民法総則(1-169)
第1章 通則
第1条(基本原則)
① 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
② 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
③ 権利の濫用は、これを許さない。
第2条(解釈の基準)
この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。
第2章 人
第1節 権利能力
第3条(権利能力)
① 私権の享有は、出生に始まる。
② 外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。
第2節 意思能力
第3条の2(意思能力)
法律行為の当事者が意思表示をした時に、意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効とする。
第3節 行為能力
第4節 住所
第22条(住所)
各人の生活の本拠をその者の住所とする。
第23条(居所)
① 住所が知れない場合には、居所を住所とみなす。
② 日本に住所を有しない者は、その者が日本人・外国人のいずれであるかを問わず、日本における居所をその者の住所とみなす。
ただし、準拠法を定める法律に従いその者の住所地法によるべき場合は、この限りでない。
第24条(仮住所)
ある行為について仮住所を選定したときは、その行為に関しては、その仮住所を住所とみなす。
第5節 不在者の財産の管理及び失踪の宣告
第25条(不在者の財産の管理)
① 従来の住所・居所を去った不在者がその財産の管理人を置かなかったときは、家裁は、利害関係人・検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
② 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家裁は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。
第26条(管理人の改任)
不在者が管理人を置いた場合において、その不在者の生死が明らかでないときは、家裁は、利害関係人・検察官の請求により、管理人を改任することができる。
第27条(管理人の職務)
① 前2条の規定により家裁が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。
② 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家裁は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。
③ 前2項に定めるもののほか、家裁は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。
第28条(管理人の権限)
管理人は、①保存行為②代理の目的である者・権利の性質を変えない範囲内においてその利用又は改良を目的とする行為をする権限を超える行為を必要とするときは、家裁の許可を得て、その行為をすることができる。
不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。
第29条(管理人の担保提供及び報酬)
① 家裁は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。
② 家裁は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。
第30条(失踪の宣告)
① 不在者の生死が7年間明らかでないときは、家裁は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
② 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも、前項と同様とする。
第31条(失踪の宣告の効力)
失踪の宣告を受けた者は期間が満了した時、またはその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
第32条(失踪の宣告の取消し)
① 失踪者が生存すること等の証明があったときは、家裁は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。
この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
② 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。
第6節 同時死亡の推定
第32条の2(同時死亡の推定)
数人の者が死亡した場合において、そのうちの1人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
第3章 法人
第33条(法人の成立等)
法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない。
② 学術、技芸、慈善、祭祀し、宗教その他の公益を目的とする法人、営利事業を営むことを目的とする法人その他の法人の設立、組織、運営及び管理については、この法律その他の法律の定めるところによる。
第34条(法人の能力)
法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。
第35条(外国法人)
外国法人は、国、国の行政区画及び外国会社を除き、その成立を認許しない。ただし、法律又は条約の規定により認許された外国法人は、この限りでない。
② 前項の規定により認許された外国法人は、日本において成立する同種の法人と同一の私権を有する。ただし、外国人が享有することのできない権利及び法律又は条約中に特別の規定がある権利については、この限りでない。
第36条(登記)
法人及び外国法人は、この法律その他の法令の定めるところにより、登記をするものとする。
第37条(外国法人の登記)
外国法人が日本に事務所を設けたときは、3週間以内に、その事務所の所在地において、次に掲げる事項を登記しなければならない。
1 外国法人の設立の準拠法
2 目的
3 名称
4 事務所の所在場所
5 存続期間を定めたときは、その定め
6 代表者の氏名及び住所
② 前項各号に掲げる事項に変更を生じたときは、3週間以内に、変更の登記をしなければならない。この場合において、登記前にあっては、その変更をもって第三者に対抗することができない。
③ 代表者の職務の執行を停止し、若しくはその職務を代行する者を選任する仮処分命令又はその仮処分命令を変更し、若しくは取り消す決定がされたときは、その登記をしなければならない。この場合においては、前項後段の規定を準用する。
④ 前2項の規定により登記すべき事項が外国において生じたときは、登記の期間は、その通知が到達した日から起算する。
5 外国法人が初めて日本に事務所を設けたときは、その事務所の所在地において登記するまでは、第三者は、その法人の成立を否認することができる。
6 外国法人が事務所を移転したときは、旧所在地においては3週間以内に移転の登記をし、新所在地においては4週間以内に第1項各号に掲げる事項を登記しなければならない。
7 同一の登記所の管轄区域内において事務所を移転したときは、その移転を登記すれば足りる。
8 外国法人の代表者が、この条に規定する登記を怠ったときは、50万円以下の過料に処する。
第4章 物
第85条(定義)
この法律において「物」とは、有体物をいう。
第86条(不動産及び動産)
土地及びその定着物は、不動産とする。
② 不動産以外の物は、すべて動産とする。
第87条(主物及び従物)
物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。
② 従物は、主物の処分に従う。
第88条(天然果実及び法定果実)
物の用法に従い収取する産出物を天然果実とする。
② 物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする。
第89条(果実の帰属)
天然果実は、その1物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。
② 法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する。
第5章 法律行為
第1節 総則
第90条(公序良俗に関する強行規定)
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
判例
内容
民法90条に抵触
S39.1.23
食品の製造販売を業とする者が有毒性物質の混入した食品を販売することが食品衛生法の禁止していることを知りながら、製造・販売した
する(無効)
S56.3.24
女子の定年を男子より低く定めた就業規則
する(無効)
H15.4.18
法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは、法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである
第91条(任意規定と異なる意思表示)
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
第92条(任意規定と異なる慣習)
法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。
第2節 意思表示
第3節 代理
第4節 無効及び取消し
第5節 条件及び期限
第127条(条件が成就した場合の効果)
① 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。
② 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。
③ 当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。
第128条(条件の成否未定の間における相手方の利益の侵害の禁止)
条件付法律行為の各当事者は、条件の成否が未定である間は、条件が成就した場合にその法律行為から生ずべき相手方の利益を害することができない。
第129条(条件の成否未定の間における権利の処分等)
条件の成否が未定である間における当事者の権利義務は、1般の規定に従い、処分し、相続し、若しくは保存し、又はそのために担保を供することができる。
第130条(条件の成就の妨害等)
① 条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。
② 条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。
(最判昭和36年5月26日)
当事者が知事の許可を得ることを条件とする農地の売買契約は法律上当然必要なことを約定したにとどまり、停止条件を付したものということはできない。そして、農地売買において、農地の売主が故意に知事の許可を得ることを妨げたとしても、条件が成就したとみなすことはできない
第131条(既成条件)
条件が法律行為の時に既に成就していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無条件とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無効とする。
② 条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無効とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする。
③ 前2項に規定する場合において、当事者が条件が成就したこと又は成就しなかったことを知らない間は、第128条及び第129条の規定を準用する。
第132条(不法条件)
不法な条件を付した法律行為は無効とする。不法行為をしないことを条件とするものも同様とする。
第133条(不能条件)
不能の停止条件を付した法律行為は、無効とする。
② 不能の解除条件を付した法律行為は、無条件とする。
第134条(随意条件)
停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効とする。
(最判昭和31年4月6日)
鉱業権の売買契約で、買主が排水探鉱の結果品質良好と認めたときは代金を支払い、品質不良と認めたときは代金を支払わない旨を約しても、売買契約は、民法134条の随意条件には当てはまらない。
第135条(期限の到来の効果)
法律行為に始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない。
② 法律行為に終期を付したときは、その法律行為の効力は、期限が到来した時に消滅する。
(最判大正4年3月24日)
消費貸借において、債務者が出世した時に履行をする旨の約定は、不確定期限を付したものであって、停止条件付債務ではない
第136条(期限の利益及びその放棄)
① 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
② 期限の利益は放棄することができる。ただしこれによって相手方の利益を害することはできない。
第137条(期限の利益の喪失)
次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
1 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
2 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
3 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
第6章 期間の計算
(期間の計算の通則) 第138条 期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。
(期間の起算) 第139条 時間によって期間を定めたときは、その期間は、即時から起算する。
第140条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
(期間の満了) 第141条 前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。
第142条 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。
(暦による期間の計算) 第143条 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
② 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
時効
第1節 総則
第2節 取得時効
第162条(所有権の取得時効)
① 20年間所有の意思をもって平穏かつ公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
② 10年間所有の意思をもって、平穏かつ公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
第163条(所有権以外の財産権の取得時効)
所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏かつ公然と行使する者は、前条の区別に従い20年又は10年を経過した後、その権利を取得する。
第164条・第165条(占有の中止等による取得時効の中断)
① 所有権の取得時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。
② 前条の規定は、第163条の場合について準用する。
(最判平成24年3月16日)
不動産の取得時効の完成後、所有権移転登記がされることのないまま、第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において、不動産の時効取得者である占有者が、その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したときは、占有者が抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り、占有者は、不動産を時効取得し、その結果、抵当権は消滅する。
(大判大正7年3月2日、最判昭和41年11月22日)
不動産を時効により取得した占有者と、取得時効が完成する前に当該不動産を譲り受けた者との関係は、時効完成時においては当事者同士と考えるため、不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成する前に当該不動産を譲り受けた者に対して、登記がなくても時効取得をもって対抗できる。
(最判昭和33年8月28日)
不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成した後に当該不動産を譲り受けた者に対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができない。
(最判昭和36年7月20日)
取得時効後に原所有者から譲渡を受けた第三者が登記を備え、時効取得者が所有権の取得を対抗しえなくなっても、第三者が登記を備えた日からさらに取得時効に必要な期間占有を継続すれば、それによる時効完成後には(元の第三者は当事者となっているから)登記なくして時効取得を対抗することができる。
(最判昭和35年7月27日)
取得時効完成の時期を定めるにあたっては、取得時効の基礎たる事実が法律に定めた時効期間以上に継続した場合においても、必らず時効の基礎たる事実の開始した時を起算点として時効完成の時期を決定すべきものであって、取得時効を援用する者において任意にその起算点を選択し、時効完成の時期を或いは早め或いは遅らせることはできないものと解すべきである。
(最判平成18年1月17日)
甲が時効取得した不動産について、その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において、乙が、当該不動産の譲渡を受けた時点において、甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており、甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは、乙は背信的悪意者に当たるというべきである。取得時効の成否については、その要件の充足の有無が容易に認識・判断することができないものであることにかんがみると、乙において、甲が取得時効の成立要件を充足していることをすべて具体的に認識していなくても、背信的悪意者と認められる場合があるというべきであるが、その場合であっても、少なくとも、乙が甲による多年にわたる占有継続の事実を認識している必要があると解すべきであるからである。
第3節 消滅時効
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