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【勝手に詩を語る1】

最近読んでいる「谷川俊太郎詩選集」。その中からとても印象深いものをご紹介していこうと思います。僕の完全な偏見に基づいた解説付きで。

「春」谷川俊太郎

かわいらしい郊外電車の沿線には

楽しげに白い家々があった

散歩を誘う小径があった

降りもしない 乗りもしない

畠の中の駅

かわいらしい郊外電車の沿線には

しかし

養老院の煙突もみえた

雲の多い三月の空の下

電車は速力をおとす

一瞬の運命論を

僕は梅の匂いにおきかえた

かわいらしい郊外電車の沿線では

春以外は立入禁止である

この詩の面白さって、ありありと情景が浮かんでくるところだと思います。もし、都市に住んでいれば、旅先で乗った田舎を走る電車の姿かもしれないし、毎日の通勤電車を思い浮かべるかもしれません。

3月の昼下がり。畠の中をまっすぐに走る電車に乗って、代わり映えのない景色にウトウトしながら車窓の景色を眺めていたら、これまでの景色とは違ったニュータウンが現れます。都市で働くサラリーマンの夢のマイホーム。その夢の世界にはヨーロッパ風の白い家。そして通りには大きくはない木の柔らかい枝が風に揺れている。新しい舗装の通りにはバス停と、バスを待つ人たちが見える。

その駅で、何人か降りた。隣に乗っていた学生も、向かいの親子も降りた。電車は降りる人が済むと、新たに乗客を乗せることなく再び動き出す。

しばらくしないうちにニュータウンは突如姿を消した。また、車窓には退屈な畠が流れる。ふと、煙突が見えたので目をやると「なんとかホーム」と書いてあった。老人ホームだった。

その煙突を見ながら、僕は誰もがやがて死を迎えることや、現実の中に作られたおとぎ話の世界、やがてそのおとぎ話の世界も朽ちてこちらの世界のものになっていくのだということを考えた。

寂しさがあった。

ふと、その寂しさを紛らわせてくれるほどの匂いに気づいた。梅の花だった。

この旅が梅の花が咲いていない季節だったら、一体何が僕のこの寂しさを紛らわせることが出来ただろうか?

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