鳴らしたものですが、代官所勤めになってからはすっかりなまってしまいましたよ」
「ははは。初めてここに来る人は大抵びっくりするんですよ。さあお入りください」
 明顕は簡単に寺の内を案内した。外見通りに古く小ぢんまりとした寺ではあったが手入れが行き届いて小ざっぱりとしている。やがて通された客間は、そんな寺に似つかわしく、小さくも落ち着いた小間であった。が、ここに至るまで、恵心以外の人間をついに見かけないのだった。
「早速ですが、明顕殿、お尋ねしたい。拙者は代官より勧農施策について仰せつかって多少なりとも稲作については勉強しておりますが、先ほど見た田圃がすっかり乾いておるのが気になりました。いつもあのような状態なのですか。あんな乾いていては収穫量を増やすどころか稲作自体できるか疑問に思えますが……」
「通常田圃は一年中水を湛えとるものですから、驚くのは当然ですな。もちろん稲作の時には水を張ります。私は常々腰まで泥に浸かって風呂鍬ふろぐわで泥を掘り起こすのは、あまりに重労働で効率が悪いと思っとりましたので、それで考え付いたのが、あの『乾田』方式なんです。最初は随分反対されましたよ。ははは」
 まさにその噂を聞き付けた代官が交岡を派遣したのだった。良い農法をもって勧農し、領地内での収穫量を増やせばそれは即ち収入の拡大となる。
「馬に何か引かせておるようでしたが……」
「あれはすきです。秋に田圃の水を抜いて、春まで置いておき、すっかり土を乾かします。その上で深く耕すのです。すると土に良い効果をもたらし、稲はよく育ちます。しかしその反面乾いた土はひどく硬くなりますでな、人の手ではとてもかないませぬ。そこで馬に犂を引かせて掘り起こす訳です。馬を使って耕すので『馬耕ばこう』と言ったところですな」
「なるほど……」交岡は『乾田』『馬耕』という新しい考え方にすっかり感服してしまった。
 会話が一段落したところで、恵心が客間に現れた。
「失礼いたします。お茶をお持ちしました」
 恵心は盆に載せた急須と湯呑みを携えて客間の中ほどまでにじり、急須の茶を湯呑みに注いだ。
「かたじけない」そう言って交岡は湯呑みに手を伸ばした。明顕も湯呑みを手にしたが、その途端「恵心はほんにあわもんじゃのう」と言って笑った。
 交岡も湯呑みに口を付けてその意味が分かった。湯呑みに入っていたのはただの湯であった。
「あっ、茶葉を入れるのを忘れてしまいました!」
 恵心は顔を赤くし、急須を持って客間を出ていった。
「これこれ、焦るでない。ゆっくりでかまわんのだぞ」明顕は愉快そうに声をかける。
 改めて急須と湯呑みをたずさえて恵心はじきに戻ってきた。今度はきちんと茶が湯呑みに注がれた。
「申し訳ございません。大変失礼をいたしました」恵心は深々と頭を下げ、客間を後にした。
「ははは、すいませんね。ああ見えて恵心はなかなかの慌て者でして。でも成長するに従って随分落ち着いてきましたよ」
「妙顕殿は怒りませんでしたな」交岡が不思議そうに言うと明顕は事もなげに答える。
「しくじったのは本人も分かっておりますからな、一々怒る必要はありませんよ。むしろ面白がったり驚いてみせたりしております。その方がずっといい。交岡様もあれくらいで怒るような肝の小さな人間ではありますまい」
「ははあ、なるほど。……そう言えば今日は寺で恵心さんの他には誰にも会っておりませぬが、もしや他にお弟子様はられぬのですか?」
 明顕はにこやかに答えた。
「ええ、うちでは先代の頃から弟子はあまりとっておらんのですよ。恵心は元々この村の子なのですが、幼い頃に両親を病気で亡くしましてね、儂が引き取ったのです。最初は寺男にでもと思いましたが、なかなかどうして見所のある子なので、ひとつ勉強させてやろうと思いましてね」
「人手が足りなくはないですか?」
「見ての通りそれほど大きな寺でもありませんからな。恵心もよく働いてくれますし、村の衆が何くれとなく世話しに来てくれます。ありがたい事です」明顕はそう微笑む。
 交岡は湯呑みの茶を飲みながら明顕の顔を見た。話しぶりと、これまで見てきた周囲の人間との関係性を見るに明顕和尚は信頼に値する人物のようだ。はるばる来た甲斐があった。
 その後も二人は様々な農作物について意見を交わした。明顕の見識は広く深く、話は尽きない。気付けばすっかり日が暮れていた。簡素ながら夕食と風呂を振舞うと、疲れていたのか交岡はすぐに寝てしまった。
 明顕は夜の勤めを済ませたのち旅の支度を始めた。
「それほど長くはならぬとは思うが、留守居を頼むぞ、恵心」
「はい、和尚様、安心していってらっしゃいませ」
 恵心はにっこりと笑う。信頼される喜びに溢れた笑みであった。

*  *  *

 もう三十年ほど前になろうか、阿津間あづまやまへ連なる山中を、一人もなく彷徨さまよい歩く男がいた。
 やがて男は龍興りゅうこうに迷い込み、境内で行き倒れていたのを当時の住職である円心えんしん和尚に保護されたのだった。
 円心が後に語ったところによると、着ていた着物は、破れ、焼け焦げて襤褸ぼろとしか言い様がなく、体中傷だらけ。おまけに自分が誰なのかも何処から来たのかも分からぬ白痴のような有様だったという。
 前日に山奥で大きな落雷のような音がしたので、運悪く雷に打たれた旅人かも知れないが、八方手を尽くしても男の身元は全く分からない。哀れに思った先代はそのまま彼を寺に留め置き、彼も寺での暮らしが性に合ったのかそのまま寺に居着いたのだった。
 その後も自分に関する記憶はひどく曖昧なままだったものの、ふとした拍子に出てくるこの男の知恵や見識は大変的確なものであり、時として先代も舌を巻くほどであった。にもかかわらず、常に謙虚さを忘れぬその姿勢を見込んだ円心は、当初寺男てらおとことしていた彼を僧籍に誘い、彼はそれに従ったのである。
 明顕という法名を与えられたその男は、研鑽を重ねた末、立派に龍興寺を継いだのであった。
 そんな明顕の信念は常に実践を伴っている。ある年の暮れ、春になったら村の農作業の手伝いをすると言い出し、村人を大層驚かせた。
 当初は恐縮し、遠慮していた村人たちも、次第に打ち解け、今ではざっくばらんに話す間柄となった。村で一緒に田起こしをしていた六助は明顕を最初に農作業に受け入れたうちの一人である。
 明顕は村人と一緒に田畑を耕し、握り飯を頬張り、大いに話し、大いに笑う。それはどんな説教よりも村人の心に染み入るのだ。
 受け入れられて何年かした頃、明顕は皆に『乾田』を提案した。
 「まったくね、田圃たんぼから水を引け、なんて言い出した時には和尚様も遂に焼きが回ったかと思ったよ。なあ、おかよ」六助は未だにそう言って笑う。また同じ事を言ってるわと、は呆れるばかりだ。
 稲作は一年中水を張ったままが常識だ。先祖代々そのやり方で上手くいってきた。それ以外の方法など誰一人夢にも思った事がない。また、毎年少ないながらも安定した収穫を得ているのに、敢えて違うやり方にする必要などあろうか。
 しかし尊敬する明顕に頭を下げられ、六助だけが渋々ながら承諾した。それも一区画だけで試すという約束でだ。
 『乾田』は春先に一度田圃の水を抜いて田起こしをしなければならない。これは重労働である。しかし、これまで代掻きを老馬のアオにやらせている。田起こしもアオにやらせれば良いと明顕は言い、専用の犂まで自作したのであった。
 他の村人に呆れられながら六助と明顕は実験を続け、三年目に結果を出した。これまで見た事もないほどの黄金色の稲穂が実ったのである。これを受けて六助は覚悟を決め、自らの田圃を全て乾田にする事を決めた。
 翌年の秋には黄金こがねを撒いたかのような立派な稲が六助の田圃を覆った。村人の誰がこんなに実った稲を見た事があろう。
 我先にと、村人たちは皆教えを乞うた。

*  *  *

 翌朝、明顕は交岡と共に寺を後にした。
 門前で師を見送り、一人残された恵心は、手早くいつも通りに寺中じちゅうの掃除を済ませると、本堂に座して一冊の書物を開いた。表紙に『中庸』とある。
 恵心はすっと息を吸い、そこに書かれている文を大きな声で読み上げ始めた。

「子曰く、人は皆われ知ありとう、りてれを古獲陥穽こかかんせいうちれ、しかこれくるを知るなり。人は皆われ知ありとう、中庸をえらびても期月きげつ守るも不能あたわざるなり

 明顕は一通り経を読めるようになった恵心に、仏教の学問の他にも教養を広げていかねばならぬと、手始めに儒教についての基礎知識を授け、次に四書五経の記された書物を手渡した。これらは明顕が修行のため諸国を廻った際に堺の儒学者に気に入られ、譲り受けた貴重なものだ。
 殊に明顕は『中庸』を読むよう指導をした。僧侶として中庸の思考は最も大事なものだという。
 正直なところ、恵心には意味などは分からぬところが多く、素読、即ち文に振られた送り仮名と返り点を元に読み下すだけしかできなかった。だが、明顕はそれで良いと言う。まずは読む事だ、と。
 恵心はそれに従い、毎日経を読んだ後に『中庸』を読むのが日課となっていた。次第に意味が分かってくると、それに比例するように楽しくなってくる。
 そうしてこれまで学んできたところを一通り読み、書を閉じると本堂はしんと静まり返るのだった。

 そうして幾日かが過ぎたある晩の事だった。
 恵心が夜の勤めを終え夜具の準備をしていたまさにその時、まるですぐ目の前に雷が落ちたかのような轟音が寺を揺らしたのだ。
 驚いて外に出ると、山の向こうで幾度か閃光が走り、そちらからまたも轟音が鳴り響いたのだった。ところが轟音も閃光もそれきりでぴたりと止んでしまった。
 豪雨か、はたまた嵐の前触れかと空を見上げるが、頭上には満天の星。嵐どころか一滴の雨も降りそうにない。不思議な事もあるものだ。
 恵心は頭を捻るばかりだった。

 翌朝、村の男衆が寺にやってきた。昨日の音と光は村でも騒ぎになったらしく、名主の求めにより山に入って調べるのだという。そこで恵心に記録を取ってもらう為に同行する事を求めて寺にやってきたのだった。留守は村のおかみさん連中が守ってくれるというし、何より好奇心もあって恵心は快諾した。
 阿津間山から連なる山々はいずれも豊かな木々に覆われ、猟や商いを目的とする者が行き来するための細々とした道が続いている。無論険しい山道ではあるが、道がある分山に入っていくのは容易である。
 しばらく進んでいくと、何かが焼け焦げたような、きな臭い匂いが辺りに立ちこめだした。やがて、木々が大量に倒れている斜面を発見した。その倒れ方はある一定の方向に向かっているのがすぐに認められた。しかし地滑りとは様子が違う。
 その辺りには、おそらく金属製であろう板状の物がいくつも落ちていた。恵心も村人の誰も、そのようなものは見た事がない。
 落ちていた板状の物は一面に焼け、真っ黒な煤に覆われている。その煤の隙間に、平仮名でも片仮名でも漢字でもない文字か、もしくは模様のようなものが記されているのが見て取れた。
 木々の倒れる方向、つまり斜面の下を見ると、なにか大きな円筒状の物体が半分倒れた木に埋もれるようにして横たわっていた。
 酒蔵にある大樽を何倍も太く長くしたような形だ。断面は壁のようなもので隔てられていて、内部を見る事はできない。表面はやはり焼け焦げていて、ところどころからまだ煙が上がっている。山火事にならなかったのは幸いだった。
 状態からすると、どうも空から落ちてきたように見受けられる。しかしこれが何なのかは誰一人として分からなかった。
「和尚様なら何か分かるじゃろか」
「どうじゃろうかのう……。何にしても代官所から誰かよこしてもらわにゃならんよ」
「そうだそうだ、わしらにゃどうにもならん」
 皆そのような会話をしながらも、下山の刻限まで探索を続けた。
 一行が山から下りた頃には、空が夕陽で真っ赤に染まっていた。
 山道を歩き回った上に、分からない事だらけで、夢中で記録を取ったのもあり、恵心は心身共に疲弊していた。翌日の勤めに差し障りがあるといけないので、早めに床に就き、その日は終わった。

 次なる異常は翌々日の午後に起こった。
 経本を取りに本堂へ向かう途中、恵心は裏の森から不思議な音がするのに気が付いた。虫の声でもないし、動物の唸り声などとも違うようだ。かといって人間の発する音とも思えない。
 恐る恐る森の木々に目をやると、奥の薄暗がりに何か大きなものがいる。赤や黄色、緑色や青色などの点状の光が幾つも明滅しているように見える。
「もしや……もの……?」自然に足が震えてきた。
 ええ情けなや、もし和尚様が一緒ならまだ少しはしゃんとしていられただろうに。和尚様に心配をかけぬ為にもここは毅然とせねばならぬ。
 恵心は勇気を振り絞って大声で叫んだ。
「そそ、そこにいるのは誰じゃっ!」
 すると、その大きな影の方からまた不思議な音が鳴った。まるで笛や琴などを何人かで一斉に、出鱈目に鳴らしたようだ。
 その音がふいにむと、ガサガサと茂みを掻き分ける音とともに、大きな影がこちらに向かってきた。
「ひえっ!」恵心はその場に尻もちを突いて座り込んだような恰好で動けなくなってしまった。腰が抜けたのだ。
 大きな影は恵心がこれまで見た事もない、角ばった姿をしていた。見るからに硬そうで、複数の光る眼のようなものが見える。
「も、物の怪だあ……」
 半分唸るように恵心は言った。するとまた不思議な音が鳴り出し、鳴り終わると同時に相手が人語を発したのだ。
「Analysis completed」
 恵心には全く未知の言葉だ。落ち着いた声色だが男とも女ともつかぬ響きである。その声はいささか平板な調子で話し始めた。
「私は『物の怪』ではありません。『Multipurpose Attendant Robot for Mars Development Project』です。通称として『MARマール』とお呼びください。あなたのお名前を教えていただけますか?」
「ま、まぁ……る?」恵心は最初に想像したような恐ろしい物の怪の類ではなさそうだという事は分かったが、謎の言葉が混じるので困惑していた。
「言葉が通じませんか? 理解できませんか?」マールは恵心に尋ねた。
「い、いや言葉は分かるけども……」みやこの公家でもかくやという綺麗な言葉使いなのは間違いないが、状況が理解できず混乱して言葉が出ない。しかし、名を聞かれたのに――それも先に名乗った相手が――答えぬのも失礼かと思い直し、恐る恐る答えた。
「……わわ、我は、恵心じゃ」
 するとまたMARマールはおかしな音を発し、それからまた喋り出した。
「ケイシン様でよろしかったですか?」
 自分のような小坊主に『様』など付けられてはかなわない。
「さ、『様』なんて付けないどくれよっ」慌てて言うと、MARマールは事も無げに答えた。
「分かりました。では今後『様』は付けず、ケイシンとだけ呼ばせてもらいます。何か質問などありますか、ケイシン」
「しし、質問? なら……お前は何なんだ」
「私はMultipurpose Attendant Robotです」
「全然分からないよ! キリシタンの言葉か?」
「キリシタンとはキリスト教徒ということですね。私には宗教の概念はプログラミングされておりません。従って『キリシタンの言葉』にはあたりません」
 どうにも噛み合わない。このままだとこいつに化かされてしまいそうだ。
「他に質問はありますか、ケイシン?」
「ほ、本当に何を聞いても答えられるのか?」
「何なりと。私の知る限りであれば」
 そこで恵心は質問を変えてみる事にした。
「では、『五常』とは何だ? 答えられるか?」
「こちらのゴジョウでよろしかったですか?」
 すると、MARマールの四角い体の正面にある四角い枠に『五常』という文字が現れた。内心驚いた恵心だが、できるだけ平静を装った。
「お、おう、その『五常』じゃ」
「ではお答えします。『五常』とは、儒教における用語で『仁』『義』『礼』『智』『信』の五つの徳目の事です」
「では『五倫』は?」「はい、『五倫』とは、儒教における用語で『父子の親』『君臣の義』『夫婦の別』『長幼の序』『朋友の信』の五つの道徳の事です」
「ぬぬ……では『三徳』はどうだ?」「はい、『三徳』とは、儒学における用語で『智』『仁』『勇』の三つの徳を意味する言葉です」
「うぬぬぬぬぬ」
「失礼ながら、私からも質問させていただいてよろしいでしょうか。先ほどから儒教に関する用語ばかりを尋ねてこられておりますが、あなたは儒学もしくは朱子学の学習者か何かでしょうか?」
「そ、それは違う。私は一人前の僧侶を目指して学んでおる、つまり仏教の徒じゃ。今は和尚様の教え通り、儒教の書などを読んでおるのでな、つい出てしまったんじゃ」
「なるほど。仏教の僧侶でも儒教を学ぶという事はあるのですね。実に興味深いです。私のデータベースには未登録でした」
 このMARマールなる物の怪、尋ねた事には的確に答えるが、それ以外には意味不明の語ばかり発する……何なんじゃこいつ……どうも悪さはしなさそうだが……。
 それでも物の怪と話をしていると思うと恐怖が募っていく。その時――。
「おーい、恵心さーん」
 庫裏の玄関の方から誰かが叫ぶ声がした。すると物の怪は後ずさりをして茂みの中に入っていってしまった。恵心はそこでようやく金縛りを解かれたような気持ちがした。
 慌てて玄関に走って行くと、名主の家で下働きをする三吉さんきちが立っていた。恵心とは顔なじみだ。
「山の様子を見に、明日にも代官所からお役人が来るっていうんだけどな、一緒に和尚様も帰ってくるっていうから、すぐ伝えてこいって言われてよ……」
「そそそそそそんな事より、物の怪じゃ! 物の怪が出たんじゃ!」
「何じゃと?」
 二人して寺の裏に回ってみたが、MARマールの姿はどこにも無い。大きな声で呼びかけたり、茂みに分け入って探ってみたりもしたが影も形も見当たらないのだった。
「恵心さんは慌てもんじゃからのう。大方いのしし鹿しかでも見間違えたんじゃろ。あはははは」そう言って三吉は帰ってしまった。

 二度ある事は三度あると言うが、恵心の身に降りかかった異常な出来事もまた三度目があった。それもその日の晩にだ。
 夜の勤めを終えた恵心は、裏の森をぼんやりと眺めていた。本堂から庫裏へ戻る途中の渡り廊下から見る夜の森は真っ暗で何が潜んでいてもおかしくない――物の怪もまた然り。昼間の事を思い出すと背筋に冷たいものが走るようだ。
 と、またも茂みがガサガサと音を立てた。すわ、物の怪か!
 茂みを掻き分けるような音は徐々にこちらに近付いてくる様子。自然と両手に力が入るが、逆に脚は震えて力が抜けていく。
 やがて、茂みの外れから何かが出てきた。おぼろな月明かりでよく見えないが、少なくとも昼間出会った物の怪ではないようだ。それは地面に伏せたまま動かなくなってしまった。何やら唸るような声を出している。恵心ははっとして駆け寄った。
 それは一人の男であった。ほとんど人事不省といった体である。全身泥まみれで、半裸と言ってもよい程に着物はぼろぼろだ。山で遭難した者かもしれない。何にせよ助けねば。
 とはいえ相手はかなり大柄な体格だ。どうにかやりおおせたが、庫裏に運び入れるのは一苦労だった。
 灯りのもとで改めて見てみれば、髪は赤くまげは結わず月代さかやきもない。顔を見れば彫りが深く、肌の色はまるで良家の女子おなごの如く白い。ひどくやつれて血色が悪いので余計にそう見える。実際に見た事は無いが、異人であるのは間違いなかろう。蘭人だろうか。しかし、海が近い訳でもないのにこんな所に異人が現れるのは異常である。水夫が道に迷ったからと言ってこんな内陸の山の中まで来る事はあるまい。
「弱ったのう……」
 恵心は思わず弱音を吐いてしまった。山奥の轟音と閃光、よく分からない巨大な物体、MARマールと名乗る物の怪、そして行き倒れの異人。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
 だがこのようなひどい状態の者を捨て置く事もできまい。ならばと覚悟を決めた。
 襤褸ぼろを脱がせて身体を拭き清め、次に寝巻を着せて布団に寝かせるのだ。苦労の末にどうにか達成できたが、ヘトヘトになってしまった。
 心細いが明日には明顕が帰ってくる、それを頼みに恵心は布団に入った。だがあまりよく眠れなかった。

 翌日の午後になって明顕が寺に帰ってきた。待ちかねていた恵心がせきを切ったように不在の間の出来事を話すと、明顕はひどく驚いた様子だった。
「物の怪に行き倒れの異人……? それは他に誰か知っておるのか?」明顕は強く興味を持った様子だった。
「いいえ。物の怪は三吉さんの前には姿を現しませんでしたし、行き倒れは昨日の晩の事で和尚さんが帰ってくるまで誰も訪ねて来ませんでしたから……」それを聞いた明顕は心なしかほっとした様子に見えた。
わしは村の衆やお役人様などと共に山に行かねばならんのでな、ひとまずその行き倒れはそのまま布団に寝かせておいてやってくれ。騒がせて身体に障ってはいけないからな、誰にも言わないでおいてくれ。良いな」「は、はい」恵心はうなずいた。どうも秘密にしておきたがっているようだ、和尚様らしくもない……。
 次に明顕は山で見たものを恵心に尋ねた。そこで恵心が山での記録を見せると、また明顕が顔色を変えた。
「ううむ、デルタ13……やはりそうか……」ごく小さい声だったので恵心にはほとんど聞き取れなかったが、明顕が何かを知っているらしい事は見て取れた。
 すると明顕はふいに立ち上がり、庫裏の一室で寝ている行き倒れの許に急ぎ足で向かったのだ。迷わず部屋に入り、横になっている行き倒れの、その顔を一目見るなり明顕は息を呑み「ウィル……」と呟いた。
「はい?」と恵心が聞き返すと、明顕はハッとしたように「すまん、何でもないんじゃ……」と打ち消した。
 と、その時、「和尚様、られますかあ!」と大きな声が聞こえてきた。恵心が出てみると、それは六助だった。
「やあ、恵心さん、和尚様ぁ戻られとるよな。名主どんの家に皆で集まって、明日の探索について話をしたいって代官所のお役人様が言い出したもんで、迎えに来たんだぁ」
 すると明顕は奥の間から顔を出し、
「すまんなァ、六助どん。まだ着替えもろくにしてないんだ。支度をするからそこに座って待っててくれ。恵心、六助どんにお茶を頼む……」
 と、それだけ言ってまた引っ込んでしまった。その様子はいつもと変わらぬように見えたが、恵心にはさっきの明顕の様子が気になって仕方がない。
「和尚様も帰ってきたばっかりなのに呼び出されて大変だね。でもお役人の言うことには逆らえんからのう……」
 そう言って六助は恵心の出した茶を啜った。が、その途端に笑い出した。
「なかなか慌てん坊は直らんのう」また茶葉を急須に入れ忘れてしまった。
 どこからかメジロのさえずりが聞こえた。

 翌朝、村の衆を伴って役人が寺を訪ねてきた。とうに起きて朝の勤めも終え、支度も済ませていた明顕は、彼らと共に山に入っていった。恵心は留守番だ。
 その間も行き倒れの異人はずっと寝ているばかりで目を覚ます気配もない。寺の裏の茂みを時々覗いてみたが物の怪らしきものは何も見えなかった。
 ゆっくりと時は流れ、まもなく夕方になろうとする頃になって、山から皆が下りてきた。わいわいと雑談などしながら下りてくる声を聞いて、恵心は不思議と安心した。
 帰ってきた明顕は、役人や村の衆や里に下っていくのを確かめると、奥の間――行き倒れの異人が寝ている――へ向かった。見れば何か思い詰めたような表情をしている。
 襖を開けると、驚いた事に、さっきまで一切目を覚ますように見えなかった行き倒れが目を開け、半身を起こしているではないか。
 行き倒れはまっすぐに前を向いたまま、目の前の壁をぼんやりと見ている。明顕は彼のそばへにじり寄り、おもむろに声をかけた。
 それは恵心のまったく知らぬ異国の言葉だった。
「Hey, Will. I'ts me, Keisuke. Keisuke Souda.」
 相手はゆっくり明顕の方を向いて、しげしげとその顔を見た。そして何かに気付いたようで、ひどく驚いた顔をし、体を震わせながら途切れ途切れにかすれた声を発した。
「... Keisuke? ... Really? ... You ... You look like ... ah ... an old man ...」
 恵心はその様子に心底驚いていた。和尚様の見識が広いのは十二分に承知していたが、まさか異国の言葉まで使えるとは!
 それからしばらく二人は恵心には分からぬ異国の言葉で話し合っていた。やがて話が終わったらしく、明顕は恵心の方を向いた。
「すまなかったな、恵心。この男はウィル……ウィリアム・ストーンという者でな、儂の古い友人なのだ。彼はまだこのまま寝かせておいてほしい。体力の消耗が著しいのでな」
 そう言うと、また明顕はウィリアムに何かを話した。恵心にはやはり分からなかったが、自分について言及されたらしい。ウィリアムは安心したような顔で、布団に横たわった。
「よし、次は『物の怪』だ。恵心、案内してくれ」
「……わ、分かりました。こちらです」
 事態の変転の急激さに恵心は呆気にとられていたが、すぐに気を取り直して立ち上がり、一昨日物の怪――MARマールと遭遇した寺の裏手の鬱蒼とした森に明顕を案内した。既に日は傾き、森は暗く静まり返っている。
MARマール、どこにいる! 私だ! ケイスケだ! 蒼田そうだ恵介けいすけだ!」
 明顕は藪を漕ぐようにして森の中に入り、大声で叫んだ。
 と、森の中からガサガサと下生えの草木を掻き分けるような音や何かが軋むような音がした。さらに、恵心には聞き覚えのある、あの不思議な、笛や何かを出鱈目に吹いたような音が鳴った。同時に、いくつかの小さな光点が暗がりにきらめいたのが見えた。
 やがてMARマールがゆっくりと茂みの奥から姿を現した。恵心の記憶の通り、大きく角ばった形をしている。片足を引き摺っているように見えたが、実際その大きな身体の下に付いている脚と思しき機関の片方が不自由そうだ。
「認証いたします。右手をお出しください」
 遂に明顕の前に姿を現したMARマールにそう言われた明顕は、MARマールの体の正面にある出っ張りに右手を当てた。そのまま数秒してMARマールが応答した。
「認証完了、蒼田恵介と確認」それと共に明顕が右手を戻す。
「ケイスケ、随分様子が変わりましたね。かなりお年を召したように見受けられます」
 明らかにMARマールは明顕の事を知っており、明顕に向かって話しかけている。しかし彼の事を明顕とは決して呼ばぬのだった。
「ああ、久しぶりだね、MARマール。私はここに来て、もう三十年近くなるんだよ。君とウィルはその時間をすっ飛ばして放り出されたようだね。……もうデルタ13の仲間たちとは誰にも会えないと思っていた……。会えて嬉しいよ」
「こちらこそ……と言っても、私の時計ではワームホール発生から数日しか経っておりませんが」
「そうか、そうだろうね。実はさっきまで、この山の奥に流れ着いていたデルタ13を確認していたんだ。君が機能しているという事はセントラル・コンピュータはまだ生きているのだろう? 少し調べさせてくれ」
 そう言って明顕はMARマールの正面にある何かを触った。すぐにせり出してきた板状の物に両手の指を乗せ、まるで算盤そろばんを弾くような調子でパチパチと叩く。すると同じくMARマールの正面にある黒い窓のようなものにびっしりと白い文字が現れた。
「重力センサーはまだ稼動しているようだね、MARマール
「はい、それによればこの星の重力場には異常な偏りがあります。恐らくコアの形が不均質であり、極端に重い元素の層がこの山の地表近くにせり上がっているような形となっているのでしょう」
「ふむ、なるほど、そのせいでこの山にワームホールが開き易くなっているという訳か。これは上手くしたら帰れるかもしれないぞ……」
 恵心はその様子をぼんやりと見守る事しかできなかった。何をしているのか、何について話しているのか、全く理解できなかったのだ。

 その晩、夜勤めを終えた本堂で、明顕は恵心と差し向かいになって話し始めた。
「恵心、お前にだけは秘密にしておく訳にもいかないから、この数日の異常事態について話をしようと思う。これから言う事はお前にとって理解出来ない事も多かろうが、全て事実なのだ。ひとまず最後まで聞いてほしい」
 真剣な表情に、恵心は思わず生唾を飲み込む。明顕はゆっくりと話し始めた。
わしの本当の名前は蒼田そうだ恵介けいすけというのだ。儂が三十歳の時、火星開拓プロジェクトの一員として地球を出発した。農学博士として、火星での食糧生産を研究するのが使命だったのだ――」

*  *  *

 国際宇宙ステーションを足がかりに、地球の軌道上で十年の月日を費やして組み立てられ、十二名のプロジェクトメンバーを乗せた宇宙船、デルタ13(これはかつてまだまだ原始的だった頃の宇宙開発を支えた『デルタロケット』に因んで命名されたものである)が火星を目指して航行していた。
 長期間の閉鎖空間での集団生活を避け、無重力状態や宇宙放射線の身体への影響を最小限にするために乗員は当直制とされ、数日置きに二名ずつ交代し、残る乗員は耐放射線隔壁の内部で冷凍睡眠する。
 当直はMARマールの助力を得ながら、デルタ13の運行管理や眠っている乗組員の健康管理などを行う。その日の当直は恵介と、副船長のウィリアム。年齢が近い事もあり、立場は違えど仲の良い友人同士だ。
 そんな二人が一日の仕事を終え、自由時間としてそれぞれに楽しんでいる。
 肩紐付きのランニングマシーンで走るウィリアムが恵介に声をかけた。恵介は数少ない船窓の前に浮かび本をっている。
「おいケイスケ、また東洋哲学とやらを読んでいるのか?」
「ああ、読むたびに発見があるんだよ。荷物に制限があるから他に本を持ってこれなかったってのもあるけどね」
なまらないように体も動かしとけよ。火星むこうに着いたら畑仕事だぞ」
「分かっているさ、流石にMARマールに手伝わせる訳にはいかないからね。――!」
 突如船内に警報が鳴り響いた。船外に異常な重力波が観測されたとモニターには表示されたのだ。各種モニターで確認すると、確かにデルタ13の附近に何かが現れたのだ。しかし窓から肉眼で覗いた限りでは、一見すると何も分からなかった。が、目を凝らすと異常がある事が次第に分かってきた。
 空間が歪んで見える。まるで歪んだ鏡で星空を映しているかのようだ。もしや重力レンズか?――恵介は直感した。
 強大な重力源によって光の軌道が曲がり、あたかもレンズのようにその後ろの景色を歪ませる、それが重力レンズだ。もちろんそのような現象を引き起こすのは、よほどの重力源――例えばブラックホールのような――が必要だ。
「データから推測される結論としては、マイクロ・ブラックホールである可能性が高いです」MARマールの冷静そのものの声が恵介の鼓膜を震わせる。
 何故なんの前触れもなく現れたのか。地球の観測網はなぜ機能しなかったのか……事前に分かっていれば火星への軌道を変更するか延期する事で避けられた筈だ。
 と、重力レンズの辺りが閃光を放った。閃光が収まると、重力レンズはもう消えていた。どういう事なのかMARマールを通じてセントラル・コンピュータに分析をさせ、地球にも連絡を入れて指示を仰ぐ。
 次の瞬間、突如として船全体が異常な震動に見舞われた。
 モニターには船の左舷前方方向、約二〇〇キロメートルの極めて近距離に再び異常な重力源が表示されている。
 恵介が慌てて左舷の窓から見てみると、すぐ近くに重力レンズが見えた。そして有り得ないはずなのだが、重力レンズの中央に『光』を感じた。それは決して肉眼には見えていないのだ。しかし恵介には『見えた』のだ。
「何てこった……」いつの間にかウィリアムも同じ窓から重力レンズを見ていた。きっと『光』も見えたにちがいない。
 やがて重力レンズによる空間の歪みが変形してきた。二人の目にはこれまでの歪みは凸レンズのように見えていたのだが、それが中心部分がへこんで、あたかも透明なドーナツのようになっていった。
MARマール、分析は?」恵介が叫ぶ。するとMARマールはいつもの通り平板な口調で答えた。
「はい、確定ではありませんが、あのドーナツ状の歪みはワームホールである可能性が非常に高いです。また、あのワームホールは自ら生成した次元すいによって、次元転移を繰り返しているようです」
 ワームホール……既に実在は確認されているが、謎に包まれた天体だ。理論上は時空を歪ませ、別次元に繋がるとされているが実証されてはいない。まさかこんな所に現れるとは。
 ウィリアムが叫んだ。
「このままだとワームホールに飲み込まれちまうんじゃないか? MARマール、この軌道から離脱だ!」
「はい、メインノズル、斥力スラスター共に全出力します」感情の無いMARマールは時として残酷な真実を人間に突き付けてくる。窓から見ていても分かるほどにワームホールに引き寄せられているのが分かった。恐らく離脱は失敗するだろう。
「あの位置に転移された時点で詰みだったって訳か……」恵介が呟いた時、船内の照明が落ちた。重力波か電磁波の影響だろうか。しかし二人には相変わらずあの『光』が見えており、それによって暗くなった印象は受けなかった。そのまま『光』は輝きを増し、突然消えた――。

 恵介は一人真っ暗な森の中に倒れていた。朦朧とした意識の中、森を彷徨さまよい、山中の小さな寺院に辿り着いた。

 転移したショックからか、しばらくは夢の中に居るような状態であった恵介だったが、少しずつ自我を取り戻し始めた。
 それにつれて、自分の居るところが、まるで時代劇映画の世界のようである事が理解できてきた。とは言え曲がりなりにも日本語が通じる地域に落ちたのは不幸中の幸いだったと言えよう。
 不幸中の幸いはまだある。円心和尚に僧籍へ誘われたのは、ここに溶け込み易くなるという意味でも幸いであった。そして専攻である農学の知識や大学院まで積み重ねた教養は大いに役立ち、村人たちと良い関係を築く礎となった。
 ただ、恵介が勘違いしていた事が一つあった。あのワームホールは空間だけでなく時間にまで穴を開けてしまった、つまり自分は過去の日本に来てしまったのだと、そう恵介は解釈していた。しかしそうではない事が次第に分かってきた。
 ワームホールは恵介を別次元の地球に放り込んでしまったのだ。
 ひょんな事から、慶長五年の関が原の合戦は西軍の勝利に終わったという事を聞いた。誰に聞いてもそう答える。しかもそれは四百年も前の歴史上の出来事だというのだ。
 徳川家は滅び、その後長じて征夷大将軍に任ぜられた豊臣秀頼が大阪に幕府を開いた。しかしそれから三百年以上続いた豊臣幕府は、存続と同時に劣化を重ね、遂に瓦解したのだった。
 すると、かつての五大老(徳川を除く)や五奉行の末裔たる家臣団が勢力争いを始め、それはやがて各地の国衆にまで飛び火し、一時は再び戦国の世に逆戻りしたのである。
 が、淘汰が進みゆるやかに政権が天皇に移りつつある今は、いくつかの大国の睨み合いの均衡によって平和が保たれているのだ。

*  *  *

 恵心にとっては話のほとんどが理解の及ぶ範囲の外であった。ただ、明顕がこの世の者ではないという事は分かった。
「つ、つまり和尚様も、物の怪も、異人も、山の大きな物も、全て別の世から来たという事なのですか」
「その通り。どういう訳か儂だけが先にこの世に落ちてしまったために、今のウィルより三十年長く生きてしまった事になる」明顕は少し寂しげな微笑を浮かべた。
「だがウィルとデルタ13で眠る仲間たちはそうではない。ウィルは元の世に戻ろうと考えている」
「しかしどうやって……?」
MARマールを通じてセントラル・コンピュータに計算させたところ、この数日でワームホールが再出現する可能性が高い事が分かった。同じワームホールだから我々がいた元の宇宙に繋がっている可能性が高いが、もちろん上手く行く保証はない。それに向こうに帰れば三十年……いやもっと時間が経過しているかもしれない。ウィルはそれでも、全員を連れて帰りたいと言うのだ。それが副船長の責務だ、と言ってな」明顕はここで一度言葉を切り、恵心の目を見た。
「そこでだ、恵心、お前にも手助けをしてもらいたいのだ。引き受けてはもらえないだろうか」そう言って明顕は頭を下げた。
 他でもない明顕の頼みだ。それに困っている者を助けぬ訳にはいかぬ。恵心に断る理由はない。
「承知いたしました。和尚様」
 そう答えた。が、その後に言おうとした言葉は遂に出すことができなかった。それは、明顕も帰るつもりなのか、という問いだ。もし実際にそう問うて、その通りだ、と答えられるのが怖かった。
 明顕にとっては生まれ故郷に帰れた方が幸せだろうし、そうならば手助けしたいとは思っている。しかしそれは同時に敬愛する師を永遠に失う事を意味するのだ。考えれば考えるほど思いは千々に乱れるが、決して表に出さぬよう努めた。
 翌日から、明顕とウィリアム、恵心の三人は力を合わせてMARマールをデルタ13まで運ぶ作業を始めた。MARマールには脚があり、本来であれば自分で動けるのだが、転移して地上に落ちた衝撃で故障した部分があり思うように動けなくなってしまった。そこで、三人で押すなり引くなりして補助をするのだ。
 丸二日かけてようやくデルタ13の許にMARマールを連れていく事ができた。MARマールがデルタ13の傍で何やらすると、デルタ13の表面が音もなく開いた。明顕もウィリアムも迷わず中に入っていったが、恵心はMARマールが船内に入ろうとするのを手伝っただけで中には入らず遠巻きに眺めるだけに留めた。
 二人と一台がデルタ13を調べた結果、表面的にはかなり痛んではいるが、内部の機能や気密性には問題無いと分かった。冷凍睡眠の状態も悪くない。それも当然だ。明顕以外は、時間の経過が数日程度なのだから。これなら今すぐ宇宙に飛び出しても十分耐えられるだろう。
 ただ、推進機能にはダメージがあり、燃料もかなり消費されてしまっている。時限転移した先によっては地球に帰り着くには相当な時間がかかる可能性があるだろう。いや、それどころか全く動けなくなって宇宙を彷徨う事にもなりかねない。
 そういった現状を元に明顕とウィリアムは次のような計画を立てた。

 まず方針としては、向こうの宇宙に戻る事を最優先とする。
 ワームホールが現れるのと同時にデルタ13に残された斥力スラスターを最大出力で作動させ、少しでも高く上昇する。ワームホールの位置にもよるが、ワームホールに向かっていく勢いが得られれば吸い寄せられ易くなるだろう。
 向こうの宇宙に戻れた暁には、救命用ビーコンを作動させ、信号を発し続けながら冷凍睡眠機に入り救助を待つ。
 一度冷凍睡眠に入ればエネルギー消費は最小限に抑えられる。MARマールもスリープモードにすればかなり長い間持ち堪えられるだろう。

 勿論事前に予行演習する事はできない。燃料を無駄にはできないし、それなりの轟音を立てる事になるので、決行前に村人たちの注意を引く恐れがある。
 次の、そして最後のワームホール襲来予想日は明日の明け方と算出された。日が暮れる前に山に入って明け方を待つ事になる。
 明顕はここまで包み隠さず恵心に明かした。一方の恵心の心は塞ぐばかりだ。遂に具体的に最後の時が示されたのだから。
 それから三人で一旦龍降寺に帰ると、順に行水を使い、質素な食事をとった。
 次第に日は傾いていった。頃合いを見て一行は再び寺を離れ、山に入った。暮れきらぬうちにデルタ13に戻り、明け方に備えねばならない。
 デルタ13は夕陽を、そのくすんだ表面に反射させていた。デルタ13の中に入っていった明顕とウィリアムを追うようにして恵心も船内を覗き込んでみた。
 中は滑らかな外装に覆われた機械らしきものが船の内縁を覆っており、その隙間を縫うようにして歩かねばならない。外から見た印象よりも狭く感じた。
 恐る恐る中に入ってみると、明顕が感慨深げに立つ一角があった。そこには機械類同様内縁にぐるりと、半透明な直径三尺、長さ一間ほどの筒がびっしり並んでいる。
「和尚様、これは……」
「うむ、ここは冷凍睡眠コールドスリープ室だ。ここに仲間たちが眠っているのだ、文字通りの意味でね。この筒の中は非常な低温が保たれているのだ。こうして宇宙を旅していたのだよ……ちょうど熊が眠って冬を越すように、眠って長い時間をやり過ごすのだ」
 なるほど、眼を凝らして見れば半透明な外装の向こうに人影がある。それはぴくりとも動かない。そのうちの二つの筒を明顕が指差した。それらの筒は空っぽだった。
「一つはウィリアムの、もう一つが儂の場所だ」そう言って一つの筒をさすった。そこには白い板が貼り付けられており、『Keisuke Souda』と書かれている。もちろん恵心には全く読めなかったが、何故かそれが明顕の事だと分かった。
「わ、私はこの辺で寺に戻ります。誰か訪ねてこないとも限りませんし……」そう言うと恵心は明顕の返事も待たずに出口を目指した。
「ケイシン、お別れですね」
 不意にどこかから聞き覚えのある声がした。MARマールの声だ。
 どこにいるのかわからず周囲を見回した。すると、MARマールはまるで擬態したように機械類の間にすっぽりと嵌るように納まっていた。
「Hey, Keishin!」MARマールの陰からウィリアムが出て来た。ちょうどMARマールの整備をしていたのだった。彼はおもむろに右手を差し出した。
「手を握ってあげてください。ウィルの別れの挨拶です」MARマールがそう言うので、恵心も右手を出し握手を交わした。
 ウィリアムはやはり恵心には分からぬ言葉を捲くし立てた。MARマールによれば、礼を言っているのだという。そこで恵心が返事をすると、今度はウィリアムの言葉にMARマールが翻訳してくれた。
「マール殿、ウィリアム殿、私はこれにて失礼します。お元気で……」
 恵心はウィリアムとMARマールに頭を下げ、デルタ13を出た。
 山道は既に薄暗く、膨れた半円の月が木々の間の群青色の空にやさしく輝いている。
 見上げればそれはまるで水月のようだった。

*  *  *

 東の空が少しずつ白み、月は西に流れていく。
 恵心は庫裏から出ると、境内から山を眺めていた。そろそろワームホールが出現する頃だ。一睡も出来ず夜明けを迎えてしまった。
 しかし、今か今かと待ち詫びたがなかなかその時は訪れない。そうする内に東の空からいよいよ太陽が顔を出すか出さぬかと思うほどに空は明るさを増していった。まさか予想が外れたのでは……だとすれば和尚様とまた会えるが。
 無情にも、すぐにその思いは打ち砕かれた。
 突如山の向こうでまばゆい光が何度もひらめいた。続けて雷が落ちたかのような轟音が鳴り響く。恵心は思わず耳を押さえ、その場に座り込んだ。
 既に明るくなりつつある山の上空で、雲がまるで渦を巻くような不可解な形となっているのが見えた。さらに波紋のように空気が波打っているように見えた。
 やがて波紋は中心に向かって、あたかも漏斗を逆さまにしたようにへこみだした。実際にはそんな風に空気が見える筈が無いのは恵心にも分かるのだが、それでもやはり見えるのだ。
 ――これが、和尚様の言っていたワームホールによる時空の歪みというものなのか。
 やがて波紋のような歪みは消え、渦巻く雲もいつしか元に戻っていた。ひどく長く感じたが、思い返してみれば実際にはほんの短い間だった気もする。
 デルタ13はあの時空の歪みに呑み込まれ、ワームホールを介して元の宇宙に戻れただろうか……。
 我知らず恵心の目から涙が溢れた。拭っても拭っても後から後から涙がこぼれた。
 境内から本堂に駆け込んで、本尊の前に座ると、大声で経を読んだ。声がかすれても裏返っても構わなかった。
 知る限りの経を読み終えると、今度は『中庸』を取り出し、声の限りに音読をし始めた。
喜怒哀楽きどあいらくこれいまはっせざる、これちゅうう!」
「発みなせつあたる、これと謂う!」
ちゅうなる者はこれ天下の大本たいほんなり!」
なる者はこれ天下の達道たつどうなり…………ううっ……」
 恵心はそこで声を詰まらせた。すると聞きなれた声がその後を接いだのだ。

中和ちゅうかいたして、天地くらいし、万物ここいくす!

 驚いて振り返ると、本堂の入口に明顕が立っているではないか。
「お、和尚様! どうして?」
「恵心、儂は元の宇宙に戻るとは一言も言っておらんぞ。本当に慌て者じゃのう」
 そう言って明顕は笑った。
「私はてっきり和尚様も帰りたがっているものだとばかり思っておりました。帰りたくはなかったのですか?」
「もちろん望郷の思いが無い訳ではないぞ。……だがな、儂はもうこんなに年老いてしまった。それにすっかりこの地球に溶け込み、ここの人々が好きになってしまったんだよ。そんな儂が仮に帰ったとて到底馴染めはせぬ。それにお前を一人前にするという大仕事もあるしな」
 恵心はそこに座ったまま涙を流した。
「はは、泣くでない」明顕はそう言うが恵心の涙は止まらない。
「和尚様、私は嬉しいのです」
 すると明顕は急に真面目な顔になって言った。
「だがな恵心、心して聞け、大変な事があるのだぞ!」
「な、何でしょう?」
「また村で騒ぎになるのは間違いない。上手い事誤魔化さねばな! はははっ」
 明顕は高らかに笑った。恵心も思わず笑ってしまった。涙は引っ込んだ。
「皆さんは無事に旅立てたでしょうか」
「うむ、儂は一緒に吸い込まれないよう木の幹にしがみついて見送ったよ。デルタ13は思惑通りワームホールに吸い込まれて消えてしまった。向こうの宇宙に無事辿り着ければよいが、こればかりは分からぬからな、上手くいくのを祈るしかあるまい……」そこで明顕は大欠伸おおあくびをした。
「すっかり疲れてしまったよ、すまんが昼まで庫裏で休ませてもらう」明顕はそう言って本堂を後にした。
 この地球では、蒸気機関は発明されず、それに伴う産業革命も遂に起こらなかった。当然、明顕=恵介が元居た地球とは比べ物もない不便な世界だ。しかし同時に公害も大規模な環境破壊も気候変動も大量破壊兵器もない世界なのだ。火星を開拓せざるを得なくなった向こうの地球とはまるで違う。そういった事もいずれ恵心には話さねばなるまい。
 ウィリアムはそれでも皆を連れて帰るという意志を変えなかった。それは副船長として当然だ。ここに流れ着いた当初の恵介も同じように考えただろう。
 だが、自分はもう明顕なのだ。

 その後ワームホールが現れる事は絶えて無い。デルタ13がどうなったのか知る由もない。だがそれでいいのだと明顕は語るのだった。
 そして時は過ぎた。
 実りの秋。今年も豊作だ。村人総出の稲刈りに恵心も混ざり共に汗を流す。
 龍降寺の本堂には、恵心の留守を守る少年僧明舜みょうしゅんがちょこんと座り、書物を開いていた。
 先代の和尚から受け継いだ四書五経、殊に『中庸』を素読するよう恵心に指導されているのだ。
 やがて元気な声が本堂に響き渡った。

「天地道は壱言いちごんて尽くすなり
 の物たるれば、すなわの物を生ずること不測はかられず
 天地の道は、ひろなり
 あつなり
 高きなり
 明らかなり
 はるなり
 久しきなり!」


<了>

ばこう《ばかう》
【馬耕】
○(1)[農]ウマ(馬)を使って田畑を耕(タガヤ)すこと。
 参照⇒かんでんばこう(乾田馬耕)
○(2)[農]春先、ウマにスキ(犁)を引かせて田を起こすこと。
◎春の季語。

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★ごじょう《ごじゃう》
【五常】
○(1)仁・義・礼・智・信の五つの徳目。
○(2)⇒ごりん(五倫)
○(3)父は義、母は慈、兄は友、弟は恭、子は孝を守るべき徳
目とする。

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でるたろけっと
【デルタロケット】
◇[英]Delta launch vehicle
○[歴][宇]アメリカの中型衛星用の打ち上げロケット。
 参照⇒でるたふぉー(デルタ4),あとらすろけっと(アトラス
ロケット)
◎1960(昭和35)1号機、打ち上げ。

私立PDD図書館/百科辞書
http://pddlib.v.wol.ne.jp/japanese/index.htm

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