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[無料]架空遭難 50代男性、夏の低山で行動不能

架空遭難とは?

架空遭難とは、登山における危機的状況を設定し、自分ならどうするかを考えることで遭難しないように準備をし、実際に遭難した場合に対応できるようにしておく試みです。ツイートに反応することで参加できます。

今回の条件

  • 50代男性AとBの二人パーティ

  • 7月下旬に大倉尾根から塔ノ岳に向けて登っている

  • 快晴、無風

  • Aさんのペースが上がらず1380m地点で座り込んで歩けなくなった。

  • 意識はあるがつらそう

  • 水、食料はまだ十分あり携帯電話は通じる

なぜ動けなくなったのか?

行動中の登山者が動けなくなる理由は複数考えられます。

  • 熱中症

  • ハンガーノック

  • 低体温症

  • 脳や循環器系の病気

  • その他持病

熱中症かな?

高温環境で激しい運動を続けることで、汗を大量にかいて水分やミネラルを過度に失い、めまいや頭痛、痙攣、意識消失、体温上昇などが起こるのが熱中症です。

今回は熱中症を想定しやすいように7月下旬の快晴無風、標高1380mという条件を設定しました。標高0mの場所が気温35℃だとすると、約1400mでは8.4℃(※)低くなるので、26.6℃になります。これで曇っていたり風が吹いていたりすれば熱中症のリスクは下がりますが、標高が低い部分で熱中症になり始めていて、最後の最後に動けなくなった可能性もあります。

※…標高が100m上がると0.6℃低くなるため、0.6×14=8.4℃。

ハンガーノックかな?

エネルギーが足らなくなって血糖値が極度に下がって力が入らなくなり動けなくなるのがハンガーノック(シャリバテ)です。ブドウ糖や果糖を摂取することで回復しますが、対応が遅れると亡くなってしまうこともあります。登山中に動けなくなった理由としてはハンガーノックも考えられます。

低体温症ではないだろう

低体温症は読んで字のごとく、寒さで体温が下がってしまってやがては死んでしまう症状です。夏でも気温が低い日に標高が高い山で、強風や濡れ、カロリー不足があれば低体温症になる可能性はあります。今回のケースでは除外してよいでしょう。

脳や循環器系の病気の可能性も無くはない

今回のケースで想定しやすいのは熱中症とハンガーノックだと思いますが、50代男性という条件だと、肥満や喫煙などで血管や心臓に異常がある可能性もあります。夏の低山を延々登ってきた疲労とストレスが引き金となって発病した可能性も除外できません。最近は登山者の高齢化に伴い、遭難の態様として「発病」が増加傾向にあります。侮れません。

持病の可能性もあるかも

人の体質は様々。なにか持病を持っている可能性もあります。病気や体質はプライバシーに関わることなので他人に言いにくいかも知れませんが、自分だけでなく仲間の安全に繋がることですから、なにか激しい運動をする上で支障が出そうな持病があるなら仲間やリーダーに伝えておくとよいでしょう。

持病とは違うかも知れませんが、中高年女性の場合は更年期障害による体調不良も考えられますし、それより若い女性なら生理に起因する体調不良も想定する必要があります。

行動不能後の対応例

熱中症やハンガーノックは軽症であればその場で対応出来ます。今回は意識があるという設定なので、まだ深刻な状態にはなっていないと思われます。

  • 安定した場所に日陰があればそこへ移動、無いなら傘や衣類で日陰を作り横になってもらう(狭いなら座ってもらう)。レジャーシートがあるとよい

  • 衣類のボタンやベルトを緩める

  • 熱中症が疑われるなら、濡れた手ぬぐいをおでこに当てる、首、脇、鼠径部など太い血管が通っている箇所に水を掛けてウチワなどであおぐ

  • 糖分とミネラルを含む冷たい飲み物を飲ませる。冷えたスポーツドリンクなどがよく、ハンガーノックならラムネ菓子や果糖が多い飲み物がよい

  • 山頂に行くのは諦めて、調子が戻ったなら2人で下山する。この様な場合にAさんは留まる(またはゆっくり下山する)、Bさんは急いで山頂を往復してくる、という判断をする方もいますが、山中でパーティーを割るのは遭難リスクが高くなりますし、不調の人を1人にすることはありえません。

軽症の熱中症やハンガーノックであれば、糖分と水分を摂取してしばらく休んでいれば回復するでしょう。回復したら山頂は諦めて、ゆっくりペースで休憩を多く取り、調子が悪い人の荷物を持ってあげたりして下山してください。となると、2人パーティーだと調子が悪い人のサポートを1人で行わなければならず、なかなか大変です。ソロ登山がハイリスクと言われがちですが、こういうケースを考えると2人パーティーもけっこうハイリスクです。私はその点から、3人以上のパーティーを推奨しています。

熱中症やハンガーノックであっても、重症になれば命を落とすこともあります。脳や循環器系の病気ならその後の運動で悪化して命を落とす可能性だってあります。意識を失ったり何度も吐く、反応が無い、水も飲めない、異常に体温が高いなど対応出来ないレベルまで進んでしまったのなら迷わず110番をして救助要請をしましょう。悪化する前に対応して大事を取るのがベターです。

今回の例では携帯電話を使えますが、もし通じないのなら近くの登山者に伝令を頼んだり、近くに山小屋があるなら頼ってもよいと思います。伝令を頼むのなら、要救助者の名前、性別、年齢、症状、電話番号、緊急連絡先、現場の経緯度(※)を紙に書いて渡してください。

※…分からないなら特定する手がかりとなる地名や道標の管理番号。経緯度はスマホで簡単に調べられます。経緯度の調べ方を覚えておきましょう。

真夏の低山の歩き方

夏の丹沢なんか暑いに決まってるのだから行くべきではないという話もあるかも知れません。真夏の低山で遊ぶのなら沢登りだろう、というのも理解できます。でもみんながみんな沢登りの技術や道具を持っているわけではありません。暑さを避け高山に行けば、そこではまた別のリスクがあります。

極論すれば山は暑いか寒いかのどっちかしかなく、暑ければ熱中症、寒ければ低体温症のリスクがあります。登山者は暑い寒いに適切に対処出来なければいけないのです。「行かない」ではなく「対処する」が望ましいでしょう。暑い時期でも適切に対処すれば低山登山は可能です。

夏の低山歩きの暑さに対処する方法は下記リンク先にまとめてあります。

是非読んで、夏の低山を快適に(とは言え汗だくにはなりますが)歩いてみてください。ざっくりまとめると、

  • 夏は敢えて暑い外に出歩くようにして暑熱順化、冬は出来るだけ薄着で過ごして寒冷順化をしましょう。暑い寒いは、ある程度は慣れます

  • プラティパスやペットボトルに水を8割くらい入れて冷凍庫で凍らせて、ザックの背中側に入れておく

  • 体温で溶けた分は適宜魔法瓶に移す。魔法瓶に入れた冷水をこまめに摂取。スポーツドリンクの粉末など、塩分と糖分を含むものを溶かしておくとよい

  • 水分補給やカロリー補給は少しずつこまめにが基本です。特に小柄な人は体内のグリコーゲン貯蔵量が少ないので、動けなくなる前に飲んで食べておきましょう

  • ウチワや携帯扇風機なども暑さ対策に使えます

  • 日傘や日除け帽子なども有効です

まとめ

今回の遭難者はおそらく回復して自分の足で下山できるでしょう。ただ、時間は掛かるかも知れません。こういう場合でも明るい時間に下山できる様に余裕がある計画を作り、可能な限り早い時刻から登山をしましょう。気温が上がりきらない朝のうちに標高が低い部分を突破したほうが熱中症のリスクを下げられます。

体調不良を感じたら、仲間に悪いなどと思わず調子悪いと伝えて、悪化しないうちに切り上げて下山し、麓の街でお風呂に入ったり美味しいものを食べたりしましょう。仲間がそう申し出たら、「えー」などと言わずに下山しましょう。自分が体調不良になる事もあり、お互い様です。

体調不良にならないように各自しっかり準備しておきましょう。登山の前の晩は深酒せず早く寝るのだって、準備の一環ですよ。


わぁい、サポート、あかりサポートだい好きー。