見出し画像

民法第三章 債権

第1章 総則

第1節 債権の目的

第399条(債権の目的)
 債権は、金銭に見積もることができないものであっても、その目的とすることができる。

第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)
 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

※ 債権の目的物が特定されるまでは善管注意義務を負うことはない。

第401条(種類債権)
 債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質・当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。
② 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。

第402条(金銭債権)
 債権の目的物が金銭であるときは、債務者は、その選択に従い、各種の通貨で弁済をすることができる。ただし、特定の種類の通貨の給付を債権の目的としたときは、この限りでない。
②債権の目的物である特定の種類の通貨が弁済期に強制通用の効力を失っているときは、債務者は、他の通貨で弁済をしなければならない。
③前2項の規定は、外国の通貨の給付を債権の目的とした場合について準用する。

第403条
 外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済をすることができる。

第404条(法定利率)
① 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
② 法定利率は、年3パーセントとする。
③ 法定利率は、3年を1期とし、1期ごとに変動するものとする。
④ 各期における法定利率は、法定利率に変動があった期のうち直近のもの(直近変動期)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。
⑤ 「基準割合」とは、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における短期貸付けの平均利率の合計を60で除して計算した割合として法務大臣が告示するものをいう。

第405条(利息の元本への組入れ)
 利息の支払が1年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。

第406条(選択債権における選択権の帰属)
 債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は、債務者に属する。

第407条(選択権の行使)
① 前条の選択権は、相手方に対する意思表示によって行使する。
② 前項の意思表示は、相手方の承諾を得なければ、撤回することができない。

第408条(選択権の移転)
 債権が弁済期にある場合において、相手方から相当の期間を定めて催告をしても、選択権を有する当事者がその期間内に選択をしないときは、その選択権は、相手方に移転する。

第409条(第三者の選択権)
① 第三者が選択をすべき場合には、その選択は債権者又は債務者に対する意思表示によってする。
②    第三者が選択をすることができず、又は選択をする意思を有しないときは、選択権は、債務者に移転する。

第410条(不能による選択債権の特定)
 債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において、その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権は、その残存するものについて存在する。

第411条(選択の効力)
 選択は、債権の発生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。


第2節 債権の効力

第1款 債務不履行の責任等

履行遅滞
履行期
履行遅滞の責任を負う時
確定期限があるとき(412)
その期限の到来した時から
不確定期限があるとき(412)
期限到来後、下記のいずれか早い時から
①履行の請求を受けた時
②その期限の到来したことを知った時
期限を定めなかったとき(412)
履行の請求を受けた時から
期限の定めがない消費貸借の返還債務(591)
催告後相当期間経過後
不法行為による損害賠償債務(709)
不法行為の時

第412条の2(履行不能)
① 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
② 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

第413条(受領遅滞)
① 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。
② 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないことによって、その履行の費用が増加したときは、その増加額は、債権者の負担とする。
第413条の2(履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由)
① 債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
② 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。

効果
内容
債務者の帰責性
履行の強制
(414)
債務者が任意に債務の履行をしないときは、履行の強制を裁判所に請求できる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
不要
損害賠償請求
(415)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求できる。
必要
契約の解除
(541・542)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる
不要

第415条(債務不履行による損害賠償)
   損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
1 債務の履行が不能であるとき。
2 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
3 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

第416条(損害賠償の範囲)
 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
② 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

(損害賠償の方法)第417条
 損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。

(中間利息の控除)第417条の2
① 将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする。
②将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において、その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも、前項と同様とする。

第418条(過失相殺)
 債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。

第419条(金銭債務の特則)
 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
②金銭債務の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
③金銭債務の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁できない。

第420条・第421条(賠償額の予定)
① 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
② 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
③ 違約金は、賠償額の予定と推定する。
① 前条の規定は、当事者が金銭でないものを損害の賠償に充てるべき旨を予定した場合について準用する。

(損害賠償による代位)第422条
 債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。

(代償請求権)第422条の2
 債務者が、その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度において、債務者に対し、その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる。


第2款 債権者代位権

第423条(債権者代位権の要件)
① 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、被代位権利(債務者に属する権利)を行使することができる。ただし、債務者の一身専属権及び差押禁止債権は、この限りでない。
② 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。
 ただし、保存行為(債務者の財産の現状を維持・保全する行為)は、この限りでない。
→この場合の保存行為とは、消滅時効が完成しないように催告をして完成猶予にすることなどです。
③ 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。

【代位行使できない債権】
被代位債権
例外的に行使出来る場合
一身専属権
財産分与請求権
権利内容が具体化した後(S55.7.11)
慰謝料請求権
具体的な金額の確定後(S58.10.6)
遺留分減殺請求権
遺留分権利者が請求権を第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合(H13.11.22)
差押禁止債権

第423条の2(代位行使の範囲)
 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。

第423条の3(債権者への支払・引渡し)
 債権者は、被代位権利を行使する場合、被代位権利が金銭の支払い・動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対しその支払い・引渡しを直接自己に対してすることを請求できる。
 この場合において、相手方が債権者に対してその支払・引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する。

第423条の4(相手方の抗弁)
 債権者が被代位権利を行使したときは、相手方(第三債務者)は、債務者に対する抗弁(同時履行の抗弁権等)を、代位債権者に対して主張できる。

第423条の5(債務者の取立てその他の処分の権限等)
 債権者Aが被代位権利(BのCに対する債権)を行使した場合であっても、債務者Bは、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることができ、この場合、相手方Cも、被代位権利について、債務者Bに対して履行をすることを妨げられない。

第423条の6(被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知)
 債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。

★債務者の無資力が要件とならない債権者代位権(個別の権利の実現のための債権者代位権)

A 登記請求権の保全のための債権者代位権

第423条の7(登記/登録の請求権を保全するための債権者代位権)

登記・登録をしなければ権利の得喪・変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記・登録手続請求権を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前3条の規定を準用する。

例)土地が「A→B→C」へと順次譲渡され、いずれも所有権移転登記がされていない場合、CはBに対する登記請求権を保全するため、Bに代位してAに対し、「A→B」への移転登記を請求できる。

※「A→C」と直接自己名義の移転登記手続きを請求することは出来ない。

B 所有権に基づく妨害排除のための債権者代位権(S4.12.16)

例)AがBから賃借している土地をCが不法占有している場合、賃借人Aは賃借権を保全するため、土地所有者・賃貸人Bに代位して、不法占有者Cに対する所有権に基づく妨害排除請求権(物権的請求権)を代位行使できる

C 相続登記の債権者代位権(S50.3.6)

例)土地の売主Aが死亡し、B・CがAを共同相続した場合に、BがAから相続した土地につき登記義務の履行を拒絶しているため、買主Dが同時履行の抗弁権を行使して代金全額の弁済を拒絶しているときには、他の共同相続人Cは、Dに対する代金債権を保全するために、DのBに対する登記請求権を代位行使できる

第3款 詐害行為取消権

第1目 詐害行為取消権の要件

第424条(詐害行為取消請求)
① 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為(詐害行為)の取消しを裁判所に請求できる。ただし、詐害行為によって利益を受けた者(受益者)が詐害行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
② 財産権を目的としない行為については、適用しない。
③ 債権者は、その債権が詐害行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、詐害行為取消請求ができる。
④ 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求ができない。

第424条の2(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)
 債務者が、所有財産を相当価格で売却することについて、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
1 その行為が、不動産の金銭への換価その他財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分をするおそれを現に生じさせるものであること。
2 債務者が、対価として取得した金銭などについて、隠匿等の処分をする意思があったこと。
3 受益者が、当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

第424条の3(特定の債権者に対する担保の供与等の特則)
 債務者がした既存の債務についての担保権の設定・債務の消滅に関する行為について、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる。
1 債務者が支払不能の時に行われた場合
2 債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われた場合

② 債務者の義務に属しないものである場合において、次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、債権者は、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
1 その行為が、債務者が支払不能になる前30日以内に行われたものであること。
2 その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。

第424条の4(過大な代物弁済等の特則)
 債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるときは、債権者は、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、詐害行為取消請求をすることができる。

第424条の5(転得者に対する詐害行為取消請求)
 債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、以下の場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる。
転得者が受益者から転得した者である場合
転得者が、転得の当時、債務者の行為が詐害行為であることに悪意だったとき
転得者が他の転得者から転得した者である場合
全ての転得者が、転得の当時、債務者の行為が詐害行為であることに悪意だったとき

第424条の6(財産の返還又は価額の償還の請求)①②
 債権者は、受益者・転得者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者・転得者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者・転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求できる。

第424条の7(被告及び訴訟告知)
 詐害行為取消請求に係る訴えについては、下記に定める者を被告とする。
受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え
受益者
転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴え
その詐害行為取消請求の相手方である転得者
※ 債務者を相手方にする必要はない。

②債権者は、詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。

第424条の8(詐害行為の取消しの範囲)
 債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求できる。
②債権者が価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。

第424条の9(債権者への支払・引渡し)
① 債権者は、受益者・転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払・動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払・引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができる。
 この場合において、受益者・転得者は、債権者に対してその支払・引渡しをしたときは、債務者に対してその支払・引渡しをすることを要しない。
②債権者が受益者・転得者に対して価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。

第425条(認容判決の効力が及ぶ者の範囲)
 詐害行為取消請求を認容する確定判決は、その全ての債権者に対してもその効力を有する。

第425条の2(債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利)
 債務者がした財産の処分に関する行為が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができる。

(受益者の債権の回復)第425条の3
 債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復する。

(詐害行為取消請求を受けた転得者の権利)第425条の4 債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは、その転得者は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
1 第425条の2に規定する行為が取り消された場合 その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権
2 前条に規定する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。) その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権

★詐害行為取消権の要件
要件
ポイント
具体例
結論

詐害行為の前の原因に基づいて生じた被保全債権である事
金銭債権である事
詐害行為後に譲受された債権

詐害行為より前に締結された保証委託契約に基づく事後求償権

金銭債権に転化した特定物債権


債権者の無資力
詐害行為時及び
詐害行為取消権の行使時
財産処分後に資力が回復した場合
×
債務者に連帯保証人・連帯債務者がいる場合

債務者に物上保証人がいる場合
×
債務者自ら担保権を設定している場合


客観的に詐害行為があること
身分行為は詐害行為にあたらない
離婚に伴う財産分与(S58.12.19)
(基本:×、不相当に過大:〇)

離婚に伴う慰謝料支払(H12.3.9)
(基本:×、不相当に過大:〇)

遺産分割協議(H11.6.11)

相続放棄(S49.9.20)
×

債務者の詐害医師と受益者の悪意
受益者・転得者の悪意が必要
受益者が善意、転得者が悪意
×
受益者が悪意、転得者が悪意

(最判平成10年6月22日)
詐害行為取消権を行使する債権者の被保全債権が消滅すれば受益者は利益喪失を免れることができる地位にあるから、受益者は被保全債権の消滅によって直接利益を受ける者にあたり、この債権について消滅時効を援用することができる

第4目 詐害行為取消権の期間の制限

第426条
 詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起することができない。行為の時から10年を経過したときも、同様とする。


第3節 多数当事者の債権及び債務

第1款 総則

第427条(分割債権及び分割債務)
 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

第2款 不可分債権及び不可分債務

第428条(不可分債権)
 連帯債権の規定は、債権の目的がその性質上不可分である場合において、数人の債権者があるときについて準用する。

(不可分債権者の1人との間の更改又は免除)第429条 不可分債権者の1人と債務者との間に更改又は免除があった場合においても、他の不可分債権者は、債務の全部の履行を請求することができる。この場合においては、その1人の不可分債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益を債務者に償還しなければならない。

第430条(不可分債務)
 連帯債務の規定は、債務の目的がその性質上不可分である場合において、数人の債務者があるときについて準用する。

(可分債権又は可分債務への変更)第431条 不可分債権が可分債権となったときは、各債権者は自己が権利を有する部分についてのみ履行を請求することができ、不可分債務が可分債務となったときは、各債務者はその負担部分についてのみ履行の責任を負う。


第3款 連帯債権

第432条(連帯債権者による履行の請求等)
 債権の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは、各債権者は、全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ、債務者は、全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。

(連帯債権者の1人との間の更改又は免除)第433条 連帯債権者の1人と債務者との間に更改又は免除があったときは、その連帯債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益に係る部分については、他の連帯債権者は、履行を請求することができない。
(連帯債権者の1人との間の相殺)第434条 債務者が連帯債権者の1人に対して債権を有する場合において、その債務者が相殺を援用したときは、その相殺は、他の連帯債権者に対しても、その効力を生ずる。
(連帯債権者の1人との間の混同)第435条 連帯債権者の1人と債務者との間に混同があったときは、債務者は、弁済をしたものとみなす。
(相対的効力の原則)第435条の2 第432条から前条までに規定する場合を除き、連帯債権者の1人の行為又は1人について生じた事由は、他の連帯債権者に対してその効力を生じない。ただし、他の連帯債権者の1人及び債務者が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債権者に対する効力は、その意思に従う。


第4款 連帯債務

第436条(連帯債務者に対する履行の請求)
 債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の1人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。

第437条(連帯債務者の1人についての法律行為の無効等)
 連帯債務者の1人について法律行為の無効又は取消しの原因があっても、他の連帯債務者の債務は、その効力を妨げられない。

第438条(連帯債務者の1人との間の更改)
 連帯債務者の1人と債権者との間に更改があったときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する。

第439条(連帯債務者の1人による相殺等)
① 連帯債務者の1人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する。
② 債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分の限度において、他の連帯債務者は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

第440条(連帯債務者の1人との間の混同)
 連帯債務者の1人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす。

第441条(相対的効力の原則)
 更改、相殺、混同に規定する場合を除き、連帯債務者の1人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の1人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。

第442条(連帯債務者間の求償権)
① 連帯債務者の1人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず、他の連帯債務者に対し、その免責を得るために支出した財産の額のうち各自の負担部分に応じた額の求償権を有する。
② 連帯債務者間の求償は、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する

第443条(通知を怠った連帯債務者の求償の制限)
① 他の連帯債務者(B)があることを知りながら、連帯債務者の1人(A)が共同の免責を得ることを他の連帯債務者(B)に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者(B)は、債権者(C)に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者(A)に対抗することができる。
 この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者(A)に対抗したときは、その連帯債務者(B)は、債権者(C)に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
② 連帯債務者の1人(A)が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者(B)に通知することを怠ったため、他の連帯債務者(B)が善意で弁済その他自己の財産をもって免責を得るための行為をしたときは、他の連帯債務者(B)は、その免責を得るための行為を有効であったものとみなすことができる。

第444条(償還をする資力のない者の負担部分の分担)
① 連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは、その償還をすることができない部分は、求償者及び他の資力のある者の間で、各自の負担部分に応じて分割して負担する。
② 求償者及び他の資力のある者がいずれも負担部分を有しない者であるときは、その償還をすることができない部分は、求償者及び他の資力のある者の間で、等しい割合で分割して負担する。
③ 償還を受けることができないことについて求償者に過失があるときは、他の連帯債務者に対して分担を請求することができない。

第445条(連帯債務者の1人との間の免除等と求償権)
 連帯債務者の1人に対して債務の免除がされ、又は連帯債務者の1人のために時効が完成した場合においても、他の連帯債務者は、その1人の連帯債務者に対し、求償権を行使することができる。


第5款 保証債務

第1目 総則

第446条(保証人の責任等)
① 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
② 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
③ 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

第447条(保証債務の範囲)
① 保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。
② 保証人は、その保証債務についてのみ、違約金又は損害賠償の額を約定することができる。

第448条(保証人の負担と主たる債務の目的又は態様)
① 保証人の負担が債務の目的・態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮する。
② 主たる債務の目的・態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても、保証人の負担は加重されない。

第449条(取り消すことができる債務の保証)
 行為能力の制限によって取り消すことができる債務を保証した者は、保証契約の時においてその取消しの原因を知っていたときは、主たる債務の不履行の場合又はその債務の取消しの場合においてこれと同一の目的を有する独立の債務を負担したものと推定する。

第450条(保証人の要件)
① 債務者が保証人を立てる義務を負う場合には、その保証人は、次に掲げる要件を具備する者でなければならない。
 1 行為能力者であること。
 2 弁済をする資力を有すること。
② 保証人が前項第2号に掲げる要件を欠くに至ったときは、債権者は、同項各号に掲げる要件を具備する者をもってこれに代えることを請求することができる。
③ 前2項の規定は、債権者が保証人を指名した場合には、適用しない。

第451条(他の担保の供与)
 債務者は、前条第1項各号に掲げる要件を具備する保証人を立てることができないときは、他の担保を供してこれに代えることができる。

第452条・第453条(催告の抗弁)(検索の抗弁)
催告の抗弁
債権者が保証人に債務の履行を請求したとき
→保証人は「まず主たる債務者に催告をすべき」旨を請求できる。
主たる債務者が
①破産手続開始の決定を受けたとき
②その行方が知れないときは、この限りでない。
検索の抗弁
債権者が主たる債務者に催告をした後
→保証人が「主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であること」を証明したとき→債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。

第454条(連帯保証の場合の特則)
 保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、催告・検索の抗弁の権利を有しない。

第455条(催告の抗弁及び検索の抗弁の効果)
 催告の抗弁及び検索の抗弁により保証人の請求又は証明があったにもかかわらず、債権者が催告又は執行をすることを怠ったために主たる債務者から全部の弁済を得られなかったときは、保証人は、債権者が直ちに催告又は執行をすれば弁済を得ることができた限度において、その義務を免れる。

第456条(数人の保証人がある場合)
 数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、それぞれ等しい割合で保証する。

第457条(主たる債務者について生じた事由の効力)
① 主たる債務者に対する履行の請求等による時効の完成猶予・更新は、保証人に対してもその効力を生ずる。
② 保証人は、主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができる。
③ 主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

第458条(連帯保証人について生じた事由の効力)
 下記の規定は、連帯保証人についても準用する。
第438条
連帯債務者の1人との間の更改
第439条第1項
連帯債務者の1人による相殺等
第440条
連帯債務者の1人との間の混同
第441条
連帯保証人の1人について生じた事由は、他の連帯保証人に対してその効力を生じない。(相対的効力の原則)

第458条の2(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)
 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

第458条の3(主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務)
① 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から2箇月以内に、その旨を通知しなければならない。
② 期間内に通知をしなかったときは、債権者は保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から通知を現にするまでに生じた遅延損害金に係る保証債務の履行を請求することができない。
③ 保証人が法人である場合には、適用しない。

第459条(委託を受けた保証人の求償権)
① 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者に代わって弁済その他債務の消滅行為をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対し、そのために支出した財産の額の求償権を有する。
② 第442条第2項の規定は、前項の場合について準用する。

第459条の2(委託を受けた保証人が弁済期前に弁済等をした場合の求償権)
① 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務の弁済期前に債務の消滅行為をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対し、主たる債務者がその当時利益を受けた限度において求償権を有する。この場合において、主たる債務者が債務の消滅行為の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
② 前項の規定による求償は、主たる債務の弁済期以後の法定利息及びその弁済期以後に債務の消滅行為をしたとしても避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
③ 求償権は、主たる債務の弁済期以後でなければ、これを行使することができない。

第460条(委託を受けた保証人の事前の求償権)
 保証人は、主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、次に掲げるときは、主たる債務者に対して、あらかじめ、求償権を行使することができる。
1 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
2 債務が弁済期にあるとき。ただし、保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は、保証人に対抗することができない。
3 保証人が過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受けたとき。

第461条(主たる債務者が保証人に対して償還をする場合)
 前条の規定により主たる債務者が保証人に対して償還をする場合において、債権者が全部の弁済を受けない間は、主たる債務者は、保証人に担保を供させ、又は保証人に対して自己に免責を得させることを請求することができる。
②前項に規定する場合において、主たる債務者は、供託をし、担保を供し、又は保証人に免責を得させて、その償還の義務を免れることができる。

第462条(委託を受けない保証人の求償権)
① 第459条の2第1項の規定は、主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が債務の消滅行為をした場合について準用する。
② 主たる債務者の意思に反して保証をした者は、主たる債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する。この場合において、主たる債務者が求償の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
③ 第459条の2第3項の規定は、前2項に規定する保証人が主たる債務の弁済期前に債務の消滅行為をした場合における求償権の行使について準用する。

第463条(通知を怠った保証人の求償の制限等)
① 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者にあらかじめ通知しないで債務の消滅行為をしたときは、主たる債務者は、債権者に対抗することができた事由をもってその保証人に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその保証人に対抗したときは、その保証人は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
② 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者が債務の消滅行為をしたことを保証人に通知することを怠ったため、その保証人が善意で債務の消滅行為をしたときは、その保証人は、その債務の消滅行為を有効であったものとみなすことができる。
③ 保証人が債務の消滅行為をした後に主たる債務者が債務の消滅行為をした場合においては、保証人が主たる債務者の意思に反して保証をしたときのほか、保証人が債務の消滅行為をしたことを主たる債務者に通知することを怠ったため、主たる債務者が善意で債務の消滅行為をしたときも、主たる債務者は、その債務の消滅行為を有効であったものとみなすことができる。

第464条(連帯債務又は不可分債務の保証人の求償権)
 連帯債務者又は不可分債務者の1人のために保証をした者は、他の債務者に対し、その負担部分のみについて求償権を有する。

第465条(共同保証人間の求償権)
 第442条から第444条までの規定は、数人の保証人がある場合において、そのうちの1人の保証人が、主たる債務が不可分であるため又は各保証人が全額を弁済すべき旨の特約があるため、その全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。
② 第462条の規定は、前項に規定する場合を除き、互いに連帯しない保証人の1人が全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。

第2目 個人根保証契約

(個人根保証契約の保証人の責任等)第465条の2
 1定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
②個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
③第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。
(個人貸金等根保証契約の元本確定期日)第465条の3 個人根保証契約であってその主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(以下「個人貸金等根保証契約」という。)において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において、その元本確定期日がその個人貸金等根保証契約の締結の日から5年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定期日の定めは、その効力を生じない。
②個人貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には、その元本確定期日は、その個人貸金等根保証契約の締結の日から3年を経過する日とする。
③個人貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日がその変更をした日から5年を経過する日より後の日となるときは、その元本確定期日の変更は、その効力を生じない。ただし、元本確定期日の前2箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から5年以内の日となるときは、この限りでない。
④第446条第2項及び第3項の規定は、個人貸金等根保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その個人貸金等根保証契約の締結の日から3年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について準用する。
(個人根保証契約の元本の確定事由)第465条の4 次に掲げる場合には、個人根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。ただし、第1号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
1 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
2 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
3 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
②前項に規定する場合のほか、個人貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、次に掲げる場合にも確定する。ただし、第1号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
1 債権者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
2 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
(保証人が法人である根保証契約の求償権)第465条の5 保証人が法人である根保証契約において、第465条の2第1項に規定する極度額の定めがないときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約は、その効力を生じない。
②保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものにおいて、元本確定期日の定めがないとき、又は元本確定期日の定め若しくはその変更が第465条の3第1項若しくは第3項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約は、その効力を生じない。主たる債務の範囲にその求償権に係る債務が含まれる根保証契約も、同様とする。
③前2項の規定は、求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に求償権に係る債務が含まれる根保証契約の保証人が法人である場合には、適用しない。

第3目 事業に係る債務についての保証契約の特則

第465条の6(公正証書の作成と保証の効力)
 事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約、又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前1箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。
②前項の公正証書を作成するには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1 保証人になろうとする者が、次のイ又はロに掲げる契約の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事項を公証人に口授すること。
イ 保証契約 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、その債務の全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
ロ 根保証契約 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の範囲、根保証契約における極度額、元本確定期日の定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、極度額の限度において元本確定期日又は第465条の4第1項各号若しくは第2項各号に掲げる事由その他の元本を確定すべき事由が生ずる時までに生ずべき主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
2 公証人が、保証人になろうとする者の口述を筆記し、これを保証人になろうとする者に読み聞かせ、又は閲覧させること。
3 保証人になろうとする者が、筆記の正確なことを承認した後、署名し、印を押すこと。ただし、保証人になろうとする者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
4 公証人が、その証書は前3号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
③前2項の規定は、保証人になろうとする者が法人である場合には、適用しない。

(保証に係る公正証書の方式の特則)第465条の7 前条第1項の保証契約又は根保証契約の保証人になろうとする者が口がきけない者である場合には、公証人の前で、同条第2項第1号イ又はロに掲げる契約の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事項を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、同号の口授に代えなければならない。この場合における同項第2号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
②前条第1項の保証契約又は根保証契約の保証人になろうとする者が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第2項第2号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により保証人になろうとする者に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。
③公証人は、前2項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。
(公正証書の作成と求償権についての保証の効力)第465条の8 第465条の6第1項及び第2項並びに前条の規定は、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約について準用する。主たる債務の範囲にその求償権に係る債務が含まれる根保証契約も、同様とする。
②前項の規定は、保証人になろうとする者が法人である場合には、適用しない。
(公正証書の作成と保証の効力に関する規定の適用除外)第465条の9 前3条の規定は、保証人になろうとする者が次に掲げる者である保証契約については、適用しない。
1 主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者
2 主たる債務者が法人である場合の次に掲げる者
イ 主たる債務者の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除く。以下この号において同じ。)の過半数を有する者
ロ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ハ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ニ 株式会社以外の法人が主たる債務者である場合におけるイ、ロ又はハに掲げる者に準ずる者
3 主たる債務者(法人であるものを除く。以下この号において同じ。)と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者

第465条の10(契約締結時の情報の提供義務)
 主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
1 財産及び収支の状況
2 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
3 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
②主たる債務者が情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。
③保証をする者が法人である場合には、適用しない。


第4節 債権の譲渡

第466条(債権の譲渡性)
① 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
② 当事者が譲渡禁止特約(債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
③ 譲渡禁止特約があっても、債権譲渡された場合には、譲渡禁止特約がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
④ 債務者が債務を履行しない場合において、第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。

第466条の2(譲渡禁止特約がされた債権に係る債務者の供託)
① 債務者は、譲渡禁止特約がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所により定まる場合にあっては、譲渡人の現在の住所を含む。)の供託所に供託することができる。
② 供託をした債務者は、遅滞なく、譲渡人及び譲受人に供託の通知をしなければならない。
③ 供託をした金銭は、譲受人に限り、還付を請求することができる。

第466条の3
 譲渡禁止特約がされた債権に係る債務者が供託した場合において、譲渡人について破産手続開始の決定があったときは、譲受人は、譲渡禁止特約がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかったときであっても、債務者にその債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができる。

第466条の4(譲渡禁止特約がされた債権の差押え)
① 第466条第3項の規定は、譲渡禁止特約がされた債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。
② 前項の規定にかかわらず、譲受人その他の第三者が譲渡禁止特約がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった場合において、その債権者が同項の債権に対する強制執行をしたときは、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって差押債権者に対抗することができる。

第466条の5(預金債権又は貯金債権に係る譲渡禁止特約の効力)
① 預貯金債権(預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権)について当事者がした譲渡禁止特約は、第466条第2項の規定にかかわらず、その譲渡禁止特約がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。
② 前項の規定は、譲渡禁止特約がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。

第466条の6(将来債権の譲渡性)
① 債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
② 債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。
③ 前項に規定する場合において、譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡禁止特約がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、第466条第3項(譲渡禁止特約がされた債権が預貯金債権の場合にあっては、前条第1項)の規定を適用する。

第467条(債権の譲渡の対抗要件)
① 債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
② 通知・承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗できない。

(S49.3.7)
指名債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互の問の優劣は、
 ① 確定日付のある通知が債務者に到達した日時
 ② 確定日付のある債務者の承諾の日時
 の先後によつて決せられる。

第468条(債権の譲渡における債務者の抗弁)
① 債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗できる
② 譲渡禁止特約が付されている債権の差押えの場合においては、債務者は、相当の期間を経過した時に譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
③ 譲渡禁止特約が付されている債権に係る債務者が供託した場合においては、債務者は、譲受人から供託の請求を受けた時に、譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。

第469条(債権の譲渡における相殺権)
① 債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。
②債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても、その債権が次に掲げるものであるときは、前項と同様とする。ただし、債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
1 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権
2 前号に掲げるもののほか、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権
③第466条第4項の場合における前2項の規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条第4項の相当の期間を経過した時」とし、第466条の3の場合におけるこれらの規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。


第5節 債務の引受け

併存的債務引受
免責的債務引受
態様
引受人Cは、債務者Bと連帯して、債権者Aに対して同一の内容の債務を負担する契約
引受人Cが債務を引き受けることにより、従来の債務者Bが自己の債務を免れる契約
要件
三面契約


債権者Aと引受人Cとの契約
可能
※債務者Bの意思に反しても有効
可能
債権者Aが債務者Bに対して契約成立の通知した時から有効
債務者Bと引受人Cとの契約
債権者Aが引受人Cに対して承諾をした時から有効
債権者Aが引受人Cに対して承諾をした時から有効
効果
債務者Bの債務
・債務者Bは債務を免れない
・債務者Bは債務を免れる
・引受人Cは、債務者Bに対して求償権を取得しない。
引受人の抗弁
・引受人Cは、債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者Bが主張することができた抗弁をもって債権者Aに対抗することができる。
履行の拒絶
・債務者Bが債権者Aに対して取消権・解除権を有するときは、引受人Cは、これらの権利の行使によって債務者Bがその債務を免れるべき限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。


第1款 併存的債務引受

第470条(併存的債務引受の要件及び効果)
① 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。
② 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。
③ 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。
④ 併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。

第471条(併存的債務引受における引受人の抗弁等)
 引受人は、併存的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。
②債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。


第2款 免責的債務引受

第472条(免責的債務引受の要件及び効果)
① 免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。
② 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。
      この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
③ 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもできる。

第472条の2(免責的債務引受における引受人の抗弁等)
 引受人は、免責的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。
②債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によって債務者がその債務を免れることができた限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

第472条の3(免責的債務引受における引受人の求償権)
 免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しない。

第472条の4(免責的債務引受による担保の移転)
 債権者は、第472条第1項の規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし、引受人以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。
②前項の規定による担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければならない。
③前2項の規定は、第472条第1項の規定により債務者が免れる債務の保証をした者があるときについて準用する。
④前項の場合において、同項において準用する第1項の承諾は、書面でしなければ、その効力を生じない。
5 前項の承諾がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その承諾は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。


第6節 債権の消滅

第1款 弁済

第1目 総則

第473条(弁済)
 債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。

第474条(第三者の弁済)
① 債務の弁済は、第三者もすることができる。
② 弁済をすることについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済できない。ただし債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときはこの限りでない。
③ 弁済をすることについて正当な利益を有する者でない第三者は、債権者の意思に反して弁済できない。ただしその第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときはこの限りでない。
④ その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止・制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。

【第三者弁済における利害関係を有する第三者】

利益を有する第三者
借地上の建物の賃借人(最判昭和63年7月1日)
物上保証人
担保不動産の第三取得者
同一不動産の後順位抵当権者など
利害を有しない第三者
同居人、家族、友人
第二会社(債務会社の事業等の一部を承継した会社)
第三者にあたらない者
保証人、連帯保証人、連帯債務者

第475条(弁済として引き渡した物の取戻し)
 弁済をした者が弁済として他人の物を引き渡したときは、その弁済をした者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。

第476条(弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力等)
 前条の場合において、債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、又は譲り渡したときは、その弁済は、有効とする。この場合において、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済をした者に対して求償をすることを妨げない。

第477条(預金又は貯金の口座に対する払込みによる弁済)
 債権者の預金・貯金の口座に対する払込みによってする弁済は、債権者がその預金・貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に、その効力を生ずる。

第478条(受領権者としての外観を有する者に対する弁済)
 受領権者以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意かつ無過失のときに限り、その効力を有する。

第479条(受領権者以外の者に対する弁済)
 前条の場合を除き、受領権者以外の者に対してした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ、その効力を有する。

(差押えを受けた債権の第3債務者の弁済)第481条
① 差押えを受けた債権の第3債務者が自己の債権者に弁済をしたときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第3債務者に請求することができる。
② 前項の規定は、第3債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。

第482条(代物弁済)
 弁済者が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

昭和57年6月4日
代物弁済による所有権移転の効果は、当事者間の代物弁済契約の意思表示によって生ずる。
昭和40年4月30日
不動産所有権の譲渡をもって代物弁済する場合の債務消滅の効力は、意思表示では足らず、所有権移転登記手続の完了によって生ずる

第483条(特定物の現状による引渡し)
 債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

第484条(弁済の場所及び時間)
 弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。
②法令又は慣習により取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り、弁済をし、又は弁済の請求をすることができる。

第485条(弁済の費用)
 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

第486条(受取証書の交付請求)
 弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済受領者に対して受取証書の交付を請求することができる。

第487条(債権証書の返還請求)
 債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる。

第488条(同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当)
① 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
② 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
③ 前2項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。
④ 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第1項又は第2項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
1 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
2 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
3 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
4 前2号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。

第489条(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)
① 債務者が1個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
②前条の規定は、前項の場合において、費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて準用する。

(合意による弁済の充当)第490条
 前2条の規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い、その弁済を充当する。
(数個の給付をすべき場合の充当)第491条 1個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、前3条の規定を準用する。
(弁済の提供の効果)第492条 債務者は、弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる。

第493条(弁済の提供の方法)
 弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。

(最判昭和32年6月5日)
債権者が契約そのものの存在を否定するなど弁済を受領しない意思が明確と認められる場合には、債務者は口頭の提供をしなくとも債務不履行の責めを免れる

第2目 弁済の目的物の供託

第494条(供託)
① 弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。
 1 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
 2 債権者が弁済を受領することができないとき。
② 弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。

(大判大正11年10月25日)
債務者が口頭の提供をしても債権者が弁済を受領しないことが明確な場合は、直ちに供託することができる。

(供託の方法)第495条
 前条の規定による供託は、債務の履行地の供託所にしなければならない。
②供託所について法令に特別の定めがない場合には、裁判所は、弁済者の請求により、供託所の指定及び供託物の保管者の選任をしなければならない。
③前条の規定により供託をした者は、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない。

(供託物の取戻し)第496条
 債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる。この場合においては、供託をしなかったものとみなす。
②前項の規定は、供託によって質権又は抵当権が消滅した場合には、適用しない。

(供託に適しない物等)第497条
 弁済者は、次に掲げる場合には、裁判所の許可を得て、弁済の目的物を競売に付し、その代金を供託することができる。
1 その物が供託に適しないとき。
2 その物について滅失、損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき。
3 その物の保存について過分の費用を要するとき。
4 前3号に掲げる場合のほか、その物を供託することが困難な事情があるとき。

(供託物の還付請求等)第498条 弁済の目的物又は前条の代金が供託された場合には、債権者は、供託物の還付を請求することができる。
②債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には、債権者は、その給付をしなければ、供託物を受け取ることができない。

第3目 弁済による代位

第499条・第500条(弁済による代位の要件)
① 債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する。
① 弁済による代位の場合、債務者の通知または債務者の承諾を必要とする。

第501条(弁済による代位の効果)
 債権者に代位した者は、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。
② 権利の行使は、債権者に代位した者が自己の権利に基づいて債務者に対して求償をすることができる範囲内に限り、することができる。

1 第三取得者(債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者)は、保証人・物上保証人に対して債権者に代位しない。
2 第三取得者の1人は、各財産の価格に応じて、他の第三取得者に対して債権者に代位する。
3 物上保証人の1人が他の物上保証人に対して債権者に代位する。
4 保証人と物上保証人との間においては、その数に応じて、債権者に代位する。ただし、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、債権者に代位する。
5 第三取得者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は、第三取得者とみなし、物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は、物上保証人とみなす。

第502条(一部弁済による代位)
 債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は、債権者の同意を得て、その弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使することができる。
②債権者は、単独でその権利を行使することができる。
③債権者が行使する権利は、その債権の担保の目的となっている財産の売却代金その他の当該権利の行使によって得られる金銭について、代位者が行使する権利に優先する。
④債務の不履行による契約の解除は、債権者のみがすることができる。この場合においては、代位者に対し、その弁済をした価額及びその利息を償還しなければならない。

(債権者による債権証書の交付等)第503条 代位弁済によって全部の弁済を受けた債権者は、債権に関する証書及び自己の占有する担保物を代位者に交付しなければならない。
②債権の一部について代位弁済があった場合には、債権者は、債権に関する証書にその代位を記入し、かつ、自己の占有する担保物の保存を代位者に監督させなければならない。

(債権者による担保の喪失等)第504条 弁済をするについて正当な利益を有する者(以下この項において「代位権者」という。)がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位権者は、代位をするに当たって担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において、その責任を免れる。その代位権者が物上保証人である場合において、その代位権者から担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者及びその特定承継人についても、同様とする。
②前項の規定は、債権者が担保を喪失し、又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは、適用しない。


第2款 相殺

相殺する側の債権を自働債権、相殺される側の債権を受動債権という。

第505条(相殺の要件等)
① 2人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
② 当事者が相殺を禁止・制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。

※自働債権に抗弁権(同時履行の抗弁権・催告並びに検索の抗弁権)が付着している場合は、相殺が禁止される(S32.2.22、S13.3.1)

第506条(相殺の方法及び効力)
① 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。
② 意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時に遡ってその効力を生ずる。

第507条(履行地の異なる債務の相殺)
 相殺は、双方の債務の履行地が異なるときであっても、することができる。この場合において、相殺をする当事者は、相手方に対し、これによって生じた損害を賠償しなければならない。

第508条(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)
 時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。

※消滅時効がかかった後に譲り受けた債権を自働債権として、相殺をすることはできない
(S36.4.14)

第509条(不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
1 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
2 人の生命・身体の侵害による損害賠償の債務

第510条(差押禁止債権を受働債権とする相殺の禁止)
 債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。

第511条(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
① 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗できないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗できる。
② 差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第3債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗できる。ただし、第3債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。

第512条(相殺の充当)
 債権者が債務者に対して有する1個又は数個の債権と、債権者が債務者に対して負担する1個又は数個の債務について、債権者が相殺の意思表示をした場合において、当事者が別段の合意をしなかったときは、債権者の有する債権とその負担する債務は、相殺に適するようになった時期の順序に従って、その対当額について相殺によって消滅する。
②前項の場合において、相殺をする債権者の有する債権がその負担する債務の全部を消滅させるのに足りないときであって、当事者が別段の合意をしなかったときは、次に掲げるところによる。
1 債権者が数個の債務を負担するとき(次号に規定する場合を除く。)は、第488条第4項第2号から第4号までの規定を準用する。
2 債権者が負担する1個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべきときは、第489条の規定を準用する。この場合において、同条第2項中「前条」とあるのは、「前条第4項第2号から第4号まで」と読み替えるものとする。
③第1項の場合において、相殺をする債権者の負担する債務がその有する債権の全部を消滅させるのに足りないときは、前項の規定を準用する。

第512条の2
 債権者が債務者に対して有する債権に、1個の債権の弁済として数個の給付をすべきものがある場合における相殺については、前条の規定を準用する。債権者が債務者に対して負担する債務に、1個の債務の弁済として数個の給付をすべきものがある場合における相殺についても、同様とする。


第3款 更改

第513条(更改)
 当事者が従前の債務に代えて、新たな債務であって次に掲げるものを発生させる契約をしたときは、従前の債務は、更改によって消滅する。
1 従前の給付の内容について重要な変更をするもの
2 従前の債務者が第三者と交替するもの
3 従前の債権者が第三者と交替するもの
(債務者の交替による更改)第514条 債務者の交替による更改は、債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。この場合において、更改は、債権者が更改前の債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
②債務者の交替による更改後の債務者は、更改前の債務者に対して求償権を取得しない。
(債権者の交替による更改)第515条 債権者の交替による更改は、更改前の債権者、更改後に債権者となる者及び債務者の契約によってすることができる。
②債権者の交替による更改は、確定日付のある証書によってしなければ、第三者に対抗することができない。

第518条(更改後の債務への担保の移転)
 債権者(債権者の交替による更改にあっては、更改前の債権者)は、更改前の債務の目的の限度において、その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。ただし、第三者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。
②前項の質権又は抵当権の移転は、あらかじめ又は同時に更改の相手方(債権者の交替による更改にあっては、債務者)に対してする意思表示によってしなければならない。

第519条(免除)
 債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。

第520条(混同)
 債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。

混同の例外(最判昭和35年6月23日)
家屋の転借人が当該家屋の所有者たる賃貸人の地位を承継しても、賃貸借関係及び転貸借関係は当事者間に合意のない限り消滅しない。

第7節 有価証券

第1款 指図証券

(指図証券の譲渡)第520条の2 指図証券の譲渡は、その証券に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ、その効力を生じない。
(指図証券の裏書の方式)第520条の3 指図証券の譲渡については、その指図証券の性質に応じ、手形法(昭和7年法律第20号)中裏書の方式に関する規定を準用する。
(指図証券の所持人の権利の推定)第520条の4 指図証券の所持人が裏書の連続によりその権利を証明するときは、その所持人は、証券上の権利を適法に有するものと推定する。
(指図証券の善意取得)第520条の5 何らかの事由により指図証券の占有を失った者がある場合において、その所持人が前条の規定によりその権利を証明するときは、その所持人は、その証券を返還する義務を負わない。ただし、その所持人が悪意又は重大な過失によりその証券を取得したときは、この限りでない。
(指図証券の譲渡における債務者の抗弁の制限)第520条の6 指図証券の債務者は、その証券に記載した事項及びその証券の性質から当然に生ずる結果を除き、その証券の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。
(指図証券の質入れ)第520条の7 第520条の2から前条までの規定は、指図証券を目的とする質権の設定について準用する。
(指図証券の弁済の場所)第520条の8 指図証券の弁済は、債務者の現在の住所においてしなければならない。
(指図証券の提示と履行遅滞)第520条の9 指図証券の債務者は、その債務の履行について期限の定めがあるときであっても、その期限が到来した後に所持人がその証券を提示してその履行の請求をした時から遅滞の責任を負う。
(指図証券の債務者の調査の権利等)第520条の10 指図証券の債務者は、その証券の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが、その義務を負わない。ただし、債務者に悪意又は重大な過失があるときは、その弁済は、無効とする。
(指図証券の喪失)第520条の11 指図証券は、非訟事件手続法(平成23年法律第51号)第100条に規定する公示催告手続によって無効とすることができる。
(指図証券喪失の場合の権利行使方法)第520条の12 金銭その他の物又は有価証券の給付を目的とする指図証券の所持人がその指図証券を喪失した場合において、非訟事件手続法第114条に規定する公示催告の申立てをしたときは、その債務者に、その債務の目的物を供託させ、又は相当の担保を供してその指図証券の趣旨に従い履行をさせることができる。

第2款 記名式所持人払証券

(記名式所持人払証券の譲渡)第520条の13 記名式所持人払証券(債権者を指名する記載がされている証券であって、その所持人に弁済をすべき旨が付記されているものをいう。以下同じ。)の譲渡は、その証券を交付しなければ、その効力を生じない。
(記名式所持人払証券の所持人の権利の推定)第520条の14 記名式所持人払証券の所持人は、証券上の権利を適法に有するものと推定する。
(記名式所持人払証券の善意取得)第520条の15 何らかの事由により記名式所持人払証券の占有を失った者がある場合において、その所持人が前条の規定によりその権利を証明するときは、その所持人は、その証券を返還する義務を負わない。ただし、その所持人が悪意又は重大な過失によりその証券を取得したときは、この限りでない。
(記名式所持人払証券の譲渡における債務者の抗弁の制限)第520条の16 記名式所持人払証券の債務者は、その証券に記載した事項及びその証券の性質から当然に生ずる結果を除き、その証券の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。
(記名式所持人払証券の質入れ)第520条の17 第520条の13から前条までの規定は、記名式所持人払証券を目的とする質権の設定について準用する。
(指図証券の規定の準用)第520条の18 第520条の8から第520条の12までの規定は、記名式所持人払証券について準用する。

第3款 その他の記名証券
第520条の19 債権者を指名する記載がされている証券であって指図証券及び記名式所持人払証券以外のものは、債権の譲渡又はこれを目的とする質権の設定に関する方式に従い、かつ、その効力をもってのみ、譲渡し、又は質権の目的とすることができる。
②第520条の11及び第520条の12の規定は、前項の証券について準用する。

第4款 無記名証券
第520条の20 第2款(記名式所持人払証券)の規定は、無記名証券について準用する。

第2章 契約


Ⅰ 契約総論

①契約の意義

②契約の種類

③契約の成立

契約は当事者間の意思表示の合致で成立する。


④契約の解除

解除とは、有効に成立した契約を一定の条件の下に破棄することをいい、約定解除と法定解除とが定められている。
法定解除には、債務不履行による解除と売主の担保責任による解除があり、法定解除をする場合、損害賠償の場合と異なり、債務者に帰責事由がなくても解除できる。
契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。(540-1)
解除の意思表示は、撤回することができない。(540-2)
債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前2条の規定による契約の解除をすることができない。(543)
1 催告による解除(541)
 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
 ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

賃貸借は、当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約である。
賃貸借の継続中に、当事者の一方に、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあった場合には、相手方は、賃貸借を将来に向って解除できる。この場合には民法541条所定の催告は必要としない。

(大判昭和2年2月2日、最判昭和44年4月15日)
期間を定めずに催告しても、催告から相当期間を経過すれば解除することができる。
2 催告によらない解除(542)
① 次に掲げる場合、債権者は催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

1 債務の全部の履行が不能であるとき。
2 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
3 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
4 契約の性質・当事者の意思表示により、特定の日時又は一定期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合に、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
5 債務者がその債務の履行をせず、催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
② 次に掲げる場合、債権者は催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
1 債務の一部の履行が不能であるとき。
2 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。


⑤解約の効果(545)

・当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状回復義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
・金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
・金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
・解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。


⑥第三者との関係

・当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状回復義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。

(S33.6.14)
第545条のただし書の第三者として保護されるためには、善意・悪意は問わないが、権利保護要件としての対抗要件が必要であり、不動産の場合は登記が対抗要件となる。

⑦解除権の不可分性(544)

・ 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員からその全員に対して行わなければならない。
・ 解除権が当事者のうちの1人について消滅したときは、他の者についても消滅する。

⑧同時履行の抗弁権(533)

 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

(最判昭和34年5月14日)
相手方が債務の履行をしたときに、同時履行の抗弁権は消滅するのかについて、判例は「双務契約の当事者の一方は相手方の履行の提供があっても、その提供が継続されない限り同時履行の抗弁権を失うものでない

⑨債務者の危険負担等(536)

・ 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
・ 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

第1款 契約の成立

第521条(契約の締結及び内容の自由)
①何人も法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
②契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。

第522条(契約の成立と方式)
① 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
② 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

第523条(承諾の期間の定めのある申込み)
①承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
②申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。

第524条(遅延した承諾の効力)
 申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる。

第525条(承諾の期間の定めのない申込み)
①承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときはこの限りでない。
②対話者に対してした前項の申込みは、同項の規定にかかわらず、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。
③対話者に対してした第1項の申込みに対して対話が継続している間に申込者が承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは、この限りでない。

第526条(申込者の死亡等)
 申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。

第527条(承諾の通知を必要としない場合における契約の成立時期)
 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。

第528条(申込みに変更を加えた承諾)
 承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす。

第529条(懸賞広告)
 懸賞広告者は、その行為をした者がその広告を知っていたかどうかにかかわらず、その者に対してその報酬を与える義務を負う。

(指定した行為をする期間の定めのある懸賞広告)第529条の2
 懸賞広告者は、その指定した行為をする期間を定めてした広告を撤回することができない。ただし、その広告において撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
②前項の広告は、その期間内に指定した行為を完了する者がないときは、その効力を失う。

(指定した行為をする期間の定めのない懸賞広告)第529条の3
 懸賞広告者は、その指定した行為を完了する者がない間は、その指定した行為をする期間を定めないでした広告を撤回することができる。ただし、その広告中に撤回をしない旨を表示したときは、この限りでない。

(懸賞広告の撤回の方法)第530条
 前の広告と同一の方法による広告の撤回は、これを知らない者に対しても、その効力を有する。
②広告の撤回は、前の広告と異なる方法によっても、することができる。ただし、その撤回は、これを知った者に対してのみ、その効力を有する。

(懸賞広告の報酬を受ける権利)第531条
 広告に定めた行為をした者が数人あるときは、最初にその行為をした者のみが報酬を受ける権利を有する。
②数人が同時に前項の行為をした場合には、各自が等しい割合で報酬を受ける権利を有する。ただし、報酬がその性質上分割に適しないとき、又は広告において1人のみがこれを受けるものとしたときは、抽選でこれを受ける者を定める。
③前2項の規定は、広告中にこれと異なる意思を表示したときは、適用しない。
(優等懸賞広告)第532条
 広告に定めた行為をした者が数人ある場合において、その優等者のみに報酬を与えるべきときは、その広告は、応募の期間を定めたときに限り、その効力を有する。
②前項の場合において、応募者中いずれの者の行為が優等であるかは、広告中に定めた者が判定し、広告中に判定をする者を定めなかったときは懸賞広告者が判定する。
③応募者は、前項の判定に対して異議を述べることができない。
④前条第2項の規定は、数人の行為が同等と判定された場合について準用する。

第2款 契約の効力

第537条(第三者のためにする契約)
① 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
② 第三者のためにする契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
③ 第三者のためにする契約において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。

第538条(第三者の権利の確定)
① 第三者のためにする契約により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
② 第三者の権利が発生した後に、債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には、第三者のためにする契約の相手方は、その第三者の承諾を得なければ、契約を解除することができない。

第539条(債務者の抗弁)
 債務者は、第三者のためにする契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。

第3款 契約上の地位の移転

第539条の2(契約上の地位の移転)
 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。

第4款 契約の解除

第546条(契約の解除と同時履行)
同時履行の抗弁の規定は、契約の解除の場合について準用する。

(催告による解除権の消滅)第547条
 解除権の行使について期間の定めがないときは、相手方は、解除権を有する者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その期間内に解除の通知を受けないときは、解除権は、消滅する。

(解除権者の故意による目的物の損傷等による解除権の消滅)第548条
 解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない。

第5款 定型約款

第548条の2(定型約款の合意)
 定型取引を行うことの合意をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
1 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
2 定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
② 定型約款の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らし、信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

第548条の3(定型約款の内容の表示)
 定型取引を行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。
 ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付していたときは、この限りでない。
② 定型約款準備者が定型取引合意の前において内容の表示の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。
 ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

第548条の4(定型約款の変更)
 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
1 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
2 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
②定型約款準備者は、定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
③定型約款の変更は、効力発生時期が到来するまでに周知をしなければ、その効力を生じない。
④第548条の2第2項の規定は、第1項の規定による定型約款の変更については、適用しない。


第2節 贈与

第549条(贈与) 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

第550条(書面によらない贈与の解除)
 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。

(最判昭和40年3月26日)
不動産の贈与契約において、当該不動産の所有権移転登記が経由されたときは、当該不動産の引渡の有無を問わず、贈与の履行を終ったものと解すべきであるとしている

(最判昭和60年11月29日)
 贈与が書面によってされたといえるためには、贈与の意思表示自体が書面によっていることを必要としないことはもちろん、書面が贈与の当事者間で作成されたこと、又は書面に無償の趣旨の文言が記載されていることも必要とせず、書面に贈与がされたことを確実に看取しうる程度の記載があれば足りる。つまり「贈与契約書」という形式のものは不要である。

第551条(贈与者の引渡義務等)
① 贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する。
② 負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。

第552条(定期贈与)
 定期の給付を目的とする贈与は、贈与者又は受贈者の死亡によって、その効力を失う。

第553条(負担付贈与)
 負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する。

(最判昭和53年2月17日)
債務不履行解除については負担付贈与の性質には反しないと考えられるため、受贈者が負担した義務を怠ったとき、贈与者は贈与契約を解除することができるとされる。

第554条(死因贈与)
 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。

(最判昭和47年5月25日)
死因贈与については、遺言の取消に関する民法1022条がその方式に関する部分を除いて準用される。死因贈与契約を贈与者は解除できることになる。なぜなら、判例によると、死因贈与は贈与者の死亡によって贈与の効力が生ずるものであるが、かかる贈与者の死後の財産に関する処分については、遺贈と同様、贈与者の最終意思を尊重し、これによって決するのを相当とする。

(最判昭和57年4月30日)
負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づいて受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては、贈与者の最終意思を尊重する余り受贈者の利益を犠牲にすることは相当でないから、当該贈与契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、当該契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし当該負担の履行状況にもかかわらず負担付死因贈与契約の全部又は一部の取消(条文上の「解除」)をすることがやむをえないと認められる特段の事情がない限り、遺言の取消に関する民法1022条、1023条の各規定を準用するのは相当でないと解すべき」としている。
したがって、受贈者が負担を全部またはこれに類する程度まで履行した状況で、贈与者が負担付死因贈与契約を解除できるとする本肢は妥当でない。


第3節 売買


第1款 総則

第555条(売買)
 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

第556条(売買の一方の予約)
 売買の一方の予約は、相手方が売買を完結する意思を表示した時から、売買の効力を生ずる。
②前項の意思表示について期間を定めなかったときは、予約者は、相手方に対し、相当の期間を定めて、その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、相手方がその期間内に確答をしないときは、売買の一方の予約は、その効力を失う。

第557条(手付)
① 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
② 手付解除の場合には、損害賠償の請求をすることはできない

第558条(売買契約に関する費用)
 売買契約に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担する。

第559条(有償契約への準用)
 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。
 ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。


第2款 売買の効力

第560条(権利移転の対抗要件に係る売主の義務) 売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う。


★売主の担保責任

■ 他人の権利の売買(第561条)
 他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。

■ 契約不適合売買(562)
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して、契約の内容に適合しないもの(契約不適合)であるときは、売主は、これに対して責任を負う。
→ 契約不適合責任を追及するには、買主の善意・悪意を問わない
1 追完請求権(第562条)
 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は売主に対し、目的物の修補、代替物又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求できる。
 ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
② 契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、履行の追完の請求をすることができない。
→契約不適合責任を負うべき「契約不適合」とは、客観的にみて契約の目的物が通常有すべき品質・性能を有しないことをいうという点は正しい。しかし、売主が目的物について特に保証した品質・性能を有しない場合にも「契約不適合」に該当する(「瑕疵」についての判例)。

2 代金減額請求権(第563条)
 買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求できる。
②以下の場合には、買主は、履行の追完の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
履行の追完が不能であるとき
売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき
定期行為に関する契約をした目的を達することができない場合、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき
買主が催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。

③ 契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、代金減額の請求をすることができない。

3 損害賠償請求及び解除権の行使(第564条)
 前2条の規定は、損害賠償の請求並びに解除権の行使を妨げない。

第565条(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)
 前3条の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。

第566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
 売主が種類・品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

※ 「数量の不足」は外形上明白であることから、買主の権利に期間制限を適用してまで、売主を保護する必要性は乏しい。また「数量の不足」の場合は、短期間で瑕疵の有無の判断が困難となるとはいえません。
よって、数量不足での契約不適合の場合、買主の権利については、期間制限は適用されない。

第567条(目的物の滅失等についての危険の移転)
① 売主が買主に目的物(特定したものに限る)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失・損傷したときは、買主は、その滅失・損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
② 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。

第568条(競売における担保責任等)
 競売における買受人は、第541条及び第542条の規定並びに第563条(第565条において準用する場合を含む。)の規定により、債務者に対し契約の解除をし又は代金の減額を請求することができる。
②前項の場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
③前2項の場合において、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人は、これらの者に対し、損害賠償の請求をすることができる。
④前3項の規定は、競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については、適用しない。

第569条(債権の売主の担保責任)
① 債権の売主が債務者の資力を担保したときは、契約の時における資力を担保したものと推定する。
② 弁済期に至らない債権の売主が債務者の将来の資力を担保したときは、弁済期における資力を担保したものと推定する。

第570条(抵当権等がある場合の買主による費用の償還請求)
 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権・質権・抵当権が存していた場合において、買主が費用を支出してその不動産の所有権を保存したときは、買主は、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。

第572条(担保責任を負わない旨の特約)
 売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
→ 民法上の契約不適合責任の内容として契約不適合の修補請求が認められているという点は正しいが、契約自由の原則に基づき、契約不適合の修補請求を認めない旨の特約は有効である。

第573条(代金の支払期限) 売買の目的物の引渡しについて期限があるときは、代金の支払についても同一の期限を付したものと推定する。

第574条(代金の支払場所) 売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは、その引渡しの場所において支払わなければならない。

第575条(果実の帰属及び代金の利息の支払) まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する。
②買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う。ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない。

第576条(権利を取得することができない等のおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)
 売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により、買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず、又は失うおそれがあるときは、買主は、その危険の程度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。

(最判昭和50年4月25日)
所有権ないし賃貸権限を有しない者から不動産を貸借した者は、その不動産につき権利を有する者から不動産の明渡を求められた場合には、貸借不動産を使用収益する権原を主張することができなくなるおそれが生じたものとして、民法559条で準用する同法576条により、明渡請求を受けた以後は、賃貸人に対する賃料の支払を拒絶することができる

第577条(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶) 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。この場合において、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。
②前項の規定は、買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。

第578条(売主による代金の供託の請求) 前2条の場合においては、売主は、買主に対して代金の供託を請求することができる。



第3款 買戻し

(買戻しの特約)第579条 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。第583条第1項において同じ。)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。

第580条(買戻しの期間)
 買戻しの期間は、10年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは、その期間は、10年とする。
②買戻しについて期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができない。
③買戻しについて期間を定めなかったときは、5年以内に買戻しをしなければならない。

(買戻しの特約の対抗力)第581条 売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対抗することができる。
②前項の登記がされた後に第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた賃借人の権利は、その残存期間中1年を超えない期間に限り、売主に対抗することができる。ただし、売主を害する目的で賃貸借をしたときは、この限りでない。
(買戻権の代位行使)第582条 売主の債権者が第423条の規定により売主に代わって買戻しをしようとするときは、買主は、裁判所において選任した鑑定人の評価に従い、不動産の現在の価額から売主が返還すべき金額を控除した残額に達するまで売主の債務を弁済し、なお残余があるときはこれを売主に返還して、買戻権を消滅させることができる。

第583条(買戻しの実行)
① 売主は、期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ、買戻しをすることができない。
② 買主・転得者が不動産について費用を支出したときは、売主は、第196条(占有者による費用の償還請求)の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、有益費については、裁判所は、売主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

(共有持分の買戻特約付売買)第584条
 不動産の共有者の1人が買戻しの特約を付してその持分を売却した後に、その不動産の分割又は競売があったときは、売主は、買主が受け、若しくは受けるべき部分又は代金について、買戻しをすることができる。ただし、売主に通知をしないでした分割及び競売は、売主に対抗することができない。

第585条
 前条の場合において、買主が不動産の競売における買受人となったときは、売主は、競売の代金及び第583条に規定する費用を支払って買戻しをすることができる。この場合において、売主は、その不動産の全部の所有権を取得する。
②他の共有者が分割を請求したことにより買主が競売における買受人となったときは、売主は、その持分のみについて買戻しをすることはできない。


第4節 交換

第586条(交換) 交換は、当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって、その効力を生ずる。
②当事者の一方が他の権利とともに金銭の所有権を移転することを約した場合におけるその金銭については、売買の代金に関する規定を準用する。


第5節 消費貸借

第587条(消費貸借)
 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

第587条の2(書面でする消費貸借等)
 書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
② 書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。
③書面でする消費貸借は、借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。
④消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その消費貸借は、書面によってされたものとみなして、前3項の規定を適用する。

第588条(準消費貸借)
 金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは、消費貸借は、これによって成立したものとみなす。

第589条(利息)
① 貸主は、特約がなければ、借主に対して利息を請求することができない。
② 前項の特約があるときは、貸主は、借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる。

第590条(貸主の引渡義務等)
① 第551条の規定は、前条第1項の特約のない消費貸借について準用する。
② 前条第1項の特約の有無にかかわらず、貸主から引き渡された物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは、借主は、その物の価額を返還することができる。

第591条(返還の時期)
① 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
② 借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができる。
③ 当事者が返還の時期を定めた場合において、貸主は、借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。

第592条(価額の償還)
 借主が貸主から受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることができなくなったときは、その時における物の価額を償還しなければならない。ただし、第402条第2項に規定する場合は、この限りでない。

■ 使用貸借

① 概要(第593条・第593条の2)

 使用貸借は、貸主がある物を引き渡すことを約し、借主がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる契約。
 貸主は、借主が借用物を受け取るまで、契約の解除ができる。ただし、書面による使用貸借契約のときは、契約を解除できない。

② 借主による使用及び収益(第594条)

 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
 また借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができず、これに違反して使用又は収益をしたときは、貸主は契約の解除ができる。
 なお、不動産の使用貸借は登記が認められていないため、第三者には対抗できない。

③ 借用物の費用の負担(第595条)

ア)通常の必要費
 借主は、借用物の通常の必要費を負担する。
イ)通常の必要費以外の費用
 通常の必要費以外の費用を借主が支出したときは、その価値の増加が現存する場合に限って、「貸主」
の選択に従い、その支出した金額、又は増価額を償還させることができる。

④ 貸主の引渡義務等(第596条)

 使用貸借の貸主は、使用貸借の目的である物を、使用貸借の目的として特定した時の状態で引き渡すことを約したものと推定する。
引き渡し時に専有部分に瑕疵があっても、原則として貸主は担保責任を負わない。

⑤ 期間満了等による使用貸借の終了(第597条)

使用貸借については、特に存続期間についての制限はない。

ア)当事者が使用貸借の期間を定めたとき
  使用貸借は当事者が定めた期間が満了することによって終了する。
※ 使用貸借の返還時期を定めた場合、それ以前に貸主都合での明渡請求はできない。
※ 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。

イ)当事者が使用貸借の期間を定めず、使用及び収益の目的を定めたとき
  使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。また貸主は、借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、契約の解除をすることができる。

ウ)当事者が使用貸借の期間を定めず、使用及び収益の目的を定めなかったとき
  使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも契約を解除できる。

⑥ 使用貸借の解除(第598条)

 「借主」からは、いつでも契約の解除をすることができる

⑦ 借主死亡による使用貸借の終了

 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。一方で貸主が死亡しても、使用貸借は終了しない。

⑧ 借主による収去等(第599条)

ア)附属物について
 借主は、借用物を受け取った後に附属させた物がある場合に、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。
 ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
 また、借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
イ)借用物の損傷
 借主は、借用物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、使用貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。
 ただし、その損傷が借主の責めに帰することができない事由による場合は、この限りでない。

⑨ 損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限(第600条)

 契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。この請求権は、貸主が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は完成しない。

【賃貸借と使用貸借の相違一覧表】
賃貸借
使用貸借
契約の解除
(期間の定めがある場合)
・期間の定めに従う。ただし、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、いつでも解約の申入れをすることができる
・期間の定めに従う

契約の解除
(期間の定めがない場合)
各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる
借主が目的に沿って使用収益をするのに足りる期間を経過すれば、貸主は契約の解除が可能
・期間や使用収益する期間を定めない場合、貸主・借主はいつでも契約を解除可能
借主の死亡
契約継続
契約解除
貸主の死亡
契約継続
契約継続
借主の原状回復義務
経年劣化や通常の利用による損耗については義務を負わない
経年劣化や通常の利用による損耗についての定めがない
対抗要件
借地上の建物の登記
借家の引渡し、または賃借権の登記
なし

第7節 賃貸借

第1款 総則

第601条(賃貸借)
 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

第602条(短期賃貸借)
 処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。
樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借
10年
前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借
5年
建物の賃貸借
3年
動産の賃貸借
6箇月

第603条(短期賃貸借の更新)
 前条に定める期間は、更新することができる。ただし、その期間満了前、土地については1年以内、建物については3箇月以内、動産については1箇月以内に、その更新をしなければならない。

第604条(賃貸借の存続期間)
 賃貸借の存続期間は、50年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする。
②賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から50年を超えることができない。



第2款 賃貸借の効力

第605条(不動産賃貸借の対抗力)
 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転)
① 賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
② 不動産の譲渡人・譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。
 この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。
③ 賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
④ 賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、費用の償還に係る債務及び敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。

(最判昭和47年6月22日)
 土地の賃借人は、借地上に妻名義で保存登記を経由した建物を所有していても、その後その土地の所有権を取得した第三者に対し、その土地の賃借権をもって対抗することができない

第605条の3(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転)
 不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。
 この場合においては、前条第3項及び第4項の規定を準用する。

第605条の4(不動産の賃借人による妨害の停止の請求等)
 不動産の賃借人は、賃貸借の対抗要件を備えた場合において、以下に掲げる通りの請求をすることができる。
不動産の占有を第三者が妨害しているとき
第三者に対する妨害の停止の請求
不動産を第三者が占有しているとき
第三者に対する返還の請求

第606条(賃貸人による修繕等)
① 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
② 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするとき、賃借人はこれを拒むことができない。

(最判昭和29年6月25日)
一定の範囲で修繕を賃借人の義務とすることを特約しても差し支えない。

第607条(賃借人の意思に反する保存行為)
 賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

第607条の2(賃借人による修繕)
 賃借物の修繕が必要である場合、次に掲げるときは、賃借人はその修繕をすることができる。
1 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
2 急迫の事情があるとき。

第608条(賃借人による費用の償還請求)
① 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
② 賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、占有者による費用の償還請求の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

第609条(減収による賃料の減額請求)
 耕作・牧畜を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。

第610条(減収による解除)
 前条の場合において、同条の賃借人は、不可抗力によって引き続き2年以上賃料より少ない収益を得たときは、契約の解除をすることができる。

第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
② 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
① 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
→賃貸人の承諾が得られない場合でも、解除されるまでは、すぐに転貸借契約が無効になるわけではなく、それまでは賃料の支払いを請求することができる。

② 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

S47.3.9
賃借地上にある建物の売買契約が締結された場合は、特別の事情のない限り、売主は、買主に対し、その建物の敷地の賃借権をも譲渡したことになるため、その賃借権譲渡につき賃貸人の承諾を得る義務を負う
S26.5.31
賃借権の譲渡・転貸を承諾しない賃貸人は、賃貸借契約を解除しなくても、譲受人又は転借人に対し、「所有権」に基づいて賃借物の明渡しを請求できる。

第613条(転貸の効果)
① 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合において、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
② 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
③ 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。

(最判昭和31年4月5日)
合意解除においては、賃借人において自らその権利を放棄したことになるのであるから、これをもって第三者に対抗し得ないものと解すべきであり、このことは民法398条、民法538条の法理からも推論することができるし、信義誠実の原則に照しても当然のことだからである

(最判昭和38年2月21日)
土地の賃借人と土地賃貸人との間において土地賃貸借契約を合意解除しても、土地賃貸人は、特別の事情がないかぎり、その効果をその土地上の建物の賃借人に対抗できないとされる。

(最判昭和37年3月29日)
賃料の延滞を理由として賃貸借を解除するには、賃貸人は賃借人に対して催告をすれば足り、転借人にその支払の機会を与える必要はない

(賃料の支払時期)第614条 賃料は、動産、建物及び宅地については毎月末に、その他の土地については毎年末に、支払わなければならない。ただし、収穫の季節があるものについては、その季節の後に遅滞なく支払わなければならない。
(賃借人の通知義務)第615条 賃借物が修繕を要し、又は賃借物について権利を主張する者があるときは、賃借人は、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし、賃貸人が既にこれを知っているときは、この限りでない。
(賃借人による使用及び収益)第616条 第594条第1項の規定は、賃貸借について準用する。


第3款 賃貸借の終了

第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)
 賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。

(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)第617条 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
1 土地の賃貸借 1年
2 建物の賃貸借 3箇月
3 動産及び貸席の賃貸借 1日
②収穫の季節がある土地の賃貸借については、その季節の後次の耕作に着手する前に、解約の申入れをしなければならない。
(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保)第618条 当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する。
(賃貸借の更新の推定等)第619条 賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第617条の規定により解約の申入れをすることができる。
②従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、第622条の2第1項に規定する敷金については、この限りでない。

第620条(賃貸借の解除の効力)
 賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

第621条(賃借人の原状回復義務)
 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

第622条(使用貸借の規定の準用)
 下記の規定は、賃貸借について準用する。

第597条第1項
期間満了等による使用貸借の終了
第599条第1項及び第2項
借主による収去等
第600条
損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限


第4款 敷金

第622条の2
① 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない

1 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
2 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

②賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

(最判昭和49年9月2日)
 敷金は、賃貸人が賃借人に対して、債権を担保するためのものであって、賃貸借契約に附随するものではあるが、賃貸借契約そのものではないから、賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、一個の双務契約によって生じた対価的債務の関係とは言えず、また債務の間には著しい価値の差がある。そのため、賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務は、同時履行の関係には立たない。



第8節 雇用

第623条(雇用)
 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

第624条(報酬の支払時期)
① 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。
② 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。

第624条の2(履行の割合に応じた報酬)
 労働者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
1 使用者の責めに帰することができない事由によって労働に従事することができなくなったとき。
2 雇用が履行の中途で終了したとき。

(使用者の権利の譲渡の制限等)第625条
 使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。
②労働者は、使用者の承諾を得なければ、自己に代わって第三者を労働に従事させることができない。
③労働者が前項の規定に違反して第三者を労働に従事させたときは、使用者は、契約の解除をすることができる。

(期間の定めのある雇用の解除)第626条
 雇用の期間が5年を超え、又はその終期が不確定であるときは、当事者の一方は、5年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。
②前項の規定により契約の解除をしようとする者は、それが使用者であるときは3箇月前、労働者であるときは2週間前に、その予告をしなければならない。

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)第627条
 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
②期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
③6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、3箇月前にしなければならない。

(やむを得ない事由による雇用の解除)第628条
 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

(雇用の更新の推定等)第629条
 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。
②従前の雇用について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、身元保証金については、この限りでない。

(雇用の解除の効力)第630条
 第620条の規定は、雇用について準用する。

(使用者についての破産手続の開始による解約の申入れ)第631条
 使用者が破産手続開始の決定を受けた場合には、雇用に期間の定めがあるときであっても、労働者又は破産管財人は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。この場合において、各当事者は、相手方に対し、解約によって生じた損害の賠償を請求することができない。


第9節 請負

第632条(請負)
 請負は、当事者の一方が、ある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
第633条(報酬の支払時期)
 報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。
 ただし、物の引渡しを要しないときは、仕事の完成後に報酬を支払わなければならない。
第634条(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
 以下の場合は、請負人が既にした仕事の結果のうち、可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。
 この場合、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できる。
1 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成できなくなったとき。
2 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
第636条(請負人の担保責任の制限)
 請負人が、種類・品質に関して、契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したときは、注文者は、①履行の追完の請求②報酬の減額の請求③損害賠償の請求④契約の解除ができる。
 もっとも、目的物の不適合が「注文者の供した材料の性質」又は「注文者の与えた指図」によって生じたものであるときは、請負人に担保責任を追及することができない。ただし、請負人がその材料・指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、担保責任を追及することができる。
第637条(目的物の種類・品質に関する担保責任の期間の制限)
① 請負人の担保責任がある場合、注文者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として①追完請求②報酬減額請求③損害賠償請求④契約の解除ができない。
② 仕事の目的物を注文者に引き渡した時に、請負人が不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、担保責任の期間の制限の規定は適用されない。
第641条(注文者による契約の解除)
 注文者は、請負人が仕事を完成する前であれば、いつでも損害を賠償して契約を解除できる。

(大判昭和7年4月30日、最判昭和56年2月17日)
目的物が可分である場合に未完成部分だけの解除をすることができる。
第642条(注文者についての破産手続の開始による解除)
① 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人・破産管財人は、契約の解除をすることができる。ただし仕事を完成した後は、請負人による契約の解除ができない。
② 請負人は、既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について、破産財団の配当に加入することができる。
③ 契約の解除によって生じた損害の賠償は、破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り、請求できる。請負人はその損害賠償について、破産財団の配当に加入する。


第10節 委任

第643条(委任)
 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
  法律行為以外をなすことを委託した場合は準委任となり、マンションの管理委託契約はこれに当たる。

■受任者の義務

① 受任者の注意義務(第644条)
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
→善良なる管理者の注意を尽くしていたのならば、委任契約の債務不履行にはならず、損害賠償責任を負う必要はない。
② 報告義務(第645条)
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
③ 受取物・果実の引渡義務(第646条1項・第647条)
 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
 受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
④ 取得権利の移転義務(第646条2項)
受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。

■委任者の義務

① 報酬支払義務(第648条・第648条の2)
・受任者は、特約があれば、委任者に対して報酬を請求することができる。
・報酬を受けるべき場合、受任者は委任事務を履行した後に、これを請求できる。
 期間によって報酬を定めたときは、その期間を経過後に、報酬を請求できる。
・受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
委任者の責めに帰することができない事由により、委任事務の履行できなくなったとき
委任が履行の中途で終了したとき
・委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。
・履行の途中で委任が終了した場合、既にした履行の割合に応じて、報酬を請求できる。
② 費用の前払義務(第649条)
 委任者は、受任者の請求があれば、委任事務処理に必要な費用を、前払いしなければならない。
③ 費用償還義務(第650条第1項)
 受任者が委任事務の処理に必要な費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求できる。
④ 代弁済・担保提供義務(第650条第2項)
 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求できる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
⑤ 損害賠償義務(第650条第3項)
 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求できる。

■復受任者の選任等(第644条の2)

① 受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。
② 代理権を付与する委任において、受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは、復受任者は、委任者に対して、その権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う。

■委任の終了

① 委任の解除(第651条)
 ・委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
 ・委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
1 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
2 委任者が受任者の利益をも目的とする委任を解除したとき。
② 委任の解除の効力(第652条)
 委任の解除をした場合、その解除は、将来に向かってのみ効力を生ずる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
③ 委任の終了事由(第653条)
 委任は、次に掲げる事由によって終了する。
受任者
委任者
死亡
終了する
終了する
破産手続開始の決定
終了する
終了する
後見開始の審判
終了する

第654条(委任の終了後の処分)
 委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。

第655条(委任の終了の対抗要件)
 委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない。

第656条(準委任)
 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。


第11節 寄託

第657条(寄託)
 寄託は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

第657条の2(寄託物受取り前の寄託者による寄託の解除等)
① 寄託者は、受寄者が寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。
 この場合において、受寄者は、その契約の解除によって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。
② 無報酬の受寄者は、寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。
 ただし、書面による寄託については、この限りでない。
③ 受寄者(無報酬で寄託を受けた場合にあっては、書面による寄託の受寄者に限る。)は、寄託物を受け取るべき時期を経過したにもかかわらず、寄託者が寄託物を引き渡さない場合において、相当の期間を定めてその引渡しの催告をし、その期間内に引渡しがないときは、契約の解除をすることができる。

第658条(寄託物の使用及び第三者による保管)
 受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、寄託物を使用することができない。
②受寄者は、寄託者の承諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、寄託物を第三者に保管させることができない。
③再受寄者は、寄託者に対して、その権限の範囲内において、受寄者と同一の権利を有し、義務を負う。

第659条(無報酬の受寄者の注意義務)
 無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。

第660条(受寄者の通知義務等)
① 寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。ただし、寄託者が既にこれを知っているときは、この限りでない。
② 第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても、受寄者は、寄託者の指図がない限り、寄託者に対しその寄託物を返還しなければならない。ただし、受寄者が前項の通知をした場合又は同項ただし書の規定によりその通知を要しない場合において、その寄託物をその第三者に引き渡すべき旨を命ずる確定判決があったときであって、その第三者にその寄託物を引き渡したときは、この限りでない。
③ 受寄者は、前項の規定により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には、寄託者にその寄託物を引き渡したことによって第三者に損害が生じたときであっても、その賠償の責任を負わない。

第661条(寄託者による損害賠償)
 寄託者は、寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければならない。ただし、寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知らなかったとき、又は受寄者がこれを知っていたときは、この限りでない。

第662条(寄託者による返還請求等)
 当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる。
②前項に規定する場合において、受寄者は、寄託者がその時期の前に返還を請求したことによって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。

第663条(寄託物の返還の時期)
 当事者が寄託物の返還の時期を定めなかったときは、受寄者は、いつでもその返還をすることができる。
②返還の時期の定めがあるときは、受寄者は、やむを得ない事由がなければ、その期限前に返還をすることができない。

第664条(寄託物の返還の場所)
 寄託物の返還は、その保管をすべき場所でしなければならない。ただし、受寄者が正当な事由によってその物を保管する場所を変更したときは、その現在の場所で返還をすることができる。

第664条の2(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
 寄託物の一部滅失又は損傷によって生じた損害の賠償及び受寄者が支出した費用の償還は、寄託者が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
② 損害賠償請求権については、寄託者が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

第665条(委任の規定の準用)
 第646条から第648条まで、第649条並びに第650条第1項及び第2項の規定は、寄託について準用する。

第646条(受任者による受取物の引渡し等) 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
②受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。

第647条(受任者の金銭の消費についての責任) 受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

第648条(受任者の報酬) 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
②受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第624条第2項の規定を準用する。
③受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
1 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
2 委任が履行の中途で終了したとき。

第649条(受任者による費用の前払請求) 委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。

第650条(受任者による費用等の償還請求等) 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
②受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。

第665条の2(混合寄託) 複数の者が寄託した物の種類及び品質が同一である場合には、受寄者は、各寄託者の承諾を得たときに限り、これらを混合して保管することができる。
②前項の規定に基づき受寄者が複数の寄託者からの寄託物を混合して保管したときは、寄託者は、その寄託した物と同じ数量の物の返還を請求することができる。
③前項に規定する場合において、寄託物の一部が滅失したときは、寄託者は、混合して保管されている総寄託物に対するその寄託した物の割合に応じた数量の物の返還を請求することができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

第666条(消費寄託) 受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。
②第590条及び第592条の規定は、前項に規定する場合について準用する。
③第591条第2項及び第3項の規定は、預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合について準用する。

第590条(貸主の引渡義務等) 第551条の規定は、前条第1項の特約のない消費貸借について準用する。
②第589条第1項の特約の有無にかかわらず、貸主から引き渡された物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは、借主は、その物の価額を返還することができる。


第12節 組合

第667条(組合契約)
①組合契約は各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによってその効力を生ずる。
②出資は、労務をその目的とすることができる。

第667条の2(他の組合員の債務不履行)
① 第533条及び第536条の規定は、組合契約については、適用しない。
② 組合員は、他の組合員が組合契約に基づく債務の履行をしないことを理由として、組合契約を解除することができない。

第667条の3(組合員の1人についての意思表示の無効等)
 組合員の1人について意思表示の無効又は取消しの原因があっても、他の組合員の間においては、組合契約は、その効力を妨げられない。

第668条(組合財産の共有)
 各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属する。

(S33.7.22)
特別の規定がない限り、共有に関する規定が適用される

第669条(金銭出資の不履行の責任)
 金銭を出資の目的とした場合において、組合員がその出資をすることを怠ったときは、その利息を支払うほか、損害の賠償をしなければならない。

第670条(業務の決定及び執行の方法)
① 組合の業務は、組合員の過半数をもって決定し、各組合員がこれを執行する。
② 組合の業務の決定及び執行は、組合契約の定めるところにより、1人又は数人の組合員又は第三者に委任することができる。
③ 委任を受けた者(業務執行者)は、組合の業務を決定し、これを執行する。この場合において、業務執行者が数人あるときは、組合の業務は、業務執行者の過半数をもって決定し、各業務執行者がこれを執行する。
④ 組合の業務については、総組合員の同意によって決定し、又は総組合員が執行することを妨げない。
⑤ 組合の常務は、組合員又は業務執行者が単独で行うことができる。ただし、その完了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときは、この限りでない。

(S38.5.31)
組合契約による業務執行者の業務執行権の制限は、善意無過失の第三者に対抗できない。

第670条の2(組合の代理)
 各組合員は、組合の業務を執行する場合において、組合員の過半数の同意を得たときは、他の組合員を代理することができる。
②前項の規定にかかわらず、業務執行者があるときは、業務執行者のみが組合員を代理することができる。この場合において、業務執行者が数人あるときは、各業務執行者は、業務執行者の過半数の同意を得たときに限り、組合員を代理することができる。
③前2項の規定にかかわらず、各組合員又は各業務執行者は、組合の常務を行うときは、単独で組合員を代理することができる。

第671条(委任の規定の準用)
 以下の規定は、組合の業務を決定・執行する組合員について準用する。

第644条
組合員は、善良な管理者の注意をもって、組合業務を処理する義務を負う。
第644条の2
① 組合員は、組合の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。
② 代理権を付与する委任において、組合員が代理権を有する復受任者を選任したときは、復受任者は、組合に対して、その権限の範囲内において、組合員と同一の権利を有し、義務を負う。
第645条
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
第646条
① 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
② 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
第647条
受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う
第648条
①組合員は、特約がなければ、組合に対して報酬を請求できない。
② 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第624条第2項の規定を準用する。
③ 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
委任者の責めに帰することができない事由により、委任事務の履行ができなくなったとき
委任が履行の中途で終了したとき
第648条の2
① 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。
② 第634条の規定は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。
第649条
委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。
第650条
① 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。

第672条(業務執行組合員の辞任及び解任)
 組合契約の定めるところにより1人又は数人の組合員に業務の決定及び執行を委任したときは、その組合員は、正当な事由がなければ、辞任することができない。
②組合員は、正当な事由がある場合に限り、他の組合員の1致によって解任することができる。

第673条(組合員の組合の業務及び財産状況に関する検査)
 各組合員は、組合の業務の決定及び執行をする権利を有しないときであっても、その業務及び組合財産の状況を検査することができる。

第674条(組合員の損益分配の割合)
① 当事者が損益分配の割合を定めなかったときは、各組合員の出資の価額に応じて定める。
② 利益・損失についてのみ分配の割合を定めたときは、その割合は、利益及び損失に共通であるものと推定する。

第675条(組合の債権者の権利の行使)
 組合の債権者は、組合財産についてその権利を行使することができる。
②組合の債権者は、その選択に従い、各組合員に対して損失分担の割合又は等しい割合でその権利を行使することができる。ただし、組合の債権者がその債権の発生の時に各組合員の損失分担の割合を知っていたときは、その割合による。

第676条(組合員の持分の処分及び組合財産の分割)
① 組合員は、組合財産についてその持分を処分したときは、その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができない。
② 組合員は、組合財産である債権について、その持分についての権利を単独で行使できない。
③ 組合員は、清算前に組合財産の分割を求めることができない。

第677条(組合財産に対する組合員の債権者の権利の行使の禁止)
 組合員の債権者は、組合財産についてその権利を行使することができない。

第677条の2(組合員の加入)
 組合員は、その全員の同意によって、又は組合契約の定めるところにより、新たに組合員を加入させることができる。
②前項の規定により組合の成立後に加入した組合員は、その加入前に生じた組合の債務については、これを弁済する責任を負わない。

第678条・第679条(組合員の脱退)
① 組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員は、いつでも脱退することができる。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができない。
② 組合の存続期間を定めた場合であっても、各組合員は、やむを得ない事由があるときは、脱退することができる。
③ 組合員は、次に掲げる事由によって脱退する。
1 死亡
2 破産手続開始の決定を受けたこと。
3 後見開始の審判を受けたこと。
4 除名

(H11.2.23)
「やむを得ない事由があっても任意の脱退は許さない」とする約定は、公の秩序に反し無効である。

第680条(組合員の除名)
 組合員の除名は、正当な事由がある場合に限り、他の組合員の1致によってすることができる。ただし、除名した組合員にその旨を通知しなければ、これをもってその組合員に対抗することができない。

第680条の2(脱退した組合員の責任等)
 脱退した組合員は、その脱退前に生じた組合の債務について、従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負う。この場合において、債権者が全部の弁済を受けない間は、脱退した組合員は、組合に担保を供させ、又は組合に対して自己に免責を得させることを請求することができる。
②脱退した組合員は、前項に規定する組合の債務を弁済したときは、組合に対して求償権を有する。
(脱退した組合員の持分の払戻し)第681条 脱退した組合員と他の組合員との間の計算は、脱退の時における組合財産の状況に従ってしなければならない。
②脱退した組合員の持分は、その出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができる。
③脱退の時にまだ完了していない事項については、その完了後に計算をすることができる。
(組合の解散事由)第682条 組合は、次に掲げる事由によって解散する。
1 組合の目的である事業の成功又はその成功の不能
2 組合契約で定めた存続期間の満了
3 組合契約で定めた解散の事由の発生
4 総組合員の同意
(組合の解散の請求)第683条 やむを得ない事由があるときは、各組合員は、組合の解散を請求することができる。
(組合契約の解除の効力)第684条 第620条の規定は、組合契約について準用する。
(組合の清算及び清算人の選任)第685条 組合が解散したときは、清算は、総組合員が共同して、又はその選任した清算人がこれをする。
②清算人の選任は、組合員の過半数で決する。

第686条(清算人の業務の決定及び執行の方法)
 第670条第3項から第5項まで並びに第670条の2第2項及び第3項の規定は、清算人について準用する。

第687条(組合員である清算人の辞任及び解任)
 第672条の規定は、組合契約の定めるところにより組合員の中から清算人を選任した場合について準用する。

第688条(清算人の職務及び権限並びに残余財産の分割方法)
 清算人の職務は、次のとおりとする。
1 現務の結了
2 債権の取立て及び債務の弁済
3 残余財産の引渡し
②清算人は、前項各号に掲げる職務を行うために必要な1切の行為をすることができる。
③残余財産は、各組合員の出資の価額に応じて分割する。

※ 権利能力なき社団

 社団としての実質を備えていながら法令上の要件を満たさないために法人としての登記ができないか、これを行っていないために法人格を有しない社団。

社団の財産(昭和32年11月14日)
権利能力なき社団の財産は、構成員に総有的に帰属するものであるから、総有の廃止その他右財産の処分に関する定めのなされない限り、当然には、持分権又は分割請求権を有するものではない。

構成員の責任(最判 昭和48年10月9日)
権利能力なき社団の構成員は、取引の相手方に対し、直接的には個人的債務・責任を負わない。社団の債務についての構成員の責任を有限責任とし、構成員が社団に出資した限度でのみ責任を負う

不動産登記(昭和47年6月2日)
権利能力なき社団の有する権利は構成員に総有的に帰属するのであるから、社団自体は登記請求権を有しないと結論付けた。
不動産登記の名義は ①代表者個人名義②権利能力なき社団の構成員全員の共有


第13節 終身定期金

(終身定期金契約)第689条 終身定期金契約は、当事者の一方が、自己、相手方又は第三者の死亡に至るまで、定期に金銭その他の物を相手方又は第三者に給付することを約することによって、その効力を生ずる。
(終身定期金の計算)第690条 終身定期金は、日割りで計算する。
(終身定期金契約の解除)第691条 終身定期金債務者が終身定期金の元本を受領した場合において、その終身定期金の給付を怠り、又はその他の義務を履行しないときは、相手方は、元本の返還を請求することができる。この場合において、相手方は、既に受け取った終身定期金の中からその元本の利息を控除した残額を終身定期金債務者に返還しなければならない。
②前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。
(終身定期金契約の解除と同時履行)第692条 第533条の規定は、前条の場合について準用する。
(終身定期金債権の存続の宣告)第693条 終身定期金債務者の責めに帰すべき事由によって第689条に規定する死亡が生じたときは、裁判所は、終身定期金債権者又はその相続人の請求により、終身定期金債権が相当の期間存続することを宣告することができる。
②前項の規定は、第691条の権利の行使を妨げない。
(終身定期金の遺贈)第694条 この節の規定は、終身定期金の遺贈について準用する。


第14節 和解

(和解)第695条 和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。
(和解の効力)第696条 当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ、又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において、その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によってその当事者の一方に移転し、又は消滅したものとする。


第3章 事務管理

第697条(事務管理)
① 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下、管理者)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下、事務管理)をしなければならない。
② 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。

第698条(緊急事務管理)
 管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。

第699条(管理者の通知義務)
 管理者は、事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない。ただし、本人が既にこれを知っているときは、この限りでない。

第700条(管理者による事務管理の継続)
 管理者は、本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで、事務管理を継続しなければならない。ただし、事務管理の継続が本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明らかであるときは、この限りでない。

第701条(委任の規定の準用)
 第645条から第647条までの規定は、事務管理について準用する。
第645条
管理者は、本人の請求があるときは、いつでも事務処理の状況を報告し、事務管理が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
第646条
①管理者は、事務を処理するに当たって受け取った金銭を本人に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
②管理者は、本人のために自己の名で取得した権利を本人に移転しなければならない。
第647条
管理者は、本人に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

※ 費用の前払い(委任の場合は第649条)は請求できない。
※ 報酬請求権は、相互扶助の理念を損なうために、認められない
※ 損害賠償請求(委任の場合は第650条3項)は、認められていない

第702条(管理者による費用の償還請求等)
① 管理者は本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対しその償還を請求できる。
② 事務管理者が本人のために有益な債務を負担した場合、本人に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求できる。
③ 管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、償還請求できる。

(S36.11.30)
事務管理者が本人の名でした法律行為の効果は、当然には本人に及ぶものではなく、その行為の効果が発生するためには、代理など別の法律関係が伴う。


第4章 不当利得

第703条(不当利得の返還義務)
 法律上の原因なく他人の財産・労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(受益者)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

第704条(悪意の受益者の返還義務等)
 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

※返還義務の範囲
範囲
善意の受益者(703)
現存利益にとどまる
悪意の受益者(704)
利息を付して返還+損害賠償

第705条(債務の不存在を知ってした弁済)
 債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求できない。

第706条(期限前の弁済)
 債務者は、弁済期にない債務の弁済として給付をしたときは、給付したものの返還を請求できない。
ただし、債務者が錯誤によってその給付をしたときは、債権者は、これによって得た利益を返還しなければならない。

第707条(他人の債務の弁済)
①債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合、債権者が善意で証書を滅失・損傷し、担保を放棄し、又は時効によってその債権を失ったときは、その弁済をした者は、返還を請求できない。
②弁済をした者から債務者に対する求償権の行使を妨げない。

第708条(不法原因給付)
 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
H7.9.19
Aが建物賃借人Cとの間の請負契約に基づき、建物の修繕工事をしたところ、その後Cが無資力になったため、AのCに対する請負代金債権が無価値になってしまった。
この場合、建物所有者Bが法律上の原因なくして修繕工事に要した財産・労務の提供に相当する利益を受けたといえるのは、BC間の賃貸借契約を全体としてみて、Bが対価関係なしに利益を受けたときに限られる。
BC間の賃貸借契約において、権利金の支払をしない代わりに、Cが家屋の修繕義務を負うこととされており、BC間の賃貸借契約を全体としてみて、Bが対価関係なしに利益を受けたとはいえない。
S45.10.21
不法原因給付をした者が所有権に基づく返還請求権を行使しても、民法708条によって、給付物の返還は封じられる。そして、給付者が返還請求できなくなることの反射的効力として給付物の所有権は受贈者に帰属する
S29.8.31
給付した側にも不法はあるが、受給者の不法の方が著しく大きい場合には、給付者は民法708条ただし書きにより不当利得返還請求権を行使できる。


第5章 不法行為

第1節 一般不法行為

第709条(不法行為による損害賠償)
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

第710条(財産以外の損害の賠償)
 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

(最判平成18年3月30日)
良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者は、良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり、これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(景観利益)は、法律上保護に値する。

(最判平成12年2月29日)
医師が、患者が宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有し、輸血を伴わないで肝臓の 腫瘍を摘出する手術を受けることができるものと期待して入院したことを知っており、手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識したにもかかわらず、ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで手術を施行し、患者に輸血をしたなど判示の事実関係の下においては、医師は、患者が右手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪われたことによって被った精神的苦痛を慰謝すべく不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

(最判平成12年9月22日)
医師が過失により医療水準にかなった医療を行わなかったことと患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療が行われていたならば患者が生存していた可能性が証明される場合には、医師は、患者が可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。

(最判昭和56年12月22日参照)
交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であって、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はない。

第711条(近親者に対する損害の賠償)
 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。

(正当防衛及び緊急避難)第720条
 他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
②前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。

第721条(損害賠償請求権に関する胎児の権利能力)
 胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。

第722条(損害賠償の方法、中間利息の控除及び過失相殺)
① 第417条及び第417条の2の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
② 被害者に過失があったときは、裁判所はこれを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

S39.6.24
過失相殺の問題は、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかに斟酌するかの問題に過ぎない。
被害者である未成年者の過失を斟酌する場合、未成年者に事理弁識能力(6才)があればよく、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合の責任能力(12才)があることまでは求められていない。
S51.3.25
 不法行為による損害賠償の額を定めるにつき被害者の過失を斟酌することができる旨を定めたのは、不法行為によって発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づくものであると考えられるから、被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすような関係にある者の過失(いわゆる被害者側の過失)をも包含する。
 夫が運転する自動車と第三者が運転する自動車とが、第三者と夫との双方の過失の競合により衝突したため、傷害を被った妻が第三者に対し損害賠償を請求する場合の損害額を算定する場合、夫の過失を被害者側の過失として斟酌できる。

(最判昭和42年6月27日)
民法722条2項に定める被害者の過失とは、単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく被害者側の過失をも包含する趣旨と解すべきではあるが、本件のように被害者本人が幼児である場合において、当該被害者側の過失とは、例えば被害者に対する監督者である父母ないしはその被用者である家事使用人などのように、被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失とする。

(最判平成4年6月25日)
被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるにあたり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患をしんしゃくできる。

被害者は不法行為で損害を受けたものの、他方において、支出しなければいけなかった費用の出費を免れたという事実(たとえば不法行為で被害者が死亡したのなら、死亡後の生活費は発生しないことになるという事実)もある。
そこで、被害者は支出が減ったという意味で、ある種の利益を受けたのだから、この利益額を損害賠償の額から控除して損害額を算定することを損益相殺という。

(最判昭和53年10月20日)
交通事故により死亡した幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなった場合において、当該養育費と幼児の将来得べかりし収入との間には、前者を後者から損益相殺の法理又はその類推適用により控除すべき損失と利得との同質性がなく、したがって、幼児の財産上の損害賠償額の算定にあたり、その将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきものではない。

第723条(名誉毀損における原状回復)
 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

(最判昭和45年12月18日)
民法723条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであって、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まない。

第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
2 不法行為の時から20年間行使しないとき。

(最判昭42年7月18日)
不法行為によって受傷した被害者が、その受傷について、相当期間経過後に、受傷当時には医学的に通常予想しえなかった治療が必要となり、その治療のため費用を支出することを余儀なくされるにいたった場合、後日その治療を受けるまでは、治療に要した費用について民法724条の消滅時効は進行しない。

第724条の2(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。



第2節 特殊な不法行為

第712条・第713条(責任能力)
① 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない
② 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
① 責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
 ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
② 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

H28.3.1
(JR東海事件)
精神障害者と同居する配偶者が「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」には当たるとすることはできない
法定の監督義務者に該当しない者でも、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視して、損害賠償責任を問うことができる。

第715条(使用者等の責任)
① ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
 ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
→ 代表者の行為は、使用者の行為と考えられるので、使用者が代表者の選任・監督上相当の注意をしたことを証明しても、使用者は損害賠償責任を免れることはできない。

② 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
③ 使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
  →使用者が損害賠償の責任を果たした場合は、使用者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

H3.10.25
複数の加害者の共同不法行為につき、各加害者を指揮監督する使用者がそれぞれ損害賠償責任を負う場合においては、それぞれが指揮監督する各加害者の過失割合に従って定めるべきものであって、一方の加害者の使用者は、当該加害者の過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、他方の加害者の使用者に対し、当該加害者の過失割合に従って定められる負担部分の限度で、全額を求償できる
S63.7.1
被用者がその使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合において、第三者が自己と被用者との過失割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、第三者は、被用者の負担部分について使用者に対し求償できる。
S51.7.8
使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し損害の賠償又は求償の請求ができる
R2.2.28
被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え,その損害を賠償した場合には, 被用者は,諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について,使用者に対して求償することができる(逆求償)

(最判昭和41年11月18日)
使用者は、被用者と第三者との共同過失によって惹起された交通事故による損害を賠償したときは、第三者に対し、求償権を行使することができ、被用者と第三者の過失割合に従って定められる第三者の負担部分について第三者に対して求償権を行使することができる。

(最判昭和56年11月27日)
兄が、その出先から自宅に連絡して弟に兄所有の自動車で迎えに来させたうえ、弟に自動車の運転を継続させ、これに同乗して自宅に帰る途中で交通事故が発生した場合において、兄が助手席で運転上の指示をしていた等判示の事情があるときは、兄と弟との間には事故当時兄を自動車により自宅に送り届けるという仕事につき、民法715条1項にいう使用者・被用者の関係が成立している

第716条(注文者の責任)
 注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。

第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
① 土地の工作物の設置・保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
② 竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
③ 損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して「求償権」を行使することができる。

最判昭46年4月23日
列車運行のための専用軌道と道路との交差するところに設けられる踏切道は、列車運行の確保と道路交通の安全とを調整するために存するから、必要な保安のための施設が設けられてはじめて踏切道の機能を果たすことができる。したがって、土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備と併せ一体としてこれを考察すべきであり、もしあるべき保安設備を欠く場合には、土地の工作物たる軌道施設の設置に瑕疵があるものとして、民法717条所定の帰責原因となるものといわなければならない

(最判昭和3年6月7日)
他人の築造した瑕疵のある工作物を瑕疵がないと信じ過失なくして買い受けた者であっても、当該工作物を現に所有するというだけで民法717条の責任を負う。

(動物の占有者等の責任)第718条
① 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。
  ただし動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
② 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。

(大判大正10年12月15日)
運送会社がその使用人に荷馬車を引かせていた場合、本来の占有者は運送会社であり、占有補助者たる使用人は、占有者でも保管者でもない

第719条(共同不法行為者の責任)
① 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
② 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

H13.3.13
交通事故と医療事故が順次競合し、被害者が死亡した。判決では共同不法行為の成立を認め、各不法行為者は損害の全額について連帯責任を負う。

(最判昭和57年3月4日)
共同不法行為者が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではないから、損害賠償債務については連帯債務に関する規定は適用されない

(最判昭和45年4月21日)
不真正連帯債務者の1人の債務について免除する旨の和解が行われても、他の不真正連帯債務者の負う債務には影響しない

(最判昭和41年11月18日)
共同不法行為者たる被用者及び使用者、そして他の共同不法行為者らは、被害者に対して、各自、被害者が蒙った全損害を賠賞する義務を負うものというべきであり、また、当該債務の弁済をした使用者は、他の共同不法行為者に対し、他の共同不法行為者と被用者との過失の割合にしたがって定められるべき他の共同不法行為者の負担部分について求償権を行使することができるものと解するのが相当であるとされている


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?