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ワイン選びの世界① 知識ゼロでも、感動できるワインに出会います

以前の記事で、ワインには2つの楽しみがあると書きました。

それは飲む楽しみと、学ぶ楽しみ。
この二つをわけて考えたほうが、ワインとの関係はより楽しくなる。
そんなお話しをしました。

そして最近、なるほどもう1つあるな、と思ったことがあります。

それが、「ワインを選ぶ楽しみ」です。


楽しく難しいワイン選びの世界

ワインが並んでる棚って、見てるだけで楽しくなりませんか?
ボトルに貼られているラベルは、クラシックなかっこいいものから、モダンアートのようなおしゃれなものまでたくさん。
ワインの味も、本当に千差万別で、そんな中から自分のお気に入りの1本を探すのは、まるで宝探しのようにワクワクするものです。

でもその反面、「ワインを選ぶなんて難しそうで…」
と、思われるかもしれません。
「ワインは好きだけど、お店の詳しい人と話すのはちょっと怖い…」
「知識が必要そうだけど、ワインの勉強なんてしたことないし…」
そう思われる方がほとんどだと思います。

実はぼくらワインを生業にする者にとっても、誰かのために特別な1本を選び出すことは、とても難しいことなのです。
何が難しいって、選択肢が多すぎるのです
世界中でワインは造られていて、日本にも星の数ほどのワインが輸入されています。
いったいどのワインがふさわしいのか。
ワインを学べば学ぶほど選択肢は増えていき、ぼくらの頭を悩ませます。

それにワインは、開けてみるまで中身が分からないちょっと面倒くさい飲み物です。
仮に以前飲んだことのあるワインでも、時間が経つことで変化が起きているかもしれないし、一緒に楽しむ食事によっても印象が変わるかもしれない。
「想像していた味と違ったらどうしよう…」と、尻込みしてしまうときもあります。

そんなわけで、ワイン選びは楽しく、しかし難しく感じてしまうものです。

ではどのようにしてワインを選んだら良いのでしょう?


的確ではなく、最高のワイン選びを

ワインショップのお店の方にお任せするのも一つの手です。
ワインのプロは、そのために常日頃からワインの勉強をしていますからね。
きっとあなたの希望に沿った、「的確」なアドバイスをもらえるでしょう。

でも、せっかくだから、自分でワインを選べるようになりたい
そう思いますよね。

あなたがワインを贈る相手のことを、一番よく知っているのはあなたです。

あなたが今夜食べるすき焼きの味付けは、あなたが一番よく知っています。

ワインのプロとはいえ、あなた自身のことやご家族のこと、プレゼントする相手のことまで詳しく知っているわけではありません。
あなたがワインを選べるようになると、「的確」ではなく「最高」のチョイスになります。

「でもそんなこと言ったって、ワインを選べるようになるには知識が必要なんでしょう?
「ワインに詳しい人に、間違ったワインをあげたら恥ずかしいよ
と、尻込みしてしまうかもしれません。

ですが、全く心配する必要はありません

その理由をお話ししたいと思います。


無知だったからこそ出会えた感動

これはぼくがワインのバイヤーになりたての頃の話。

ぼくは今、フランスのワイングラスを輸入する代理店とオンラインのワインショップを経営しています。
といってもまだ開業したばかりのピヨピヨ経営者ですが、それ以前はワインの輸入商社でバイヤーとして勤務していました。
毎年フランスやドイツで行われる国際展示会に出向いては、世界中のワインを試飲し、日本未発売の新しいワインの開発に勤しんでいました。

さてバイヤーになる前のぼくは、決してワインにものすごく詳しかったり、テイスティング能力がずば抜けていたりしたわけではありません。
営業成績も普通、テイスティング試験の結果も普通。
いたって普通のセールスマンが、何の因果かバイヤーになってしまったのです(あとで聞いたところ「エクセルができるから」という理由でした笑)。
それも、フランスのボルドー地方という、世界で最も偉大で権威あるワイン産地の担当になってしまいました。

当時のぼくは、それはそれは恐ろしく緊張していました。
ボルドーワインに詳しいわけでもありません、英語も話せません。
展示会とか商談とか絶対無理!と心の底から怯えていました。

そして今だから言えることですが、実は「ボルドーワインってちょっと苦手なんだよな…」と思っていました。
ボルドーは、非常に長命な、タンニンのしっかりとした赤ワインで有名です。
若いときに飲むと渋みが強いのですが、熟成するとこれが「こなれて」、ほんとうに滑らかなシルクのような口当たりになり、風味も複雑になり、とても美味しいワインに変貌します。
しかし当時のぼくはそんなことなど露知らず、若いボルドーワインを飲んでは「苦手だなー」と渋い顔をしていました。

そんな時に、1本のボルドーワインに出会います。
そのワインは、まだデビューしたばかりの若いワイナリーが造った赤ワインです。
若いワイナリーですから、早く飲んでもらって評価される必要があります。
熟成して、ワインがこなれるのを待っている余裕はありませんからね。
彼らのワインからは甘く香ばしい香りがして、しかもブラックチェリーのようなジューシーな果実の風味がありました。
当時のボルドーワインの試飲会では、まさに「異色」と言えるほど、分かりやすくフレンドリーな味だったのです。
しかも価格もすごくお手頃で、確か希望小売で1,400円程度だったかと記憶しています。
ぼくは一瞬で、このワインの虜になりました。
「これはもう、あるだけ買いましょう!」と、普段は蛇に睨まれたカエルのようなぼくが突如として鼻息荒く主張しました。

ところが周りの先輩方は難色を示しました。
「これはちょっと受けを狙いすぎてるんじゃないか?」
「正統派のボルドーワインを好きなお客様が喜ぶだろうか」とのこと。
ううむ、確かにその通り。
無知ゆえに、ただ純粋に自分の好みだから選んだというのが、完全に見透かされていました。

しかしぼくは諦めきれませんでした。
バイヤーとして初めて、自分が心から美味しいと思えたワイン(それまで試飲したワインには心から謝ります)。
なんとか買わせてほしいと上司にお願いすると、「そこまで言うならやってみようじゃないか」とオッケーをもらえたのです。
とりあえずお試し程度の数を輸入して、試飲会で評判を見てみましょう、ということになりました。

さて、無事にそのワインは輸入され、試飲会に出品しました。
するとどうでしょう、なんと試飲会でそのワインは大好評!
「ボルドーってこんな美味しいの?」
「今まで苦手だと思ってたけど、このボルドーは好きだ!」
と、ぼくと全く同じ意見を持ったお客様から絶賛してもらい、瞬く間に入荷数量は完売。
その後追加発注をして、ワイナリーの在庫も完売するほどの人気アイテムになりました。
それまでバイヤーという仕事に対して後ろ向きだったぼくが、初めて前向きになれた瞬間でした。
これを機にバイヤーとしての自覚が目覚め、ボルドーワインについての勉強を本格的に始めました(そして自分の無知さに愕然とし反省しました)。

当時のぼくはボルドーワインに対する知識も経験もありませんでした。
ですがそんなぼくだったからこそ、そのワインを選ぶことができたのです。
経験豊富なテイスターから見たら「ウケ狙い」と思われるようなワインだったのかもしれません。
でもそのワインは、少なくともぼくと、ぼくと同じようにボルドーワインに対する苦手意識を持っていたお客様の心を掴んだのです。

この事実が、ぼくにとっての「ワイン選び」の原点になっています。

「生産地やブドウ品種の知識がなくても、人を感動させられるワインを選ぶことができる」

そう信じています。

もちろんプロとして、その後は知識と経験を積み重ね、より精度の高いワイン選びができるよう努力してきました。
このシリーズでも、ワイン選びのプロとしてぼくらがワイン選びの時に何を見ているかというお話しをしていきたいと思います。
ですがその前に、最も大事なことをお伝えしたかったので、今回はこのエピソードをご紹介させていただきました。


本当は、コツも何もなくたって、ワインは選べます。

ですが「今度はなにを飲もうかな」とわくわくしながらショップを眺めたり、「こないだ買ったワイン、きっとこんな味だろうな」と想像したりできれば、あなたの毎日がきっと楽しくなるんじゃないでしょうか。

みんなが肩肘張らず、幸運にも世界から日本にやってきたワインたちを、心から楽しんでもらえたら嬉しい。

そう願っています。

ということで次回から具体的なワインの選び方をお話しします。

最初は初級編ということで、
●ワインの重さ
●料理との相性
●色が違うと何が違う?

をお届けする予定です。

バイヤーとして、そして一ワイン愛好家としての経験を凝縮し、そしてできるだけ分かりやすいよう、噛み砕いた内容にしていきます。

ご興味のある方は、ぜひフォローお願いします^^

それではまた!

本シリーズは「みんなのワイン」にて連載中のコラム「プロが実践するワイン選びのコツ」としてぼくが寄稿している記事を加筆・修正したものです。ぜひこちらもご覧ください!


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