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[無料]人を山に連れて行く技術(リーダーの役割)

山に登っていることを周りの人が知っていると「今度連れて行ってよ」なんて言われることがあります。逆に、登山の素晴らしさを伝えたくて「今度連れて行くよ」なんて言ってしまうことがあります。

しかし、人を山に連れて行くのは結構大変。甘くみていると、連れて行く側も連れて行かれる側も痛い目にあったりします。時には怪我をしたり命を落としてしまったり…。

そういう悲劇を防げたらいいなと思って、人を山に連れて行くための技術というか、心得を書きたいと思います。

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リーダーは決めておきましょう

通常は、山行を企画して連れて行く人がリーダーになり、連れて行って貰う人がメンバーになります。普通はチーフリーダーとサブリーダーを設けます。リーダーは企画者やグループ内で経験が豊富な人が担当し、サブリーダーはリーダー以外のメンバーで経験が多い人が担当します。

3、4人までならリーダー1人でもいいかも知れませんが、5人以上になったらサブリーダーも決めたほうがいいでしょう。10人以上ならサブリーダーを複数設けて班を分けたほうが行動しやすいです。班と班の間の連絡は無線があると便利です。

リーダー不在の登山は、平時なら問題ないのですがアクシデントが起こった場合に対応しづらくなります。パーティの統率が取りにくく、判断が遅れたり曖昧になったりします。

パーティー登山をするなら必ずリーダーを決めて下さい。

準備:余裕がある計画を立てましょう

登山に行くならまずは計画。日程や山域から決めます。日程調整は調整さんが便利です。

メンバーが初顔合わせの場合は、お互いの体力や技術が分かりません。『歩ける、歩けない』『登れる、登れない』でも人によって基準が変わります。

互いの実力が分からない場合は山のレベルを下げてください。特に、登山初心者がいるのにいきなり高山や鎖場や岩場が連続するような山を選んではいけません。

初心者を連れて行く場合は、コースタイムの合計が5時間というのが一つの目安になります。コースタイム7時間以上だとかなりタイトな登山になってしまいます。普通のペースなら休憩など入れると9時間程度になると思いますが、9時から歩きはじめても18時になってしまいます。余裕で日が暮れます。

リーダーの能力ギリギリの山に人を連れて行くと、リーダーは気遣いの余裕が無くなるのでメンバーがひどい目に遭います。物足らないかも?と思うくらいの山を選んで下さい。谷川岳なら天神尾根往復で十分です。初心者連れで西黒尾根に行く必要はまったくありません

(もし自分が初心者で、いきなり厳しい山に連れて行かれた場合、そのリーダーはそこそこヤベー人なので一緒に行くのはやめたほうがいいと思います)

途中で誰かが怪我したら自分たちの力でレスキューできるのか?初心者が岩場で固まってしまった時にロープで確保出来るのか?登り下りに想定以上の時間が掛かった時どうするか?トラブル時に対応できるのか想像して山を選びましょう。

お互いの力が分かれば、このくらいの山なら歩けるだろうとか、天気が悪そうだけどこのメンバーなら大丈夫だろうなどと予想できるようになります。まずは緩めの山で顔合わせしましょう。(そういう点で言えば、知らない人とマッチングして登山に行くサービスはかなり怖いと思います)

以前一緒に山を登っていた人でも、しばらく会わないうちに体力が落ちていたり体重が増えていて登れなくなっていたりします。そういう人と行くときは、まずレベルを下げた山に登って今の調子や装備を確認して下さい。問題があれば改善するか、同レベルの山に登れるようになるまで待ちましょう。

準備:メンバーが楽しめる計画にしましょう

人を山に連れていくわけですから、自分の満足感はひとまず置いておいて、メンバーが楽しめる計画にしてください。

クライミングもやるような人が自分を基準にしてしまうと、初心者に厳しいコースを選んだり、ただひたすら辛く、怖い思いをさせてしまうかも知れません。最初にそういう登山をしてしまうと山を嫌いになってしまいます。相手のことを考えて計画して下さい。

食べ物に凝ってみるとか眺望が良い山を選ぶとか、コースの長さや厳しさよりも、楽しめる要素は他にたくさんあります。

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準備:計画は早めに伝えましょう

天気の具合もあるので、詳しい計画はそんなに前でなくてもいいのですが、行くのか行かないのか、行くならどういう計画なのかは遅くとも1週間前にはメンバーに伝えておきべきです(遅くとも、なのでもっと早いほうがベターです)。そうでなければ、メンバーもどういう装備にするのか、自分が行けるのかどうかも判断できません。

足らない装備があれば買いに行く時間も必要です。早めに計画を渡しておくことは大事です。

準備:計画を提出しましょう

作った登山計画は、登山届ポストや山がある場所の交番などに提出して下さい。メールで受け付けている警察署もあります。

『登山のコンパス』で提出するのが最も楽だと思うので、私はコンパスを使っています(ヤマレコに課金してヤマレコ経由で提出しています。その方が操作が簡単)。

計画書には日程や行動予定、装備などを書きますがリーダーとメンバーの氏名や緊急連絡先も書きます。本名や緊急連絡先を聞いておかないと正しい登山計画書は作れません。

ネットで知り合うとそのへんを曖昧にしがちですが、登山というのは命を掛けた遊びなんですから身元はしっかり共有したほうがいいと思います。身元を明かせない人とは一緒に登山をしないほうがよいでしょう。

準備:事前に情報を共有しましょう

お互いに何年も一緒に山に登っているのなら言わなくても分かる場合もあるでしょうけど、初心者は分からないことだらけです。

どんな靴がいい?防寒着はどれくらい必要?食べ物は?行動食って何?昼食はどういうもの?テントに泊まるなら寝袋は?テントは?雨具?ヘッデン?水は?食べ物や装備に限っても分からない事だらけです。

そもそも、何が分からないのかも分からないのが初心者というものです。だから、質問を待つのではなく、連れて行くリーダーが積極的に情報を出すべきです。

天気予報や予想気温から、自分はこういう服を着る、防寒具はこういうものを持っていく、食べ物はこうするなど、自分ならどうするか?それが一般的には少なめなら、普通の人はもう少し持つ、あるいは持たないなどを伝えてください。『行動食』というのも登山をしない人には謎の概念ですので、どういう物を持ってきたらいいのか伝えてください。私は柿の種や煎餅、カロリーメイト、ゼリー飲料などを利用しています。寒くない時期は塩濃いめのおにぎりも美味しいです(冬は凍ります)。

ただ、何年も山に登っていると初心者の気持ちを忘れてしまい、『あ、そういえばこういう事も知らないか』みたいな見落としが生まれます。同じ見落としでも、厳冬期悪天候の北アルプスで気付くより、無雪期の低山で気付くほうがダメージが少ない。

だから、慣れていない人とは緩めの山から一緒に行くほうがいいのです。

準備:天気予報をこまめにチェックしましょう

登山は天気の良い悪いで全然違ったものになります。暴風雨といかないまでも、雨が降っていればゆっくり食事をするのも難しいし、ガスっていれば景色も見えないし、大雨や大雪、強風になれば命も危なくなります。

一泊二日で、1日目は樹林帯を進んで山小屋泊なら多少天気が悪くても大丈夫かもしれません。1日目から吹きさらしの稜線を歩くのに強風の予報なら中止したほうがよいでしょう。ずっと雨が降ると確定している様な予報でクライミングに行っても無駄足でしょう。連日雨が降っていたのに沢登りに行くのも無謀です。増水で流されます(たいてい死にます)。

条件が悪い時は山に入らないのが一番安全です。長いコースだとそうも言ってられないので停滞を考慮して突っ込むこともあるのでしょうけど、くれぐれも無理はしないで下さい。自然の力の前に人間は無力です。少なくとも、山小屋の人が「やめといた方がいい」と言うならやめましょう。その山を誰よりも知ってるのが小屋番さんです。

リーダーでもメンバーでもそうですが、日頃から天気予報を見て天気の用語を勉強しましょう。天気予報はけっこう勉強になります。冬の天気なら西高東低冬型、2つ玉低気圧、疑似好天、太平洋南岸低気圧、日本海側と太平洋側の違いくらいは知っておかないといけません。

地上天気予報や天気図、SCWなどをこまめにチェックして、行くのかどうか、行くならどういう装備や心構えが必要なのかメンバーに伝えて下さい。

隅々まで読まなくてもいいですが、山岳気象大全は良い本です。値段も安いので買って読んで下さい。

準備:エスケープルートやプランBも検討しましょう

途中で天気が悪くなってしまった場合、メンバーが歩けなくなってしまった場合などに備えて、エスケープルートを決めておきます。

エスケープルートは本来の計画より短く安全に林道や舗装路まで降りられるルートです。長い尾根を歩く場合は尾根の左右に短時間で降りられそうな道がないか、林道が走っていないかをチェックします。

また、水源巡視路など地図に載っていない道もあります。そういう道はヤマレコの地図検索を使うと見つけられます。

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↑オレンジで薄く描かれていのが水源巡視路、それ以外の尾根にも地図に載っていない道がありそうと分かる。こういう道がエスケープルートになる場合もあります。ただし、険しかったり崩壊していて使えないこともあるので直近の記録をチェックしましょう。

大きな山だと長い縦走路以外に道がない場合もあります。そういう場合は来た道を戻るか、いっそ進むか、その場でビバークをするかという判断になります。

急に怪我をしたなら仕方ないのですが、疲労やバテでの行動不能は、そうなる前にリーダーが兆候を察して早めに引き返す判断をするなど、状態が悪化する前に対処したいものです。

何時になったら山頂に届かなくても引き返す、天気が悪かったら麓で温泉に入って観光をして帰るなど、安全寄りに判断する基準やプランを考えておくことも、長い人生で登山を楽しむには必要です。

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準備:保険に入りましょう

リーダーは当然なんらかの山岳保険に入っていると思いますが、出来ればメンバーにもハイキング保険などを掛けてもらいましょう。1日単位で入れる保険もあります。

高尾山に登るためだけに保険を掛ける人は少ないでしょうけど、八ヶ岳や北アルプス、南アルプスなど高山、奥多摩あたりでも道迷い遭難や滑落遭難が起きています。保険についてもご一考下さい。

上記、ココヘリは電波を発信して遭難者を捜索するサービスですが、個人賠償責任制度1億円や、アウトドア用品保障3万円までなど、保険の要素もあります。リーダーをやるような人は入っておきましょう。

準備:リーダーの装備と必要な技術

リーダーは緊急時に対応できなければいけません。当然ファーストエイドキットは必携です。テーピングや三角巾などは持っていますね?使い方も理解していなければいけません。ツエルトも必須装備です。張り方は分かりますか?

出来れば20~30mの8mmロープや、ロープを有効に使うためのカラビナ、スリングもなども多少持っておいたほうがいいし、なぜ必要なのか?どう使うかも理解しておいて欲しいと思います。使い方が分からないのなら、持つ意味がありません。

リーダーはロープや登攀具の使い方を習得しておきましょう。

前日から集合前:装備や食料の事前確認

忘れてしまったら致命的になる装備は、リーダー本人もメンバーもよく確認してください。車を運転して来る人は登山靴を忘れがちですし、登山靴って言ってるのに変なスニーカーで薄っすら雪がある山に来られても困ります。

テント担当の人がテントを忘れたら大変です。どんなテントを持ってくるのか?何人用か?フライシート、テント本体、ポール、ペグの組み合わせは正しいか?張り綱はちゃんと付いているのか?これまでに使ったことはあるのかを確認して下さい。私は一緒に登ったことがない人に確認せず、張り綱も付いていないレジャーテントを持ってこられて閉口したことがあります。幸い宿泊ではなくテントを張るだけの研修だったので減点だけで済みましたが、確認の大切さを実感しました。

火器の場合も、ガスボンベとバーナーの組み合わせ、ガスの残量、予備のガスが要るのか要らないのか?人数に対して台数は足りるのか?などチェックしましょう。

食料計画も大事で、夕食や朝食をまとめて作るのなら量や内容は適切なのか?多すぎないか?重すぎないか?事前に調理しておくのか?などを確認します。

一泊なら野菜は皮をむいて適当な大きさに切っておいたほうが現場での時間短縮になります。季節や種類によっては事前に熱を通しておいてもよいでしょう。肉や魚を持っていく場合も、多すぎても食べきれず腐りますし、汁が漏れないように注意して下さい。生魚の汁が染みた寝袋は臭いですよ。

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当日の朝:集合してからの確認事項

まずは体調のチェック。「元気ですか?大丈夫ですか?」と聞いたら「大丈夫です」と答えてしまうものです。目を見て、歩き方を見て、よく観察して調子を見て下さい。

山頂で「実は一昨日足を捻って、なんか足が痛い」なんて言われると困ってしまいます。出発地点ならまだ引き返すのも容易です。重要な装備や技術を持たないのなら抜けても計画に影響ないかも知れません。抜けるなら早めがいいです。

装備もチェックして下さい。雨具、ヘッドランプ、食料、共同装備。共同装備の数は足りているか?忘れ物はないか?食料は多すぎないか?内容は適切か?汁漏れしないようになっているか?多すぎるなら、車やコインロッカーに置いていきましょう。

雨が降る予報なのに雨具を持っていないメンバーがいたら帰ってもらうしかありません。リーダーが忘れたら?あり得ませんね。よく確認しましょう。

エマージェンシーシートやツエルトなども持っていればベター。ファーストエイドキットはリーダーとサブリーダーは必須装備です。

スマホを使うのならモバイルバッテリーとケーブルもお忘れなく。

出発前に、それら重要装備を持っているか確認して下さい。

共同テントなど、忘れたら致命的な装備がない場合は、その状態で登山が可能なのか検討します。山小屋泊に切り替えることが出来るのか?(予約や各自の予算)、日帰りに変更するか?中止して観光して帰るか?

予定外の状況は、早いうちなら多くの選択肢から選べます。山中に入ってから予定外の状況に気付くと、その時点でもう詰んでいたりします。そうならないように、早めに装備やその他状況を確認しておきましょう。

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当日の朝:計画やルートの再確認

体調や装備に問題がなかったら、山行の計画やルートについて打ち合わせをします。

メンバーも事前に計画をよく読み、読図もしておくべきですが、連れて行ってもらうことに慣れすぎた人は自分がどこのどういう山に登るのかも知らないことがあります。そういう人が山中ではぐれると、とんでもない方向に進んで遭難してしまいます。

最低限、どこのルートを歩いてどこに登り、泊まりならどこの小屋に泊まるのか?どこに下山するのか?それらの通過時刻はこれくらい、などを頭に入れておいたほうがよいでしょう。

リーダーは、出発前や休憩時にザッと、これからの予定をしゃべれるようにしておきましょう。計画書を見ながらでもいいですが、頭に入れておいた方が便利です。

当日の朝:準備運動

装備の確認などが出来たら準備運動をします。慣れているメンバーなら各自やってもらえばいいのですが、そうでないならリーダーが前に立って準備運動をしましょう。

足首、膝、股関節、腰、背中、肩、手首、首など、下から順番に行っていくと漏れにくいです。漏れがありそうな部分や、各自必要な部分はそれぞれ追加でやってもらってもよいです。

頭の体操として、リーダーが出したじゃんけんに対して、後出しでわざと負けるものを出すというもおすすめです。寝ていた頭が起きます。

出発:靴、ザック、衣類の調整

出発前に靴紐、ザックのベルト(肩ベルトの上と下、腰、胸など)をしっかり締めます。ストックが必要なら出してもらいましょう。衣類は、動き始めは少し涼しいくらいに調整して下さい。歩きはじめで暑い状態だとすぐ汗だくになってしまいます。

これらの調整は歩き始める前にしっかり行い、歩きながらは行わないようしましょう。歩き出しながらやると転倒の原因になります。

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忘れがちですが、GPSアプリを使う場合はトラックログの開始やナビゲーションの設定(ジオグラフィカならマーカーのロックオンやルート案内)も歩き始める前にやってください。↓説明書

出発:歩くときの並び順

一般的な並び順は、サブリーダーが先頭、歩くのが遅い人や調子が悪くなった人を2番目にします。途中は適当でもよいのですが、遅い人順が妥当かと思います。並び順は様子を見ながら組み替えてください。謙遜して速く歩ける人が2番目に付いてしまうことがあります。(そういう謙遜はやめましょう)

最後にチーフリーダーが付くのが一般的ですが、サブリーダーがルートファインディング出来ないならチーフリーダーが先頭でも構いません。ルーファイ出来ない人を先頭に据えるのは危険なので避けましょう。

先頭は2番目の人が無理せず登れるペースで歩いて下さい。絶対にちぎって後ろに置き去りになどしないように。先頭だけ一人先行するような歩き方は、パーティー登山においてはあり得ません。2番目の人は無理のないペースで歩いて構いません。無理してその後にバテて歩けなくなる方がパーティー全体にとって危険です。←この説明もリーダーがメンバーに伝えて下さい。

3番目以降の人は、遅いと思っても煽ったりしないようにしましょう。余裕があるなら道をよく見て、先頭が間違っていないか観察して下さい。間違っていそうだと思ったら伝えて下さい。リーダーはメンバーの指摘を素直に聞いて検証して下さい。人の話を聞けない人はリーダー失格です。言われたこと(事実)のみにフォーカスし、気分を害することなく素直に受け入れましょう。

最後尾のリーダーは後ろから全体を観察し、先頭が先行したら抑え、道を間違っていたら止めます。このとき、最後尾から先頭に声が届かなくてはいけませんから、先頭だけ先行するのは本当にあり得ません。(無線を使ってもいいですが、それでも視界から消えてはいけません)

行動中:危険箇所の指示

歩いていて滑りやすい箇所や岩場など、注意すべき箇所が出てきたら先頭のリーダーは後ろに注意を促して下さい。木の根は足を引っ掛けたり滑ったりしやすいし、凍っていたり穴が開いていたりなど、登山道は罠だらけです。

転倒による怪我は近年増えています。自分は問題なく通過できるとしても後ろに伝えて事故を未然に防いで下さい。メンバーは注意事項を後ろに伝えて下さい。

行動中:すれ違いの指示

もし後ろから速い人が来たら道を譲るように指示します。先頭も、前から人が来たらすれ違いの指示を出します。このとき、止まって待つ人が山側(安全側)に避けます。谷側(危険側)で待つと接触して滑落することがあるからです。どちらに避けるかもリーダーが指示して下さい。

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行動中:はじめの20分は努めてゆっくり歩く

歩行ペースは、最初の20分は特にゆっくり歩いて下さい。体のエネルギーはまず燃えやすいグリコーゲンなどから使われ、時間が経つと脂肪が使われるようになります。

脂肪が使われ始めるとバテにくくなりますが、糖質しか使われていない時に無理に飛ばすとエネルギーが枯渇して動けなくなってしまいます。

最初はウォーミングアップとしてゆっくり歩きましょう。

行動中:暑い寒いは我慢しない、させない

体が温まってきたら再度衣類の調整をします。暑いまま無理して登っても無駄な汗をかくだけです。無駄な汗は夏でも冬でもリスクを増やします。

衣類の調整は、暑い、寒いと感じたら出来るだけ早く行いましょう。次の休憩まで待つ必要はなく、足場が安定しているのならその場で止まって調整して構いません。すぐ後ろに別パーティーがいるなら道を譲る指示も出します。

山では、暑い寒いを我慢する必要はありません。速やかに調整して快適な状態にしてください。

ただ、パーティーの人数が多いと、都度止まっていたら進みません。この先どうなるか(稜線に出るから寒いとか、しばらく無風の樹林帯だから暑いとか)を提示して、先読みの衣類調整を提案して下さい。つまり、リーダーはコースのどこにいてこの先どうなるかを把握していなければいけません。

常に先読みし、この先どうなるか?をメンバーに伝えて先読みの衣類調整を指示しましょう。

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行動中:休憩は安定した場所で、事前に予告できるとベター。時間と再集合の場所も明確に

休憩は広くて安定した場所で行います。風が弱い場所ならベターです。

出来れば事前に「この先のあの場所で休憩します」「15分後に休憩します」など伝えておけるとベターです。人間は終わりが見えない作業を苦痛に感じます。いつ休憩できるか分かっていると精神的に楽になります。

休憩の間隔は1時間に5~10分程度が普通ですが、ペースが早ければそれだけ消耗します。ゆっくり歩いて休憩を少なくするか、速く歩いて休憩を多く入れるかは様子を見て調整して下さい。

休憩に入る時は、どういう休憩なのか?(水を飲むだけ、行動食を食べる、昼食など)時間は?再集合する場所は?トイレはあるのか?などを伝えて下さい。時間を言わないと、なんとなく休憩してなんとなく歩き始めることになり、メリハリが無くなります。

寒い時期は休憩に入る際に防寒着を着るように指示して下さい。特に長い時間止まる場合は防寒着を着ないと体が冷えます。

休憩の際は、広くて安定した場所でも「あっちは崖なので近づかないように」「落石の可能性がある」など、危険な場所やリスクを伝えて下さい。登山の事故は、明らかに危ない場所より気が抜ける、一見安全そうだけど落ちたら危ないような場所で起きます。

トイレなどでパーティーから離れる場合は、必ず誰かに言うように指示して下さい。一人で勝手にいなくなるとパーティー全体が困ります。

解散場所と再集合場所が違う場合は、その点についてもよく伝えて下さい。人数が多い場合はメンバーに反復で言わせるとよいです。再集合したら出発前に人数と忘れ物が無いかをチェックして下さい。休憩時はストックを置き忘れがちです。

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行動中:時間の管理もリーダーの仕事

登山計画には行動予定も書きますが、出来ればその予定に沿って行動したいものです。最も大事なのはスタート時刻で、朝8時に歩き始める予定が9時になってしまうと予定が大きく遅れます。朝の集合や行動開始時刻は守れるように全員で頑張って下さい。

電車で集まる場合は、乗り換えの注意点も伝えておきましょう。例えば、奥多摩に向かう電車は立川と拝島で分岐します。間違えると高尾や武蔵五日市に行ってしまうので行き先に注意して下さい。休日に走るホリデー快速は前寄り4両が『あきがわ』で後ろ寄り6両が『おくたま』です。拝島で切り離しがありますが、間違えるとそれぞれ違う方向に行ってしまいます。知っている人には当たり前のことですが、初めての人は間違いやすいです。

無事集合できたとして、以降の時間も出来るだけ予定に沿って行動したいものですが、どうしたって歩行ペースや休憩時間によって遅れが出ることがあります。その時、遅れを取り戻そうと歩行ペースを上げたりメンバーを急かしたりすると事故の元となります。決して慌てないで下さい。多少下山が遅れても怪我をするよりはマシです。

どうしても日が暮れそうなら途中で引き返したりショートカットしたり、事前に考慮しておいてエスケープ手段を使いましょう。大事なのは無事に登山を終えることです。予定をこなすことではありません。

そういう時に慌てずに済むように余裕がある計画を作ったり、プランBや緊急時の備えをするわけです。多少の遅れにも対処できるように色んなパターンを想定しておいてください。そして、想定外の事が起きても慌てず落ち着いて考え、行動できるようにしましょう。

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行動中:メンバーをよく観察しましょう

行動中は、メンバーが辛そうにしていないか、歩き方がおかしくないか、なにか問題が起きていないかをよく観察し、不調がありそうなら早めに対処して下さい。

先に進んでからバテや怪我の悪化、靴ずれなどで本格的に行動不能になってしまうと、戻るのが大変です。早めの対応を心がけましょう。

調子を聞くと、良い人ほど頑張って無理をしてしまいます。でも、無理に先に進むとパーティー全体が危険な状態になってしまいます。頑張れば解決するのか、頑張りではどうにもならないのかをよく見極めて下さい。

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行動中:トラブル時の対応

トラブルが起きたらすぐに対処して下さい。足をひねるなどしたら、すぐにパーティーを止めて、安定した場所で休憩に入って下さい。落ち着いた状態でテーピングなどを使い処置し、痛みもなく歩けるならそのまま続行するという判断もアリです。

痛みがあるようなら安全寄りにスイッチを入れ直して判断します。基本的には、パーティーを割らずに全員で行動したほうが安全です。どの様に判断するかは怪我の状態や今後の予定、パーティー編成によってケースバイケースになりますが、やってはいけない選択は決まっています。

『怪我人や不調者を置き去りにしたり、一人で帰らせてはいけません』

これだけは本当にあり得ない。置き去りにする、一人で帰らせる、その他のメンバーはそのまま登山を続行するなんてあり得ません。

もう死んでしまう、助けられないという状況なら仕方ないかも知れませんが、そうなる前に対処して下さい。進退窮まってしまうのはリーダーの責任です。

並び順のところで、歩くのが遅い人や調子が悪くなった人を2番目にするように書きました。それは、そういう人をよく観察できて、置き去りにしないようにするためです。弱い人を最後尾にして置き去りにしたり、そういう人を一人で帰らせるというのは、登山では絶対にやってはいけません。選択肢として出てくる事自体あり得ないものです。

他の行動は、通報して救助を呼ぶ、自分たちで搬送する、応急処置をして本人に歩いてもらうなど、本当に状況次第です。ここまで書いてあることが理解できる人なら自分で考えられますね?

↓こういう記事も書いています。長めですが読んで下さい。

行動中:最後まで集中して下さい

もう安全だろう、なんて気を抜くと事故が起こりやすくなります。遭難の多くは下山中に起きています。下山中は尾根が分岐するし薄暗くなってくるので道迷いしやすく、下りで前に転倒すると数m吹っ飛んでしまいます。

安全に下山出来るように最後まで集中して歩いて下さい。下山後のことに気を取られるなど、余計なことを考えて注意が散漫になっていると危険です。

アフターフォロー:体調と道具の管理

山行が無事に終わったらお風呂に寄って帰ってもいいし、反省会と称してお酒を飲んでもよいでしょう。飲み過ぎに注意して下さい。

登山の初心者は道具の保管方法を知らなかったりします。靴は泥を落として乾燥させてから仕舞う、ストックも分解して乾かしてから仕舞うなど、道具の保管方法も教えてあげて下さい。濡れたストックを縮めた状態で保管すると錆びてすぐダメになってしまいます。

登山は負荷の大きいスポーツです。登山後は抵抗力も落ちます。タンパク質をしっかり摂って、ゆっくり寝るように伝えて下さい。アミノ酸やプロテインも回復の助けになります。

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全般:自分を基準に考えてはダメ

自分はこうしてきた、自分にとってこれは普通だ、なんて言ったところでメンバーから笑顔が消えていればその山行は失敗です。自分がどうなんてのはメンバーには関係ないことです。メンバーと協力して山行を成功させ、楽しく無事に下山させるのがリーダーの役割です。

それを忘れないで、メンバーの言うことに耳を傾けましょう。

全般:メンバーが発言しやすい空気を作りましょう

登山の実力や実績があり、長年の経験があるリーダーでも、なんか言ったらいちいち機嫌が悪くなったり、メンバーのミスがあったからといちいち怒鳴るリーダーはよくありません。

強権的なリーダーはメンバーを萎縮させてしまいます。自主性を損ねるのでメンバーが育ちませんし、リーダーの顔色を伺うようになります。リーダーは『機嫌』で動いてはいけません。メンバーは心身ともに弱くても仕方ない。それを育てるのがリーダーの仕事です。

発言しやすい雰囲気を作って下さい。穏やかに、紳士的にメンバーの話をよく聞きましょう。あんまり怖いと人は心理的にも物理的にも離れます。

ただし、行動中に危険な行動を取っていたら即座に指摘してください。特に急ぎの場合は怒鳴ってしまうこともあるでしょう。そういう時は後でフォローして下さい。メリハリが大事です。

全般:リーダーは常に勉強しましょう

山岳会に入っているのなら、ここに書いてあるようなことは当たり前に習うでしょう。習ってないとしたら、その山岳会は山岳会の体をなしていません。

山岳会に入っていないなら自分で勉強する必要があります。本を読んだり講習会に参加するなどなどして勉強して下さい。

↑メールアドレスを登録すると、国立登山研究所が作った教科書を無料で読めます。コスパ良すぎ!

↓東京都山岳連盟のWebサイトです。リーズナブルな講習会を開いています。

↓都岳連の中には、私が運営している登山学校もあります。月に1回程度実技中心の講習を行っています。

登山は一生勉強が必要なくらい奥が深い遊びです。リーダーをやるような人は特に、日々勉強し続けて下さい。私も日々勉強させてもらっています。

まだリーダーをやったことがない人も、いつか自分がリーダーになった時のためや、リーダーが行動不能になった時のために勉強しておきましょう。リーダーが行動不能になったら即座に詰むようなパーティー編成は危険です。

まとめ

・計画や行動すべて、自分基準ではなくメンバー第一で考えましょう。リーダー基準の登山をしているといつか仲間を殺してしまいます。

・先読みが大事です。計画、集合、確認、装備の調整、休憩など、すべての行動は先読みして検討してください。

・メンバーをよく観察し、調子が悪そうなら先読みして撤退も考慮しましょう。不調の人が登山中に元気になっていくことはありません(山小屋泊の場合は良くなる場合もあるが稀)。先に進めば進むほど、状況は悪くなると考えて下さい。

・怪我人や不調な人を置き去りにしないで下さい。それ以上進めないメンバーを一人で帰らせるなんてのは論外です。そういう人はリーダーなんかやらないでください。

・計画や状況はメンバーにしっかり共有して下さい。グループを統率するのに情報共有は非常に重要です。一人で情報を持っていても役に立ちません。すべて共有しましょう。

・メンバーも、リーダー任せにせず計画などが共有されたら確認し、分からない点やおかしいと思った点は質問しましょう。地図や計画をきちんと読み、自分がどういうルートに行くのか把握して下さい。リーダーの力だけでは登山はうまくいきません。

・メンバーも、リーダーが変なことをしていないか、間違った道を進んでいないか考えながら歩きましょう。間違ったことをしていたら指摘しましょう。指摘しても耳を貸さないなら、一緒に登るのはやめましょう。

・リーダーもメンバーも、登山について多くの本を読み、山岳会や講習会で人から習い、勉強を続けて下さい。登山は読図、地形、気象、自然、登攀技術など、範囲も奥も深い膨大な知識で成り立っている遊びです。独学には限界があります。

・リーダーもメンバーも、お互いを思いやり、楽しく安全な登山になるように心がけて下さい。

・人間は不完全な生き物です。以上のことを常に完璧にこなせなくてもよいのですが、よいリーダーになれるように努力はしてください。

わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。