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贅沢な読書体験

はじめに

「朝晩は涼しくなったよね」
なんて、他愛もない話題から会社の人と会話をスタートすることが多くなった今日この頃。

日中はまだ夏を感じさせる暑さが残っている。
もう十分肌を焼いたし、汗をかいた。
もう終わってくれ、夏。

待ち遠しい秋。
秋は、過ごしやすいし、何より”読書の秋”という魔法の言葉があるおかげで、本に関するイベントをたくさん企画される季節だから、個人的には一番好きな季節かもしれない。
そんな秋に、もう一度行きたいなと思っている、特別な読書体験ができる場所があるので、今回の記事ではそれを紹介したい。

ブックホテル

2年前、まだコロナの感染者が増えたり減ったり、職場での感染者もいたりいなかったりした時期、休みをとって、”そこ”へ行った。
その頃、ある挫折を味わい、何もかもやる気を無くしていて、上司に相談して、気分をリフレッシュするため、連日の有給を取らせてもらった。
(今思うと、軽い鬱だったように思う...)

本当に何もする気が起こらなかったので、どうしようと考えていたけど、唯一、本を読むことだけは欲を持ってやっていた。
読書だけが自分を唯一解放してくれた。
そして、まだやったことのない、一日中読書をするような体験がしたいなとふと思った。

思いついてからは、ネットで「一日中読書」等と検索して、良い過ごし方がないか探っていた。
すると、その中で目に飛び込んできた「ブックホテル」

どうやら、本屋が併設されていたり、そのホテルが所有する本を自由に読めるというコンセプトのホテルらしかった。
ここなら、望み通り、一日中読書ができるかもしれないと思い、宿泊する候補を探した。

そして、見つけたのが「Lamp Light Books Hotel」
名古屋のホテルに行くことにした。

出発の2日前になんとか予約ができた。
もう全てを忘れて本だけの世界に逃げたかった。
3日休みがあったので、2泊予約した。

ホテルを予約してから、どん曇りだった気持ちも、少し晴れ間が見えたような気がした。

休みに入り、出発する日。
相変わらず気分は晴れなかったけど、これから読書ができるという楽しみが少しあって、複雑な気分だった。

前日に衣類だけ鞄に詰めていたので、あとは、移動時間に読む1冊を決めなければいけない。
これがなかなか悩んだ。
小説にするか、ビジネス書にするか、伝記にするか...
どれでも一緒か、という気持ちと、貴重な小旅行にお供する本なのだから、ちゃんと選びたいという気持ちを行ったり来たり。
悩みに悩んで、決められないと思ったので、名古屋に関係ある本にしようと「共感ベース思考/森朝奈著」に決めた。

共感ベース思考


新幹線に乗る直前、なぜか行くのがめんどくさくなった。
原因はさっぱりわからない。突然行く気が失せてきた。
でも、ホテル2泊も抑えて、そこそこのお金を払ってしまっている。
自分をなんとか制御して、とりあえず、新幹線に乗ってしまえと自分に言い聞かせて、乗車した。

席に着くとどこかホッとした。
確実に行き先に向かっていることと個人的な空間がわずかにあるという安心感だと思う。
隣の席が空いていたが、そのまま名古屋に着くまで、空席であれ!と祈りながら、時間を過ごした。

しばらく外の景色をぼーっと見てから、唯一持っている1冊の本を読み始めた。
詳しくは別の記事で紹介したいと思うけど、「共感ベース思考」は森さんのIT業界から家業である魚屋さんに入り、そこでITを導入して組織改革を行なっていく奮闘記、そして美味しい魚レシピが詰まっている。
自らやったことのない道を開拓していくこと、共感を集めて推し進めることのエネルギーを感じた。

見習いたいと思うことがたくさんあって、あっという間に読み終えた。
それと同時にあと1駅で名古屋駅に着く時間になった。
窓の外を見ると、いつもの景色と違う。それだけで現実世界から一歩離れられた気がした。

あと数分で駅に到着するアナウンスが流れてきた。
テーブルに置いていた本を鞄に入れて、テーブルをしまった。
もう少しで着く。早くホテルのベッドにダイブしたいくらい、なぜか疲れていた。

ホテルは名古屋駅から乗り換えで数駅離れたところに位置する。
方言なのか、普段聞いている会話とは違う言葉が聞こえてきて、違う場所に来たんだなと思った。

最寄りの駅から、少し北に行き、左に折れる。
曲がったらすぐにホテルの外観が見えた。
「Lamp Light Books Hotel」のロゴが見えて、1階はガラス張りになっていて、カウンター周りから本棚が見えていて、少しワクワクした。
久々の感覚だった。

ホテル外観

カウンターで手続きを進める。
カウンター横は本棚に囲まれた空間にテーブルが並べられている。
クルーの方の説明によると、24時間いつでもそのスペースで好きな本を読むことができ、カウンターで手続きをすれば、本棚から気に入った本を自分の部屋に持ち帰って、読むことができるということだった。

本が読めるスペース

手続きを済ませて、本棚にどんな本が並んでいるか気になるものの、ひとまず部屋で休みたかった。
一目散に部屋に向かう。

部屋に入ると、かなりおしゃれなワンルームのような空間だった。
そして、扉を開けてすぐに見える椅子。しかも、オットマン付き。
後で調べると、部屋についても読書がしやすい工夫が凝らされているんだそう。

部屋の内観

入り口すぐの左に洗面台と風呂があって、そこを過ぎると机とベッドがある。ベランダがあって、すぐ下には公園になっているので、静かだ。
ベッド横に四角い木枠があって、その中に2冊の絵本が飾られていた。
読んだことのない絵本で気になったけど、
荷物を置いて、ひとまずベッドに寝転がった。
なぜか、とんでもなく疲労感があった。

ベッド横の絵本2冊

気づいたら、少し寝てしまっていた。
明るいうちにチェックインしたのに、もう日が落ちていた。
部屋も真っ暗だったので、ベッドのランプを点灯する。
そういえば、気になってたんだったと思い出して、ベッド横の絵本を手に取ってみる。
「星空」という絵本だった。
綺麗なイラストの表紙が惹かれた。
中のイラストもすごく綺麗だった。ストーリーも大人が読んでもしっかり味わえる世界観だった。

絵本を読み終えるとお腹が空いてきた。
外食は面倒なので、近くのコンビニで適当にご飯を買った。

帰りがけに1Fの本棚をじっくりと眺めて、どんな本があるのか見て回った。
いろんなジャンルが陳列されていたけど、国内外のミステリー小説が充実していた。
普段あまりミステリーを読むことがないので、すごく新鮮だった。
推し本として紹介されていたガストン・ルルの「黄色い部屋の秘密」、宿野かほるさんの「ルビンの壺が割れた」、アガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」あたりが気になった。

それ以外も可愛らしいイラストでコーヒーについて、学べる「About Coffee」、綺麗な星空の写真で星のこと、星座のことを知る「世界でいちばん素敵な夜空の教室」等も目を惹かれた。

30分くらい本棚を眺めたけど、選びきれず、ひとまず部屋に戻ろうとエレベーターで上がろうとして何か立てかけてあることに気づいた。

ポスター

本のない部屋なんて、魂が抜けた身体のようなものだ。

CICERO

実に言い得ていて、しばらくこのポスターを眺めた。
俳句のようなリズムと収まりがとても気に入って、この後しばらく携帯の待ち受けにしていた。

部屋に持ち帰ったサンドウィッチを食べた後、1階の読書エリアに向かった。

午後10時。
そんな時間にいろいろなジャンルの本を読めるのは幸せだった。

結局2時間本に囲まれた空間にいて、部屋に帰って、就寝した。



朝起きたら、少し気分がスッキリしていた。
本をたっぷり読んだからなのか、よく眠れたからなのかはわからないけど、頭がクリアだった。

少し身支度をして、1階に降りた。
エレベーターが開いたとき、こんがりと焼いたパンのような匂いがした。

朝食のカードをカウンターで出し、2種類のミニハンバーガーを選ぶ。
前に並んでいた人のバーガーが作られている。
食欲をそそる良い匂いが流れてくる。

なんてことのない時間だったけど、匂いにつられてすごくお腹が空いていた分、自分の食事が出来上がるのを待つ時間が永遠に感じられた。

「お待たせしました」
出てきた2つのバーガーのうえには、ホテルのロゴマークの焼き目がついている。

読書スペースで食べてもOKなので、朝日の入る良い席に陣取る。

朝食のミニバーガーとコーヒー

バーガーとコーヒーと本棚いっぱいの本に囲まれながらの朝食。
毎日コレで良い!と思った。

ミニバーガーは朝食にちょうど良いくらいのボリュームで、これにあったかいコーヒーが合う。
コーヒーを飲みながら、置いてあった雑誌をパラパラめくる。
心からホッとできる贅沢な時間を過ごせた。

その後、しばらくその場で本を読んだ。
3冊くらい席に置いておいて、順繰りに読んでいく。
人が少なかったので、かなり集中して読めた。
集中して、本の世界に没頭できるほど、充実感を味わえる。

小一時間読んで、切り上げて少し外に出た。
周りを散策しようと思ったけど、できるだけあの本に囲まれていつでも本が読める時間を満喫したかったから、すぐホテルに戻ってきた。

帰ってくると小腹が減ったので、スイーツを頼んだ。

チョコレートマフィンとコーヒー

読みたい本を2冊レンタルして、部屋で読みながら、マフィンを食べた。

オットマンつきチェア

そして、食べながら、本を読むときにめちゃくちゃ便利だったのがこのオットマンチェア。
完全に体を預けて楽な姿勢で本を読めた。
家がもう少し広ければ、このセット丸ごと家に置きたいと思うほどだった。
将来住む家には必ず置こうと思う。

その後も好きなように本を読んだ。
こんなに読書にたっぷりの時間を使えるのは後にも先にもないと思えるほど、読書漬けだった。

気づいたことは、僕にとって読書は安らぎの時間であり、活力をためるチャージャーであり、没頭できるものであるということだ。
僕にとって本は言い表せないほど、特別で、普通なことだということだ。

そんなことを気づかせてくれ、自分史上最高に贅沢な時間をくれたランプライトブックスさんには必ずもう一度来ると心に決めて、帰り支度をしている時、感じたことのない寂しさを感じた。
この空間を去ることが、自分にとってこんなに苦しいものだとは思わなかった。

一生この部屋に居たいという思いをグッと堪えて、まだチョコレートマフィンの香りが残る部屋を後にした。

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