WSETで学ぶ理由
「最近WSETを学ぶ人増えたよね」
という話を耳にするようになりました。
とくに業界内の人間同士の会話では、Level 3の話がよく出ます。
おそらく、Level3の難易度は「JSA認定ソムリエと同じくらい」という情報が流れているからだろう、と思います。
だからすでにソムリエの資格を持っている方が「次は Level3を取るぞ!」と勉強に励まれているのでしょう。
Level3を取ることが JSAソムリエ同様ステータスになりうる、そう考えて取り組まれている方も中にはおられるのではないでしょうか。
ぼく自身は3年前からWSETのLevel2で勉強を始めて、今はdiploma(Level4)のプログラム中です。
で、思うことは、WSETってただの資格試験じゃないぞということです。
そりゃ勉強して、試験を受けて、認定証をもらえるわけですから、資格試験には違いない、と思います。(WSETでもQualificationって言ってますしね)
でも勉強しているうちに気づかされます。
取っておしまい、という類のものではないと。
ぼく自身の話を少し。
ぼくが勤めていたインポーターでは有難いことに「全員ソムリエの資格を取れ」と資格取得を奨励されていました。
社内でも勉強会が盛んでしたし、日々海外から送られてくる大量のサンプルワインを試飲する機会にも恵まれていたので、ほぼ全員が最短距離で取得していました。
なので、資格を持ってるのは当たり前。そこから自分の得意分野を伸ばしていかないと、使えない人間のまま。
どうすれば差をつけられるか?
それには教本には載っていない、生産者との会話や、日々更新される業界の動向などの生きた知識が求められる。
ぼくはバイヤーとして生産者の方達と話をする中で、自分の知識の乏しさ、ブドウ栽培やワイン造りに対する理解の無さを感じることが多く、そのたびに焦りを覚えていました。
どうすれば彼らと対等に話ができるのか、と。
そんな時に出会ったのがWSETです。
WSETはイギリスの教育機関です。なんでイギリス?とよく聞かれるんですが、
イギリスはワインの生産国というよりも、むしろ消費国です。
だから世界中のワインが入ってくるし、世界中のワイナリーがやってくる。
情報量が日本とは桁違いなのです。
そして、世界のワイン言語は英語なのです。
どの国の生産者も、輸出市場に打って出るためには、英語が必須です。
そして彼らが情報交換するのが英語。であれば、世界のワイン事情を正確に、いち早くゲットするには、英語で学ぶ必要があるわけです。
さらにイギリスは、教育にめちゃめちゃ力を入れている国です。
イギリスの教育は詰め込み式ではなく、一問一答の選択問題ではなく、記述式の問題が主流です。
それは与えられた知識で物事を「考える」、そのプロセスに重点が置かれているからです。
これはWSETの学習方法でも言えることで、それぞれのワイン産地の固有名詞よりも、ブドウ栽培・ワイン生産における基本原則の学習にかなり重点が置かれています。
基本原則を学ぶことで、初めて出会うワイン、ワイン産地のことも自分で分析して理解することができるようになります。
この部分が非常に大きいとぼくは思います。
WSETで学ぶことは、ワインの流通に携わる人間にとって必須の勉強だ。
そう感じて、プログラムに参加するようになりました。
WSETで学ぶことは、ワインの世界の「見かた」だと思います。
Level2のテーマはLooking behind the label「ラベルの裏を見る」
Level3のテーマはExplaining style and quality「スタイルと品質を説明する」
Level4のテーマはCreating the trade professional「ワインビジネスのプロになる」
これらのテーマを見てもわかる通り、知識を持っている「状態」を求められていません。
知識にアクセスするための正しい「目」を持っているか。
それが問われているとぼくは思います。
・・・。
少し脱線します。
日本では一般的に、有資格者は「知識がある者」とか「法を知る者」などとみなされることが多いです。
たとえば法律や税については、(定期的に改定はあるものの)普遍的な分野ですので、資格を持つ人はその分野の知識を網羅した(あるいはアクセスする術を知っている)スペシャリストになりえます。情報が有限だからです。
しかしことワインに関して言えば、「全部知ってます」と言えることは未来永劫ありえません。世界に何千、何万といる生産者たちが、毎年のように新しいワインをリリースします。しかもワインは時とともに変化していく。そしてワインそのものが、まだ科学で完全に解明されていない謎に満ちた代物です。
だから、ワインの勉強に終わりはありませんし、資格が知識を保証してくれることはありません。
これはWSETに限ったことでなく、ソムリエも同じです。
日本では「JSA認定ソムリエ」などと資格の名前になってるので誤解されがちですが、本来ソムリエは職業の名前ですので、資格を取らなくても優秀なソムリエにはなれます。優秀なソムリエは、ワインをどう取り扱うべきか、ワインとどう向き合うべきか、を知っています。
対して資格としてのソムリエは、一定以上の知識を持つもの、という保証をしてもらえます。だから「有資格者=知識を持つもの」という公式が成り立ちます。ですが、その知識はワインの世界全てではなく、あくまで「試験にすることができる(暗記ものの)知識のみ」に限定されています。
そう考えると、日本で使われる「ソムリエ」という単語は、本来の職業としてのソムリエよりも、資格としてのソムリエであることが多いように思います。
話をWSETに戻します。
だからWSET Level3の試験をパスすることは、資格としてのソムリエを取ることより簡単かもしれません。
「●●なのはなぜか説明しなさい」とか、「△△と□□の違いを説明しなさい」という文章題(しかも加点方式)なので、地名やアペラシオン名を覚えていなくてもある程度解くことができるからです。
合格ラインも決して高くないです。55%の正答率でPass rateがもらえます。
試験は簡単。ステータスになる。じゃあちょっと勉強してゲットしようかな。
そう思う人もいるかもしれません。
でも本質はそこじゃない、って思うんです。
試験をパスすることは、最終的にWSETに求められてることではないんです。
Level4のテーマは、「プロフェッショナルになる」です。
つまり、全部修了して、ようやくスタートなわけです。
だから、試験に受かっただけではダメなんだってことです。
その先を見据えて、自分を磨く必要がある。
そのために、WSETで「学ぶ」のだと、ぼくは思います。
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