実は副業が進んでいる国・日本。海外と比較して見えてきたその実態
コロナ禍を経てリモートワークが普及したことに伴い、にわかに活気付いているのが副業。
元々、厚生労働省も2018年に副業・兼業の促進に関するガイドラインを作成するなど、日本でも副業を後押しする機運が高まりつつあった中、一気に加速したトレンドと言えるでしょう。
ニーズが強まる昨今、自社では副業を解禁するべきなのか悩まれている企業も多いかと思います。
今回は国内外の法制度や副業従事者数を比較しながら、日本の副業の実態とこれからの働き方について考えてみました。
1. 副業とは
副業には実は法律上における明確な定義はありませんが、一般的には「本業以外で収入を得ること」を指します。同様の意味を持つ言葉に「兼業」や「複業」がありますが、(ニュアンスはやや異なるものの)意味上の大きな違いはありません。
今までは、副業と言えば“本業の隙間時間や休日に行うもの”というイメージが強くあったものの、現在は“本業と50:50”、“本業も行いながら自身で事業を興す”など、非常に多様な働き方が浸透しています。
2.なぜ副業をするのか
副業をしている人を対象に、厚生労働省が行なったアンケートでは、「収入を増やしたいから」が56.6%、「自分で活躍できる場を広げたいから」が19.8%、「時間にゆとりがあるから」が18.6%と、副業を行う理由は人それぞれです。
このことからも収入増加だけでなく、労働者の副業に対するニーズが多様化していることが分かります。
しかし、同様のアンケートでは“副業経験者は10%に満たない”というデータも出ており、日本において副業が普及しているとは言い難いでしょう。
実際に、リクルートキャリアの調査では副業を認めている企業は約3割に留まるなど、企業側も積極的に推進しているとは言えない状況にあります。
(引用:株式会社リクルートキャリア「兼業・副業に対する企業の意識調査(2019)」)
それでは、日本以外の地域では副業をどう捉えているのでしょうか?
今回は、法制度の観点や副業従事者数の観点から
・アメリカ
・ヨーロッパ
・アジア
・日本
で比較してみます。
3.法制度から見る各国の副業の捉え方
いくつか観点はありますが、主に「副業を法的に認めているか否か」「労働時間の規制はあるか」がポイントとなってきます。
各国のポイントをまとめると下表(筆者作成)のとおりです。
以下で詳しく解説していきます。
■海外の場合
・アメリカ
名だたるテック企業も多く、副業に対して大らかなイメージのあるアメリカでは、副業に対して法的な規制を行なっていません。
また、副業を含め労働時間の規制もないことから、イメージどおり副業には寛容と言えるでしょう。
本業の20%を本業以外に充てていいとされる、Googleの“20%ルール”は余りにも有名ですね。
・ヨーロッパ
<イギリス>
低法人税を武器に、外資系企業を積極的に誘致してきたアイルランドを有するイギリス。
イギリスでは、競業防止などの合理的な理由があれば、副業禁止の条項を雇用契約に盛り込むことが可能です。
また労働時間に関しては原則48時間/週を超えてはならないとされており、アメリカと比較するとやや保守的な制度運用がなされているため、相対的には副業がしにくい環境とも言えるでしょう。
<ドイツ>
先進国の中でも最も労働時間が短いと言われているドイツではイギリスと同様に、競業防止などの合理的な理由があれば、副業禁止の条項を雇用契約に盛り込むことが可能です。
ドイツでは本業外であっても、450ユーロ/月までの収入であれば非課税となる「ミニジョブ」という制度が浸透していることも背景にあります。
なお副業と通算して、労働時間は10時間/日を超えてはならず、また6ヶ月平均では8時間/日を超えてはならないなど、
最も労働時間管理に厳しい国の1つでもあるため、どちらかと言えば「本業での収入を補うための副業」という側面が強いでしょう。
・アジア
<ベトナム>
2015年に40万社だった企業数を2020年には100万社に引き上げるといった野心的な目標を掲げ、ASEAN諸国がコロナ禍でマイナス成長に陥る中でも順調に成長してきたベトナム。
ベトナムの労働法では副業が労働者の権利として認められているため、副業を禁止することは一切できません。
労働時間は最大12時間/日ですが、時間外労働に関しては原則30時間/月までかつ副業は労働時間に換算されないため、非常に副業はしやすい環境と言えます。
■日本の場合
日本では、イギリスと同様に競業防止などの理由があれば、副業を制限・禁止することが可能です。
また労働時間に関しては、1日の上限は無く、残業45時間/月・360時間/年までと原則として定められています。
なお、労使で合意が取れている場合には、80時間/月・720時間/年までの残業が可能になるなど、他外国と比較し、労働時間が長い傾向にあります。
法制度的には副業を推進する方向に動いてはいますが、現実的な就業時間や健康管理を考慮すると、中々副業解禁に踏み出せない企業が多いのにも納得感があります。
参考:
・厚生労働省「時間外労働の上限規制」
・厚生労働省「諸外国の制度について」
・独立行政法人労働政策研究・研修機構「ベトナムの労働を取り巻く現状」
・独立行政法人労働政策研究・研修機構「ミニジョブの現状と課題」
4.副業従事者数の変遷
■海外の場合
・アメリカ
2017年時点での副業従事者は約754万人で、労働者の約4.9%と労働者に占める割合はそこまで高くないことが伺えます。
また1990年代の約7%をピークにその割合は下がり続けています。
しかし、2020年にアメリカのクラウドソーシングサイトUpworkが調査した「Freelance Forward 2020」によると、
特定の企業に属さないフリーランサーは約5,900万人で、そのうち約3,800万人が副業もしくはフルタイムでないフリーランサーとして働いているというデータも出ています。
これは労働力人口の約23%にあたることから、副業ではないがフリーランスでのスポットワークが非常に浸透していると言えます。
副業がしやすい法制度の割に副業従事者があまり多くないという点は意外でしたが、Upworkの調査では被雇用者からフリーランスに転じた労働者の75%が収入をアップさせたというデータもあるため、
フリーランスで収入が得やすくなっていることが要因と言えるかもしれません。
(引用:Upwork「Freelance Forward 2020」)
・ヨーロッパ
<イギリス>
2016年時点での副業従事者数は約112万人で、労働者に占める割合は3.9%となっており、イギリスでもアメリカと同様に1990年代の約5%をピークに減少を続けています。
またフリーランサーも労働者全体で約4%程度と、こちらはアメリカと比較しても非常に少ない値となっています。
フリーランサーの収入の中央値が375ポンド(約56,000円)と高くないことからも副業がしやすい環境にあるとは言えず、イギリスにおいては副業があまり普及していないと結論づけられそうです。
<ドイツ>
2017年時点での副業従事者数は約308万人と推定され、労働者に占める割合は約9.3%と諸外国と比べて高い傾向にあります。
ミニジョブが制度化された2003年には約120万人でしたが、そこから約2.5倍と急激に増加しました。
やはり労働時間管理の観点から、スキルアップや大きな収入は見込みづらいですが、クラウドソーシングの普及もあり、副業従事者は増加していくでしょう。
法制度がこれからの副業に大きな影響を与える好例と言えそうです。
・東南アジア
<ベトナム>
明確な推移を出した調査はありませんが、労働者人口の約5〜60%が副業に従事していると言われるベトナム。
ベトナムのリサーチ会社Q&Meの調査によれば、なんと70%の労働者が定常的に副業を行なっていると回答しました。
諸外国と異なり、強い労働者の権利を認めていることからも、副業が文化的に根付いている特異な例と言えそうです。
参考:
・独立行政法人労働政策研究・研修機構「諸外国のプラットフォームビジネス調査 -アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス-」
■日本の場合
2017年の副業従事者数は約268万人で、労働者に占める割合は約4%とイギリスと同水準程度となっています。
厚生労働省による就業構造基本調査が行われるのは2022年ですが、リクルートキャリアの調査では約9.8%が副業を実施しているとされていることから、実は諸外国と比較すると加速度的に副業が普及していると推察されます。
日本の場合は、冒頭にも述べたように2018年に厚労省が副業・兼業の促進に関するガイドラインを定め、同年にモデル就業規則が改定されたことが大きな転機となりました。
これまでモデル就業規則内で“労働者の遵守事項”に定められていた「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という規定が削除されたため、
日用品の製造・販売を行うユニ・チャームや大手旅行会社のエイチ・アイ・エスなど、一斉に副業を解禁する企業が現れました。
■なぜ国内外での差が生まれるか
日本国内においては「新卒一括採用+年功序列型賃金制度」に代表されるように、一社に留まることで享受できるメリットが大きかったため、副業が普及しなかったと言えるでしょう。
パーソル総合研究所の調査によると、「一社に専念して働いてもらいたい」という企業は依然として多いことが分かります。
(引用:株式会社パーソル総合研究所「副業に関する調査結果(企業編)」)
また、高度経済成長期の右肩上がりの成長モデルにおいては、均一な労働力を確保するための“メンバーシップ型採用”でゼネラリスト(=社外に持ち出せるスキルが少ない)が育成されてきたことも要因だと思われます。
国外では一般的な、いわゆる“ジョブ型採用”はスキルが明確に規定されるため、社外でも活用しやすいことから、これまで国内外での副業の普及率に差が生まれていたと考えられます。
5.副業のメリット/デメリット
ここまでで、副業に対する捉え方は国によって様々な解釈があることがわかりました。
また法的に副業がしやすい国では、副業従事者が多いという関係から労働者からは副業に対する強いニーズがあることも同時に見えてきました。
企業・労働者それぞれにとってのメリット/デメリットを整理することで、副業を“解禁”するべきか否か考えてみましょう。
■企業にとって
<メリット>
・労働者が社外でスキル向上することで、教育コストを抑えつつ、社内に還元してもらえる可能性がある
・副業を解禁することで、正社員では獲得できないような優秀な労働者を確保できる/自社の社員の流出を防止できる
・労働者の自主性の向上につながる
<デメリット>
・労働者の就業時間把握や健康管理に留意する必要がある
・秘密保持や競業防止などリスク管理を行う必要がある
■労働者にとって
<メリット>
・離職を伴わない形で、本業とは別のスキルを獲得できる
・所得が増加する
・本業の所得を維持できるため、リスクを少なくしながらキャリア形成を行える
<デメリット>
・トータルの就業時間が長くなる傾向にあるため、健康管理などに留意する必要がある
・機密漏えいや競業を発生させるリスクを念頭に置いて活動する必要がある
6. まとめ 〜これからの副業はどうなるのか〜
ここまでの情報をまとめると、
・国内の労働者における副業のニーズは急速に高まっている
・労働者側には特筆すべきデメリットが見つからない
ということが分かりました。
またこれから労働人口が減少していくであろう日本においては、労働者一人一人の能力開発が重要になることは明らかです。
したがって、日本企業は副業を認めるべきと言えますが、副業を推進するにあたっては、①長時間労働の傾向、②本業に集中すべきという社会通念、③管理の煩雑さなど、解決すべき課題が山積しています。
しかし、これから副業を認める流れが加速すれば、副業社員だけで成立する会社、正社員・業務委託・アルバイトなど様々な雇用形態が入り混じった会社など、会社の在り方が変わってくるでしょう。
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