銀行融資(ローン)―前編―

貨幣の本質を理解するには、銀行預金について正しく理解する必要があります。「預金」という名前から、これはお金を預けた記録、特に「現金を預けた記録」だと思っているのではないでしょうか。身近な場面では、この解釈でも何ら問題ありません。ところが、銀行預金はそれ自体がお金なのです。これについてみていきます。

融資の財源

あなたが個人あるいは法人として、銀行から1千万円の融資(住宅ローンでも先行投資でも、なんでもいい)を受けるとします。本当に返してもらえるのか、銀行はあなたの信用や将来の返済計画などあれこれと審査し、最終的に銀行内の稟議が通って貸借契約を締結するに至ったとします。

すると、あなたの銀行口座に1千万円振り込まれます!

さてここでクイズです。銀行はあなたの口座に振り込んだ1千万円を、どこから調達したのでしょうか?



模範解答はこちら:「私たちが預けたお金から出したんでしょ?

これはマスコミを中心に未だに説明され続けています。ところがこれ、間違った事実、すなわち嘘・偽りなのです。

もしこれが正しい事実なら、口座開設時の約款か何かに、あなたから預かったお金を、銀行は連絡なしに他者に貸します、とでも明記されているはずですよね。あるいは法律でもあるのでしょうか。探してみてください、誰一人、それを示している人はいません。間違った事実だから、そんなものは存在しないのです。



正しい事実はこうです:「どこからも、調達していない。銀行が、自ら発行した。

つまり、あなたの銀行口座の預金残高に、1千万という数を加えただけです。そしてその分、銀行は負債を計上します。(えっ!?)

預金という名のお金

銀行預金というのは、から資産と負債として生まれ、負債が銀行に積まれ、資産が銀行預金として流通する貨幣なのです。これ、まごうことなき事実です。

上の図、どこかで見ませんでしたか? 「貨幣」の記事に書いた日本銀行券(現金紙幣)の発行と、全く同じですよね。実はこれ、お金の発行というプロセスの共通した形なのです。お金というのは、誰かが負債を計上し、生まれるものなのです。そして、銀行預金というのは、それ自体が貨幣なのです。預金という名のお金なのです。

銀行預金がお金であることに、戸惑うでしょうか。では以下を考えてみましょう。

  • 数千万円ものローン融資を現金で受け取りますか? 危ないですよね。実際には預金残高が増えるだけではありませんか?

  • ほとんどの企業では、給与は銀行預金として支給されていませんか? いまや現金支給は珍しいです。

  • 給与支給の裏で現金が輸送されていると思いますか? もしそうならば、日本中の企業の給与支給のために、どれだけの時間がかかり、リスクがあるか、想像してみましょう。

  • ネット商品を銀行振込で支払ったことはありませんか? その取引上で、現金が現れる場面がありますか? 瞬時に相手の口座に振り込まれますよね。

  • クレジットカードの精算は、銀行預金の口座振替・自動払込みにしていませんか? 現金振込なんて面倒なこと、毎月していますか?

いかがでしょう、銀行預金そのものが、現金より便利なお金として機能していることがわかりますよね。

預金は銀行にとって…

個人でも法人でも、それぞれのバランスシート上では、銀行預金は「資産」に計上しますよね。

みんなのバランスシートでは、預金は「資産」

一方で、銀行のバランスシートでは預金は「負債」に書かれます。これが正しい事実です。

銀行のバランスシートでは、預金は「負債」

本当でしょうか? これも誰でも検証可能な事実です。参考までに、三菱UFJフィナンシャルグループのバランスシートを見てみましょう。三菱UFJ FGIR・投資家情報財務情報に、過去分含めた決算情報が公開されています。

例えば本記事の執筆時点では、「2021年度(2022年3月期)第1四半期」が参照できます。決算ハイライト(PDFファイル)を開くと以下のように書かれています。

抜粋:三菱UFJ FGのバランスシート

負債の部に、明確に「預金」(うち個人預金/法人等預金、など)とあります。これ、日銀の発行銀行券と全く同じですよね。否定しようのない事実です。

小まとめ

銀行預金というのは、それ自体が貨幣なのです。銀行は、自らお金を発行する事が可能なのです。しかしそんな自由にお金を作り出していいのでしょうか? 次の記事では、銀行が預金を発行する際にどのような制限があるのか、説明します。

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