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私が着たいものを選ぶ/3月1日

朝起きて、ふわっと花の香りが鼻をかすめた。また日付は1に戻る。

ずっと、「おしゃれな人」に憧れていた。今も、ずっと憧れている。

自分で服を選んで買って、ってするようになったのは、いつだろう。

本当に小さい頃は、記憶にある限り、母が結構かわいい服を選んで着せてくれていた気がする。私が幼かった頃は、まだ「ユニクロ」がなかったし、ローコストで服を買える文化がなかった時代だったろう。親が選んだ服を着ていたのは、小学校ぐらいまでだろうか。

中学校、高校はそもそも、私服を着る時間が少なかった。学校に行っているか、部活をしているか。特に高校時代なんて、1年の360日は制服(とジャージ)を着ていた気がする。制服、と言っても、田舎の公立高校あるあるな、地味でなんの代わり映えもしないものだったし。

ここまでを振り返ってみると、「自分で服を選ぶ」ということを、ほとんどしていない。
おしゃれに興味がなかった訳ではないし、ファッション雑誌も読んだりしていた。だけどページをめくると現われる細くて可愛い、同年代の垢抜けたモデルさんたちは、あまりに自分と違いすぎて、同じ国の中高生だとは思えなかった。紹介されるショップだって、自分の住んでいる県にも、隣県の比較的大きな地方都市にすら、なかった。
おしゃれじゃなくても、恥ずかしい思いをしないし、何より、制服でいればいいことが、楽だった。

・・・

大学生になって住んだ新しい街は、雑誌に載っていそうなショップがたくさんある場所だった。大学のキャンパス内を歩く同年代の人たちは、みんなオシャレだった。
明らかに、田舎から出てきたばっかりだと分かる、自分の出で立ち。
おしゃれじゃないことを、恥ずかしいと思った。

おしゃれの階段を昇るのは、これまで「制服」という“思考停止”に守られてきた私にとって、大変難易度の高いものだった。
わずかなおこづかい(バイト代)をやりくりして、さほど安くもない服を、自分に似合うかどうか判断の基準すら持たない状態で買い揃えることの、なんと難しいことよ。
しかもお店の数だって、(地元に比べて)星の数ほどある。街に繰り出しても、服を選ぶ前に、歩き、迷い疲れてしまって、ようやく出会った服がいいのか悪いのか、判断する感覚も鈍ってしまっていた。

大学に行けば、否応なしに、おしゃれな人とすれ違う。(たまに、大学生のくせになんでそんな高そうな格好ができるんだ、という人もいたが。)向こうはこちらなんて眼中にもないだろうが、そうして気になってしまうのが、コンプレックス、というものなのだろう。そうだ、あれはコンプレックスだったんだ、おしゃれになれない、なりかたがわからないという、コンプレックス。

・・・

このコンプレックスを抜け出せそうになったのは、つい最近だ。長い闘いだった。
抜け出す決め手は「お金と自由に付き合えること」と「自分に似合うものを知ること」この2つだったと思う。
何事もそうだが、“うまく”なるにはまず量をこなす必要がある。制服に守られて、自分で選ぶことを怠ってきた人が、トライする回数も重ねずして、急におしゃれになれるわけがないのだ。かと言って、限られたお金をたくさん服に充てる勇気も、気概もなく、「安物買いの銭失い」みたいな買い物ばかりしていたのだから。
あの頃の買い物の基準は、自分の意思から湧き上がる「着たいもの」ではなく、自分の見た目に「似合いそうなもの」でもなく、「今持っているアイテムになんとなく合わせられそうな何か」もしくは「セールでお買い得」という完全に自分の外の判断基準に依存した選び方をしていた。
社会人になり、少しお金にゆとりが出てきて、ようやくそんな買い物の仕方から脱却できたのだった。そう遠くはない日の話だ。これを買ってみよう、似合わなくても勉強だ、と思えるのは、やはり経済的な多少のゆとりがあってこそだと、お金を使うことにビビリ気味の私は個人的に感じている。
そして、いろんなものを試していると、自分に何が似合って似合わなくて、ときめいてときめかなくて、ということもわかってきた。場数を踏むというのは、やっぱり大事だなあ。

今行き着いている自分の好みは、「見た目はシンプルで、でも細部にこだわってあって奥が深くて、美しいもの」だと思っている。
…これって実は、ファッションだけじゃなくて、私がこれまで好きだった・好きであるものと、大いに共通していることに気づいた。こうしてテーマが定まると、急に選びやすく、生きやすくなるんだなあ、という発見。

大学生になったあの春から、おしゃれコンプレックスに見舞われて、ちょうど10年が経とうとしている…!
ひとつ、揺るがなさそうな自分の着こなしのテーマをようやく見つけられたこの頃。10年って、長かったけど、人生100年だとしたら、まだまだ先はもっと長い。まだまだ楽しめる。
「見た目はシンプルで、でも細部にこだわってあって奥が深くて、美しいもの」ーアイテムの数は決して多くなくていい。これだ!と、ときめけるものと出会った瞬間に財布をパッと取り出せるように、審美眼と瞬発力を養っていかねば。

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