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民法 物権(175~)

第1章 総則

第175条(物権の創設)
 物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。

第176条(物権の設定及び移転)
 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

登記なくして対抗できない「第三者」の範囲
当事者もしくはその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者

〇登記がなければ対抗できない第三者
譲受人・転得者
二重譲渡が行われた場合の第一譲受人と第二譲受人は互いに本条の「第三者」にあたり、対抗関係に立つ。
差押債権者
被相続人からその所有不動産の遺贈を受けた受遺者がその旨の所有権移転登記をしない間に、相続人の一人に対する債権者が、相続人に代位して不動産につき相続による持分取得の登記をなし、ついでこれに対し強制競売の申立をなし、当該申立が登記簿に記入された債権者(昭和39年03月06日)。
賃借人
賃借人に対して所有権を取得したことを理由として引渡しを求めるためには対抗要件が必要となる。(大判大正4年2月2日)

●登記がなくとも対抗できる第三者
物権変動の当事者、その包括承継人
登記の欠缺を主張する
正当の利益を有しない者
詐欺・強迫によって登記の申請を妨げた者
他人のために登記を申請する義務のある者
被相続人からの譲受人からみた相続人
不実の登記の名義人(無権利者)
無権利者からの譲受人(S34.2.12)
不法占有者・不法行為者(S25.12.19)
前主・後主の関係にある者(M43.7.6)
背信的悪意者
承役地の譲受人

(S38年10月8日)
 仮登記権利者は、本登記に必要な要件を具備した場合でも、本登記を経由しない限り、登記の欠缺を主張し得る第三者に対しその明渡しを求めることはできない
 仮登記には、順位保全の効力は認められるが、対抗力は認められない.。

①「背信的悪意者の意義」について(最判昭和44年1月16日)
  実体上物権変動があった事実を知りながら当該不動産について利害関係を持つに至った者において、右物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって、民法177条にいう「第三者」にあたらない
 すなわち、背信的悪意者とは、信義則上、登記の欠缺を主張できない者ということになる。

②「譲渡人Cが無権利者でない理由」ついて(最判平成8年10月29日)
 所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者にあたるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができる。
 けだし、丙が背信的悪意者であるがゆえに登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらないとされる場合であっても、乙は、丙が登記を経由した権利を乙に対抗することができないことの反面として、登記なくして所有権取得を丙に対抗することができるというにとどまり、甲丙間の売買自体の無効を来すものではなく、したがって、丁は無権利者から当該不動産を買い受けたことにはならない。また、背信的悪意者が正当な利益を有する第三者にあたらないとして民法177条の「第三者」から排除されるゆえんは、第一譲受人の売買等に遅れて不動産を取得し登記を経由した者が登記を経ていない第一譲受人に対してその登記の欠缺を主張することがその取得の経緯等に照らし信義則に反して許されないということにあるのであって、登記を経由した者がこの法理によって「第三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で相対的に判断されるべき事柄であるからである」としている。

すなわち、Bは、登記なくして所有権取得を譲渡人Cに主張することができるだけであり、AC間の売買契約自体の無効をきたすものではないということになる。

したがって、AC間の売買契約は有効であり、Dは無権利者から当該不動産を買い受けたことにはならない。

第179条(混同)
 同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。
②所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは、当該他の権利は、消滅する。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
③前2項の規定は、占有権については、適用しない。

一筆の土地の一部であっても取得時効の対象となる(大判大正13年10月7日)。

なお、一筆の土地の一部を時効によって取得し、不動産の登記名義を取得者の名義にするためには分筆登記が必要となる。

土地とは別に、当該土地に生育する樹木(立木)について譲渡することができる。その際、「明認方法」を施せば、それは立木譲渡の対抗要件となる(S36年5月4日参照)。


第2章 占有権

第1節 占有権の取得

第180条(占有権の取得)
 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。

(S44.10.30)
 被相続人の占有権は、相続によって相続人が承継する。

第181条(代理占有)
 占有権は、代理人によって取得することができる。

★占有の種類
現実の引渡し(182-1)
占有物を引渡す
簡易の引渡し(182-2)
譲受人(代理人)が現に占有物を所持する場合→当事者の意思表示のみ
占有改定(183)
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したとき
指図による占有移転
(184)
代理人が占有をする場合、本人がその代理人に対し「以後第三者のためにその物を占有せよ」と命じ、第三者がこれを承諾したときは、第三者は占有権を取得する。

判例(S35年2月11日)
  即時取得はいわゆる占有改定の方法による取得をもっては足らない。

第185条(占有の性質の変更)
 権原の性質上、占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。

自主占有
所有の意思をもって行なう占有
例:売買の買主、窃盗犯の占有
他主占有
所有の意思のない占有
例:賃借人、受寄者などの占有

 占有の性質を変更する場合の例
 ① 賃借人が賃貸人に対して以後自分の為に占有をする旨を告げる
 ② 地上権者がその土地を買い取って、買主としての地位ないし権原を新たに取得する

第186条(占有の態様等に関する推定)
① 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏かつ公然と占有をするものと推定する。
② 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

第187条(占有の承継)
① 占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
② 前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。

第2節 占有権の効力

第188条(占有物について行使する権利の適法の推定)
 占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。

★ 占有者と本権者との利益調整
善意占有者
悪意占有者
定義
本権が無いにもかかわらず、あると誤信してする占有
本権が無いことを知っている
本権の有無に疑問を持ちつつ占有
果実収取権
(189・190)

×(※1)
損害賠償
(191)
原則:現に利益を受けている限度
全部の賠償
他主占有者:全部の賠償
必要費償還請求(196-1)
回復者から全額を償還できる
※ 占有者が果実を取得した場合→通常の必要費は占有者の負担。
有益費償還請求
(196-2)
占有物の価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、
その支出額又は増価額を償還できる。
賃貸人の請求により、その償還の期限の許与ができる。

※1 悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
※2 善意の占有者が本権の訴えにて敗訴したときは、訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。


★ 占有訴権

197条(占有の訴え)
 占有者は、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。

第198条~第201条
要件
請求内容
行使期間(201)
占有保持の訴え
(198)
占有を妨害されたとき
妨害の停止
及び
損害賠償
妨害の存する間
その消滅した後1年以内
占有保全の訴え
(199)
占有を妨害されるおそれがあるとき
妨害の予防
又は
損害賠償の担保
妨害の危険の存する間
占有回収の訴え
(200)
占有を奪われたとき
物の返還
及び
損害賠償
占有を奪われた時から1年以内

※ 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人(賃借人・受寄者含む)に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。

※ だまされて任意に自己所有の財産を他人に引き渡した者は、占有回収の訴えを提起できない

※ 占有保持の訴えは、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。

※ 占有保全の訴えは、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない

※ 抵当権者は目的不動産を占有することはできないが、妨害排除請求はできる。

第202条(本権の訴えとの関係)
① 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
② 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。

判例(H17年3月10日)
 抵当権設定登記後に、抵当不動産の所有者から賃借権の設定を受けてこれを占有する者についても、その賃借権の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められる場合、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるため、抵当権者は、占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、占有状態の排除を求めることができる。
 また、目的不動産を使用占有できない抵当権者は、抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる

物権的請求権 (物上請求権)

物権的請求権は物権の侵害の排除を相手方に請求する権利。
登記の対抗力及び物権の排他性ゆえに侵害による不法行為を当然に排除する請求権。
債権であっても、登記や明認方法によって対抗力を有し、かつ、排他的な物権的性質を持つ場合は、物権的請求権を行使できる。

返還請求権
自己の所有する土地を他人が権原なく占拠する場合に、所有物返還請求権により、土地を取りもどすことができる。則として、現に占有している相手方に対してするものである。
妨害排除請求権
物権者は自己の物権の実現が妨げられている場合に、その妨害を取り除くよう請求することができる。
妨害予防請求権
物権者は自己の物権が妨害されるおそれがある場合、そのおそれを取り除くよう請求する権利。妨害が現実化しているか否かによって妨害排除請求権と区別される。

用益物権の地上権・永小作権・地役権にも,物権的請求権は認められていますが,地役権のみ物権的返還請求権が認められていません。これは,地役権は,承役地を要役地の便益のために認められた範囲で使用する権利であり,他人の土地を占有することができる権利ではないからです。

判例1(S35年6月17日)
「土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである」とされている。土地所有権を現に侵害している者こそが争いの当事者であることが一般的だからである。

判例2(H6年2月8日)
登記名義はあるが、所有権がない相手方に対し
「土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである。したがって、未登記建物の所有者が未登記のままこれを第三者に譲渡した場合には、これにより確定的に所有権を失うことになるから、その後、その意思に基づかずに譲渡人名義に所有権取得の登記がされても、 右譲渡人は、土地所有者による建物収去・土地明渡しの請求につき、建物の所有権の喪失により土地を占有していないことを主張することができるものというべきであり、また、建物の所有名義人が実際には建物を所有したことがなく、単に自己名義の所有権取得の登記を有するにすぎない場合も、土地所有者に対し、建物収去・土地明渡しの義務を負わないものというべきである」
さらに、「もっとも、他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解するのが相当である」としている。

★ 動産物権変動の対抗要件と即時取得

第178条(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。

「動産につき売渡担保契約がされ債務者が引き続きこれを占有する場合には、債権者は、右契約によって占有改定による目的物の引渡しをうけたことになる」としている(S30年6月2日)

「構成部分の変動する集合動産であっても、何らかの方法で目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となり得る」としている(S54年2月15日)。
第192条(即時取得)
取引行為によって、平穏にかつ公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

即時取得の要件

①動産
動産に該当する
未登録の自動車
動産に該当しない
登録された自動車、伐採前の立木、金銭

②有効な取引行為
有効な取引行為に該当する
売買、贈与、代物弁済、消費貸借、質権設定、競落
有効な取引行為に該当しない
相続
制限行為能力・通謀虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫・無権代理

例)パソコンを拾得した者は、たとえ平穏・公然・善意・無過失であったとしても、「取引行為」によってパソコンを取得したのではないから、パソコンを即時取得することはない。したがって、所有者は拾得者に対して、所有権に基づいてパソコンの返還請求をすることができる。

(S35年2月11日)
無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が即時取得によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上、従来の占有状態に変更を生じさせる占有を取得することを要し、そのような外観上の変更を来たさない占有改定による占有取得では、権利を取得することはできない

③平穏・公然・善意・無過失
即時取得
取得時効
平穏・公然・善意
推定される
推定される
無過失
推定される
推定されない

第193条(盗品又は遺失物の回復)
盗品又は遺失物の場合、盗難・遺失の時から2年間は占有者に対してその物の回復を請求できる

→ 所有者は、盗人に対して所有権に基づく返還請求権を行使することができる。この返還請求権は所有権に基づくものであり、時効により消滅することはなく、「1年間」というような期間の制限はない。
第194条(盗品又は遺失物の回復)
占有者が盗品・遺失物を下記の者から善意で買い受けたとき
→被害者・遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない

 ① 競売
 ② 公の市場
 ③ その物と同種の物を販売する商人

第195条(動物の占有による権利の取得)
 家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から1か月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。

第3節 占有権の消滅

第203条(占有権の消滅事由)
 占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。

(代理占有権の消滅事由)第204条
 代理人によって占有をする場合には、占有権は、次に掲げる事由によって消滅する。
1 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。
2 代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。
3 代理人が占有物の所持を失ったこと。
②占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない。


第4節 準占有

第205条
 この章の規定は、自己のためにする意思をもって財産権の行使をする場合について準用する。


第3章 所有権

第1節 所有権の限界

第1款 所有権の内容及び範囲
(所有権の内容)第206条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
(土地所有権の範囲)第207条 土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。
第2款 相隣関係

第209条(隣地の使用)
 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
 一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
 二 境界標の調査又は境界に関する測量
 三 第二百三十三条第三項の規定による枝の切取り
2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地使用者(隣地の所有者及び隣地を現に使用している者)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第一項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
4 第一項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

第210条・第211条・第212条・第213条(公道に至るための他の土地の通行権)
① 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
② 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖がけがあって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
① 通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
② 通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。
① 通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、1年ごとにその償金を支払うことができる。
① 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
② 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

囲繞地通行権の行使は公示制度とは無関係であるから、甲地の所有者は所有権取得の登記なくして囲繞地通行権を主張することができる(最判昭47年4月14日)。

元々一つの土地が甲地と乙地に分筆され、分筆によって、他の土地に囲まれて公道に通じていない甲土地が生じた場合には、甲土地の所有者は、無償で乙土地のみに囲繞地通行権を有することになる。乙土地に特定承継があっても、甲土地の所有者は、依然として無償の囲繞地通行権を行使することができる(H2年11月20日)。

第213条の2(継続的給付を受けるための設備の設置権等)
1 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下「継続的給付」)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。
2 前項の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第一項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。
4 第一項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、第二百九条第一項ただし書及び第二項から第四項までの規定を準用する。
5 第一項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第二百九条第四項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、一年ごとにその償金を支払うことができる。
6 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
7 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。

第213条の3
1 分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができる。この場合においては、前条第五項の規定は、適用しない。
2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

 
第214条(自然水流に対する妨害の禁止)
 土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない。

第215条(水流の障害の除去)
 水流が天災その他避けることのできない事変により低地において閉塞そくしたときは、高地の所有者は、自己の費用で、水流の障害を除去するため必要な工事をすることができる。

第216条(水流に関する工作物の修繕等)
 他の土地に貯水、排水又は引水のために設けられた工作物の破壊又は閉塞により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、当該他の土地の所有者に、工作物の修繕若しくは障害の除去をさせ、又は必要があるときは予防工事をさせることができる。

第217条(費用の負担についての慣習)
 前2条の場合において、費用の負担について別段の慣習があるときは、その慣習に従う。

第218条(雨水を隣地に注ぐ工作物の設置の禁止)
 土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。

第219条(水流の変更)
 溝、堀その他の水流地の所有者は、対岸の土地が他人の所有に属するときは、その水路又は幅員を変更してはならない。
②両岸の土地が水流地の所有者に属するときは、その所有者は、水路及び幅員を変更することができる。ただし、水流が隣地と交わる地点において、自然の水路に戻さなければならない。
③前2項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

第220条(排水のための低地の通水)
 高地の所有者は、その高地が浸水した場合にこれを乾かすため、又は自家用若しくは農工業用の余水を排出するため、公の水流又は下水道に至るまで、低地に水を通過させることができる。この場合においては、低地のために損害が最も少ない場所及び方法を選ばなければならない。

第221条(通水用工作物の使用)
 土地の所有者は、その所有地の水を通過させるため、高地又は低地の所有者が設けた工作物を使用することができる。
②前項の場合には、他人の工作物を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。

第222条(堰の設置及び使用)
 水流地の所有者は、堰を設ける必要がある場合には、対岸の土地が他人の所有に属するときであっても、その堰を対岸に付着させて設けることができる。ただし、これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
②対岸の土地の所有者は、水流地の一部がその所有に属するときは、前項の堰を使用することができる。
③前条第2項の規定は、前項の場合について準用する。

第223条(境界標の設置)
 土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。

第224条(境界標の設置及び保存の費用)
 境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。

第225条(囲障の設置)
① 2棟の建物がその所有者を異にし、かつ、その間に空地があるときは、各所有者は、他の所有者と共同の費用で、その境界に囲障を設けることができる。
②当事者間に協議が調わないときは、前項の囲障は、板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものであって、かつ、高さ2mのものでなければならない。

第226条(囲障の設置及び保存の費用)
① 前条の囲障の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。

第227条(相隣者の1人による囲障の設置)
 相隣者の1人は、第225条第2項に規定する材料より良好なものを用い、又は同項に規定する高さを増して囲障を設けることができる。ただし、これによって生ずる費用の増加額を負担しなければならない。

第228条(囲障の設置等に関する慣習)
 前3条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

第229条(境界標等の共有の推定)
 境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝、堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。

第230条
 1棟の建物の一部を構成する境界線上の障壁については、前条の規定は、適用しない。
②高さの異なる2棟の隣接する建物を隔てる障壁の高さが、低い建物の高さを超えるときは、その障壁のうち低い建物を超える部分についても、前項と同様とする。ただし、防火障壁については、この限りでない。

第231条(共有の障壁の高さを増す工事)
 相隣者の1人は、共有の障壁の高さを増すことができる。ただし、その障壁がその工事に耐えないときは、自己の費用で、必要な工作を加え、又はその障壁を改築しなければならない。
②前項の規定により障壁の高さを増したときは、その高さを増した部分は、その工事をした者の単独の所有に属する。

第232条
 前条の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)
1 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
 一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
 二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
 三 急迫の事情があるとき。
4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

第234条・第235条(境界線付近の建築の制限)
① 建物を築造するには、境界線から50cm以上の距離を保たなければならない。
② 前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から1年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。
③ 境界線から1m未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。
②前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。

第236条(境界線付近の建築に関する慣習)
 前2条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

第237条(境界線付近の掘削の制限)
 井戸、用水だめ、下水だめ又は肥料だめを掘るには境界線から2m以上、池、穴蔵又はし尿だめを掘るには境界線から1m以上の距離を保たなければならない。
②導水管を埋め、又は溝若しくは堀を掘るには、境界線からその深さの2分の1以上の距離を保たなければならない。ただし、1mを超えることを要しない。

第238条(境界線付近の掘削に関する注意義務)
 境界線の付近において前条の工事をするときは、土砂の崩壊又は水若しくは汚液の漏出を防ぐため必要な注意をしなければならない。

第2節 所有権の取得

(無主物の帰属)第239条
 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
②所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

(遺失物の拾得)第240条
 遺失物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後3か月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。

(埋蔵物の発見)第241条
 埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後6か月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。

第242条(不動産の付合)
 不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。

第243条(動産の付合)
 所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。

第244条 付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。

(混和)第245条 前2条の規定は、所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合について準用する。

第246条(加工)
① 加工者(他人の動産に工作を加えた者)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。
②前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。

(付合、混和又は加工の効果)第247条 第242条から前条までの規定により物の所有権が消滅したときは、その物について存する他の権利も、消滅する。
②前項に規定する場合において、物の所有者が、合成物、混和物又は加工物(以下この項において「合成物等」という。)の単独所有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その合成物等について存し、物の所有者が合成物等の共有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その持分について存する。
(付合、混和又は加工に伴う償金の請求)第248条 第242条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第703条及び第704条の規定に従い、その償金を請求することができる。

第三節 共有


第4章 地上権

第265条(地上権の内容)
 地上権者は、他人の土地において工作物・竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。

第266条(地代)
 第274条から第276条までの規定は、地上権者が土地の所有者に定期の地代を支払わなければならない場合について準用する。
②地代については、前項に規定するもののほか、その性質に反しない限り、賃貸借に関する規定を準用する。

第267条(相隣関係の規定の準用)
 相隣関係の規定は、地上権者間又は地上権者と土地の所有者との間について準用する。ただし、第229条の規定は、境界線上の工作物が地上権の設定後に設けられた場合に限り、地上権者について準用する。

第268条(地上権の存続期間)
 設定行為で地上権の存続期間を定めなかった場合において、別段の慣習がないときは、地上権者は、いつでもその権利を放棄することができる。ただし、地代を支払うべきときは、1年前に予告をし、又は期限の到来していない1年分の地代を支払わなければならない。
② 地上権者が前項の規定によりその権利を放棄しないときは、裁判所は、当事者の請求により、20年以上50年以下の範囲内において、工作物又は竹木の種類及び状況その他地上権の設定当時の事情を考慮して、その存続期間を定める。

第269条(工作物等の収去等)
 地上権者は、その権利が消滅した時に、土地を原状に復してその工作物及び竹木を収去することができる。ただし、土地の所有者が時価相当額を提供してこれを買い取る旨を通知したときは、地上権者は、正当な理由がなければ、これを拒むことができない。
②前項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

第269条の2(地下又は空間を目的とする地上権)
 地下・空間は、工作物を所有するため、上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができる。
 この場合、設定行為で地上権の行使のためにその土地の使用に制限を加えることができる。
②前項の地上権は、第三者がその土地の使用又は収益をする権利を有する場合においても、その権利又はこれを目的とする権利を有するすべての者の承諾があるときは、設定できる。この場合において、土地の使用又は収益をする権利を有する者は、その地上権の行使を妨げることができない。

地上権
賃借権
目的
制限あり
制限なし
地主に登記協力義務
あり
なし
約定期間
最長、最短制限なし
最長50年
地代支払
契約の要素ではない
契約の要素
地主に土地修繕義務
なし
あり
権利の譲渡に地主の承諾
不要
必要


第5章 永小作権

(永小作権の内容)第270条 永小作人は、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。
(永小作人による土地の変更の制限)第271条 永小作人は、土地に対して、回復することのできない損害を生ずべき変更を加えることができない。
(永小作権の譲渡又は土地の賃貸)第272条 永小作人は、その権利を他人に譲り渡し、又はその権利の存続期間内において耕作若しくは牧畜のため土地を賃貸することができる。ただし、設定行為で禁じたときは、この限りでない。
(賃貸借に関する規定の準用)第273条 永小作人の義務については、この章の規定及び設定行為で定めるもののほか、その性質に反しない限り、賃貸借に関する規定を準用する。
(小作料の減免)第274条 永小作人は、不可抗力により収益について損失を受けたときであっても、小作料の免除又は減額を請求することができない。
(永小作権の放棄)第275条 永小作人は、不可抗力によって、引き続き3年以上全く収益を得ず、又は5年以上小作料より少ない収益を得たときは、その権利を放棄することができる。
(永小作権の消滅請求)第276条 永小作人が引き続き2年以上小作料の支払を怠ったときは、土地の所有者は、永小作権の消滅を請求することができる。
(永小作権に関する慣習)第277条 第271条から前条までの規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
(永小作権の存続期間)第278条 永小作権の存続期間は、20年以上50年以下とする。設定行為で50年より長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする。
②永小作権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から50年を超えることができない。
③設定行為で永小作権の存続期間を定めなかったときは、その期間は、別段の慣習がある場合を除き、30年とする。
(工作物等の収去等)第279条 第269条の規定は、永小作権について準用する。

第6章 地役権

第280条(地役権の内容)
 地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、所有権に違反しないものでなければならない。

第281条(地役権の付従性)
 地役権は、要役地(地役権者の土地であって、他人の土地から便益を受けるもの)の所有権に従たるものとして、その所有権とともに移転し、又は要役地について存する他の権利の目的となるものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
② 地役権は、要役地から分離して譲り渡し、又は他の権利の目的とすることができない。

第282条(地役権の不可分性)
① 土地の共有者の1人は、その持分につき、その土地のために又はその土地について存する地役権を消滅させることができない。
②土地の分割又はその一部の譲渡の場合には、地役権は、その各部のために又はその各部について存する。ただし、地役権がその性質により土地の一部のみに関するときは、この限りでない。

★時効による不可分性

消滅時効
要役地が数人の共有で、その1人のために時効の完成猶予・更新があるとき
→その完成猶予・更新は、他の共有者のためにも、その効力を生ずる。(292)
取得時効
土地の共有者の1人が時効によって地役権を取得したとき
→他の共有者も、これを取得する。
② 承役地の所有者がする地役権の時効取得の時効の更新は、地役権を行使する各共有者に対してしなければ効力を生じない。
③ 地役権を行使する共有者が数人ある場合には、その1人について時効の完成猶予の事由があっても、時効は、各共有者のために進行する。

第283条/第284条(地役権の時効取得)
① 地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる

S30年12月26日
「継続」というのは、通路を開設していることを要求するものであり、また、この通路の開設は要役地の所有者によってなされることが必要である。

① 土地の共有者の1人が時効によって地役権を取得したときは、他の共有者も、これを取得する。
② 共有者に対する時効の更新は、地役権を行使する各共有者に対してしなければ効力を生じない。
③ 地役権を行使する共有者が数人ある場合には、その1人について時効の完成猶予の事由があっても、時効は、各共有者のために進行する。

第285条(用水地役権)
 用水地役権の承役地(地役権者以外の者の土地であって、要役地の便益に供されるもの)において、水が要役地及び承役地の需要に比して不足するときは、その各土地の需要に応じて、まずこれを生活用に供し、その残余を他の用途に供するものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
②同一の承役地について数個の用水地役権を設定したときは、後の地役権者は、前の地役権者の水の使用を妨げてはならない。

第286条・第287条(承役地の所有者の工作物の設置義務等)
① 設定行為又は設定後の契約により、承役地の所有者が自己の費用で地役権の行使のために工作物を新設・修繕をする義務を負担したときは、承役地の所有者の特定承継人も、その義務を負担する。
② 承役地の所有者は、いつでも、地役権に必要な土地の部分の所有権を放棄して地役権者に移転し、これにより前条の義務を免れることができる。

第288条(承役地の所有者の工作物の使用)
 承役地の所有者は、地役権の行使を妨げない範囲内において、その行使のために承役地の上に設けられた工作物を使用することができる。
②前項の場合には、承役地の所有者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。

第289条(承役地の時効取得による地役権の消滅)
 承役地の占有者が取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、地役権は、これによって消滅する。

第290条
 地役権の消滅時効は、地役権者がその権利を行使することによって中断する。

第291条/第292条/第293条(地役権の消滅時効)
① 消滅時効の期間は、継続的でなく行使される地役権については最後の行使の時から起算し、継続的に行使される地役権についてはその行使を妨げる事実が生じた時から起算する。
② 要役地が数人の共有に属する場合において、その1人のために時効の完成猶予・更新があるときは、その完成猶予・更新は、他の共有者のためにも、その効力を生ずる。
③ 地役権者がその権利の一部を行使しないときは、その部分のみが時効によって消滅する。

H10年2月13日
通行地役権の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることが客観的に明らかで、譲受人がそのことを認識又は認識できたときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者にあたらない。

第294条(共有の性質を有しない入会権)
 共有の性質を有しない入会権については、各地方の慣習に従うほか、この章の規定を準用する。


第7章 留置権

第295条(留置権の内容)
 留置権の成立条件
他人の物の占有
目的物と債権との牽連性(関係性)
債権が弁済期にあること
占有が不法行為によって始まっていないこと

 第三者による代理占有によっても成立する。しかし債務者を占有代理人とした占有は含まれない。

A 牽連性についての判例

敷金返還請求権
(S49年9月2日)
敷金返還請求権を被担保債権とする留置権
牽連性なし
未払代金債権
(S47年11月16日)
Aから物を購入したBが、売買代金を支払わないままCに譲渡した場合、Cからの引渡請求に対しての未払代金債権を被担保債権とする留置権
牽連性あり
不動産の二重譲渡
(S43年11月21日)
不動産の二重譲渡をした場合、登記しなかった者が損害賠償請求権を被担保債権とする留置権
牽連性なし
他人物売買
(S51年6月17日)
他人物売買で売主の債務不履行があった場合、買主が損害賠償請求権を被担保債権とする留置権
牽連性なし

第296条(留置権の不可分性)
 留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。

第297条(留置権者による果実の収取)
① 留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
② 果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。

第298条(留置権者による留置物の保管等)
① 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
② 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
③ 留置権者が前2項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。

第299条(留置権者による費用の償還請求)
 留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる。
②留置権者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

第300条(留置権の行使と債権の消滅時効)
 留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。

第301条(担保の供与による留置権の消滅)
 債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。

第302条(占有の喪失による留置権の消滅)
 留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第298条第2項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。

(S46年7月16日)
元賃借人(占有者)が、建物の賃貸借契約が解除された後は建物を占有すべき権原のないことを知りながら不法にこれを占有していた場合は、占有者が支出した建物の有益費の償還請求権については、民法295条2項の類推適用により、留置権を主張することができない。

留置権と同時履行の抗弁権との比較
留置権(物権)
同時履行の抗弁権(債権)
制度趣旨
当事者の公平を図るため
主張が認められたときの判決
引換給付判決
発生原因の限定
物に関して生ずれば契約に限定されない
同一の双務契約から生じた対価的な債務間に限る
権利の目的
動産と不動産のみ
一切の給付
拒絶の内容
物の留置に限る
給付の内容を問わない
行使の相手方
すべての第三者
双務契約上の相手方だけ
担保提供による
消滅請求
認められる(301)
認められない
不可分性
あり(296)
なし
競売申立権
あり(民執195条)
なし


第8章 先取特権

第1節 総則

第303条(先取特権の内容)
 先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

第304条(物上代位)
① 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
② 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

【物上代位の対象】
対象となる
① 売却代金
② 賃料債権
③ 滅失・損傷によって受け取るべき金銭等
  ・損害賠償請求権
  ・保険金請求権
  ・買戻代金債権(H11.11.30)
対象とならない
① 転貸賃料債権(H12.4.14)
 → 転借人は、被担保債権に対して物的責任を負担する立場ではないため、
   転貸賃料債権を被担保債権の弁済に供されるべきではない。

【物上代位の行使の要件】
債務者が受けるべき金銭等が払渡し又は引渡しされる前に差押え

「払渡し・引渡し」に該当する
該当する
弁済・相殺
該当しない
債権譲渡(H10.1.30)
一般債権者による差押え

判例
動産の先取特権
(H17.2.22)
動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない。
差押後の相殺
(H13.3.13)
抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない。
(H10.12.18)
請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使できないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を当該動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、当該部分の請負代金債権に対して物上代位権を行使することができる

第305条(先取特権の不可分性)
 第296条の規定は、先取特権について準用する。


第2節 先取特権の種類

第1款 一般の先取特権

第306条~第310条(一般の先取特権)
 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。

1 共益の費用
各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在する。すべての債権者に有益でなかった費用については、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する
2 雇用関係
給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。
3 葬式の費用
債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する。
債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額についても存在する。
4 日用品の供給
債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の6か月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在する。

第2款 動産の先取特権

第311条~第324条(先取特権)
 以下の原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
特定の財産
1 不動産の賃貸借
不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務※1
賃借人の動産について存在
2 旅館の宿泊
宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料
旅館に在る宿泊客の手荷物について存在
3 旅客・荷物の運輸
旅客又は荷物の運送賃及び付随の費用
運送人の占有する荷物について存在
4 動産の保存
動産の保存のために要した費用
動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用
その動産について存在。
5 動産の売買
動産の代価及びその利息
その動産について存在。
6 種苗又は肥料の供給(蚕種・桑葉を含む)
種苗又は肥料の代価及びその利息
その種苗・肥料を用いた後1年以内に生じた果実(蚕種・桑葉の使用によって生じた物を含む。)について存在。
7 農業の労務
その労務に従事する者の最後の1年間の賃金
その労務によって生じた果実について存在する
8 工業の労務
その労務に従事する者の最後の3か月間の賃金
その労務によって生じた製作物について存在する。

不動産の賃貸借関係
内容
目的物の範囲
土地の賃貸人の先取特権
①土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産
②その土地の利用に供された動産
③賃借人が占有するその土地の果実
建物の賃貸人の先取特権
賃借人がその建物に備え付けた動産
賃借権の譲渡・転貸の場合の賃貸人の先取特権
①譲受人・転借人の動産
②譲渡人・転貸人が受けるべき金銭
賃借人の財産のすべてを清算する場合の賃貸人の先取特権
①前期、当期及び次期の賃料その他の債務
②前期及び当期に生じた損害の賠償債務についてのみ
賃貸人は敷金を受け取っている場合
その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ

第319条(即時取得の規定の準用)
 即時取得の規定は、不動産賃貸・旅館の宿泊・旅客・荷物の運輸の先取特権について準用する。

第3款 不動産の先取特権

第325条(不動産の先取特権)
 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有する。

1 不動産の保存
・不動産の保存のために要した費用
・不動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用
その不動産について存在
2 不動産の工事
工事の設計・施工・監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用
その不動産について存在
※ 工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額のみ存在
3 不動産の売買
不動産の代価及びその利息
その不動産について存在


第3節 先取特権の順位

第329条(一般の先取特権の順位)
①一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第306条に掲げる順序に従う。
②一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合、特別の先取特権は一般の先取特権に優先する。ただし共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。

第330条(動産の先取特権の順位)
 同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、以下に掲げる順序に従う。この場合において、動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。
②第1順位の先取特権者は、その債権取得の時において第2順位又は第3順位の先取特権者があることを知っていたときは、これらの者に対して優先権を行使することができない。第1順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても、同様とする。
③果実に関しては、第1の順位は農業の労務に従事する者に、第2の順位は種苗又は肥料の供給者に、第3の順位は土地の賃貸人に属する。

第331条(不動産の先取特権の順位)
① 同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第325条に掲げる順序に従う。
② 同一の不動産について売買が順次された場合には、売主相互間における不動産売買の先取特権の優先権の順位は、売買の前後による。

第332条(同一順位の先取特権)
 同一の目的物について同一順位の先取特権者が数人あるときは、各先取特権者は、その債権額の割合に応じて弁済を受ける。

一般の先取特権
1 共益の費用
2 雇用関係
3 葬式の費用
4 日用品の供給

動産の先取特権
1 不動産の賃貸、旅館の宿泊・運輸の先取特権、動産質権
2 動産の保存の先取特権
3 動産の売買、種苗・肥料の供給、農業・工業の労務の先取特権

不動産の先取特権
1 不動産の保存の先取特権
2 不動産の工事の先取特権
3 不動産の売買の先取特権、不動産質権、抵当権

第4節 先取特権の効力

第333条(先取特権と第三取得者)
 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

判例(大判大正6年7月26日)では、この「引き渡し」には占有改定を含むとしている。

第334条(先取特権と動産質権との競合)
 先取特権と動産質権とが競合する場合には、動産質権者は、第330条の規定による第1順位の先取特権者と同一の権利を有する。

第335条(一般の先取特権の効力)
 一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない。
②一般の先取特権者は、不動産については、まず特別担保の目的とされていないものから弁済を受けなければならない。
③一般の先取特権者は、前2項の規定に従って配当に加入することを怠ったときは、その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額については、登記をした第三者に対してその先取特権を行使することができない。
④前3項の規定は、不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当し、又は他の不動産の代価に先立って特別担保の目的である不動産の代価を配当する場合には、適用しない。

第336条(一般の先取特権の対抗力)
 一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができる。ただし、登記をした第三者に対しては、この限りでない。

第337条(不動産保存の先取特権の登記)
 不動産の保存の先取特権の効力を保存する(対抗する)ためには、保存行為が完了した後直ちに登記をしなければならない。

第338条(不動産工事の先取特権の登記)
 不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。
②工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。

第339条(登記をした不動産保存又は不動産工事の先取特権)
 登記をした不動産保存・工事の先取特権は、抵当権に先立って行使することができる。

第340条(不動産売買の先取特権の登記)
 不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記しなければならない。

第341条(抵当権に関する規定の準用)
 先取特権の効力については、その性質に反しない限り、抵当権に関する規定を準用する。

第9章 質権

第1節 総則

第342条(質権の内容)
 質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

第343条(質権の目的)
 質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。

第344条(質権の設定)
 質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。

民法344条の「引き渡す」に・・・(意思主義の例外的規定:要物主義)
含まれる
現実の引渡し
簡易引渡し
指図による引渡し
含まれない
占有改定

第345条(質権設定者による代理占有の禁止)
 質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。

第346条(質権の被担保債権の範囲)
 質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。

第347条(質物の留置)
 質権者は、債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。

第348条(転質)
 質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。

第349条(契約による質物の処分の禁止)
 質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。

第350条(留置権及び先取特権の規定の準用)
 第296条から第300条まで及び第304条の規定は、質権について準用する。

296(不可分性)
債権の全部の弁済を受けるまでは、質権を行使できる。
297(果実の収取)
質権者は、目的物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当できる。
② 果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。
298(目的物の保管)
① 善良な管理者の注意をもって、目的物を占有しなければならない。
② 債務者の承諾を得なければ、目的物を使用収益できない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
③ 質権者が前2項の規定に違反したときは、債務者は、質権の消滅を請求できる。
299
(費用の償還請求)
必要費を支出したとき、所有者にその償還をさせることができる。
有益費を支出したとき、価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。
300
(質権の行使と債権の消滅時効)
質権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。
304(物上代位)
① 質権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、質権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
② 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

第351条(物上保証人の求償権)
 他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。


第2節 動産質

第352条(動産質の対抗要件)
 動産質権者は継続して質物を占有しなければ、第三者に対抗することができない。

第353条(質物の占有の回復)
 動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ質物を回復できる。

第354条(動産質権の実行)
 動産質権者は、その債権の弁済を受けないときは、正当な理由がある場合に限り、鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求することができる。この場合において、動産質権者は、あらかじめ、その請求をする旨を債務者に通知しなければならない。

第355条(動産質権の順位)
 同一の動産について数個の質権が設定されたときは、その質権の順位は、設定の前後による。

第3節 不動産質

第356条(不動産質権者による使用及び収益)
 不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。

第357条(不動産質権者による管理の費用等の負担)
 不動産質権者は、管理の費用を支払い、その他不動産に関する負担を負う。

第358条(不動産質権者による利息の請求の禁止)
 不動産質権者は、その債権の利息を請求することができない

第359条(設定行為に別段の定めがある場合等)
 前3条の規定は、設定行為に別段の定めがあるとき、又は担保不動産収益執行の開始があったときは、適用しない。

第360条(不動産質権の存続期間)
①不動産質権の存続期間は、10年を超えることができない。設定行為でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、10年とする。
②不動産質権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から10年を超えることができない。

第361条(抵当権の規定の準用)
 不動産質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、抵当権の規定を準用する。


第4節 権利質

 (No363 削除)

第362条(権利質の目的等)
① 質権は、財産権をその目的とすることができる。
② 前項の質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、前3節(総則、動産質及び不動産質)の規定を準用する。

S40.10.7
銀行が融資するにあたり、預金者の預金債権を質に入れることが認められる。

第364条(債権を目的とする質権の対抗要件)
 債権を目的とする質権の設定(現に発生していない債権を目的とするものを含む。)は、第467条(債権の譲渡)の規定に従い、第三債務者にその質権の設定を通知し、又は第三債務者がこれを承諾しなければ、これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない。

第366条(質権者による債権の取立て等)
① 質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
② 債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てることができる。
③ 債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。
④ 債権の目的物が金銭でないときは、質権者は、弁済として受けた物について質権を有する。


第10章 抵当権

第1節 総則

第369条(抵当権の内容)
 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
② 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。

※ 不動産(土地・建物)だけでなく、地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができるが、賃借権に抵当権を設定することはできない

第370条・第371条(抵当権の効力の及ぶ範囲)
① 抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでない。
② 抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ
 →独立の動産には及ばない。

石灯籠
(S44年3月28日)
石灯籠および取り外しのできる庭石等は本件根抵当権の目的たる宅地の従物である。根抵当権の効力は、従物にも及び、登記をもって対抗力を有する
敷地の賃借権
(S40年5月4日)
土地賃借人が当該土地上に所有する建物について抵当権を設定した場合、
原則、抵当権の効力は土地の賃借権に及び、賃借権は建物所有権に付随し一体となって財産的価値を形成しているものであるから、建物に抵当権が設定されたときは敷地の賃借権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含される

第372条(留置権等の規定の準用)
 第296条、第304条及び第351条の規定は、抵当権について準用する。

296(不可分性)
債権の全部の弁済を受けるまでは、抵当権を行使できる。
304(物上代位)
① 抵当権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、質権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
② 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。
351
(物上保証人の求償権)
他人の債務を担保するため抵当権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって目的物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。


第2節 抵当権の効力

第373条(抵当権の順位)
 同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、抵当権の順位は、登記の前後による。

第374条(抵当権の順位の変更)
① 抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。
        ただし、利害関係者があるときは、その承諾を得なければならない。
② 抵当権の順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない。

第375条(抵当権の被担保債権の範囲)
 抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使できる。
   ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
②前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の2年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して2年分を超えることができない。

第376条(抵当権の処分)
① 抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。(転抵当)
② 前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。

第377条(抵当権の処分の対抗要件)
 抵当権を処分する場合には、第467条(債権譲渡の対抗要件)の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又は主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない。
② 主たる債務者が通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができない。

★ 抵当不動産の第三取得者の保護

第378条(代価弁済)
 抵当不動産について所有権・地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。

第379~381条(抵当権消滅請求)
① 抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をすることができる。
② 主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすることができない。
③ 抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間は、抵当権消滅請求をすることができない

第382条(抵当権消滅請求の時期)
 抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない。

第383条(抵当権消滅請求の手続)
 抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をするときは、登記をした各債権者に対し、次に掲げる書面を送付しなければならない。
1 取得の原因及び年月日、譲渡人及び取得者の氏名及び住所並びに抵当不動産の性質、所在及び代価その他取得者の負担を記載した書面
2 抵当不動産に関する登記事項証明書
3 債権者が2か月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、抵当不動産の第三取得者が代価・金額を債権の順位に従って弁済・供託すべき旨を記載した書面

第384条(債権者のみなし承諾)
 次に掲げる場合には、抵当権消滅請求の書面を受けた債権者は、抵当不動産の第三取得者が書面に記載した代価・金額を承諾したものとみなす。
1 その債権者が前条各号に掲げる書面の送付を受けた後2か月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないとき。
2 その債権者が前号の申立てを取り下げたとき。
3 第1号の申立てを却下する旨の決定が確定したとき。
4 第1号の申立てに基づく競売の手続を取り消す旨の決定(民事執行法第188条において準用する同法第63条第3項若しくは第68条の3第3項の規定又は同法第183条第1項第5号の謄本が提出された場合における同条第2項の規定による決定を除く。)が確定したとき。

第385条(競売の申立ての通知)
 第383条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は、前条第1号の申立てをするときは、同号の期間内に、債務者及び抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければならない。

第386条(抵当権消滅請求の効果)
 登記をしたすべての債権者が抵当不動産の第三取得者の提供した代価又は金額を承諾し、かつ、抵当不動産の第三取得者がその承諾を得た代価又は金額を払い渡し又は供託したときは、抵当権は、消滅する。

第三取得者(抵当権が付着している不動産を、抵当権が付着した状態のままで取得した者)は、いつ債権者の意向により抵当権の実行にかけられるかわからないという不安定な状態に置かれてしまう。
そこで民法第379条では、第三取得者からの請求により抵当権を消滅できる仕組みを設けており、この仕組みを「抵当権消滅請求」と呼んでいる。

【抵当権消滅請求の仕組み】
①第三取得者は、自分が適当と認める金額を債権者に呈示して、抵当権の消滅を要求(民379条)
②債権者が、この要求から2ヵ月以内に任意競売の手続きを行なわない場合には、第三取得者が呈示した金額の支払いで抵当権が消滅することを債権者が承諾したことになる(民384条)。

第387条(抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力)
 登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。
② 抵当権者が前項の同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならない。

第388条(法定地上権)
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。

法定地上権の成立要件
①抵当権設定当時に建物が存在していたこと
②抵当権設定当時、土地と建物が同一の所有者に帰属していたこと
③土地と建物の一方又は双方に抵当権が設定されたこと
④抵当権の実行によって、それぞれ別々の所有者に帰属することになった

要件① 抵当権設定当時に建物が存在していたこと

A 更地に抵当権を設定した場合
抵当権者が建物築造をあらかじめ承諾していた場合
(S36.2.10)
法定地上権は成立しない

B 土地に抵当権が設定された当時、建物が存在→その後建物が滅失・再築された場合
土地のみに抵当権が設定されていた場合
(S10.8.10)
法定地上権は成立する
土地・建物に共同抵当権が設定された場合
(H9.2.14)
法定地上権は成立しない

要件②抵当権設定当時、土地と建物が同一の所有者に帰属していたこと

【共有と法定地上権】
結論
土地のみ共有
法定地上権は成立しない
建物のみ共有(S46.12.21)
法定地上権は成立する
土地建物双方共有(H6.12.20)
法定地上権は成立しない

(H2年1月22日)
甲抵当権を設定したときは、土地に借地権が設定されているので、その後土地と建物の所有者が同一人となっても法定地上権は成立しない。

(H19年7月6日)
土地を目的とする先順位の甲抵当権と後順位の乙抵当権が設定された後、甲抵当権が設定契約の解除により消滅し、その後、乙抵当権の実行により土地と地上建物の所有者を異にするに至った場合において、当該土地と建物が、甲抵当権の設定時には同一の所有者に属していなかったとしても、乙抵当権の設定時に同一の所有者に属していたときは、法定地上権が成立する。

第389条(抵当地の上の建物の競売)
① 抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。
② その建物の所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には、土地建物の一括競売はできない。

第390条(抵当不動産の第三取得者による買受け)
 抵当不動産の第三取得者は、その競売において買受人となることができる。

(抵当不動産の第三取得者による費用の償還請求)第391条
 抵当不動産の第三取得者は、抵当不動産について必要費又は有益費を支出したときは、第196条の区別に従い、抵当不動産の代価から、他の債権者より先にその償還を受けることができる。

第392条(共同抵当における代価の配当)
① 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。(同時配当)
② 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。(異時配当)
 この場合において、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。

(共同抵当における代位の付記登記)第393条
 前条第2項後段の規定により代位によって抵当権を行使する者は、その抵当権の登記にその代位を付記することができる。

(抵当不動産以外の財産からの弁済)第394条
 抵当権者は、抵当不動産の代価から弁済を受けない債権の部分についてのみ、他の財産から弁済を受けることができる。
②前項の規定は、抵当不動産の代価に先立って他の財産の代価を配当すべき場合には、適用しない。この場合において、他の各債権者は、抵当権者に同項の規定による弁済を受けさせるため、抵当権者に配当すべき金額の供託を請求することができる。

第395条(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
① 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(抵当建物使用者)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
 一 競売手続の開始前から使用収益をする者
 二 強制管理・担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用収益をする者 
② 前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその1箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。


第3節 抵当権の消滅

第396条(抵当権の消滅時効)
 抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。

第397条(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)
 債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。

第398条(抵当権の目的である地上権等の放棄)
 地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない。

第4節 根抵当

根抵当権を解く上で、根抵当権の元本確定前後をしっかりと意識する。

元本確定前
附従性・随伴性がなく、通常の抵当権とは異なる性質の担保物権
元本確定後
附従性・随伴性が復活し、ほぼ通常の抵当権と同様の担保物権になる

第398条の2(根抵当権)
① 抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。
② 根抵当権の担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。
③ 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権、手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権は、根抵当権の担保すべき債権とすることができる。

第398条の3(根抵当権の被担保債権の範囲)
① 根抵当権者は、確定した元本・利息・その他の定期金・債務不履行によって生じた損害の賠償の全部について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができる。
②債務者との取引によらないで取得する手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権を根抵当権の担保すべき債権とした場合において、次に掲げる事由があったときは、その前に取得したものについてのみ、その根抵当権を行使することができる。ただし、その後に取得したものであっても、その事由を知らないで取得したものについては、これを行使することを妨げない。
1 債務者の支払の停止
2 債務者についての破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は特別清算開始の申立て
3 抵当不動産に対する競売の申立て又は滞納処分による差押え

第398条の4(根抵当権の被担保債権の範囲及び債務者の変更)
① 元本の確定前においては、根抵当権の担保すべき債権の範囲及び債務者の変更ができる。
② 根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更には、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない。
③根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更について元本の確定前に登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなす。

第398条の5(根抵当権の極度額の変更)
 根抵当権の極度額の変更は、利害関係を有する者の承諾を得なければ、することができない。

第398条の6(根抵当権の元本確定期日の定め)
 根抵当権の担保すべき元本については、その確定すべき期日を定め又は変更することができる。
② 第398条の4第2項の規定は、前項の場合について準用する。
③ 根抵当権の元本確定期日は、変更した日から5年以内でなければならない。
④ 根抵当権の元本確定期日の変更についてその変更前の期日より前に登記をしなかったときは、担保すべき元本は、その変更前の期日に確定する。

第398条の7(根抵当権の被担保債権の譲渡等)
① 元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は、その債権について根抵当権を行使できない。元本の確定前に債務者のために又は債務者に代わって弁済をした者も、同様とする。
② 元本の確定前に債務の引受けがあったときは、根抵当権者は、引受人の債務について、その根抵当権を行使できない。
③ 元本の確定前に免責的債務引受があった場合における債権者は、根抵当権を引受人が負担する債務に移すことができない。
④ 元本の確定前に債権者の交替による更改があった場合における更改前の債権者は、根抵当権を更改後の債務に移すことができない。元本の確定前に債務者の交替による更改があった場合における債権者も、同様とする。

第398条の8(根抵当権者又は債務者の相続)
 元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債権のほか、相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保する。
②元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する。
③第398条の4第2項の規定は、前2項の合意をする場合について準用する。
④第1項及び第2項の合意について相続の開始後6か月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなす。

第398条の9(根抵当権者又は債務者の合併)
 元本の確定前に根抵当権者について合併があったときは、根抵当権は、合併の時に存する債権のほか、合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に取得する債権を担保する。
②元本の確定前にその債務者について合併があったときは、根抵当権は、合併の時に存する債務のほか、合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に負担する債務を担保する。
③前2項の場合には、根抵当権設定者は、担保すべき元本の確定を請求することができる。ただし、前項の場合において、その債務者が根抵当権設定者であるときは、この限りでない。
④前項の規定による請求があったときは、担保すべき元本は、合併の時に確定したものとみなす。
5 第3項の規定による請求は、根抵当権設定者が合併のあったことを知った日から2週間を経過したときは、することができない。合併の日から1か月を経過したときも、同様とする。

第398条の10(根抵当権者又は債務者の会社分割)
 元本の確定前に根抵当権者を分割をする会社とする分割があったときは、根抵当権は、分割の時に存する債権のほか、分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に取得する債権を担保する。
②元本の確定前にその債務者を分割をする会社とする分割があったときは、根抵当権は、分割の時に存する債務のほか、分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に負担する債務を担保する。
③前条第3項から第5項までの規定は、前2項の場合について準用する。

第398条の11(根抵当権の処分)
 元本の確定前においては、根抵当権者は、第376条第1項の規定による根抵当権の処分をすることができない。ただし、その根抵当権を他の債権の担保とすることを妨げない。
②第377条第2項の規定は、前項ただし書の場合において元本の確定前にした弁済については、適用しない。

第398条の12(根抵当権の譲渡)
 元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、根抵当権を譲り渡すことができる。
②根抵当権者は、その根抵当権を2個の根抵当権に分割して、その一方を譲り渡すことができる。この場合において、その根抵当権を目的とする権利は、譲り渡した根抵当権について消滅する。
③根抵当権の譲渡をするには、その根抵当権を目的とする権利を有する者の承諾を得なければならない。

(根抵当権の一部譲渡)第398条の13 元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権の一部譲渡(譲渡人が譲受人と根抵当権を共有するため、これを分割しないで譲り渡すことをいう。以下この節において同じ。)をすることができる。
(根抵当権の共有)第398条の14 根抵当権の共有者は、それぞれその債権額の割合に応じて弁済を受ける。ただし、元本の確定前に、これと異なる割合を定め、又はある者が他の者に先立って弁済を受けるべきことを定めたときは、その定めに従う。
②根抵当権の共有者は、他の共有者の同意を得て、第398条の12第1項の規定によりその権利を譲り渡すことができる。
(抵当権の順位の譲渡又は放棄と根抵当権の譲渡又は一部譲渡)第398条の15 抵当権の順位の譲渡又は放棄を受けた根抵当権者が、その根抵当権の譲渡又は一部譲渡をしたときは、譲受人は、その順位の譲渡又は放棄の利益を受ける。

第398条の16(共同根抵当)
 第392条及び第393条の規定は、根抵当権については、その設定と同時に同一の債権の担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をした場合に限り、適用する。

(共同根抵当の変更等)第398条の17 前条の登記がされている根抵当権の担保すべき債権の範囲、債務者若しくは極度額の変更又はその譲渡若しくは一部譲渡は、その根抵当権が設定されているすべての不動産について登記をしなければ、その効力を生じない。
②前条の登記がされている根抵当権の担保すべき元本は、1個の不動産についてのみ確定すべき事由が生じた場合においても、確定する。
(累積根抵当)第398条の18 数個の不動産につき根抵当権を有する者は、第398条の16の場合を除き、各不動産の代価について、各極度額に至るまで優先権を行使することができる。

第398条の19(根抵当権の元本の確定請求)
 根抵当権設定者は、根抵当権の設定の時から3年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時から2週間を経過することによって確定する。
②根抵当権者は、いつでも、担保すべき元本の確定を請求できる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時に確定する。
③前2項の規定は、担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときは、適用しない。

第398条の20(根抵当権の元本の確定事由)
① 次に掲げる場合には、根抵当権の担保すべき元本は確定する。
1 根抵当権者が抵当不動産について競売手続・担保不動産収益執行手続・物上代位による差押えを申し立てたとき。
2 根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき。
3 根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始又は滞納処分による差押えがあったことを知った時から2週間を経過したとき。
4 債務者・根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき。
② 前項の競売手続の開始若しくは差押え、破産手続開始の決定の効力が消滅したときは、担保すべき元本は、確定しなかったものとみなす。ただし、元本が確定したものとしてその根抵当権又はこれを目的とする権利を取得した者があるときは、この限りでない。

第398条の21(根抵当権の極度額の減額請求)
 元本の確定後においては、根抵当権設定者は、その根抵当権の極度額を、現に存する債務の額と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求できる。

 減額請求可能な極度額 → 現存債務の額+今後2年間の利息+債務不履行による損害賠償額

②共同根抵当の登記がされている根抵当権の極度額の減額の請求は、そのうちの1個の不動産についてすれば足りる。

 根抵当権の極度額の変更とは違い、根抵当権の極度額減額請求は、元本確定後にしかできない。

第398条の22(根抵当権の消滅請求)
 元本の確定後において現存債務の額が根抵当権の極度額を超えるときは、他人の債務を担保するため根抵当権を設定した者又は抵当不動産について所有権、地上権、永小作権若しくは第三者に対抗することができる賃借権を取得した第三者は、その極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して、その根抵当権の消滅請求ができる。
 この場合において、その払渡し又は供託は、弁済の効力を有する。
②第398条の16の登記がされている根抵当権は、1個の不動産について前項の消滅請求があったときは、消滅する。
③第380条及び第381条の規定は、根抵当権の消滅請求について準用する。

【おまけ】譲渡担保

譲渡担保とは、債権担保の目的で債務者から債権者に所有権を移転し、被担保債権の弁済をもってその権利を返還する仕組みの担保方法である。

民法が定める担保権を典型担保というのに対し、その定めがなく判例及び学説によって認められた担保権を非典型担保というが、譲渡担保は非典型担保の代表的なものである。

譲渡担保の具体例
①工場で用いる機材を担保に入れて金を借りる場合などがある(機材は工場側が従来どおり使い続けることができる)。
②不動産を担保とする場合、抵当権は実行手続が煩雑となる(強制執行からの換価処分が原則である)ことから、譲渡担保により簡便な方法(担保物の取得)によって優先弁済を受けることができるというメリットがある。

譲渡担保の実行
裁判によることのない私的実行である。譲渡担保の実行においては常に清算が必要となる。この精算金の支払いと担保目的物の引渡しは同時履行の関係に立つものと解され、精算金が支払われるまで担保権設定者には留置権が認められる。

帰属清算型
債権者が目的物を取得し、目的物の適正な価額と被担保債権の価額との差額分を債務者に返還して清算する方法

処分清算型
債権者が目的物を第三者に処分して、その代価の中から債権者が優先弁済を受け取り、被担保債権の価額との差額分を債務者に返還して清算する方法

集合動産の譲渡担保の判例

(S54年2月15日)
構成部分の変動する集合動産であっても、その種類所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法により目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうる

(S62年11月10日)
集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、その際に債権者が占有改定の方法により現に存する動産の占有を取得した場合、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備したことになり、その効力はその後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となった動産を包含する集合物について及ぶ。

不動産の譲渡担保の判例

(H6年2月22日)
不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、債権者は、目的物を第三者に譲渡したときは、原則として、譲受人は目的物の所有権を確定的に取得し、債務者は、清算金がある場合に債権者に対してその支払を求めることができるにとどまり、残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできなくなる。この理は、譲渡を受けた第三者が背信的悪意者にあたる場合であっても異なるところはない。

(H11年1月29日)
将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約にあっては、契約当事者は、譲渡の目的とされる債権の発生の基礎を成す事情をしんしゃくし、右事情の下における債権発生の可能性の程度を考慮した上、右債権が見込みどおり発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益については譲渡人の契約上の責任の追及により清算することとして、契約を締結するものと見るべきであるから、右契約の締結時において右債権発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然に左右するものではないと解するのが相当である。

(H13年11月22日)
甲が乙に対する金銭債務の担保として甲の丙に対する既に生じた債権、及び将来生ずべき債権を一括して乙に譲渡した事案において判例は、この場合、既に生じ、又は将来生ずべき債権は、甲から乙に確定的に譲渡されており、ただ、甲、乙間において、乙に帰属した債権の一部について、甲に取立権限を付与し、取り立てた金銭の乙への引渡しを要しないとの合意が付加されているものと解すべきであるから、上記債権譲渡について第三者対抗要件を具備するためには、指名債権譲渡の対抗要件(民法467条2項)の方法によることができるとしている。

(H18年7月20日)
構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保においては、集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されているのであるから、譲渡担保設定者には、その通常の営業の範囲内で、譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており、この権限内でされた処分の相手方は、当該動産について、譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができると解するのが相当である。他方、対抗要件を備えた集合動産譲渡担保の設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合、当該処分は上記権限に基づかないものである以上、譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできないというべきである。

(H19年2月15日)
また、譲渡担保の目的とされた債権が将来発生したときには、譲渡担保権者は、譲渡担保設定者の特段の行為を要することなく当然に、当該債権を担保の目的で取得することができるとしている。

【所有権留保特約】

所有権留保特約とは、売買代金の担保のため、売主・買主間で代金完済までは売主に所有権を留保する特約である。
この所有権留保の法的構成には争いがあり、通説は所有権留保を担保的に構成するのに対し、判例(S50年2月28日)は所有権的構成をしている。

担保的構成 売主に存するのは、残存代金を被担保債権とする担保権であって、所有権からこれを差し引いた物権的地位は買主に帰属する
所有権的構成 売主には所有権そのものが留保され、買主には代金完済まで利用権が与えられているに過ぎない

したがって、判例の見解に従う限り、所有権留保の特約は第三取得者が甲の所有権を承継取得することを妨げることになる。


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