月の宴
夜空を泳ぎ雲の波を越えて、月の島に辿り着く。
今夜は月の宴を祝う晩だ。
大小さまざまな皿がテーブルに並べられている。
星を浮かべた冷製スープに、三日月を添えたフォアグラのソテー。
カクテルグラスは宇宙を彩っている。
私は銀河を散りばめたスーツを纏い、一人の女性を待っている。
遠くで歓声が聞こえる。
「おぉ、星の子だ」
「なんと美しい」
「彼女の奏でる音は世界一だ!」
「いや、銀河一だね!!」
星の子と呼ばれた女性は深くお辞儀をし、星の雫を纏いながら私のテーブルまでやってきた。
「あら、待たせてしまったかしら?」
星の子はそう言うと太陽のカクテルをひとくち口にする。
「いや、そんな事はないさ」
「皆、君に見惚れていたよ」
私は彗星のカクテルを口にしながら、そう答えた。
「スーツ、よく似合っているわ」
「そりゃ君が見立ててくれた物だからね」
二人が会話を弾ませていると、不意に花火が打ち上がる。
『流星の花火』
月の宴一番の見所だ。
この花火を観るためだけに、わざわざ夜空の海を越えて来た者さえ居るという。
「始まったわね、おめでとう」
「あぁ、おめでとう」
参加者たちも各々に月の宴を祝っている。
「今夜は君にこれを渡したかったんだ。」
私はスーツのポケットから、一枚の金貨を取り出した。
「あら、キプロスの金貨ね」
「素敵だわ」
星の子は金貨を摘み、天高くかざしてそれを眺める。
これは、いつか二人で約束の地へ旅をした時に探していた物だった。
「気に入ってくれたかい?」
私は微笑みながら尋ねる。
「勿論よ、見つけてくれたのね」
嬉しそうにそう言って微笑むと、星の子はキプロスの金貨を大事そうに鞄に仕舞った。
「いつかまた約束の地へ行った時、今夜の様に巡り会う為に大切に持っておこう」
私は、もう一枚の金貨を見せながらそう言うと、彼女の手に触れた。
「私、貴方に出会えて幸せよ?」
「こうやって、また巡り会えたのも幸いだわ」
「私だってそうさ!私も君に出会えて幸せだよ」
私は彗星のカクテルを一息に飲み干すと、彼女のグラスを手に取って言った。
「何か飲むかい?取ってくるよ」
「ありがとう、じゃあ『牡羊座のブランデー』をお願いするわ」
彼女がそう言いながら微笑んだ。
「承知致しました」
私はさながらウェイターにでもなったかの様に、深くお辞儀をして言った。
「夜が更けていくわね」
「あぁ、月の宴の祝いはまだ始まったばかりさ」
夜の闇を月が照らし、二人を飲み込んでいく。
いつかまた巡り会えたのなら、二人の想いは夜空を照らすどの星よりも眩く輝き、永遠へと続いていくだろう。
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