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摩訶不思議?な仏教

最初に仏教信徒の方、及び仏教を学ばれた方から顰蹙を買う、または浅学であることをご指摘されるのは想定していることをお断りしておく。

さて、以前、「宗教からヒンドゥー教・仏教へ」を書いた。
https://note.com/kengoken21go/n/na763c23c060f
その続きと言えなくもないが、今回は仏教を中心に書く。

【プロローグ】
上記の中で、今の仏教はさておき、仏陀が初めた当初の仏教は宗教ではなく哲学というのが妥当ではないかと書いた。欧米の人(就中一神教の人/キリスト教徒の人)もそう思う人が多い模様。一方、専門家によると宗教、哲学という用語は西洋の概念であり

○宗教・・元はキリスト教対抗で生まれたもの。キリスト教徒の人は宗教と呼ばれることにネガティブ
○哲学・・古代ギリシアで生まれたものの系譜にあるで、仏教を哲学というのは筋違い

ということらしい。結局よく分からないということになるが、そもそも宗教の定義は一意(一様)ではないということで宗教としておくしかない。儒教も道教も同じように宗教とも哲学とも言えないと思う。

1.わかり辛い仏陀
仏陀/釈迦/釈迦牟尼という呼称があり、更に釈迦如来ということもある。少し整理をしておきたい。
●仏陀
「目覚めた人」いう意味の尊称で本来は固有名詞ではない。しかし、現在、世界の人が思っている所謂仏陀(ガウタマ・シーダールタ)が最初に「目覚めた人」として現れた、以降はもう現れないというロジックで今は固有名詞と考えてよい。
ガウタマ・シッダールタの生誕~入滅/涅槃=ニルヴァーナまで8つの事績に分けられている。先日「古文嫌いの例外:今昔物語集、宇治拾遺物語」を書いたが、『今昔物語集』の第一部「天竺部」にも仏陀の事績が出ている(誕生譚など)。事績については真実と思われないものが含まれているとは言え、仏陀が実在の人物であることは歴史学上の共通認識だと考えている。

●釈迦、釈迦牟尼
ガウタマ・シッダールタはシャーキヤ族のガウタマ氏の末裔。シャーキヤ→釈迦という漢語を当てたのはよく知られているところ。シャーキヤはサンスクリット語Śākyaで砂糖、或いは甘藷と関係があるとの説がある。釈迦牟尼は「釈迦族の聖人」という尊称であある。因みにシッダールタとは「目的を成就した者」という意味。
<補足>
砂糖は古代インドでSakaraと呼ばれていた。Sugarや人口甘味料サッカリンの語源。

●釈迦如来
如来の現代での意は「真理に達し悟りを開いた人/輪廻から解脱した人」である(古代インドの多神教世界では少し意味が異なるようだ)。原始仏教では如来は仏陀しかいということになる。しかし乍ら、後に大乗仏教が生まれ分化する中で、大日如来、阿弥陀如来、薬師如来が生まれたので仏陀も如来の一人として釈迦如来にされた。

如来のついでに菩薩も書いておく。仏陀は天上(天国)にいたのだが、ガウタマ・シッダールタとして人間の子として生まれて来た。これがボーディ・サットヴァ=所謂菩薩のことである(菩薩は菩提薩埵の略)。これはシッダールタが後に「目覚めた人」=仏陀になることを約束されていたことを表している。如来と同様、菩薩は本来人間であった時の仏陀のことであったが、弥勒菩薩、観音菩薩、文殊菩薩などの多様な菩薩が大乗仏教で生まれ、如来になる(=悟りを開く)ために修業しているもの、或いは、如来になる前の段階という意味になった。

2.仏教徒になることとは?
僧になるには色々面倒な修行・手続き・規律・・具足戒が典型・・があり、また、現在の日本のように多くの宗派が乱立していると宗派毎の決めごとがあるのかもしれないが、本来、仏教徒になるのに必要なことは以下の三宝と言われるものへの帰依である(三宝帰依。太字が三宝)。
○目覚めた人=ブッダ(仏陀)に帰依する。
○仏陀の教え=ダルマ(法)に帰依する。
○仏教教団=サンガ(僧伽)に帰依する。

ダルマは仏教に先行するバラモン教からある用語で広範な意味を持ち、簡単に言い表せない・漢語訳をあてるのも難しいので「法」となっている、説法という時の法であり法輪の法でもある。サンガは出家した仏教僧侶の集団。僧の男性は比丘、女性は比丘尼というのは日本でよく知られていると思う。僧は本来出家する必要があるが、日本などそうでない国もある。
<補足>
ダルマ(法)を不正確であるのを承知で最も単純化して言えば仏陀が説いた四聖諦(四諦))と八正道である。その説明はややこしいので省略する。寺院では掲示してあるところもあると思う、
○四聖諦・・苦諦、集諦、滅諦、道諦
○八正道・・正見、正思惟、正語、正業、正命、正精進、正念、正定

3.経典(聖典)がバラバラな仏教
(1)始めは三蔵
 仏陀の教え(説法したこと)は弟子、その後継者達の間で暫くの間、暗誦することで伝えられた。それを整理・統一するための編纂事業があり3つのテクスト集=三蔵にまとまられた。概ね以下のような内容である。
  ○経蔵・・仏陀の語録・説法集が主体
  ○律蔵・・サンガ=僧侶共同体の行動規範中集
  ○論増・・経蔵に対する解釈・注釈、質疑・論議

この三蔵形式をその後も=現在まで守っているのは部派仏教、上座部仏教(嘗て小乗仏教という蔑称もあった)等で呼ばれているものである。国名でいうと、スリランカ、タイ、ミャンマー、カンボジア、ラオス、ベトナムの一部。ジャワ島に有名な仏教遺跡ボロブドゥールがあるようインドネシアも嘗て同じだったが、今はイスラム経の国となった(バリ島はヒンドゥー教が優位)。
<コラム:玄奘三蔵>
唐の玄奘は玄奘三蔵とも言われ、西遊記の三蔵法師として日本でもよく知られている。三蔵とは上述の三蔵のことで「三蔵」という尊称は「三蔵に精通した人」の意で固有名詞でなく一般名詞である。仏語(サンスクリット語かパーリ語)の仏典を理解し中国語に翻訳(漢訳)した人と読み替えてよい。玄奘以外にも三蔵は居るということである。
西域から中国に来て仏典の漢訳に大きな貢献をした教科書でお馴染みの鳩摩羅什=クマーラジーヴァも三蔵に値するだろう(鳩摩羅什は五胡十六国時代の人、玄奘は唐の人。仏典の漢訳化において、鳩摩羅什のも旧訳、玄奘ものを新訳との言い方もある)。他に世界史に出てくる西域からきた仏僧として仏図澄=ブッダチンガがいる。

(2)大蔵経の刊行
大乗仏教が生まれたことに伴い、三蔵経の内容を包含する形でもっと規模の大きなものが集大成され刊行されたのが大蔵経である。大蔵経はあちこちでバラバラに刊行され、共通性に乏しいものが色々とできた。尚、上記(1)の三蔵経だけでも大蔵経の一つということに結果としてなった。

ユダヤ教、キリスト教(カトリック、プロテストタント、正教など)、イスラム教においては、○○派に別れて解釈の違いはあるにしても、聖典の記載内容に大きな相違はないことに比し、上述のよう仏教各派が使用する大蔵経は共通でないものが多々ある。従って、

「仏教について一律に語ることは殆ど不可能」「仏教について語る時はどの時代のどの国のどの派のことか限定する必要がある」「仏教は多様性がありある事柄に対してこうである断定するは難しい」「逆にいえば、多様な文化に対する並外れた適応力を持つ」

と書いている学者がいる(ジャン=ノエル・ロベール)。

日本における神仏習合、本地垂迹説もその一種と考えていいのではないかと思う。今でも神仏を合わせた寺社がある。明治維新際に起こった廃仏毀釈は全くの暴挙である。ただし、廃仏毀釈運動は明治政府が企図したことでないことは知っておくべきであろう。

4.大乗仏教
(1)大乗仏教の基本
原始仏教(今は部派仏教・上座部仏教)が自己救済であるのに対し、衆生も共に救済するというのが大乗仏教の主旨であることは周知のとおり。大乗=マハーヤーナとは「大きな乗り物」の意味である。

大乗仏教がどこで何時から出来たかの詳細は不明である(北西インド~パキスタン、紀元ゼロ年前後~AC1世紀あたりが定説)。特徴の第一は菩薩信仰であろう。また、仏陀以外の如来が登場したこともある。宗派にもよるが、剃髪しなくてもいい、托鉢をしなくてもいい、出家しなくてもいい、妻帯をしてもいいなどは周知のとおり。従って仏陀の仏教ではないという説もある(大乗非仏説)。
<参考:主な経典>
『般若経』、『維摩経』、『涅槃経』、『華厳経』、『法華三部経』、
『浄土三部経』、『金剛頂経』

(2)大乗仏教の大別
仏教の母国インドではバラモン教の後裔とも言えるヒンドゥー教が早くからメイン宗教になってしまった。大乗仏教はその後
  ・中国系仏教(現中国は無宗教の人が圧倒的)→日本仏教のルーツ
  ・チベット系仏教
に大別されるということを知っておく程度でいいのではないだろうか。チベット仏教はモンゴル帝国および清帝国が信奉していた。ダライ・ラマという称号はモンゴル人が与えたものである。中国政府はチベット弾圧、ダライ・ラマ敵視で知られているものの、共産党幹部にチベット仏教徒はいるし北京などにチベット寺院もある。よってチベット仏教そのものを否定している訳ではなさそうだ。チベット仏教は大きく四派に分かれノーベル平和賞を授与されたダライ・ラマはゲルク派(黄帽派ともいう)である。

日本仏教でよく出てくる「空」の概念は、世界史の教科書に登場する龍樹=ナーガールジュナが確立したと言われている。また、龍樹が大乗仏教の理論を確立したと書いてある本もある。龍樹は中観派の代表。これとは別に後発で中間派の「空」の考えを踏襲した唯識派(瑜伽行唯識派)がある。日本でも唯識という言葉は聞いたことがある人も少なくないと思う。「色即是空、空即是色」は唯識派によるものである。

以前触れたが、空海が持ち帰った密教・・曼荼羅(マンダラ)や真言(マントラ)に代表される・・はヒンドゥー教のタントラ・タントリズムの要素が入っている。タントラの説明は非常に難しい。超簡単に言えば秘技を伴うと考えればいいと思っている。チベット仏教も密教/タントラが入っている。チベット仏教の仏像はかなりエロチックなものもある。密教/タントラ由来ではないかと思う。

【エピローグ】
日本人は仏教徒だと思って30%いるそうだ。しかし大抵は、葬儀か座禅などを主な機会として、僧侶が漢文で書いてある経典を中国語ではなく適当な?読み方で朗誦しているのを聞いているだけの人が多いのではないだろうか。他の一神教、或いはヒンドゥー教の人から見ると不思議に思われるかも知れない。最も神社の神主が朗誦するものも、漢文ではないにせよ似たようなものか?

社会人になった時の新人研修で曹洞宗の寺で宿泊修行をしたこともあって、般若心経(般若波羅蜜多心経)が一番親しみを持っている。般若心経は大乗仏教の根本を最も短く集約した仏典とも言われる(漢字で260語)。「色即是空、空即是色」はこれに入っているので有名になった。

参考:日本の宗派一覧(俗に13宗56派と通常呼ばれる)
https://www.ne.jp/asahi/koiwa/hakkei/bukkyou26-4.htm


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