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音と言葉と 意味と記憶と | 沈丁花


あわき ひかりたつ にわかあめ
いとし おもかげの じんちょうげ
あふるる なみだの つぼみから
ひとつ ひとつ かおりはじめる


じんちょうげ、って多分植物かなにかなんだろうな、と
この歌を聴いて以来、ぼんやり思っている。

言わずと知れた名曲、
ユーミンこと松任谷由実さんの「春よ、来い」の歌い出し。

この歌との出会いは、父の車の中だった。

雪国の私のふるさと、
冬の楽しみの一つが、父と休日に行く、スキーだった。

遠足は家に帰るまでが遠足です、とはよく言うが
私にとって、父と行った冬の記憶は、
家を出発する車の中から始まっていた。

車の中で流れるのは、
冬ソングの女王・広瀬香美の諸々の曲たち、
そして、ユーミンの冬歌も外せない。

これらの歌を口ずさみながら、
ゲレンデへ気持ちを高めていくのが
雪山へ向かう父のルーティーンなのである。

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恋人はサンタクロース!

Blizzard, Oh! Blizzard!

雪道に揺られ、後部座席でうとうとする私はまだ小学生だったが、
多くの日本国民を魅了した歌手たちのまばゆい名曲の数々は
美しく、覚えやすく、平凡な子どもの記憶にも、“音”として、残った。


それから私も成長するにつれ、
“自分の好きな曲”に出会い
初めて手にしたiPod miniに、ユーミンは入れられず、
色のついた液晶画面のiPod nanoに変わっても、ユーミンは選ばれなかった。

父と雪山へ行く機会も、ぐんと減った。


ユーミンとの突然の“出会い直し”は昨年、
松任谷由実(荒井由実)の曲が一気にApple Musicで解禁されてから。

アルバムのアートワークを見た瞬間、
父の車の中にあったプラスチックケースの記憶とリンクした。

スキー場へ行く道中を思い浮かべて聴く、懐かしい曲たち。
“音”として記憶された曲は、そのまま、口ずさみさえできる。


その中でも、イントロが始まった瞬間に
すっと心を掴んで離さなかったのが「春よ、来い」なのだった。

淡き光立つ 俄雨
いとし面影の沈丁花
溢るる涙の蕾から
ひとつ ひとつ 香り始める

美しい。

ただ、美しい、言葉だ。


“音”として記憶していたもの。
それが“言葉”として降りてきて、その意味を知る。知ろうとする。



「沈丁花」 ーこの花を、私はまだよく知らない。



私が何かまたひとつ、新しいことを知ろうとするごとに、
父と過ごしたあの日々は、少し遠くなる。

だけどこの歌が、私の記憶を、永遠にもしてくれる。

春よ 遠き春よ
瞼閉じればそこに
愛をくれし君の 懐かしき声がする


この春は、沈丁花を探しに行こう。

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