落ち込みにくい自立した心をつくるには
今回ご登壇頂いたのは、emol株式会社で代表取締役を務める千頭沙織さんです。
千頭さんは、ご自身の経験を基にメンタルヘルス×AIに特化した事業展開を行うemol株式会社を創業され、コンシューマー・企業向け両軸でメンタルヘルスケアを促進されています。
今回は、千頭さんから、落ち込みにくい自立した心をつくるをテーマにお話頂きました。
※本記事は、2020年10月8日に開催されたHR Millennial Lounge#11」のイベントレポートとなります。(テーマは「仕事やキャリアと「こころ」について考える~ ウェルビーイング、コーピング、コーチング」になります)
はじめに
今回「落ち込みにくい自立した心をつくるには」ということでお話をさせていただければと思います。
emol株式会社 千頭です。よろしくお願いします。
初めに弊社「emol」についてご紹介させて頂ければと思います。
弊社では、メンタルヘルス×AIに特化して事業を展開しています。
(画面左側のキャラクターが弊社のAIになります笑)
弊社は2019年3月に設立したばかりのスタートアップで、創業当初からAIと話しメンタルセルフケアをするコンシューマー向けアプリ「emol」というのを展開しています。
また、1千万件ほど悩みの会話データが蓄積されており、それらで得た知見を元に、今年の5月に企業向けのメンタルヘススケアサービスの「emol work」を新たにリリースし、現在ではコンシューマー向け・企業向けの両軸でメンタルヘルスケアを促進する事業を行っております。
私自身についても簡単に自己紹介させて頂くと、大学卒業して1年後の2014年に株式会社エアゼを創業し、webやアプリの開発や企画デザインなど行っておりました。
エアゼの事業をやりながら並行して先ほどご紹介した「emol」を展開していたのですが、「emol」に集中して取り組もうと思い、2019年にemol株式会社を設立しております。
「emol」を始めるに至ったきっかけは、もともと私がメンタル弱く人に言われたことに落ち込んでしまうという性格で、大学生時代にメンタルを崩したという経験に基づいております。
悩んだ際に他の人に相談できれば良かったのですが、周りからどう思われるかが怖く、親や友達に相談することができずに一人で悩むという悪循環に陥っていました。
その経験から、人でない信頼できる相談相手がいたらどんなに良いかということを考えるようになり、メンタルケアをサポートするAIを開発しようと決意しました。
今回は私の経験も踏まえて、メンタルヘルスケアについてお話できればと思いますので、よろしくお願いいたします。
身体の健康と同じようにメンタルヘルスケアが必要
まずは、そもそもメンタルヘルスケアとは?についてお話できればと思いますが、多くの人はメンタルヘルスに対して、「カウンセリングや精神科に行くこと」とイメージされるのではないかと思います。
そのイメージが強いため、「いや自分は精神科へ行くほど落ち込んでいるかは分からないな」と、カウンセリングや精神科に行くことに抵抗感を抱くのが国内の傾向としてあると思います。
一方でアメリカではカウンセリングを受けること自体が当たり前と言われており、日本で持たれているマイナスなイメージはない状況です。
果たして本当にメンタルヘルスケアをすることはマイナスなことなのでしょうか?
ここで、「心の健康状態と体の健康状態」についてのグラフを見てみたいと思います。
多くの人は、メンタルヘルスケアが必要となるのは、「心の健康状態」における「重度鬱」から「高ストレス」領域だけだと捉えていると思います。
実際にストレスが身体反応として出るなどマイナスの状態になってから「カウンセリングに行こう」とか「病院行こう」と考え始めます。
一方で、体の「健康状態」については日ごろから気を付けている方が多いと思います。
ケガをするなどマイナスな状態になったらもちろん病院に行きますし、そもそもケガや肥満にならないように注意をするなどプラスの状態から意識している人が多いと思います。
また、プラスの状態から注意していると「自己管理ができる」人とポジティブなイメージを持たれると思います。
身体はプラスの状態から管理をするのに、メンタルは管理をするとマイナスなイメージを持たれる。
そのような状況に私自身すごく違和感があると思っています。
そこで私は、「心健康」においても、プラスの状態(正常~ウェルビーイング)から身体と同じように日々注意していくことを促進していく必要があると考え、それをテーマに事業展開も行っております。
それではどのように心の健康状態を高めウェルビーイングを実現すれば良いのでしょうか?
そのためには、自分自身でストレスに強い心を創っていくための支援と組織にアプローチし心理的安全性の高い職場を創ることが重要だと思っております。
(弊社サービスもそのため、コンシューマー向け・企業向けに展開しています)
今回は、特に個人へのアプローチでストレス耐性に強い心を創ることに重点を置いてお話させて頂ければと思います。
ストレスに強い心をつくる認知行動療法-健康な人にも重要-
ストレス耐性に強い心を作るためにということで、認知行動療法について簡単に説明させていただきます。
認知行動療法とは、「自身の心のあり様をより良い方向に変えていくということを行っていく」療法になります。
例えば、「いつも仕事の様子を聞いてくれる上司がなぜか今日は話しかけてくれなかった」というような出来事があったとします。
マイナス思考の人は、「きっと何か自分が怒らせてしまって嫌われることをしたんじゃないかな」と思い、仕事に行きづらいとマイナスに考えてしまいます。
このような状況になった時、認知行動療法では出来事と思考を分けて考え、「自分の出来事」と「フィルターを通してみている自分の思考」は別物であるという認知のゆがみを正していくことを行っていきます。
そして、行動変容をしていくために、「忙しかっただけかもしれないからたまには自分から報告しに行ってみよう」と違う視点を考え行動に移し、「自分の考えすぎだったんだ」と気づくことで成功体験を得て少しづつ苦手なことを直していきます。
これが認知行動療法によるストレス耐性に強い心を作る方法です。
簡単に認知行動療法の変化についてお話しさせて頂くと、まず第一世代(1950年代)として「行動療法」というのが確立されました。
その後、「行動療法」では不足している思考の変化についての考えが生まれ第二世代の(1970年代)として「認知療法」が広まり初め、行動療法と認知療法を混ぜた「認知行動療法」が確立しました。
現在、カウンセリングなどでよく使われているのは認知行動療法にあたります。
その後、不安なことを避けるのではなくうまく付き合っていくという考えが広まり、1990年代からマインドフルネス系の考えが生まれ出し、弊社もその領域にてサービス展開をしています。
第3世代はもちろんマイナスとなってしまった心のための療法として用いられているのですが、それだけでなく現状健康な人たちに対しても落ち込みにくい心を作ることに有効的な療法となっています。
ACTを用いて心理的柔軟性を高める
第三世代の中でもACTという手法があり、今回はそちらについてお話させて頂きます。
ACTは、「Acceptance & Commitmetn & Therapy」の略で、マインドフルネスの考え方をベースに「心理的柔軟性」を生み出すことで「心の健康」を維持・回復させる療法のことです。
Acceptanceが受け入れるという意味を持っており、「自身で変えられないものはそのまま受け入れ、自身で変えることで行動の選択肢を増やす」ことを目的としています。
自身で変えられないことの例としては、過去に体験した記憶・勝手に沸き起こってくる感情などが挙げられ、どんなに自分でコントロールしようとしても変えることはできません。
一方で、これからする行動は変えられるものであり、その行動を変えていこうというのがACTの根本の考え方になります。
このような心理的柔軟性を高めるためには、エクササイズを行うことが効果的と言われており、ACTではエクササイズを中心にわかりやすく学ぶことができるようになっています。
ACTではどんなエクササイズを行うかというと、多くが心理的柔軟性を高めるエクササイズとなっています。
今行っていることに集中して自分の思考や感情を客観的に観察することで心にゆとりを持ち、本当にやりたい方向へ向かうことができる力が心理的柔軟性であるため、それができるようにトレーニングしていくこととなります。
非柔軟な状態になると、自分の中にあるネガティブな思考にとらわれ、ネガティブに考えて行動しなくなってしまう、もしくは回避行動をとって悪循環に陥ってしまうようになってしまいます。
以下はACTの心理的柔軟性を構成する要素となっており、①文脈としての自己、②脱フュージョン、③今この瞬間との柔軟な接触、④価値の明確化、⑤コミットされた行為、⑥アクセブタンスの6つとなります。
これらが心理的柔軟性の要素でありトレーニングで高めていくと理解して頂ければよいと思います。
ACTを行う最大のメリットは、ネガティブな体験や思考でも受け入れやすくなるということです。
つまり、不安や恐怖などのストレス要因に対して柔軟に対応できるようになるということです。
また、自分がやりたいことが明確になり、目標がはっきりするということで自分を前向きに変えることによって充実した人生にできることにも繋がります。
ACTの療法はかなり体系化されており、図のように①自分自身に起きていることを把握する⇒②問題を避けてしまう、自分を見つける⇒③マインドコントロールする⇒④人生における価値を決めるというステップで行っていくこととなります。
これらを意識しACTに取り組むことで心理的柔軟性を高めることができます。
海外メンタルヘルステックの台頭-メンタルヘルステック3.0はAIベースのケアを実現-
これまではメンタルヘルスの療法についてお話ししてきましたが、それらをテクノロジーで解決しようとしている海外のメンタルヘルステック事例ついてもご紹介できればと思います。
まず、メンタルヘルステックの変遷についてお話させて頂くと、最初は100%人によるケアとなっており、精神科やセラピールームなどがこれに当たり、まさしくメンタルヘルステック1.0といえます。
2.0になると、デジタル化が進み、headspaceやtalksapace、Calmといった「一部をデジタル化したオンラインカウンセリング」や、「メディテーションが行えるアプリ」などが展開されていきます。
そして、現在は3.0に当たる「AIベースのケア」まで進んでおり、デジタルを活用してパーソナライズなメンタルケア行うことができるところまで進んでいます。
ここで3.0に関する海外事例をご紹介できればと思います。
まずは「Woebot」という認知行動療法に基づき、気分や感情を予測してうつ病などを防ぐAIチャットボットです。こちらは37か国ぐらいに提供されているサービスになっています。
次に「Replika」です。こちらは、会話を通じて、ユーザーの感情と考えを理解し、幸福度を上げるためのチャットボットであり、Woebot」よりも少しライトなアプリとなっています
続いて「youper」というアプリで、こちらはAIとの会話で感情を理解し、適切なケア方法を提供してくれるようになっております。
まさに、パーソナライズされたケアをAIが提供してくれるサービスです。
続いてマインドフルネス系になりますが、「headspace」というアプリがあります。
こちらはメンタルケアのためにCBTの考え方などが取り入れられており、マインドフルネスを主に動画や音声で行うことができます。
最後に「calm」というアプリです。こちらは、睡眠・瞑想・リラクゼーションのためのメディテーションを音声で行うことがで切るアプリです
このように海外ではメンタルヘルス領域が盛んになっており、当たり前のように個人が活用するようになっております。
先ほどご紹介したACTのような両方がテクノロジーに組み込まれており、テクノロジーを活用することで個々人にあったメンタルヘルスケアができるようになっており、弊社もこの領域を国内で目指していきたいと考えています。
自分の価値観を知り、いつでも客観視できる自分へ
これまで、ACTなどの療法やそれらを活用したテクノロジーなど、メンタルヘルスケアの理論や潮流について述べさせて頂きました。
最後に、実践編として皆様が活用できようなACTのレッスン例についてお話しさせていただければと思います。
落ち込みにくい心を作るために今日からよければ実践していただければと思います。
まず、不快な感情をねじ伏せるための闘いについてです。
不快な感情には、「悲しみ」「罪悪感」「恐怖」「嫌悪」「怒り」「おどろきといったものがあります。
その不快な感情が沸き上がってきたときに、人はどのようにコントロールしているのかというと、①外向き戦略・②内向き戦略という二つの方法でコントロールしています。
例えば誰かに怒りをぶつけたり物を壊すことが①外向け戦略で、自分の外側の状況を変えて戦おうとする状態となります。
反対に②内向き戦略は、感情を押し込める、考えないようにする、やることを先延ばしにするといったように自分の内側の感情と戦おうとする状態のことをいいます。
こちらの図は、感情をねじ伏せようとするための闘いとして一般的に行われているリストになります。
このリストを埋めてみると、自分が不快な感情を持った時にどのように対応しているのか気づくことができます。
まずは、この感情の動きに「気づく」ことが重要です。
自分の感情をどうねじ伏せているか考えた上で、次に重要なのが、自分が大切にしている価値について考えることです。
(この考えがACTの特徴でもあります)
自分の大切にしている価値について考えることで、その考えが人生におけるガイドとなり自分の生きたい方向性を自分で知ることに繋がります。
こちらの質問は是非皆さんも一度考えて頂ければと思いますが、初めに「使えきれないくらいのお金を持っていたら、あなたはどうしますか?」と自分に問いかけます。
例えば豪邸に住む、高級車に乗る、世界を旅行して、欲しいものをすべて買うことができるなど自分がしたいことを考えます。
ただ、そのような生活をしているとお金を使うことに飽きてくると思いますので、続いて「お金を使うことに飽きてきらたら、あなたは何をするか?」について考えてみてください。
この2つめの質問の答えは「自身が大切にしたい価値」に気づかせてくれます。
「自分はこう生きていたい」「こういうことを大切にしたい」ということを知るきっかけになると思うので、ぜひ一度考えていただければと思います。
一方で、自分が大切にしたい価値に気づくことができ、その価値に従って生きようとすると否定的な自己評価が浮かび上がってくると思います。
「いやいや自分はそんなこと絶対にできない、そんな壮大な夢かなえられるわけないじゃん」と思ってしまう人が多いと思いますが、そのような感情も全てひっくるめて受け入れるようになるためにマインドフルネスを用いて自分を客観的に観れることが重要になっています。
また、それがACTの療法ともなっており、客観視する練習をエクササイズの中でたくさん行っていきます。
例えば、客観視する、観察するエクササイズとしては、①深呼吸してリラックスして、②思い浮かんだことにラベルを貼っていくなどの手法があります。
マインドフルネスというと自分の嫌な感情を吹き飛ばしてくれると考えている人も多いですが、どんな時でも客観視できるために、思考や感情を生じるがままにキャッチすることをトレーニングとして行っていくことになります。
自分はどういう考えがあるか、「今こういう思考しているな、こういう感情があるな、こういう記憶があるな、こういった身体感覚があるな、こういう行動パターンを自分がしているな」というように自分の思考感情を冷静にとらえ、落ち込みにくい心を作るのがACTの主軸になっています。
最後に
最後となりますが、弊社では、これまでご説明してきた、ストレスに強いメンタルを作るためのACTを使った「社内研修」を行っております。
また、AIがレクチャーする「デジタルセラピー」などのサービスの提供も行っておりますので、ご興味ありましたらお問い合わせいただければと思います。
ご清聴ありがとうございました。
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ハイマネージャー
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