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ジビエ信仰に業界人が警鐘「ジビエ販売の成功のカギは営業力にある」

本稿は『けもの道 2018秋号』(2018年9月刊)に掲載されたものを note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


狩猟歴なし、食品販売歴なし、営業経験だけはあったジビエ卸売り業者のK氏。足掛け6年に渡る全国行脚で地方から都市部へのジビエ販売網を構築した業界人は、現在の “ジビエ信仰” をどう見ているのか。けもの道編集部がコソッとお話を聞いてきました!

取材日|平成30年7月

K氏略歴
ジビエ食肉加工処理施設、ジビエ卸売り・小売などを手がける野生肉取扱い総合商社をおよそ6年前から経営。現職を始めるまで自身に狩猟歴や食肉販売経験はなく、前職では営業や法務(契約)などを担当。現在は、地方の食肉加工処理施設を取りまとめてジビエを仕入れ、主に都市部の飲食店やフードチェーンに卸売りを行っており、最初の施設建設費を除き、助成金などの交付を受けることなく独立採算で運営している。

「ジビエ」と呼べば “売れる” わけではない。

ーー「ジビエ信仰」と揶揄されるほど近年はジビエに注目が集まっていますが、ジビエ業界に入った当時の状況はいかがでしたか?

私が「ジビエ」というものに商品として興味を持って足を踏み入れた地域では、当時、すでにいろいろな助成金のお陰で、県下全域で20ヶ所以上のジビエの食肉処理加工施設がありました。

私はジビエとはどんなものか、どうやって生産されているのかを知るために各施設を直接訪ね、見学などをさせてもらったのですが、そこで見た現実は惨憺たるものでした。

運営主体が個人レベルの猟師とか猟友会なので、捕獲個体は入って来るのですが、それを肉には出来ても売るための営業力とか販売力が無いんですね。肉が貯まる一方で、まともに稼動してもいないのに冷凍庫だけは満杯でした。

そこで、「私が売って来るから仕入れをさせてくれ」と交渉を始めたのです。

「ジビエ」と呼べば “商品になる” わけではない。

ーー「肉がある」ということは、売るための商品はすでに豊富にあったんですね。

いえ、「肉」はあってもとても「商品」と呼べる状態ではありませんでした。

まず、施設は食品衛生法の営業許可をとってはいるものの、細かな衛生管理などはできていませんし、精肉するまでの仕組み、解体処理の技術も意識もすべて施設ごとにバラバラです。

例えば「モモ肉」と名前をつけている肉があります。今でこそ外モモ、内モモ、新玉などモモ肉の中でも部位分けをしていますが、当時は大きな個体ならキロ単位、小さな個体はグラム単位など部位はゴチャ混ぜで重量売りでしかありませんでした。

そこで、まずは商品として統一するために、協力してくれる施設の関係者を集めて、皆で解体技術や衛生管理を学び、それらを遵守させるところから始めました。

猟師の常識は食肉の非常識。既存の概念を捨てて「生産者」になれ。

ーー施設の関係者はもともと猟師の方が多いでしょうから、解体技術などの飲み込みも早かったのではないですか?

いえ、猟師だからこそ、皆をまとめるということが一番大変でした。

施設を切り盛りしているのは地元のベテラン猟師や、猟友会の支部長クラスが多く、はっきり言って「お山の大将」のような人がほとんどで、解体方法ひとつとっても自分のやり方が一番だと思っていました。

衛生観念にしても「今までこれで大丈夫だった」とか、何の保証も科学的根拠もないことを堂々と言ってのけます。

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