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由美と山での出来事

 好き同士の優しいカップルは、仲良くハイキングに行きました。

 私は松本由美(まつもとゆみ)。仕事が休みのこの日は、在日韓国人の彼の金瑞峻(キムソジュン)くんとハイキングに来ている。
「由美、俺の妹も「ユミ」なんだ。」
「妹さんもユミさんだったの。」
 瑞峻と私も初めて出会った時に、彼の妹さんも「ユミ」であることも彼も教えてくれた。そのために彼も気に入ったのも、私も親近感が沸いたのもある。私の2歳年上の先輩の瑞峻も、韓流スターとも韓国人のアイドルとも同じくらいかっこいい。
「私、山に行ったのは学校の遠足くらいしかないわ。」
「俺も韓国でも日本でもよく山に行くんだ。任せてくれ。」
 私は、今までは学校の遠足くらいしか山歩きをしたことがなくて、体力にも山にも自信がなかった。だが、韓国でも日本でもよく山に行く瑞峻も任せてくれと言っているのだから、一緒に行くと決まった。
「大勢の方がいらっしゃるわね。」
「皆同じ目的だね。」
 ハイキングには大勢の人が来ている。カップルも夫婦も、家族連れもいる。知らない皆も多いが、私はこのイベントを通して、瑞峻ともさらに距離を縮めたいと思う。
「綺麗だわ・・・。」
 山歩きとは言っても早く行く訳じゃないから、私も周囲に咲く花や植物にも親しんでいた。
「瑞峻、韓国の山はどんな感じなの。」
「韓国の山も高くてかっこいいの。皆にも人気だけど、山のルールは守るようにね。」
 私も、山に慣れている瑞峻にも聞いた。彼も韓国の山もかっこいいとも言うが、ルールは守るようにとも注意した。
「親と一緒にいた頃も懐かしいわ。」
「俺達の小さい頃も思い出すね。」
 家族連れや親子連れを見ると、私も親と一緒にいた頃も懐かしく思えた。少年少女の姿を見ていると、私も本当の先輩か姉のように微笑ましく思う。
「どうしたの。」
「何でもない。日本の自然も豊かだ。」
 そのあたりの風景を気にするように、何度も立ち止まる瑞峻。
「マイペースに行きましょう。」
 時に立ち止まって風景にも、自然にも思いを馳せながら山頂を目指せば良い・・・と私も思っていたその時に、元気だった瑞峻がうずくまってしまった。
「大丈夫?具合が悪いの。」
「お腹が痛いんだ・・・。トイレに行ってくる・・・。」
 瑞峻は腹痛を訴えて、コースの横にあるトイレに駆け込んでしまった。彼が先程から何度も立ち止まっていたのも、私も本当はお腹が痛いのを我慢していたとも、トイレを探していたとも思えた。
「私も待つわね。」
 トイレに行った瑞峻を私も待った。彼を待つ間も、私は周囲の自然を独自に感じていた。
「可愛い。」
 周囲に咲く花や植物も、見ていても可愛い。厳しい自然でも健気に咲く、可憐な花だ。厳しい自然と共存して育つ、強いたくましい植物だ。
「由美。」
 瑞峻ではない男性が私を呼んだ。
「将弘!」
 その元気が良い男性は、学校の頃の同級生の石原将弘(まさひろ)くんだ。
「結衣!」
 将弘と一緒に来ていたのは、同じく同級生の小寺結衣(ゆい)ちゃんだ。
「私達カップルなの。将弘から私に言ったの。」
「結衣も俺が良いって言ったんだろ。」
 元気が良い同士の将弘と結衣も、成長して一組のカップルになっていた。
「本当は6人で来る予定だった。でも2人も病気で来られなくなっちゃったの。2人も途中の山道で怪我しちゃって、動けないくらい酷くて病院に行っちゃったの。だから将弘と私の2人。」
 結衣もメンバーが病気や怪我というトラブルに遭ってしまったことも、そのためにカップル2人で来ているとも話した。
「俺達どうする?」
 将弘も、この先どうするか迷っている。
「私達3人で少し休憩しない?」
 結衣も、将弘にも私にも少し休憩しないかと言った。
「由美は誰か待っているの。」
 将弘も、私も気にするように待っているのか聞いた。
「一応待っているけど・・・。詳しくは言えないわ。」
 私も瑞峻を待っているのだが、関係のない将弘達には詳しくは言わない。彼が韓国人とも、腹痛でトイレに行っているとも言わなかった。
「由美、お待たせ。」
 瑞峻が手を拭きながらトイレを出て来た。すっきりした様子で、お腹の調子も治ったようだ。
「お腹が痛くて、ずっとトイレを出られなかったの。心配だからお腹の薬も飲んだ。」
 瑞峻が腹痛でトイレを出られないアクシデントもあったが、無事に解決した。
「由美もそうだったのか・・・。」
 瑞峻と私がカップルで来ていることも、お腹が痛かった瑞峻が治ったことも、将弘も普通に受け入れた。
「よろしくね。」
「俺もよろしく。」
 結衣も、瑞峻にも優しく会釈した。こちらも皆と仲が良い結衣だ。
「俺達皆で仲良く行こう。」
 将弘が皆で行こうと提案した。学校の頃も皆に囲まれていた、元気な将弘を私も思い出した。
「そうしましょう。」
 私も同意だ。皆で山頂を目指すことに決まった。
「皆良い人達だね。」
 瑞峻も皆を受け入れ、良い人達と言う。
「皆優しいわ。」
 私も皆が優しいとも言う。瑞峻が韓国人でも、他に何処の国籍の人がいても、皆仲が良いのも大切とも思えた。
 私達は山頂に着くまで、皆好きに話した。
「私は歴史が好きで、よく山城でも平城でも行ったの。また行きたいわ。」
 少女の頃から歴史が好きな私は。10代の頃にも山城でも、平城でも城跡でもよく行っていた。機会があればまた行きたい。
「由美もずっと歴史が好きだったわね。よく歴史の話をしていたの。」
 お互いの昔を知っている結衣も、思い出したように言った。活発な彼女も将弘によく合う女性に成長している。
「俺は韓国人だけど、韓国でも日本でも山に慣れているの。山は好きだ。」
 瑞峻も自身が韓国人であることも、山が好きであることも皆にも話した。
「日本語上手ですね。」
「彼の日本語も上手よ。」
 将弘も、瑞峻の日本語も上手であることも認めた。私からも彼の日本語も上手と言った。
「山には困らない俺だけど、さっきはお腹が痛くなっちゃった・・・。」
 瑞峻も、山でも腹痛を起こしてしまったことも、恥ずかしがるように話した。
「大丈夫ですか。」
「痛かったけど治った。」
 心配する結衣にも、瑞峻も腹痛だったが治ったと安心させた。
「俺も山でも、腹痛でトイレに行ったこともあったな。」
「将弘が食べ過ぎる、薄着をしてお腹を冷やすからよ。気をつけてね。」
 将弘も山でも腹痛を起こしてしまったこともあったと思い出した。結衣も食べ過ぎにも、お腹を冷やさないようにとも注意した。こちらの注意も山でも、日常生活でも同じだ。
「韓国の方ですか。」
「そうです。よろしくお願いします。」
「お兄ちゃんは韓国人なの。」
「そう。皆もよろしく。」
 瑞峻も、山道を行く初対面の皆にも、韓国人であることも公言していた。彼が腹痛だったとは、私にも思えないくらいだ。
「山頂だわ。」
「由美、俺達も頑張ったね。」
 瑞峻が腹痛を起こしてしまう、同級生の将弘と結衣とも再会、彼らとも一緒という出来事もあったが、無事に山頂に着いた。
「来られなかった皆のためにも写真を残す。」
 将弘も、来られなかった皆のためにも写真を撮っていた。
「由美、山道辛くなかった ?」
 瑞峻も、私にも山道が辛くなかったかも聞いた。
「厳しくても頑張ったわ。私も自然の優しさも感じたの。また機会があれば行きたいわ。」
 私も、山も山道も厳しかったが、自然の優しさも感じていた。山には自信がなかった私も、またいつか機会があれば行きたいとも思えた。
「山の天気が崩れないかしら・・・。」
「予報で見る限り、大丈夫そうよ。」
 山の天気が急変しないか心配な私にも、結衣も予報で見ると大丈夫と安心させてくれた。
 この日も、私達も家に帰るまでがハイキングだった。
「山に対する気持ちも皆それぞれ違っても、何があっても貴重な経験だったわ。」
 山に対する気持ちも、皆それぞれ違う。また、アクシデントがあっても、同級生と再会してもどれも貴重な出来事だ。機会があれば私もまた行きたいとも、自然を感じたいとも思う。

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