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バックキャスト力

※本文章は、筑波大学エクステンションプログラムの講座の一つであるSTEAMリーダーシッププログラム「課題創造学」講座の第一期受講生で企画・編集した冊子「卒業生が語るSTEAMの風景とそれぞれの課題創造」に寄稿したものです。本冊子は、受講生それぞれの視点で「見つめる力」、「アンテナを張る力」、「バックキャスト力」、「思考の枠を外す力」、「視点を変える思考力」、「あきらめない力」について述べています。私は、「バックキャスト力」と「視点を変える思考力」の2テーマに寄稿しており、こちらは「バックキャスト力」のものです。本冊子は2020年6月13日現在インターネット上で公開はされていません(…と思います)。

STEAMリーダーシッププログラムは2020年7月12日(日)〆切で第三期の受講生を募集しています。受講料は安くはありませんが、得られるものは少なくないと思います。こちらの動画もご参照ください。

「もう化学メーカーにこだわらなくていいんじゃないですか??」
 STEAMプログラムの最終回で、私のノートを見た落合先生の一言がずっと心に残っている。5年後、10年後の自分のありたい姿を考えた時に、今自分が働いている会社を表す化学メーカーという言葉を私は当たり前のように使っていた。それを見た落合先生が言ったのが先の言葉だ。10年後のありたい姿を考えた時、化学メーカーで働くのは手段でしかない。そもそも自分がどうありたいか?があって、そのためにどこで何をすべきかを考える必要がある。しかし、当時の私は現在の延長線上でしか10年後を考えていなかった。ありたい姿によっては、化学メーカーで働いていない未来すらあるはずなのに。バックキャストで考える、と言葉では簡単に言えるが、余計なバイアスやリミッターをかけずに考えようとすると意外に大変なことに気づく。

 それから半年ほど過ぎた2019年のある夏の日、私は会社の上司と面談をしていた。振り返ると高校時代、情報系か化学系に進むか悩み、化学実験の楽しさを決め手に化学系に進んだ。大学でも化学の楽しさ・おもしろさは変わらなかったし、その知識を使って社会や人々の役に立つ素材や材料を作ってみたいと思っていた。だからこそ、化学メーカーの研究開発職に就いたのだった。しかし、私は入社以来ずっと続けてきた研究開発職から事業企画職に転向しようとしていた。「本当にいいんだね?」と上司は私の思いを念入りに確認してくれた。担当業務がはっきり分かれている専門職型の外資系企業と比較して、国内企業は職務記述が曖昧なことが多いので、職種をまたぐ異動はさほど珍しいものではないかもしれない。しかし、技術系職種から事務系職種に自らの意志で転向する人はそう多くはないと思う。大学から学んできた化学の知識、会社での研究開発業務という一連の経験を考えれば、技術系職種の方が明らかに親和性が高いし、活躍の場がありそうにも思える。事業企画など正反対に近い職種かもしれない。転職する、あるいは、起業する、といった劇的な変化ではないかもしれないが、私にとっては大きな決断であったし、STEAMプログラムの最終回に影響を受けたことは間違いない。

 バックキャストで考えても、考えを実現するための行動がなければ意味がない。行動まで含めた力をバックキャスト力と言うべきなのではないだろうか。STEAMプログラムを受講した結果、私は今まさにバックキャスト力を使っている途中なのかもしれない。

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