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【必読1.5万字】これさえ読めば万事解決。人事制度パーフェクトガイド。

ハイマネージャー株式会社CEOの森です。

人事制度について詳しく教えて欲しい!というご要望が多かったため、人事制度に課題を感じる方・今後人事制度の見直しを検討している方向けに、人事制度パーフェクトガイドを作成しました。

人事制度に関しては一通り理解できるような構成になっています。

少し長いですが、ぜひ最後まで目を通して頂き、最適な人事制度導入の参考になりますと幸いです。

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人事制度について悩んでいる方、人事担当者の方、気になることがございましたら、無料にてご相談を受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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人事制度の概念的な理解から具体的な手法までを網羅した全42ページのパーフェクトブックです。
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1.人事制度とは

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人事制度とは、従業員の能力や会社への貢献度について評価を行い、適切な処遇を決定する仕組みです。

詳細は後述しますが人事制度には基幹となる等級制度、評価制度、等級制度の3つがあります。
これから人事制度を作る場合には、少なくともこの3点について検討していく必要があります。

2.人事制度の目的

人事制度の導入目的は様々ありますが、企業として業績(成果)向上に最適なマネジメントを行うこと=経営戦略を実行すること、社員がモチベーション・エンゲージメント高く働けるようにすることの2点が重要だと考えています。

人事制度は最も重要な経営資源の一つである「人」に関するルールであり、経営理念や経営戦略は、人事制度を通じて従業員に浸透していきますので、きちんと会社の想いを言語化して設計していきましょう。

特にスタートアップの方は人事制度をいつ作り始めるか悩まれると思いますが、これまで様々な企業の人事制度設計・運用に携わってきた中で、20人以上の規模になったタイミングが1つの目安だと考えています。

10名未満であればまだ社長・経営陣との距離も近く、誰が何をしているか・どんなパフォーマンスを出しているかは一定見えると思います。
そのため、かっちりとした制度を作らずとも社長・経営陣自ら従業員と定期的にコミュニケーションを取ることで納得度を一定担保することが可能です。

しかし、20人を超え始めると、組織構造が少なくとも3階層になり自分と全く関わらない人が出てきたり、社長・経営陣が直接関与が少ない従業員が出てき始めるため、上司に評価を移譲する必要が出てきます。
そうなると、客観的な軸で全員が決められたルールに基づいて評価をされる仕組みが併せて求められるようになるのです。

また、この20名以上になってくると、リファラルなど見知った関係での採用だけでなく、媒体などを通じた全く関係性のない方も入社し始め、様々なバックグラウンドの人が集まってきます。

そのため、これまで阿吽で通じていた企業のコアな価値観も少しずつ薄れてくるタイミングとなるため、企業理念や価値観を浸透させる意味でも人事制度が必要になってきます。

3.人事制度作成のプロセス

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いよいよ人事制度設計に取り掛かろうとする際、具体的に何から考え始め、設計していけばよいのかイメージが沸かない方も多いかと思いますが、人事制度設計・導入の一般的な段取りは上記の通りです。
ここではまず一般的な段取りを紹介しつつ、よりステップごとに概要を整理したいと思います。

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3-1/3-2.ステップ①②|目指す姿 (MVV) の設計と人事ポリシーの作成

人事制度設計途中の企業様にご相談を受けることもあるのですが、”何を目的に人事制度を設計するか”が明確でなく、落ちている情報をなんとか繋げながら等級・評価・報酬制度を決定しようとしているケースが意外と多くなっています。

人事制度の目的を果たすためには、以下図のように人事制度は単発のものではなく、企業の目指す姿(MVV)から経営戦略など全て繋がりを持って設計する必要があります。

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人事制度ポリシー(人事制度)はとても重要で、会社の目指す姿を踏まえて人事制度は何を目的としていくかを明確に定義しておく必要があります。

人事制度ポリシーが明確だと、後段の等級・評価・報酬を設計する上でも人事制度ポリシーがベースポイント(立ち戻れる場所)となり、メッセージをぶらさずに設計することができます。

人事制度ポリシーが何かイメージがつかない場合は、以下のようなイメージで設定してみると良いでしょう。

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制度の目的やポリシーが明確になったあと、各制度を切り出して考えてしまいがちですが、実際はどういうサイクルでどんな評価体験をつくっていくのかという全体像をイメージしながら、具体化していくことが重要です。

例えば、人事制度ポリシーでは”挑戦”をテーマにしているのに、評価項目には挑戦に関わる内容がなく、挑戦をしても報酬の変動もない、といった形でちぐはぐにならないように注意が必要です。

3-3.ステップ③|等級制度作成

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等級制度は人事制度の骨格となり、等級により後段の評価・報酬制度も大きく変わっていきます。また、等級が設定されると社員の方が会社の中でどのようなキャリアパスを描けるかが決まるため、エンゲージメントにも大きく影響する要素です。

まずは会社が提供したい体験や社員への期待を言語化し、それに合わせて等級の数やキャリアパス・それぞれの定義を作成していきます。
例えば上記のような観点で等級制度を選択します。

これらを選択した上で、各等級で明確な定義を定め、社員が認識できるようにすることも重要です。

3-4.ステップ④|評価制度作成

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評価制度を作成する上では、人事制度ポリシーや等級制度の内容を踏まえて、適切な評価項目を選択していくことが重要です。
例えば、上記などが評価で使われる観点となります。

また、評価制度は、目標管理制度とも密接に連携しているため、多くの場合目標と併せて検討が必要になっていきます。
評価制度・目標管理制度を設計する上では、評価が処遇の決定のためだけのものにならないようにすることが重要です。
例えば、目標管理をKPIとしKPIの達成度だけで評価を行うと、成果主義というメッセージは出せる一方で、従業員としては「会社のためだけに働かされている」意識にもなり兼ねないため注意が必要です。

対応として、目標設定で従業員のキャリア支援にもつながる目標を設定していくなど、企業としてのメッセージを打ち出しながらも従業員のエンゲージメントも高められるように設計していきましょう。

一方で、評価項目が多すぎても複雑な評価制度となり、従業員の理解度が下がり形骸化してしまう可能性があります。
真に伝えるべきメッセージに沿って評価項目を検討していくよう注意しましょう。

3-5.ステップ⑤|報酬制度作成

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報酬制度は従業員にとっても関心が高く、メッセージが伝わりやすい部分でもあります。
例えば、基本給を設定する上でも、”成果給”となれば「成果を上げて欲しい」、”勤続給”であれば「長く働いて欲しい」といったメッセージになるため、慎重に検討が必要です。

また、報酬と聞くと基本給・手当・賞与といったお金をイメージしますが、トータルリワードという考えがあり実は金銭報酬だけでなく、表彰ややりがいのある仕事の提供といった”非金銭報酬”もあります。

人事制度設計の中では、金銭報酬を中心に取り組みますが、非金銭報酬は企業の色が出る部分でもありますので、非金銭報酬も意識しながら設計していくことが重要です。

3-6.ステップ⑥|評価シミュレーション実施

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評価シミュレーションでは、設計した等級・評価・報酬を現在の従業員に当てはめて仮評価や報酬決定を行うことを指します。

事前にどのような動きになるかを想定しておくことで、検討漏れや個別論点となる部分をあらかじめ見つけておきます。
例えば、新しい等級別の報酬水準を決定した後に実際に今いる社員を当てはめてみると、上記のように新しい水準には当てはまらない人が出てくることがあります。
その場合、当てはまらない人の給与をレンジ内に制度開始時点から寄せるのか、移行期間を設けて徐々に寄せていくのか?が新たな検討ポイントとなります。

このようにシミュレーションで当てはめないと見えづらい部分もありますので、開始前に必ずどのような影響があるのか確かめてみましょう。

3-7.ステップ⑦|人事制度説明・人事制度運用開始

人事制度の設計ができたら、いよいよ従業員の方に説明が必要です。

単発的な説明だけでなく、従業員の方がいつでも見返せるように、従業員説明資料やマニュアルを作成し、公開しておきましょう。
特に評価者となる管理職層に対しては評価の目線がぶれないよう、評価者研修やデモを行うことも効果的でしょう。

管理職が理解しないと人事制度が浸透しなくなってしまうため、丁寧に説明・サポートしていくことが必要です。

また、前述の通りスタートアップにおいては状況変化に応じてチューニングが必要になってくることが多いため、導入後も定期的にフィードバックを受けてブラッシュアップすることを心がけましょう。

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4.【等級】制度 / 概要

ここからは、人事基幹制度の中でも、骨格となる「等級制度」についてご紹介します。

等級は評価や報酬の差分をつくる軸になっているので、何を満たすとどの等級に該当するのかというのは、会社が社員に何を期待しているのかを示すものです。
一般的に等級制度の考え方はこの3つのパターンがあります。

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厳密にこの3つのどれかしかないわけではなく、考え方が混ざっている場合などもあります。

ただ、日本の場合は職務等級をきっちり運用しきる難易度が高く、職能等級も曖昧で使いにくいと感じ、中間的な役割等級として運用されている場合が多いと思います。
特に、創業間もない時期や組織の形や規模がみるみる変わっていく成長フェーズにある企業の場合、役職や仕事内容は状況にあわせてどんどん変化します。
なので、ジョブディスクリプション(職務記述書)を軸に設計していく職務等級に振り切ってしまうとその運用を適切に維持するためのコストが大きく、形骸化する恐れがあります。

実際に検討する際はこの3つのパターンどれにするのかという議論を先にするよりも、自社は何を持って社員の階層を分けたり、期待値設定や昇格の機会を提供したいのかというイメージを具体化することが重要です。

5.【等級】制度 / 作り方・作成方法

前段にて等級制度の概要について整理しましたが、最後に等級制度・定義の作成手順について具体的な内容に触れたいと思います。

5-1.【等級】制度ステップ①|期待値の言語化

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前段でも述べたとおり、まずは会社が提供したい体験や社員への期待を言語化します。
切り口は様々あってよいですし、意見を拡散させた上で最後優先度を設け重きをおくものを絞っていきます。

最終的には以下のような形で等級制度の方針をアウトプットし、「職能・職務・役割」どの等級を軸としていくかを検討します。

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5-2.【等級】制度ステップ②|等級の種類と階層の設定(キャリアパス)

等級への期待値を言語化した後は、等級の種類と階層(等級のレベル数)を考えていきます。

等級の種類とは職種やキャリアパスに合わせた等級コースの数を指します。

イメージしやすい切り口だとマネジメントと専門職、セールスとエンジニア、総合職と一般職といったものがあります。
最近では、職種別に等級定義を分けたり通常コースとは別に専門コースを分ける企業が増えています。

スタートアップにおいては、セールス系とエンジニア系は大きく求められる役割が異なりますので、職種によって種類も分けるケースも多くなっています。

続いて、等級の階層(等級の数)を検討する際は、昇格までの滞留年数や組織規模の今後の拡大をイメージしながらどの程度の階段を設けるべきかを考えると良いです。

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例えば、等級を5段階とし、等級1から5までの昇格を通常のパフォーマンスの社員であれば20年間かけて行うとすると、単純に計算すると等級が1段階あがるのに5年かかる想定となります。

5年間同じ等級に滞留していると、昇格実感が沸かずデモチベーションを促す可能性があるため等級の数を増やし、昇格の頻度をあげていく..といった形で考えていくイメージです。

また、組織規模の拡大状況によっては、非管理職から管理職に上がる場合、ポジションがなく滞留してしまう可能性も考えられます。
そうなると想定していた滞留年数よりも多く滞留しデモチベーションしていく可能性も考えられるため注意が必要です。

一方で昇格実感を持たせるため、等級数を10個・20個と多くする企業もありますが、あまりに等級が多くなると、各等級の差異が分かりづらくなり、メッセージがぶれてしまうので注意が必要です。

基本的にスタートアップではそこまで多い等級数にはせず、5段階〜どんなに多くても8段階までに治める方が良いでしょう。
等級の種類と階層の最終的なアウトプットイメージは以下の通りです。

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5-3.【等級】制度ステップ③|等級定義の策定

最後は等級定義の策定です。
等級制度は社員への期待値と整理してきたとおり、等級制度の定義がもつメッセージはとても重要です。
なので、どのような等級定義にするかはわかりやすく明確にしていく必要があります。

また、どのような観点で階層ごとに違いをつくるのかもあらかじめ考えた上で等級定義の作成に進みましょう。
例えば、関与する範囲の違いなのか取り組む課題の複雑さや困難さによる違いなのかなど階層による尺度を考えておかないと等級がもつメッセージはわかりやすいものの、具体的に中身を見た際に違いがわかりにくかったり、評価制度に結びつけにくいという結果になります。

以下のような観点を用いたり、等級共通のレベルを決めた上で作成するとブレが少ないでしょう。

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また、もう一つのポイントとして、定義を固めすぎないことが大切です。

等級定義の浸透には、それを読んだ方が自身の行動に照らして内省し、自身の言葉で語れるようになることが理想です。
そのため、行動基準まで事細かに記載してしまうとその定義をそのまま受け取ってしまい、自身の行動を内省するきっかけを作りづらくなってしまいます。

特にスタートアップでは組織が拡大していく中で適宜ブラッシュアップが必要なことも多いため、作りこみすぎないようにしましょう。

定義に解釈の余地があると必ず具体的な行動を定義したい、指していることを教えてほしいという意見をもらうことになるかと思いますが、そこが理解浸透を深めるポイントになります。

定義として整理するのではなく、都度一緒にケースと照らして解釈を考えたり、対話を通じて全員の解釈を揃える場を設計するのが望ましいです。
最終的には以下のようなイメージで等級定義が作成されます。

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6.【評価】制度 / 概要

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評価制度とは、その名の通り社員のパフォーマンスや能力等を評価するための仕組みとなりますが、その目的は大きく3つあります。

1点目に、公平な処遇(報酬)を決定することです。
こちらは、評価制度と聞いて一番イメージがつきやすいと思います。
まだ、人数が少ない会社では社長が全員の成果や行動を把握しやすく、コミュニケーションも取りやすいため、明確な制度がなくても問題ない事もありますが、社員数が拡大してくると正確に把握することが難しくなってきます。

また、評価される社員だけでなく、評価者も増えてくると、評価者ごとに重視する観点が異なるケースも発生するため、会社として共通の基準が必要となってきます。

2点目は、会社のビジョンや大事にしたい価値観を発信することです。
例えば、”社員全員が新しいことにどんどん挑戦していくような会社にしたい”と考えた場合には、挑戦の行動ができているかを評価する項目を入れることで、会社としても重要視していることを発信することができます。

このように、会社の考えや価値観をうまく評価項目として表現していくことが重要となってきます。

3点目は、人材育成を促進していくためです。
評価制度を設計し適切に運用することで、あるべき姿と社員の現状の実績とのギャップ=課題が明確になります。
その上で、課題に対して上司が適切にフィードバック(称賛・指摘)を行うことで、あるべき姿への成長が促進されるようになります。

また、評価を踏まえて適切な処遇を反映していくことで、社員自身も貢献意欲があがり、能動的に成長を目指しやすい環境を創ることができます。
評価制度と聞くと、適切な処遇の反映のみを想定されているケースも多いのですが、ビジョン・価値観の発信、育成の促進もきちんと考慮して設計することが重要となります。

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営業部門などは売上など明確な成果が定義されていますが、管理部門などでは数値など誰が見ても測定できるような成果の設定が難しくなっています。
そのため、上司・部下ですり合わせた上で設定した目標の達成=成果として、目標の達成度を評価していくことが多くなります。

その他には、前述した会社が求める姿と現状のギャップを埋めるための行動目標などを目標として設定して、評価を意識した行動を日々取ることを目的に目標を設定することもあります。7.

7.【評価】制度 / 作り方・作成方法

いよいよ評価制度の作り方についてです。評価制度作成のステップは以下の通りです。

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7-1.【評価】制度ステップ①|評価の全体像決定

まずは、評価制度の全体像を決定する必要があります。
評価要素については、先ほど紹介した評価の観点を参考に、自社で評価したい観点を選択します。

評価要素は複数でも構いませんが、あまりにも多すぎると複雑になりすぎてしまうため、特に重要な観点を選択することをお薦めします。

また、この段階では仮で構いませんので、選んだ評価軸がどのような方法で評価され、最終的に処遇(報酬)のどの部分に反映されるかを検討します。
全体像におけるアウトプットイメージは以下となります。

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7-2.【評価】制度ステップ②|評価内容の設定

次に各要素の具体的な評価内容の詳細を検討します。
こちらは選んだ評価軸について検討する内容は異なりますが、各軸ごとの評価項目の数や要素について検討します。
代表的な評価要素においては、例えば以下の点を検討します。

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以下評価シートのようなものがアウトプットイメージとなります。

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7-3.【評価】制度ステップ③|評価基準の設定

次に先ほど検討した評価項目・要素を評価する上での評価基準を設定します。

評価基準は、誰が評価しても一定の目線を保って評価できるようにするために設定します。
例えば、成果評価では何を持って評価が高い=成果が高いとするのか、行動評価であれば何を持って定められた行動を発揮できたのか?を明確にしていきます。

具体的には、段階の数と各段階における評価基準を設定する必要があります。
こちらも代表的な評価軸における設定方法を検討します。
まずは、成果評価ですが、成果評価は目標を活用するため比較的シンプルで、達成率を活用することが多くなっています。
例えばMBO・OKRを用いた評価基準ではそれぞれ以下などがアウトプットイメージとなります。

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OKRの場合は直接達成度を反映しないため、少し裁量のある基準となっていますが、どのような成果があれば評価されるかを評価基準として表しています。
これらについては、設定した評価要素に応じて評価基準を設定していく必要がありますが、方法としては2通りあります。

1)設定した段階毎に評価基準を明確に設定する
例えば「協働」という評価要素を5段階で評価すると決めた場合、等級Ⅲの5段階は××、4段階は××、といった形で段階別の基準を明確にする方法です。

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2)評価基準は共通のものとし、評価の参考に等級別の行動(役割・スキル・バリュー)基準を設ける
例えば以下のような基準を設定します。

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その上で、別途等級別の行動(役割・スキル・バリュー)基準を以下のように設定します。

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実際の評価は以下の基準を参考に、等級通りであれば真ん中、上位等級の発揮度であれば最高評価といった形に判定を行います。
こちらの方法の場合、①に比べて裁量が評価者に寄ってしまいますが、作りこみの工数は低くなります。

スタートアップにおいては求める評価基準が短いスパンで変化する可能性もあるため、弊社が制度設計を行う際は②を推奨しています。

7-4.【評価】制度ステップ④|処遇への反映方法決定

評価全体像でおおよそは決定しましたが、最後に処遇への反映方法の詳細を決定します。

まず検討すべきは、評価軸ごとのウェイト(重みづけ)についてです。
いくつか評価軸がある場合、重要な要素が報酬に大きく反映されるように設定します。
例えば、基本給の反映に成果評価・行動評価を用いる場合、100点満点の内、成果評価が全体の70点分・行動評価が全体の30点分といった形でウェイトを設定します。

続いて、各評価によって報酬がいくら増減するのかを紐づけていきます。
多くの場合は、各評価の点数の合計点によって総合評価を決定し、総合評価の段階に応じて報酬を決定しています。
アウトプットイメージは以下となります。

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総合評価にまとめず、各評価軸ごとに基本給の金額を変動させる(例:成果評価の結果は1万円UP、行動評価の結果5千円DOWN、計5千円UP)方法も考えられますが、計算が複雑で運用が大変になるため、スタートアップにおいては総合評価にまとめて報酬に反映することを推奨します。

8.【報酬】制度 / 概要

報酬制度とは、賃金や非金銭的報酬を決定する仕組みとなりますが、その目的は大きく3つあります。

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1点目に賃金を公平に決定することです。
こちらは制度の名目通りで、評価を踏まえて社員に適切な賃金を決定するために設計されます。

2点目に従業員のモチベーション向上を(維持)促すことです。
公平な賃金にも通じますが、社員が出した成果や行動、会社業績によって金銭的・非金銭的報酬を提供することで、従業員が更に仕事に取り組めるように促します。

3点目に人件費のコントロールです。
人数が拡大していく中では、人件費がどの程度上昇していくのか想定しコントロールしていくことも経営に重要になっていきます。
報酬制度を設定することで、昇給や降給の幅を定義し、人件費が適切な範囲で増減するように仕組み化することができます。

これらの理由から組織が急拡大するスタートアップでも適切な報酬制度の設計が必要です。

8-1.【報酬】制度|金銭報酬について

金銭報酬は大きく以下の4つがあり、人事制度を設計する特に重要な要素となります。

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8-2.【報酬】制度|非金銭報酬について

非金銭的報酬は大きく以下の2つとなります。
非金銭的報酬については、組織の目指す姿に対して各社様々な機会を提供しており、会社の色が出やすい部分でもあります。

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9.【報酬】制度 / 作り方・作成方法

それでは、報酬制度の作り方について述べていきます。

9-1.【報酬】制度ステップ①|報酬の対象の決定(メッセージ)

まず初めに検討すべきことは、”何に対して報酬を支払うのか”についてです。

言い換えると、報酬を通じてどのようなメッセージを発信していきたいかについてです。
例えば、”成果を上げている人にどんどん還元していきたい”というメッセージを出したい場合、基本給も”成果(業績)給”として、成果に応じて変動する報酬制度にしていくことになります。

他にも、”役割の高いかつValueを体現している人に還元していきたい、かつ成果を上げている人にもプラスα還元していきたい”というメッセージになれば、基本給は”役割給”+”行動(Value)給”、”成果については賞与”で還元といった報酬制度になることもあります。
このように、伝えたいメッセージに応じて報酬の対象を整理していく必要があります。

報酬の対象については主に以下などが挙げられ、会社で実現したい人事制度に応じて適切に組み合わせていく必要があります。

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9-2.【報酬】制度ステップ②|報酬体系の決定

報酬体系は、主に①基本給、②手当、③割増賃金、④賞与・インセンティブの4つの点を検討する必要があります。

最終的なアウトプットイメージは以下のような形で、それぞれ何に基づいて支払うのかを決定します。

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<①基本給>
基本給については、先ほど述べたような以下観点の中から、メッセージに併せて体系を検討する必要があります。

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<②手当>
基本給に追加した毎月支払う賃金として手当を設けることも可能になっています。
手当には大きく、①仕事、②生活・福利厚生(採用強化)、③実費の3種類に分けられ、主に以下のような手当が存在します。

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手当を支給することも、会社が何に対して還元していきたいかを発信する要素になりますので、前述の報酬制度・ひいては人事制度全体のメッセージに沿った設計が必要です。
例えば、社員の連帯を強くしていきたいという想いを実現するため、社員同士が交流する”シャッフルランチ手当”を支給する会社もあります。
また、専門性を高めて欲しいという想いから、社外活動費を手当で支給する会社もあります。

このように手当は各社特有の色やメッセージを出しやすい報酬となっています。

スタートアップで人数を拡大していく上では、採用広報にも力を入れていると思いますので、候補者や社内のニーズも汲み取りながら決定すると良いでしょう。
一方で、手当は給与の一部のため一度設けると支給を取りやめるのが難しくなる点に注意が必要です。(特に生活に関わる手当)

<③割増賃金>
こちらについては、法令に従い支払う形となるため、大きな論点はありませんが、みなし残業制度(固定制度)等を採用するかは1つの検討ポイントとなります。

本記事で詳細は記載しませんが、会社目線ではみなし残業分については残業代を一律支給となり人件費の見通しが立てやすいことから、スタートアップでは採用されるケースが多くなっています。
(※みなし分を超過した場合には追加の支払が必要なため注意が必要です)

<④賞与・インセンティブ>
賞与・インセンティブについては、前述の通り成果に応じた支給となりますが、そもそも支給をするのか?が論点となります。

特に20-30名程度規模までのスタートアップでは中々賞与・インセンティブを前提とした予算を組みづらく支給しないケースが多くなります。
(数十名から百名規模になってくると支給しているところも多くなります)
支給する場合、賞与については、特に会社業績・個人業績どちらが起点となるかが重要です。

人件費のコントロールを考えると、会社業績に応じて支給の有無が決定される方が望ましいでしょう。(その上で、支給する場合は個人評価で分配も可能です)

インセンティブについては、どの職種の何に対して支払うかが論点です。
一番分かりやすいものは営業インセンティブとなりますが、スタートアップにおいてはThe Model型を採用していることも多く、営業だけの力で業績が上がる訳ではないため、インセンティブを特別に支給しないケースが通常となっています。

9-3.【報酬】制度ステップ③|レンジの型(基本給)の決定

報酬体系が決まったら、いよいよ各詳細を詰めていく必要があります。まずは、基本給レンジの型についてです。
基本給では、「従業員が該当する給与レンジの箱」と「箱の中での給与の上下」があるとお伝えしました。それぞれどのような設計にしていくかを検討する必要があります。

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<A.従業員が該当する給与レンジの箱>
まず給与レンジの箱については、重複型・接合型・階差型3つの考え方があり、どれを採用するかによって、昇格・降格時の給与変動の大きさや昇給幅が決定されます。

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組み合わせで使用することもできますが、どれをベースにするかを検討する必要があります。
スタートアップにおいては、人件費のコントロールを考え、接合型・重複型をベースとすることが多くなっています。

<B.箱の中での給与の上下>
続いて箱の中での上下(昇給・降給)についての考え方を検討します。
こちらも大きく、シングルレート式・積み上げ式・洗い替え式の3パターンあります。

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その中でも、積み上げ式・洗い替え式を採用されるケースが多くなっています。
昇給実感を持ってもらいたい場合は積み上げ式、成果や結果に応じてメリハリをつけていきたい場合には洗い替え式を採用すると良いでしょう。

9-4.【報酬】制度ステップ④|報酬水準の決定

続いて報酬水準の決定となります。
報酬水準を決定する上では、①内部公平性・②外部競争性の2点を考慮する必要があります。

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<①内部公平性>
社内においては役職間・職種間において不公平が生まれる可能性があります。
役職間については、前述のような、管理職になったことで残業代がなくなったことで、実際の受け取り額は非管理職の方が大きくなってしまうといったことがあるため、意図しない逆転現象が発生しないか注意が必要です。

職種間においては、同じ等級でも職種によって業務難易度が高くなっていたり、②外部競争性でも説明する通り転職市場での給与水準が異なる場合があります。

その場合、同じ給与だと不公平に感じ外部へ流出してしまう可能性もあるため、職種間での差異にも注意する必要があります。
※一方で差の根拠がないと不満を招くので要注意

特にスタートアップだと、エンジニアの市場での給与水準が高い傾向にあるため、エンジニアと他職種で給与レンジを分けることが多くなっています。


<②外部競争性>
前述の職種間の差異にも通じますが、外部競争性を高めていく上で他社水準(市場)との比較を行い水準を決定する必要があります。

特に競合他社が多い業界では、報酬水準が著しく低いと採用しにくくなってしまうため、検証が重要です。
他社水準と比較する上では、以下4パターンが考えられます。

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下に行くほどコストがかかるものの、他社水準の正確性が高くなっています。
パターン④については、ベルフェイスさんで実践されている形式となります。

スタートアップにおいては、コストの見合いを考えパターン②またはパターン①を採用するケースが多くなっています。

一方で、パターン①・②については真に正確性の高いデータが取れる訳ではないため、あくまでも目安と考え、自社の許容できる人件費も比べながら最終決定するのが良いでしょう。

9-5.【報酬】制度ステップ⑤|昇給・降給幅の決定(給与テーブルの作成)

続いて昇給・降給幅についてです。こちらは評価制度で設定したレーティング(評語)によってどのぐらい給与が変動するかを検討します。

昇給・降給幅を決定する上では、”どのぐらい同じ等級に滞留し続けるか”がポイントです。

ある会社において、A等級のレンジ下限が20万円・上限が25万円で、半期に1回昇給機会があるとします。
その上で、通常評価でも5年間昇給できるとすると、以下のように通常評価での昇給額は5,000円となります。

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このように、通常評価・最高評価などでどれぐらい滞留年数を取るか、どのようなキャリアパスを用意するかを念頭に決定するのが重要です。

特にスタートアップでは、中途採用も多く既存社員は上のポジションが埋まってしまう可能性もあるため、昇給余地を残していくと良いでしょう。
最終的なアウトプットは上記のような給与テーブルとなります。

9-6.【報酬】制度ステップ⑥|昇格・降格時の昇給・降給ルールの決定

いよいよ基本給についてはラストです。
昇格・降格があった際に社員の給与をどのように変動するかを検討します。
多くの場合、昇格時・降格時共にレンジの上限または下限に行きつく前に上または下の等級に移動するため、どのように変動するか示しておく必要がございます。
一方で、本ルールには検討の余地があまりなく、以下が一般的となります。

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重複型で、昇格/降格に伴い昇給/降給させることも考えられますが、明確な理由付けが難しいため、特に降給においては注意が必要です。9-1.

9-7.【報酬】制度ステップ⑦|賞与支給ルールの決定

最後に賞与についてです。
賞与の支給は固定型・業績連動型・決算賞与の3パターンがあります。

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固定賞与は予算やコストが日々大きく変わるスタートアップにおいては負担となってしまうケースが多く、採用されているケースは少ないです。

多くの場合、業績連動型か決算賞与となっています。特に業績連動型は、賞与原資を分配するような形で支給すると人件費コントロールもしやすくなり、近年良く採用されています。

最終的なアウトプットイメージは以下となります。(以下は業績連動型のイメージ)

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10.人事制度は内製できる?

これまで人事制度作成に向けて概要をお伝えしてきましたが、ご相談頂く中で「そもそも人事制度は内製できますか?」というご質問を良く頂きますので、そちらについて触れていきたいと思います。

この問に対する回答としては、「内製は可能」です。
仮に未経験であっても、知識をキャッチアップしていき、体制を作りながら行えば時間はかかるかもしれませんが、問題なくできると思います。
人事制度を全て作るまでにかかる期間は内製だと半年〜1年程度が目安です。
この期間は専属で人事制度を創る人が1人はいる想定のため、兼務しながらだともう少し時間がかかる可能性もあります。

スタートアップの専任を作るのは難しいと思いますので、その場合は0.3〜0.5人月程度のリソースを複数確保することが良いでしょう。
では「なぜプロのコンサルタントに外注するのか?」という疑問もあるかと思います。
弊社含めプロにご相談頂く理由は、様々な企業の事例が蓄積されていて、短納期でこれらを作れるからです。

人事制度を導入したいと思うタイミングから半年〜1年かけてしまうと、全く状況が変わってしまいうまく機能しないことも考えられます。(特にスタートアップ)

また、人事制度を作ったことのある人が社内にいない場合、そもそもの作り方からキャッチアップが必要となってしまうため、そこまで工数をかけられない場合もあると思います。

一方でプロのコンサルタントに依頼をすると、設計範囲にもよりますが2か月~半年以内に完成することができます。
作成手順も一から学ぶ必要がないため、早く手間をかけずに作成できるのが最大のメリットといえるでしょう。

最初の問いに戻ると、内製自体は可能となりますが、制度リリースまでの期間、社内のリソース、ナレッジの状況を鑑みて、内製か外注を選択すると良いでしょう。

11.人事制度を作るときに押さえておく知識・情報

内製が可能とお伝えしましたので、最後に人事制度を内製する上で押さえておくべき主な知識・情報をご紹介します。

 ● 人事・労務周りの法律の基礎知識(特に降給・降格などの不利益変更)
 ● 就業規則や雇用契約
 ● 現場や経営陣のヒアリングなどを通じた組織課題
 ● 等級・評価・報酬の基礎知識
 ● 人事制度の事例 等

例えば、人事・労務周りの基礎的な法律を知らず報酬制度を作ってしまうと、実際はその制度を運用すると不利益変更となってしまうため、リリースできない...といったことになりえません。
そのため、設計の段階から一定の知識が求められます。
(もちろん、顧問契約している社労士の方などと協力して進めることも可能と思います)

もし内製する場合は、上記の知識・情報を抑えて作成していくとスムーズかと思います。

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人事制度のパーフェクトガイドはこれにて以上となります。

全国の人事制度ユーザーの一助となれば幸いです。もしご不明な点があれば対応させていただきますので、ご遠慮なくお問い合わせください。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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