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ジビエサテライトユニットとは? 〜 箱モノ問題をコンパクトに解決!! 移設可能なジビエ処理施設

本稿は『けもの道 2017秋号』(2017年刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。

有害駆除や狩猟で手に入れた野生肉をジビエとして利活用したい自治体や個人猟師たちは数多い。

しかし、最大の関門となるのが「野生肉の解体処理施設」=「箱モノ」の建設だ。土地の入手をはじめ、多額の初期費用が掛かる上、関連法令の施設基準を満たす必要がある。しかも施設は土地に固定されているが、いつまでも近くに目当ての野生動物がいてくれるとも限らず、近在の従業員を確保できる保証もない……。

そんな、あれもこれもと「箱モノ」にまつわる不安と悩みを解消するべく、岐阜県に登場した新たなコンセプト&処理施設「ジビエサテライトユニット」をご紹介する。

文・写真|佐茂規彦


安価で 複数で 移設可能な夢の箱モノ

トレーラーハウス技術で作る「サテライト施設」

ジビエサテライトユニットを開発したのは、岐阜県のプラスチック金型設計を主に手掛ける株式会社モールデック(本社:岐阜県各務原市)。代表の奥村靖さんに話を聞いた。

右がモールデック社代表の奥村靖さん。左が試作1号機で実際に鹿を解体した萩原さん

「もともと8年ほど前に岐阜県の『田舎暮らしビジネス創出支援モデル事業』に参加して以来、お客様ニーズに合わせたトレーラーハウスを設計・製作していたのですが、去年、県で鹿とか猪の解体処理施設を試作開発する事業の募集があり、トレーラーハウスで構築した技術をベースに移動型の施設を提案したんです。私自身はジビエどころか狩猟とは全く無縁だったのですが」

限られたスペース、解体作業の効率性という観点からモールデック社の企画は採用され、岐阜県の平成28年度「サテライト施設の試作品開発事業」に基づき、新しい解体処理施設の開発は始まった。

試作1号機の設計開始が昨年9月。その2ヵ月後の11月中旬には揖斐川町で開催される鳥獣害対策サミットで展示するという目標に向けて、県内数ヶ所の解体処理施設を見学して回りながら、設計・部品作り・組立てを同時平行でやり遂げた。

現在、試作1号機は岐阜県郡上市の猟師・萩原さん宅に設置されており、今年2月の営業開始から猟期の間に鹿を7体解体した。

実現可能な「安価」と「移設可能」

岐阜県では「ぎふジビエ衛生ガイドライン」に基づいて県内で捕獲された鹿や猪を解体処理し、ジビエの普及に努めている。

「ジビエの普及のためには供給量の確保が必要となりますが、二次処理までできる大掛かりな解体施設そのものをドンドン増やすわけにもいきません。そこで、既存の施設を核として『衛星』のように一次処理までできる小型の施設をその周りの地域に設置すればいいのではないかと考えました」(岐阜県農政部農村振興課鳥獣害対策室石田係長)

解体施設を作るにあたって、スペースや作業効率などのほか県の具体的な要望の1つは「安価」であること。

できるだけ安くあげることは当然だが、目標レベルは、通常であれば数千万円かかるという施設建設費のケタを1つ落とすことだった。そこで一次処理から保冷までに機能を特化させ、コンパクトで複数の場所に設置可能とすることを目指した。

要望のもう1つが「移設可能」であること。

これが奥村さん率いるモールデック社が得意とする「車輪ユニット脱着式トレーラー」の性能を活かせるポイントだった。

土地に定着した施設を建設すると、ただでさえ野生肉処理の人材が不足している中、高齢化などで担い手がいなくなってしまえば、たちまちその施設の運営は滞る。また、鹿が施設から近い場所で獲れなくなれば、施設までの搬入時間が掛かり、肉として利用できる捕獲個体が少なくなることも考えられる。

こういった問題に対処するため、施設そのものを必要に応じて移設できるものにし、持続的な施設運営の方法を模索したのだ。

実はトレーラハウスではない

ユニットはトレーラーで移動が可能だが、上部の処理施設ユニットと、下部のトレーラーユニットが分離する「車輪ユニット脱着式」の構造になっていて、いわゆる「トレーラーハウス」ではない。横幅1.8メートル、長さ約3.7メートル、高さ約3メートルの施設ユニットは、もともとモールデック社の車輪ユニット脱着式トレーラーのプラットホームサイズに合わせて製作されたものだ。

ジャッキで上部の処理施設ユニットを持ち上げ、下部のトレーラーユニットを脱着することができる。この機動性はジビエサテライトユニットの大きな魅力の1つ

任意の場所まで施設ユニットをトレーラーに載せて牽引し、設置場所で施設ユニットのみを残す。必要があれば、再びジャッキで持ち上げ、トレーラーに載せれば移動させることができる。車が通れるところであればどこにでも移設できるという機動力を備えた処理施設なのだ。

処理施設ユニットには、電気・ガス・水道といったライフラインを引く必要がある。また、食品衛生法の営業許可を取得するためには、上部の処理施設ユニットと下部のトレーラーユニットが一体となった「車両」の状態ではなく、処理施設ユニットのみの設置となる

1~2名の作業が可能なコンパクトサイズ

大きさ

イメージとしてユニットの大きさは4畳ほど。前室が1畳強、作業室が2畳弱、冷蔵室が1畳ほどの広さ。床面から天井までの室内高は約2.7メートルあるため、本州鹿を懸吊して剥皮、内臓抜きを行うことが可能な高さだ。

洗浄と前室

写真提供:岐阜県
写真提供:岐阜県

搬入口となる入口ドアを開けると、中は前室になっており、ドア右上に設置されたアームを外に出して搬入個体を吊り上げることが可能。個体を洗浄する際にアームを外に出したままドアを閉められるよう、アームの当たるドアの縁には切れ込みが入っている。

洗浄後は、個体を床に触れさせることなく、ユニット内の懸吊レールに移し前室に引き込み、そこで検体が行われる。

作業室

検体が終わればレールに吊るしたまま作業室に個体を移し、剥皮と内臓出しを行う。

実際に解体作業を行った萩原さんによると、「2人で作業をしたが、さすがに少しせまい」そうだ。コンパクトな設計思想との兼ね合いもあるが、基本的に作業者を1人とするか、作業室内の備品をカスタマイズするなどが必要かも知れない。

取材で感じた現実問題として、恰幅の良いハンター諸氏では鹿を吊るした状態の作業が多少窮屈だと思われる。コンパクトな作業場である以上、作業者もスリムである必要がある。

冷蔵室

写真提供:岐阜県

冷蔵室までレールが引き込まれ、一次処理の終わった個体を床につけずに引き込める。広さは「詰めれば鹿4体は入る」ほど。温度管理はマイナス10℃まで設定が可能で、通常は2℃で運用しているという。

手頃な処理施設のモデルとなり得るか?

中核施設との運用方法がカギ

先にも述べたように、この「ジビエサテライトユニット」は、あくまで中核施設があることが前提の「周辺施設」という位置づけだ。

萩原さんは昨猟期中に7体を解体した。一次処理まで終わった個体は、奥美濃ジビエ協議会が引き取り、二次処理に回すことになるが、1体や2体だけで回収するとコストが高くなるため、郡上市内のほかの処理施設も合わせて数体を引き取る必要がある。

回収の日程をあらかじめ決めておくとか、個体の保管状況を情報共有しフレキシブルに回収車が来るようにするなど、全体的なコストを下げる運用方法が求められるだろう。

販売価格

現在、モールデック社においては、試作1号機の運用状況などを踏まえ、作業に必要な備品類を除いた状態で、税込み販売価格350万円以下を目指している。

実際には備品類の購入、ユニット設置にかかる基礎工事やライフライン接続などの費用がかかってくるが、それでも「一式揃えるのに500万円以下」で可能なものを目指すという。

この金額が高いか安いかは、想定される「肉」の回転率に左右されるだろうが、数千万円は下らないであろう解体処理施設の建設費用に比べれば、手の届く現実的な金額であることは間違いない。

工程を分けることがポイント

ジビエサテライトユニットでの作業は一次処理と保冷までに特化し、それ以降の二次処理は既存の大型施設に委ねることになる。それゆえ設置に必要な面積は必要最低限で済み、現に試作1号機がそうであるように、個人宅の敷地内に設置することも十分可能だ。

作業内容には二次処理で必要とされる細かな解体技術は含まれないため、作業の従事者も育成しやすいことが予想される。

岐阜県では今後、試作1号機の使用結果を踏まえた改善を施し、法人や団体などの設置希望者に対して必要な支援策を講じることを検討している。

(了)


狩猟専門誌『けもの道 2017秋号』では本稿を含む、狩猟関連情報をお読みいただけます。note版には未掲載の記事もありますので、ご興味のある方はぜひチェックしていただければと思います。

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