見出し画像

ノンアルコールワインの製法について Part1

こんにちは、けけちゃんです。

いよいよ7月に迫ったオンラインショップのオープンに向けて着々と準備は進んでいます!

が、なにぶん初めてのことばかり。「思ってたより時間かかった・・」ということもしばしば。あと三週間で本当に仕上げられるのか不安ですが、そのときは満を持して「順延!」と言えるひとり会社の気楽さです。


なぜ日本には美味しいノンアルがない!?

さてそんなことはさておき、ノンアルワインですよ、みなさん!
ノンアルワイン、興味ありますか?

きっとこの記事を読んでくださってる方はワインがお好きで、
ワインを飲んだ後の心地よさがお好きな方も多いかと存じます。

何を隠そう、ワインの主たる味の根幹はアルコール。

ワインがくれる「酔い」なる快楽の原因(元凶?)もまたアルコール。

アルコールがあるから、
ワインは長い歴史の中で「安全な飲み物」として信頼され、
そして広く世界で愛されてきたわけです。

そんな誉れ高きワインからアルコールを取り除こうなど、言語道断!

・・という方。お気持ち分かりますよ。

思い返せば10年前。

とにかく酒に酔っては歌って騒いでを繰り返していた恥ずべき20代。

その頃はノンアルコール飲料というものの存在価値すら理解していませんでした。

しかし30代になってそんな自分への自己嫌悪が現れ始めた頃。

結婚、そして奥様の妊娠。

一緒にワインを飲むパートナーにとって「アルコールは毒」になりました。

アルコールを摂取できなくなったからといって
彼女のワインへの愛が途絶えるわけではありません。

妊娠、出産、授乳期という実に約2年の間、ワインを我慢しなくてはならない。

ワインが好きな人には、ワインと料理を一緒に楽しむのが好きな人が多いですよね。

だから毎日の食事も、ワインがないと味気ないものになってしまいます。

「アルコールの入ってない美味しいワインがあれば・・・」
そう願いようになりました。

ところで、それまでにもノンアル飲料には時々お世話になってはいました。

もともと実家が車がないと生活できない田舎だったので、

帰省しての集まりなんかでは割とノンアルビールを飲んでいました。

でも正直、こんなこと言ってはなんですが、美味しくないのです。

明らかにビールとは違う味。

よく宴会などで「ハンドルキーパー」にお酒は飲ませてはいけないよ

と言われるわけですが、

こんな飲み物しか飲めないなんてあまりにひどい仕打ち!

普通にウーロン茶のほうがずっと美味しいよ・・・
(個人の感想です。開発に腐心されてるビール会社の方申し訳ありません)


・・そう、きっと多くの人が同じような壁にぶつかり、

ノンアルコール飲料への希望を打ち砕かれてきたことと思います(大袈裟)。

しかしそんなとき!

ついに美味しいノンアルビールに出会ったのです。
それがビットブルガーというドイツのビール会社のノンアルでした。


初めて飲んだ時、「これビールやーん!!」と叫んだほどです。

美味しい・・・!
ビールの味がする!

むしろアルコールがない分、軽くて飲みやすくて夏とか最高!

なんで?
なんでドイツだとこんなに美味しいの?

調べると、ドイツのノンアルビール製造の歴史はけっこう古く、

それぞれの事情でアルコールを摂取できないビール愛好家のため

美味しいノンアルビールを造る技術が育まれてきたわけです。

さすがビール大国!

じゃあその技術、日本も真似しようよ!・・と思ったのですが、

調べてみると、実は

日本で美味しいノンアルコール飲料をつくるのは非常に困難だ

という事実を知ることになります。

と、これについては良記事がありましたのでそちらのリンクを貼って割愛します。

https://gyouseishoshi-network.com/article/ノンアルビールの味に酒税法あり/

ざっくりとポイントだけかいつまむと、
(高い税収が見込める)アルコール飲料をせっかく作ったのに
そこからアルコールを抜くなんてダメだよ!
一度アルコールを作ったのならきっちり年貢を収めてくれないとね!
という酒税法のハードルがいまだに存在しているということです。
お上にすれば、ビールのもたらす文化的な価値よりも
そこに含まれるエタノールのほうにずっと価値があるわけです。


つまり、美味しいノンアル飲料をつくる技術はすでに世の中にある

しかし、日本ではそれはかなわない(可能だけれどハードルが高い)

ということです。

そして大事なことは、

日本の多くのお酒愛好家たちが、

この日本の事情のせいで「ノンアル=美味しくない」という大前提を

抱えているということです。


今や飲酒運転への規制はどんどん厳しくなり、
また健康志向の高まりから、アルコールを避ける人が増えています。
お酒でコミュニケーションという文化を持たない人も多くなりました。

世界的にも、今後ノンアル、あるいは低アルコール飲料の需要は増えていくことが確実と言われています。
(このノンアルの現状については次回まとめます)

だからこそ、ノンアル・低アルも品質を追求していく必要があります

車を運転しないといけないから「我慢して」ノンアル・・・

妊娠しているから「我慢して」ノンアル・・・

そうじゃなくって
「今日はノンアルにしよう」とポジティブに楽しめる風潮になってほしい

例えワイン会でも堂々とノンアルワインを選べる風潮になってほしい。

「ノンアルコール飲料」のカテゴリーじゃなく
正式なワインリストに、ノンアルワインも載るようになってほしい。

そんな風に思う、健康第一おじさん(齢35)です。


はい、前置きが長くなってすみません(いつも通り)。
ここからは一気に専門的になりますので、ついてきてくださいね。

第1回はノンアルコールワインの製法についてお話しします。


アルコールを抜くか、アルコールをつくらないか

ノンアルコールワインをつくる、という最終目的地にたどり着くために

選べるルートは大きく2つあります。

それは
①ワインにしたあと、アルコールを取り除く
②最初からアルコールを生成しないようにワインをつくる

の2つです。

先述の通り、日本では一度アルコール飲料をつくってそこからアルコールを除去するのは、相応の納税をしない限り不可能ということです。

だから日本では②が主流です。

アルコールを生成しないようにつくる、というのは何を意味するのか。

最大のポイントは、アルコール発酵を経ていない、ということ。

ワインにしろ、ビールにしろ、その豊かな香りと風味、味わいの大半は
酵母がアルコール発酵の際に生成するものです。

ワインの香りの基本的な成分は20種類ありますが、
(そこからさらに細分化されて全部で約800種と言われています)
そのうち、ブドウ由来の香りって何種類だと思いますか?


・・実は、たったの1種類です。

β-ダマセノンという香り成分のみがブドウ由来で、その他の高級アルコール類(ヘキサノールやブタノールなど)、エステル類、ジアセチル類などは全て酵母の作用によるものです。

この事実からだけでも、アルコール発酵を経ていないブドウジュースからワインに似た飲み物をつくりだすのがいかに難しいかがよくわかると思います。

ビールも同様です。
ノンアルコールビールの成分を見れば一目瞭然です。

ドイツ産(ビットブルガーを例に)
原材料:麦芽、ホップ、水

日本の大手ビールメーカー(アサヒ ドライゼロを例に)
原材料:食物繊維(米国製造又は仏国製造又は国内製造)、大豆ペプチド、ホップ/炭酸、香料、酸味料、カラメル色素、酸化防止剤(ビタミンC)、甘味料(アセスルファムK)

日本の場合、原材料がすごく多いですよね。

これは製法②、つまり本来アルコール発酵で得るはずだった香り、味、そしてビールらしい色などが備わっていないために、あらゆる工夫と添加物でビールに近いものを作り出している、ということです。

日本の法事情を考えれば、その制約の中でこれだけのものを作り出した技術者の方達は本当にすごい、と思います。敬意を表したいと思います。

しかし、これがビールか、と言われれば、ぼくの答えは100%NOです。

そしてビットブルガーは紛れもなくビールです。原材料も、風味や色も、ビールです。それはアルコールを含む含まないの次元ではなく、ビールという文化の範疇にある、ということです。

この大きな2つのルートで、今のところ、美味しいノンアルをつくれる可能性が高いのは製法①だと言っていいと思います。

※補足:フランスのノンアルコールワインメーカーのピエール・シャヴァン社がつくるOPIAという製品は、低温あるいは高温での果皮浸漬によってフェノール類を抽出してワインの香りを再現する技術でつくられています。
参考:https://www.pierre-chavin.com/en/brands/opia/

では、ここからは日本を飛び出して、製法①の中でどんな方法があるか見ていきましょう。


製法その1 逆浸透膜 Reverse Osmosis

逆浸透膜法は、ワインの世界では「果汁の濃縮」に使われることが多いです。

この製法の話をするには、浸透圧についての知識が必要です。
はい、高校化学のお時間です。
みなさま、しばし10代の頃に戻って、お話しを聞いてください。

逆浸透膜法とはなにか。
「逆」ということは、「順」もあるということですよね。

なので、まずは「浸透」とはなにか?を考えましょう。

浸透とは、二つの液体の濃度の違いによって溶媒が移動する現象を言います。
ここでの溶媒は、水を指します。

半透膜(membrane)という、とーーーっても小さな穴が開いた膜を挟んで
片方に純粋な水(純溶媒、液体Aとします)、
もう片方に何かしらの成分が溶けた溶液(液体B)を入れます。
Aは薄く、Bは濃いですね。
溶液の中の成分(溶質)は、水の分子よりも大きく、
この半透膜に開いた小さな穴は、水(溶媒)の分子だけ通すとします。

ビジュアルのほうが分かりやすいので、ここで17年前にお世話になった科学の参考書「科学IB・Ⅱの新研究」を取り出しましょう!

浸透圧

この二つの液体の液面を、全く同じ高さにするとどうなるか。(写真a)
液体は、半透膜を通じて濃度を一定に保とうとします。
しかし、濃い液体Bから薄い液体Aには、半透膜のために溶質が移動することはできません。
そのため、液体Aから液体Bに水が移動して、濃度を一定に保とうとします。
すると、液体Bの液面が高くなりますよね。水が増えるので。
すると、液体Aと液体Bの液面の差が、そのまま重さとなり、
下向きの圧力に変わります。
この圧力によって、液体Aからの水の移動が止まります。(写真b)
そして、もしAとBの液面の高さを同じに保ちたいなら、
液体Bの上から圧力をかける必要があるよね、と。(写真c)

ここ!このときの圧力のことを浸透圧といいます。

この浸透圧が、水のさらなる侵入を妨げている、ということですね。

今、浸透圧によって、液体Aと液体Bは釣り合ったことになります。


さあ、ようやく本番です。

では、この液体Bに、人為的にさらに圧力をかけたなら、どうなるか?

すると、なんと濃度が濃いはずの液体Bから液体Aに向かって水が移動するじゃありませんか!

本来、濃度を一定に保とうとする浸透は、AからBへの水の移動によって起きますが、

この人為的な圧力によって、逆に、BからAへ水が移動する。

これが、逆浸透膜法です。

膜が破れない限り、この圧力をどんどん強くしていくと、最初の溶液Bよりも濃い溶液ができる、ということは想像できますよね?

この溶液Bを、ワインに置き換えてみてください。

ワイン中の水分が、純粋な水である液体Aに移動します。

すると、残ったワインは、より濃厚なワインに仕上がる・・というわけです。


では、アルコールを除去するためには、どうすればよいか。

実はこの逆浸透膜法は、半透膜の種類を変えることで、通す溶媒の種類も変えることができます。

さきほどの説明と同様に、ワインと水を半透膜を挟んで並行に流していきます。

ちょっと雑ですが、図にしてみるとこんな感じです。


画像2


ワインの中に含まれる水とエタノールが、圧力をかけられたことで半透膜を通って下に移動していますね。(イラストのWater + alc)

水はエタノールよりモル質量が小さいので、どうしても一緒に通ってしまいます。

アルコール除去においては、水分を取り除いてワインを濃縮する必要はありません。

なのでエタノールが混じったこの青い液体を蒸留し、エタノールだけ取り除き、水はワインに戻して濃度を元に戻すのです。

これが、逆浸透膜法を用いたアルコール除去の仕組みです。


この逆浸透膜法は「名前が難しそう」という理由から仕組みがイマイチ理解できないんです、という人をけっこう見ますが、「浸透」という現象がわかるとそんなに難しくないですよね?
(もちろん実際の装置はずっと複雑ですが、原理としてはこんな感じです)


逆浸透膜法のデメリット

仕組みはいたってシンプルなんですが、この製法には大きなデメリットがあります。

それは、エタノール(モル質量約46)より小さな分子も一緒に逃げていってしまうことです。

とりわけフェノール類の一部が取り除かれてしまうことが致命的だそうです。
ワインの中でも、フェノール類はけっこう重要なパート。

「アルコールがいなくなら、俺も一緒に出ていってやるよ!」
アルコールは、5レンジャーでいえば赤色に匹敵するキャラですから。
出ていきたくなるのも仕方ありません。
半透膜さん、懐が大きいですね。
去るものは追わず。(しかし蒸留器にはかける)


以上が逆浸透膜法の説明です。ふう。

なんと、もう5000文字に達してしまいました(汗

長くなってすみません。

でもしっかり理解していただきたく、できるだけ噛み砕いて説明したつもりです。

最後まで付き合ってくださった方、ありがとうございます!!


さて逆浸透膜法以外には、減圧蒸留とスピニング・コーン・カラム式(SCC)があります。

次回「製法について Part2」で、この2つの製法について詳しく解説していきたいと思います。

特にSCCはわりと新しくハイレベルな技術で「人間すげー!」って思えますよ笑。

次回もお見逃しなく!! Don't miss it!

(ぜひフォローと、面白かったという人は「いいね」もよろしくお願いします!)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?