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映画レビュー『さかなのこ』

男か女かは、どっちでもいい。

映画の冒頭で掲げられる決意は、観る者の心に音を立てて突き刺さる。
普通か普通じゃないかは、どっちでもいい。
映画を見終わって劇場を出る時、本当に心からそう思っている。

幼少期から魚を愛し、魚に魅了されたミー坊。
一つの夢を追い続け、何かに夢中になる姿と
その人生の中で邂逅する全ての人々が愛おしい。

この映画の感想を一言で言うなら、よく分からない。
ヒューマンドラマなのか、ギャグ・コメディなのか、自伝なのか…
その映画が優れている(良い)ことを判断する上で、
シナリオや心情描写や、役者の演技力に伏線回収の見事さが語られることが多い中で
シンプルに、笑えて、泣けて、スゴい。そんな映画だった。
公開期間が終えようとしても尚、そこそこ劇場は埋まっていた。

そして、観客たちはあるシーンで声を上げて笑い、
ラストはスクリーンの光に包まれながら泣いていた。

演技や展開、シナリオや歪なCGのノイズに紛れているが、
間違いなくスゴい映画を見てしまった。
面白いこと以上に、スゴいかどうか。そんな映画を久しぶりに見れた。



ミー坊の半生は、原作の”一魚一会”よろしく、まさに「フォレスト・ガンプ/一期一会」。
夢に邁進する姿は、魚版・堀越二郎「風立ちぬ」だった。
序盤、キッズウォー張りの「子ども劇場」は
カメオ出演の域を超えて、ガッツリ不審者として登場する本人・さかなクンのお陰でもつ。
中盤、青年期からミー坊を演じるのんが素晴らしすぎる。
彼女の表情一つ一つや吐き出す言葉の抑揚が、ミー坊をたしかに”存在”させている。
同級生たちのキャラクターも秀逸で、柳楽優弥はピカイチ。磯村勇斗と岡山天音が特にいい。

カブトガニの散歩から、不良同士の抗争、網でイカを捕えるシーンまで、笑いが止まらなかった。
ドラドラの鈴木拓、 かが屋・賀屋、シソンヌ・長谷川。
お笑い芸人の入れ方もスゴくすっきりしていてよかったが

『天然コケッコー』ではなく、『さかなのこ』

キャストで特筆すべきは、断然、夏帆。
くるり流れたら、『天然コケッコー』そのままやん…!と思えるほどの美貌。美しすぐる。

それでも、そんなキャストを押しのけて『さかなのこ』はのんの映画であり、
ミー坊の映画である、そう思わせてしまうのんの才能に震える。


さかなクンなのか、さかなクンではないのか。
フィクションなのか、ノンフィクションなのかは、どっちでもいい。

★3.9

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