“自社の強み”を活かす新規事業とは?
大企業の新規事業開発を支援する、NEWhのサービスデザインチームのマネージャーをしている今村です。
ここでは“共創プロセス”で新規事業を伴走支援させていただく中で得られた知見やノウハウをお伝えしていきたいと思います。
今回取り上げたいテーマは、大企業における新規事業開発についてです。
その中でも“自社の強みを活かす”ことの重要性を掘り下げていくとともに、“自社の強みを活かす”新規事業の4つのタイプを紹介していきます。
「自社の強み」という曖昧模糊とした概念をクリアにし、かつ多面的に捉えることで、その意味するところを広げていきたいと思います。
新規事業の成功確率を高める5つの観点
自社の強みについてお話する前に、新規事業の成功確率を高めるために必要な観点がいくつかあります。
それは、市場性・実現性・競争優位性・持続性・収益性、5つの観点です。
これらの5つの観点に対して解像度高く明快に答えられる状態をつくることが事業成功の確率を高める鍵である。というお話を以前こちらの記事の中でさせていただきました。
今回のテーマである“自社の強み”は、3つ目の観点である「競争優位性」をつくる源泉として位置づけられます。
競争優位性をつくるためには、他社がマネできない、もしくはそのクオリティに到達できない自社ならではの強みを源泉として、製品・サービスを生み出すための事業活動システムを構築しなければなりません。
自社の強みを活かすことの重要性
では、自社の強みを活かして競争優位性をつくることが、大企業の新規事業開発にとって、なぜ重要なのでしょうか?
新規事業を生み出した後の市場環境を見てみるとその重要性が見えてきます。
これから新たに市場が生まれていくような市場環境の状態には大きく分けて2つのステップがあります。
1の状態は競合他社との競争がほとんどない理想的な市場環境です。しかし、大企業の新規事業開発においてはある問題に直面します。
それは、自社の強みが活かせず、売上高が小さくこれから拡大することが見込めない事業を続けるメリットがあるのか、という問題です。
そして2です。大企業が営む事業の市場環境においては、2の状態は宿命かもしれません。
市場規模が大きくさらに利益率が高い魅力的な市場は、当然、強力な競合他社が参入してきます。そのときに自社の強みを活かした競争優位性がないと競合に打ち負かされてしまう問題です。
1から2への市場の状態への移行はグラデーションになっていて、程度があり完全に分けられるものではありません。
しかしながら、どちらの状態であったとしても、自社の強みが見出せない事業は、事業存続が難しくなる問題に直面してしまうのです。
問題の解像度を高めるために、大企業とベンチャー企業との対比で考えてみましょう。
事業が拡大していくと、2の状態における「競争優位性がないと打ち負かされてしまう問題」は、大企業であれベンチャー企業であれ、どちらも同様に直面する問題です。
大企業にとっては1の状態における、全社として「事業を続けるメリットがあるのか問題」の方が、クリティカルな問題かもしれません。
ベンチャーもしくは中小企業にとって、事業規模は小さくてもニッチ市場で穏やかな競争環境で事業を継続していくことは、ニッチ戦略として有効です。
しかし一方で、大企業は既存事業の売り上げ規模をベースに、株主へ明快な利益拡大の投資戦略を提示する必要があります。そのときに自社の強みを活かせず、売上高が小さくあまり拡大する見込みのない事業は、企業全体戦略の一部の有効なピースとしての位置づけが難しく、全体戦略に組み込めない。
その結果、その事業の優先順位が下がり、会社の業績が悪くなったら撤退、という結果につながってしまうのです。
外部環境の問題ではなく、内部的な問題によるリスクです。
自社の強みを活かす新規事業開発4つのタイプ
ここまで、自社の強みを活かすことの重要性についてお話ししてきましたが、新規事業開発の現場では「自社には既存事業以外で活かせそうな強みがありません」ということがよくあります。
そんな状況で、社会課題のマクロトレンドや社員一人ひとりの課題意識を起点にして新規事業を考えるケースが多いのですが、そうしてしまうと先にお伝えしたような問題に直面してしまいます。
「全社戦略にハマらない」もしくは「競合他社にヤラれる」問題です。
ではどうすべきなのか?
“自社の強み”と言っているその正体は一体なんなのか。その曖昧な概念に対する共通認識を持つ。そして、強みの概念を体系的に捉えて表層的には見えてこないような、自社の強みを“リフレーミング”して再定義する。
そこから、事業機会を探索していくのです。
これはとても難しい話なのですが、今回はそのヒントになるような、自社の強みを活かした事業4つのタイプを世の中の事例とともに紹介したいと思います。
1. 技術または組織能力展開タイプ
このタイプは、“強みを活かす”新規事業のタイプとしては一番わかりやすいですタイプです。
ただ、「技術(シーズ)」だけでなく「組織能力(ケーパビリティ)」も含めて強みを捉えて、既存事業とは異なる領域に展開することで、新たな新規事業を生み出すというのがポイントです。
技術展開の事例:富士フイルムの高機能化粧品「アスタリフト」
印刷事業で培ったインクジェットペーパーの酸化防止剤における抗酸化の技術を化粧品事業に応用した事例です。
組織能力展開の事例:青山フラワーマーケットの空間デザイン事業「parkERs(パーカーズ)」
青山フラワーマーケットは、店舗での購買体験に力を入れていて「花のある時間と空間」をデザインできることが組織能力としての特徴です。
そこで同社は、自社の店舗空間デザインで培ったノウハウをもとに、自社店舗だけでなく、他社への空間デザイン事業として新たな事業を創造しています。
こちらの記事に、青山フラワーマーケットを事例に、組織運営能力としての強みの抽出アプローチが書かれているので興味のある方はご覧ください↓
2. 顧客体験ニーズ連結タイプ
このタイプは顧客体験の一連の流れの中で、自分たちの製品・サービスが生み出す顧客体験の一部分を強みとして、前後の顧客体験をつなげて広げることで事業を拡大していくタイプです。
顧客体験ニーズ連結事例:アップルのiPod
現在のアップルの製品・サービスはほぼ全てこのタイプに該当するのですが、iPhone成功の布石になったMP3プレーヤーのiPodもまた例に漏れずこのタイプの代表例です。
mp3プレーヤーで音楽を聴くためには【CD音源をPCに取り込む→プレイリストをつくる→mp3プレーヤーデバイスに取り込む】一連の顧客体験がありました。iPod以前の競合製品ではお手軽で簡単とは言えない体験でした。
アップルがやったのは、自社の強みである主力製品であるmac(PC)を軸に、iPodだけでなくiTunesというソフトウェアをつくることで、mp3プレーヤーで音楽を聞くための一連の顧客体験を素晴らしいものに変えて、顧客の潜在ニーズを満たしたのです。
プロダクトとしてはmac+iTunes +iPodがつながっていますが、体験をつなぐことで新しい価値を生み出しています。
これが、自社の強みを起点に顧客体験ニーズ連結の事例の一つです。
3. バリューチェーン拡張タイプ
このタイプは、先ほどの顧客体験ニーズ連結とは異なり、自社の生産活動のバリューチェーンを拡張するタイプです。いわゆる垂直統合とよばれるものです。
バリューチェーン拡張事例:日立製作所のグローバルなDX協創支援の取り組み(Lumada)
日立製作所は自社の強みであるシステム開発・運用を強みの軸として、とくに生産現場における、顧客の経営課題の理解から、事業構想、デジタルエンジニアリング、アプリケーション開発・運用・保守まで、End to EndでのDX支援をおこなって、事業を拡大しています。
4. ビジネスモデル変革タイプ
このタイプは、自社製品・サービスの強みであるコア価値を軸に、ビジネスモデルの中でもとくに収益モデルや販売チャネルを変えることで、付加価値の創造や新しい顧客獲得へと結びつけていくタイプです。
ビジネスモデル変革事例:トヨタのサブスク KINTO
強みはトヨタが製造している豊富な車種のラインナップです。コア価値である車を、「買う」から「利用」にシフトし、月額支払いのサブスクにしたわかりやすい事例です。
購入に比べて、豊富な車種から自分にあった車を試しやすいというメリットがあります。売り方を変えることで、若年層の顧客獲得を狙っています。
終わりに
今回は、新規事業開発における“強み”の重要性についてお話をしてきました。いかがでしたでしょうか?
さらに、強みを活かした事業の4つのタイプを紹介させていただきました。
この記事を読む前に比べて、新規事業に強みを活かすというモヤモヤとした概念が少しクリアになり、さらにその概念自体も広がったら嬉しいです。
この記事にも書いたとおり、強みを活かすことができない事業は参入後、「全社戦略にハマらない」または「競合他社にヤラれる」問題に直面してしまいます。
そうならないためにも、まず外に目を向ける前に、自社について深く知るところから新規事業の構想を始めるべきだと考えています。
今回は深く入り込めなかった、事業創造の方法論やアプローチについてはこれから書いていきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。「♡スキ」をいただけると今後の励みになります。ではまた!
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