ストレンジャー・ザン・パラダイス キャンバスシューズ
祖国を捨てアメリカに染まった足下と、
アメリカを軽蔑し馴れ合うことを拒否した足下。
ストレンジャー・ザン・パラダイス
ニューヨークでヤクザな暮らしをしているウィリー(ジョン・ルーリー)が、ハンガリーから渡米してくる従妹エヴァ(エスター・バリント)をしばらく預かるハメに。
最初は邪険にしていたウィリーだったが、賭博仲間エディ(リチャード・エドソン)ともどもだんだん彼女が気になり始めて。。。
キャンバスシューズ
本作はヴィム・ヴェンダースから譲り受けた40分ほどの余ったフィルムを使い完成させた30分ほどの短編「新世界(The New World)」と、
それを公開して支援を募ってつくった「1年後(One Year ater)」と「パラダイス(Paradise)」を合わせて1984年に公開された、
ジム・ジャームッシュ監督2作目の長編映画です。
整地されていない空港の外側から飛行機を眺めるエヴァとそれを後ろから撮るカメラ。
一機の飛行機が着陸するのを見届けてから大きな荷物を二つ手にし、どちらに行こうかと周りを見渡してから歩き出す。
エヴァが歩き出すと同時に流れ出す不穏な音楽とブラックアウトから始まる本作は、エヴァがウィリーの家に転がり込んだ10日間と、それから一年後に再開したあとの数日間の物語です。
物語はエヴァがウィリーの家を尋ね、次の日に向かうはずだったクリーブランドの叔母が10日間入院することを知り、そのまま10日間居座ることになるところから物語が動き始めます。
初対面の会話から彼らの相性が良くないことを会話の内容や間から表現されています。
ウィリーが取らない電話に出たことを咎められるエヴァ。
ウィリーの忠告を聞かないエヴァ。
ウィリーのインスタントフードを怪訝に見るエヴァ。
ウィリーの仲間エディーがエヴァを競馬に連れ出そうとするのを拒否するウィリー。
自ら話し始めたことの質問には答えないウィリーに「馬鹿げたゲームね」と言うエヴァ。
二人のやりとりには常にぴりっとした緊張感があることが見て取れます。
しかし同じ時間を共にすることですこしづつ打ち解けていく様子も同時に描かれます。
エヴァに嘘の英語表現を教えるウィリー。
ウィリーにインスタントフードを調達してくるエヴァ。
エヴァにドレスをプレゼントするウィリー。
そして旅立つ際にウィリーに貰ったドレスを着ていくエヴァ。
お互いがすこしづつ通じ合っていっていることを表現するシーンです。
しかし根本的には彼らが合っていないことをその直後、エヴァがバスに乗る前にドレスを脱ぎ捨て、その間にウィリーがエヴァの不在に若干の寂しみを覚えて無言になるシーンで示唆されます。
その一年後、博打で大金を手に入れたウィリーとエディはクリーブランドのエヴァを尋ねることにします。
注目のシーンは彼らがエヴァと再開し、エヴァを連れてマイアミに向かう途中のフロリダのモーテルで起こった一連の出来事です。
車での旅疲れで真っ先にベッドを陣取ったエヴァは靴も脱がずにそのまま床に入ります。
それを見たウィリーはもうひとつしかないベッドに同じく陣取り、靴を脱ぎ捨てて寝転がります。
エディーは渋々エキストラベッドを組み立て、競馬じゃなくてドッグレースに行こうと言います。
朝目覚めると二人の姿が見当たらずエヴァは解けた靴紐を結び直すことすら諦め部屋の中を徘徊し、改めて彼らうけたひどい仕打ちに、付いて来たことを後悔するというくだりです。
この時にエヴァが履いていたのはADIDASのADRIA 1977だと推測されます。
一方、ウィリーが履いていたのはCONVERSE CHUCK TAYLORです。
すなわちこの対比はこれまでにずっと作中で描かれてきたふたりが根本的に異なる人間であることをはっきりと表現していることになります。
家族との縁を切り、ひとりアメリカに渡り染まったウィリーはアメリカを象徴する靴を履き、
一方、
ハンガリーから出てきて1年足らずでアメリカに対して若干軽蔑の色を浮かべるエヴァはヨーロッパを代表するアディダスを履き、
同じ時間を過ごしても、同じ部屋で枕を並べて寝ていても、
決して交わらないふたつの価値観がそこにあることを示唆しているようです。
しかしその心境とは裏腹に彼らを待ち受ける運命はとても皮肉な最後を迎えることになります。
その最後を是非、足下の背景と共にお楽しみください。
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