ロディジャーノとサフランのリゾット(と、ロディジャーノの誕生について)
最近Dean & Delucaで買える、ロディジャーノ(Lodigiano)というチーズをリゾットにしてみました。
使ったのは、ロディジャーノの中でも熟成長めのタイプで、パルミジャーノレッジャーノのような固さと旨味が特徴。塩気はちょっと控えめ。
材料【2人前】
生米 1合~1合強
リゾット用スープ 1.2L(300-500ml前後のベジタブルストックを薄める)
玉ねぎ 1/4個
ロディジャーノ 50g
サルシッチャ 120g
サフラン 0.2g
バター 大2
白ワイン 50ml
サルシッチャとして:
豚ひき肉 120g(肩ロースをフードプロセッサでひき肉状にしても)
塩 1.2g
きび砂糖 0.6g
ローズマリー 小さじ1/4
おろしにんにく 1かけ分
塩、エキストラバージンオリーブオイル
メモ:
スープ1.2Lで足りなかったら、最後はお湯を足せばOK。逆に余っても心配不要。
ベースはミラノ風のサフランのリゾットにサルシッチャを加えたものにしてみました。
お米はカルナローリを使っています。日本米を使ってもOKですが、その場合、粘りがでないよう白ワインを加えた後はぐるぐる混ぜずに、へらで軽く寄せたり、へらに乗せて落としたりして混ぜましょう。
カルナローリの場合はイタリア人のようにぐるぐる混ぜてもOK。
作り方
事前準備
サルシッチャを作る。
豚ひき肉、塩、砂糖、細かく刻んだフェンネルシードとローズマリーを混ぜ込み、冷蔵庫で寝かせる。数十分~一晩寝かせる。ベジタブルストックを作る。小鍋に1.5Lのお湯を沸かして、ベジタブルブロードのキューブを1個弱~1個入れる。メーカーは好みので良いが、サルシッチャを加えるので、野菜ベースが良いかも。イタリア料理ではあまり複数の肉類の出汁を混ぜない(はず)の為。出汁ではなくミネラルウォーターでも。ストックは弱火にかけ、沸騰しないくらいの温度を保っておく。
サフランはお湯30mlくらいのなかに漬けておく。
玉ねぎをみじん切りにしておく。
手順
1.
フライパンにオリーブオイルを温め、小さ目の一口大にしたサルシッチャを炒める。全体に火が入ってきて両面色が変わってきたら取り出し、フライパンに生米を加えて炒める。
2.
油が回ってきたら白ワインを加え、混ぜながらアルコールを飛ばす。
この時点でタイマーを15分にセットしてスタートする。
お米がひたひたになるくらいのスープを加えて軽く混ぜ、沸騰したらサルシッチャを戻しいれて煮る。
スープが減ってきたらひたひたになるまで加えて混ぜてを繰り返す。
3.
タイマーが鳴るまでの間にロディジャーノをおろしておく。
4.
タイマーが鳴ったらサフランをお湯ごと加え、さらに3分のタイマーを開始。ここからはスープはほぼ加えずに、水分を減らしていく。
5.
タイマーが鳴り、計18分経過したら、バター、ロディジャーノ(一部仕上げに残して)を加えて混ぜる。日本米の場合はぐるぐるせずに、お米をへらで持ち上げて落としてを繰り返して混ぜていく。
この時点で味見して薄かったら塩を加える。
6.
平らな皿に盛り、皿の後ろを手のひらでベシベシたたいてリゾットを平らにする。下にふきんなどをはさんでたたくと良い。
7.
仕上げにロディジャーノ、軽く黒コショウをふって完成。
備考:サフランの下準備について
サフランはそのまま鍋に加えても利用できますが、先にお湯につけておいた方が良いと言われています。
他が全部間違っていたことはさておき、さすが生産者の方は扱いを良く心得ているようです。
ちゃんとした説明はS&Bのサイトを見るとわかるのですが、お湯につけるのは発色を良くする為で、サフランの黄色の色素成分「クロシン」は水溶性であるからというのが理由のようです。
ロディジャーノとは?
超ざっくりサマリ
ロディジャーノは硬質チーズ。現在メジャーになっているパルミジャーノ・レッジャーノはロディジャーノから派生したもの。
ロディジャーノ自体はロンバルディア(現在のイタリア北部)に来た修道士が12世紀に作り始めたグラノーネ・ロディジャーノが原点。
グラノーネ・ロディジャーノは1970年に消滅し、今出回っているのは2000年代にチーズ生産者が集まって作った現代版で、ティピコ・ロディジャーノと呼ばれるもの。
(正誤は自信ないけど)歴史に関しては恐らくこういう感じ:
概要
ロディジャーノ(Lodigiano)はイタリア北部、ロンバルディア州ローディ県で作られる硬質チーズ。
パルミジャーノ・レッジャーノやグラナパダーノ等の、"グラナ"チーズの原型と言われるもの。グラノーネ・ロディジャーノ(Granone Lodigiano)とも呼ばれている。"粒々の+ローディ(形容詞)"という意味だと想像。
厳密にはグラノーネ・ロディジャーノと呼ばれるのは昔の製法で作られたもので、現在のものはティピコ・ロディジャーノ(Tipico Lodigiano)と呼ぶ…が、今でもGranone Lodigianoとレシピに書いてあるものも多い。
こっちは"典型的な+ローディ(形容詞)"という意味。
短期熟成、長期熟成のいずれでも食べられており、4-6か月(メーカーによって期間は様々)の短期熟成させたチーズホイールの表面を帯状に薄く削ったものはラスパデューラ(Raspadüra)とも呼ばれる。
歴史
グラノーネ・ロディジャーノの起源は12世紀前半、ミラノのキアラバッレ修道院が設立された頃にシトー派の修道士が作り始めたと言われている。
(※)シトー派は11世紀末にフランスで生まれ、12世紀にロンバルディアを含むヨーロッパ全土に広がった。
シトー派の戒律には自給自足がある。
チーズ作りの技術はもともとフランスで活動していた頃からのものだと想定される。
12世紀ロンバルディアに移り住んだシトー派の修道士が、酪農に適したポー川北部の地域を活かし、グラノーネ・ロディジャーノを作るようになったと言われている。
このチーズは周辺地域に広がり、13世紀には支払いにも利用されるようになった。
興味深いのは、偶然かどうかわからないが、ロンバルディアとヴェネトにおいては、"グラナ(grana)"という言葉がお金と同義語になっていること。
残念ながら、グラノーネ・ロディジャーノは1970年代に消滅。
消滅の理由は以下と言われている:
集約的な穀物(トウモロコシ)農業の導入に伴って消滅した湿地帯の牧草の利用可能性に依存していた。
戦後の乳量の少ないブルーナ・アルピーナ種に代わるホルスタイン種の導入。
在来の微生物叢による自然発酵の代わりに乳清スターターの使用(ホイールの膨張による頻繁な廃棄)。
特徴的な緑がかった外観と乳清の滴の形成に必要な36ヶ月(stravecchio)から60ヶ月(stravecchione)までの面倒な乾燥塩漬けと長期熟成の放棄。
確かに、この時期のトウモロコシ(Maize)生産量を見ると、第二次世界大戦後から大幅に上昇していることもわかる。
Figure1 Maize Yield - Italy Vs U.S.A. 参照 (CC BY-NC 4.0)
https://acsess.onlinelibrary.wiley.com/share/2YWHPRU5NJXIXMWQEKCS?target=10.1002/agj2.20710
その後、2000年代初頭、地元のメーカーが現代風にアレンジしたグラノーネに似たチーズを「ティピコ・ロディジャーノ(Tipico Lodigiano)」あるいは「グラノーネタイプ(Tipo Granone)」と名付けて販売を開始。
現在食べられているロディジャーノはこれに該当する模様。
特徴
伝統的グラノーネ・ロディジャーノの特徴として、チーズ内に多くのocchiature(気泡)があり、また、製造工程で凝乳(カード)を圧搾せずに作る為、気泡を通じて熟成中にlacrima(涙)と呼ばれる乳清の滴が出て残ることが挙げられる。
なお、グラノーネ・ロディジャーノには、4月23日から9月29日の間に製造されるmaggengoと呼ばれるものと、冬の間に製造されるvernengoが存在。
maggengo, vernengoという用語については今もグラナパダーノ等で使われている模様。
日本で購入できるロディジャーノ
以下ウェブページの内容を見ると、日本で手に入るものはCassina Dede社のロディジャーノである模様。(確かにパッケージもDede' Lodigianoだった)Cassina Dede社のウェブページを見ると、以下のように日本でも食べられていることが明示されている。
(ローカルな生産者HPのトップで遠くの日本の事が書かれているのは珍しい…)
さいごに
Cassina Dede社のウェブページを訪れると、ロディジャーノのチーズホイールの写真があり、側面にクローバーが刻印されているのがわかる。これは当時、この地方で牛が(maggengoの季節に)クローバーを食べていたため。
このクローバーはラジノクローバー(trifoglio ladino)と呼ばれ、19世紀末に注目され,ローディから世界の温帯各地に広まった。現在でも飼料に利用されている模様。
このクローバーは収量、栄養価が高く牛、綿羊、山羊などの嗜好性が高いため、これが乳の供給量の増大に大きく寄与したことは想像に難くない。
技術を持ったシトー派の修道士がロンバルディアでラジノクローバー(もしくはラジノクローバーの先祖)と出会ったことが、栄養価の高い保存食としてのグラノーネ・ロディジャーノの誕生に大きく寄与したと考えられる。
参考ウェブサイト
ONAF テクニカルシート(la scheda tecnica):https://www.onaf.it/uploads/public/11897_granone-lodigiano.pdf
Farming with Monks (BEBENHAUSEN MONASTERY AND PALACE): https://www.kloster-bebenhausen.de/en/interesting-amusing/files/farming-with-monks
ラデノクローバー利用の方向(雪印種苗株式会社ウェブページ):https://www.snowseed.co.jp/wp/wp-content/uploads/grass/grass_196512_02.pdf
The evolution of cereal yields in Italy over the last 150 years: The peculiar case of rice (CC BY-NC 4.0)
https://acsess.onlinelibrary.wiley.com/share/2YWHPRU5NJXIXMWQEKCS?target=10.1002/agj2.20710
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