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書のワークス&ストーリーズ(2021/04)

3月で世界文庫アカデミーを卒業し、自分の生活でもこれがひとつの区切りとなりました。
と言っても、生活は急に変わるわけではなく、むしろ1年間の学びがじわじわ〜と効いてくる、そんな感覚を抱きながらニューシーズンを淡々と歩んでいた4月。

そうして過ごしていたら、立て続けに、「字を書いていただけないですか?」というご依頼が2件。何かを手放したら(今回の場合はリミットが来た、が正しいけど)、新しいものが入ってくるというのは本当なんだなあと、ちょっと俯瞰して、他人事みたいに感心しながら。
もちろん、ぜひやらせてください!ということで、ご対応させていただきました。
ご依頼を受けて、自分なりに仕上げて見えてきたことがあったので、ここに記しておこうと思います。また、このnoteを読んでくださったあなたや、その周りの方が、何か「書くこと」をお願いしたいことがあった時の参考になれば幸いです。


ワーク1.木製写真立て(オルゴール付)へのお名前入れ

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「五月人形のオルゴールに名前書いてもらえませんか?」

なかなかの変化球!なご依頼をいただいたのは桜の散り際のこと。
私の知人で、昨年ご出産される際に「よかったら命名書お書きしますよ!」とお伝えしていたのですが、やはり出産前後はバタバタしてそれどころではなく、という状況だったそうです。
産まれたのは男の子、今年が初節句。五月人形をご用意されたそうなのですが、五月人形の販売店では横に置くオルゴール付き木製写真立て(私も、実家の雛人形の横にあったな…と思い出した)にお子さんのお名前を入れるサービスをやっていなかった…困ったな…ん、そうだ、あの人になら頼めるかも!木に筆と墨で書いてくれそうな人はあの人しかいない!ということで、こちらにご連絡をいただいた、という流れでした。そんな時に思い出してもらえるだけでありがたい。

…という流れで、命名書とはまたちょっと異なるお名前書き、そして初めて「紙」ではなく「木」に字を書く機会をいただきました。
一発書きなので知人宅へお邪魔してその場で…とも一瞬考えたけれど、やはり自宅の静かな場所で落ち着いて書くのが一番だと判断し、写真立てをこちらへ送っていただいて仕上げました。(もちろん、一発勝負をする前に、他の木に何度も練習しています。)
普通の濃さの墨だと、木の繊維に墨が入り込んで滲んでしまうということで、墨を濃厚に、これでもかというくらい磨っています。自分の書道の先生に濃厚に墨を仕上げる裏技を伝授してもらったのでした。

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仕上げ方は色々あるでしょうが、「木製写真立てに直筆でお名前を書く」ということをやってみて改めて「これは、普通の家庭で簡単にできることではないな…」と私自身も感じました、ハードルが高すぎる。

・そもそも筆文字を木に書くなんて普通の人(書をやらない人)はしない
・書くのに適した用具が家にない、どう扱えばいいかわからない

・一発書き、ドキドキすぎる、失敗したらどうしよう(→これは私も同じ)

仕上げたものは、知人宅に直接お持ちし、お名前のご本人(まんまる天使)とも対面し、直接お渡しすることができました。書き上げた後も、これでよかったかな…とご依頼主さまにお渡しするまでドキドキだったのだけども…。
箱から取り出して見てもらった瞬間、本当に喜んで感激していただけて、そこでようやくホッと。こういうものは、自分の納得したように仕上げるのは大前提として、結局最後はお渡ししてご本人に届いてようやく「完成」なんだな、と思わずにはいられません。

そして、ご訪問させていただいたことで、ひさしぶりに至近距離で、「ママ」と「うまれたての赤ちゃん」という2人にお会いして、その関係性に向き合って、私の普段の生活では感じることのできない、いろんな感情が沸き起こって…いろんなものがまあるくて、それが全部、愛だなと感じました。
カメラも持っていっていたので撮らせていただいて、コロコロ変わる表情にこちらがまったく飽きなくて、知らん間に100枚近くシャッターを切りまくり。帰ってきてレタッチして見返しながら、その日伺った、彼が産まれてくるまでのお話を聴いたことを思い出して、なんだか胸がじーんとしたのでした。

ひとりのお名前を書くという行為そのもの、そしてそこから広がる裾野、私にとってあまりに広くて、感動がとめどなく湧いてきます。


ワーク2.筆文字オリジナル表札

私が毎月書いている「月の異名」シリーズ。実はこの完成品は、ご近所の八百屋さん(私は常連客)の小さなショーウインドウに飾っていただいています。異名の前のシリーズも含めると、かれこれ2年ぐらい。その経緯は、また別の機会に。
私がすきに書いて、先方にも喜んで飾っていただいている、そんな状態です。

ある日、いつものようにお買い物に行くとお店の方が「この書を見られた、うちによく来てくださるお客さんがね、新しい自宅の表札の文字をお願いできんかなと、名刺置いてかれたんですわ」と、ご依頼者さまが置いていかれた名刺を頂戴しました。

名刺をもとにご連絡し、今回依頼に至ったいきさつや、仕上げたい文字のイメージなどをヒアリング。
ご依頼者さま曰く、愛犬との日々の散歩中にいろんなお家の表札を見て歩いてるけど、なんだかどれも画一的で、面白みに欠ける。自分の家のものは、もっとオリジナリティのあるかっこいいものに仕上げたい!とのこと。だけど表札なので、文字としての可読性は十分に残しつつ。
文字は私が、そしてそのデータをご依頼者さまの別の知人の方にお渡しして、お持ちのお気に入りの桜の木のカット材(木目がとってもかっこよかった!)に印字・加工していただく流れだそうで。こだわりが最高ですね。

こちらは、いただいたイメージをもとに、手を動かして色々と書いてみてみる。
ちゃんと読めるけど、世の中のフォントでは絶対に表現できないものを。新しい住まい、そしてご家族の顔として、ふさわしいものを。
パターンをご提示して、好みのものを選んでいただいて、絞り込んで、ついに完成。←だいぶ端折ってますが。

スキャンデータを納品した後に、ご依頼者さまにお会いする機会があり(待ち合わせは八百屋さん、実はここで初対面)、その時にご自宅のエントランスに取り付けられた完成版表札のお写真を拝見しました。仕事が早い。
「ご近所さんにかっこええわ〜って言われまして!ほんといい仕事をしてくださいました。ありがとうございます。」とニコニコ〜と嬉しそうにお話ししてくださって、こちらも感無量です。筆文字を、桜のカット材に転写して印字するというセンスも素晴らしい。ご本人とは手短にしかお話しはできませんでしたが、お話ししていて伝わってくるその方の生き方というか、滲み出るものだなあ。
そしてここでも言われたのが、筆文字をお願いしたくてもなかなか近くにそんな人おらんねんな、だから八百屋さんで書を見つけて、これならお願いできるかもと思った、ということ。

そして八百屋さんにも、つなぎ役になってくださった感謝をお伝えすると「みんなが幸せになれれば、それ以上のことはないですからね」と。ああ、もう、今まで以上にトマトをいっぱい買います。もちろんトマト以外も。
誰も彼もがあたたかくて、いつも以上に緑が眩しく見えた日だった。

ちょっと前まで全くの他人だった方と、何気なしに続けていたこと(毎月書を飾ってもらうこと)を通じて、繋がれてしまう。
よく言われる「継続って大事だよ」「自分の中にとどめといてもしょうがない、とりあえず外に出さないと始まらない」、この言葉を前にして、何か迷っている人がいるなら、まじで信じてとりあえずやってみて!と背中を思いっきり押したい。

※表札の実例はここに掲載できないので、お声がけいただければ個別に紹介させていただきます。


ワークス&ストーリーズからのまなびとこれから

・やっぱり、自分の好きなことで、いま持てる力(まだまだ伸びしろだらけよ)で、喜んでもらえるのは、まじりけがなく嬉しい。

・「書」って、生活のいつでも必要なわけじゃない。だけど突然必要になるときがあったり、それがあることでもっと豊かになれるのに、というシーンがある。
 →今回の2例、ご依頼者さまたちは年齢も性別もまったく異なるお二人だったけれど、共通して言われたのが「たのめる場所がなかなかなくて…」だった。確かに筆文字を気軽にたのめる場所って、意外と少ないし、誰もに開かれた場所って少ないのかな(調べて出てくる書道家さんはなんだか敷居が高そうだしね) 
敷居が限りなくフラットな、気軽に頼める「書のよろずや」、やっぱり必要だな、やろう。

・ということで、まずは「命名書」をはじめとしたご依頼を受けられるフォームを作ろうと画策しています(Creemaとかココナラとか?考え中)。目標は、とりあえず1か月後の6/15にしておこう。形だけでも作る、です。走りながら考える。

今の自分の生活では、一度にたくさんのご依頼を受けることはできない状態です。ですが、もしご縁があれば、私でよければ、書くことでお力になりたい。それでお互いにハッピーになれれば、最高だなと思っています。

このnoteを読んでくださった方、その周りの方で、「命名書」でも、それ以外でも、「書」を突然必要とすることがあったり、それがあることでもっと豊かになれるのに、といった小さなお悩みがある方がいらっしゃれば、お気軽にご相談ください!

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日々を、かく
書家・Life Calligrapher ほの花
Twitter:@honoka_shoka →日々をかきながらつぶやき中。
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