「ガンプラのリアリティ」ーディテール・シルエット
はじめに
わたしは最近、ガンプラを作っています。
ガンプラとはそのまま、ガンダムのプラモデルのことです。コロナ禍でステイホームが言われていた間に自宅でできる趣味ということではじめました。(HGムーンガンダムを最初に作りました。完成したときの達成感と完成度は今でも忘れません。)
(今のところは)いわゆる素組みに墨入れをして、つや消しスプレーや光沢クリアコートを吹きつけるような簡単に仕上げをする程度の作業です。
エアブラシ塗装をするとなると、いよいよ止まらなくなりそうなのでまだ手を出していません。ですが、これから水性塗料の筆塗りに挑戦しようと準備しているところです(セイラマスオさんみたいにできるといいな。)
ガンプラの素組みをした後、墨入れ(細い溝にインクを流し込む工程)やウェザリング(インクや粉でわざと汚す工程)をしていると今の作業の意味はどこにあるのか考えることがありました。
わたしは今何をしているのだろうか…何に向かっているんだ…と考えながらなんとなく、「リアリティ」を出すために色を塗ったりぼかしたり消したりしているのです。
今回はこの「リアリティ」について考えたいと思いました。
今、悩んで手を動かして追求している「リアリティ」とはなんのことなんでしょうか。問いをもう少し一般化してみましょう。つまりこうです。
「ガンプラにおけるリアリティとは何か」
さらにいえば「フィクションにおけるリアリティ(ややこしい)とは何か」とでもいうのでしょうか。
これから考えていくのは、ガンプラのテクニックではありません。ですが、ガンプラの完成度を高めるにはどうすればよいかを考えるヒントにはなりそうです。ガンプラを作っている方もそうでない方も、少々長めの文章になりますが、お付き合いいただければと思います。
リアリティはどこに
船や自動車、飛行機などのプラモデルのリアリティは、現実にその物が存在しますから、現実の再現性の度合いにあるのだと思います。
しかしながら、ガンプラのリアリティは、現実を参照することができません。ガンダムは現実に存在しないからです(!)
それでもリアリティのあるガンプラ表現は確かに存在します。それはどんなものでしょうか。
まず考えられるのは、よく練られたフィクションであることです。
物語の内容に沿った形状、装備などを整えて、あり得たかもしれないもう一つの現実を表現するリアリティです。
次に、リアリティがあるとされる表現を再現することです。
つまり、コミュニティ内で共通に理解された現実の延長線上、想像力が及ぶ範囲内の表現です。そういう意味で、ガンプラを作成する人たちが共通して考えているリアリティを増す方法という文法に沿った表現です。
確かにこれはありそうです。作例を見て、真似て、学ぶ、そして自分で作成する。これを繰り返していくと、コミュニティの中に一定のルールができてくる。これに沿って作っていれば、リアリティが存在することになる。といった調子です。
ただし、これも一部にしか妥当しない議論でしょう。なぜなら、新たな表現も出てくるからです。一見新しい技術を見たときにも、つまりルールの外にある表現を見てもリアリティがあると感じることは普通にあり得ることだからです。
「ディテール」と「シルエット」
では、「ガンプラのリアリティ」はどこにあるのでしょうか。
わたしは、ディテールを増やす、詰めるという言葉遣いから考えるヒントを貰おうと思います。
スジボリやレッドポイント、マイナスモールドといったガンプラの表面を彫ったり、盛ったりするガンプラを構成する要素の一つは、「ディテール」(細部detail)です。
さらにガンプラは、全体やパーツの形を作らなければなりません。キットを組み合わせたり、パーツを組み合わせたり、スクラッチ(削り出し)することもあります。ガンプラを構成する要素のもう一つ、ガンプラのかたちを「シルエット」(輪郭silhouette)と言いたいと思います。(なお、英語においては、ディテールの対義語はアウトライン(outline)とされますが、アウトラインだと文章をイメージしてしまい立体物であるガンプラにはしっくりこないのでシルエット(silhouette)と言うことにします。)
では「ディテール」と「シルエット」はどのような関係性にあるのでしょうか。
まずはシルエットについて見ていきましょう。
シルエットはガンプラを存在させます。当然のことながら、シルエットはディテールの前提にあります。シルエットがあってディテールが存在する関係にあります。ディテールはシルエットの次です。ガンプラが存在するとすれば、細部はこのようなものになる、といったことです。よく「神は細部に宿る」と言いますが、細部だけではガンプラは完成しません。
さて、シルエットの完成度は何が基準になるのでしょうか。ガンダムは現実に存在しませんから、参照先はフィクションになります。フィクションの密度はいかに高められるか。それは、世界観、設定の確立にあります。すなわち、世界観、設定を強固に練り上げて、これに適合しているシルエットが完成度が高いとされるわけです。
もう一方のディテールの完成度はどうでしょうか。説得力のあるディテール、なんて言われることがあります。ディテールの説得力は、鑑賞者の持っているリアリティに対する感性に訴える力です。ディテールの情報量を増やすことは鑑賞者の感性により多く触れられる点で完成度を高めるのです。
ガンプラの「リアリティ」
戦車や飛行機のプラモデルとは違って、リアリティの参照先のないガンプラにおいては、シルエットの完成度はガンダム(フィクション)の世界観や設定の作り込みに委ねられています。
一方で、ディテールの完成度はシルエットが存在することを前提としているので、こうしたディテールが現実的にあり得るか(リアリティ)が基準になっているのです。
したがって「ガンプラにおけるリアリティは何か」という本論の問いに対しては、ディテールにあると答えられます。
もっとも、ディテールはシルエットの存在を前提にします。ガンプラ全体像、つまりはシルエットの完成度を高めるためには背後にある世界観の作り込みが求められてくるというわけです。
こういった分析は、私たちが素晴らしい完成度のガンプラを鑑賞した際に受ける「世界観が確立している」や「説得力がある」といった印象を分析してみると直感的には違わないのではないのでしょうか。
最後に、応用的なことになりますが、ガンプラにおけるジオラマは、シルエットが拠り所にする世界観の作り込みを高めてくれる装置といえるでしょう。ジオラマによってガンプラの周囲の環境が明らかになるとフィクションの世界観が想像しやすくなります。
ただ、ガンプラ以外のプラモデルについてもジオラマは世界観を伝える装置であることには変わりありません。そうすると、シルエットとディテールの関係性はプラモデル一般に、もっと言えばフィクションのリアリティを考える上でも有効に機能するかもしれません。
以上、ずいぶん長い文章となりました。本論が、ガンプラを作る方もそうでない方にも、ガンプラの見る専(!)の方にも少しでもお役に立てれば幸いです。
ご意見・ご感想はお気軽にどうぞ。ぜひともお待ちしております。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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