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将人の悲しみ

 彼は大切な幼馴染を、事故で失ってしまいました。

 ファッションモデルの仕事に向かう道で、俺はバイクの交通事故を目撃してしまった。
「バイクの事故だぜ・・・!」
 もの凄いスピードで走行していたバイクが柵に激突して、人が投げ飛ばされた。バイクも大破、柵も破壊されてひしゃげていた。
「酷いぜ・・・。」
 さらに行った先で、先程までバイクに乗っていた筈の、顔も全身も傷だらけで性別もわからない者が、俺も救助の連絡をするより前に救助されていた。ヘルメットも粉々で、頭や顔に破片が突き刺さっていた。距離からすると、その者は相当酷く投げ飛ばされたことになる。俺は凄惨な事故を見てしまった。
「俺、バイクの事故を見てしまったぜ。」
 仕事先でも、俺はバイクの事故を見てしまったと一言だった。
「将人は大丈夫だったか。」
「俺は何ともないぜ。」
 モデルやスタッフの皆も、仕事の時にも俺にも大丈夫かも聞いたが、俺は怪我一つしていない。
「宮本家から電話だぜ。」
 仕事の合間に、電話が何度も来ていた。宮本家の番号だ。
「つながらないぜ・・・。」
 だが俺が何度連絡しても、宮本家の誰も出なかった。
「来たぜ。」
 宮本家から俺の番号に電話が来たのは、モデルの仕事が終わった直後だった。
「天野将人です。」
「将人くん。」
 宮本家の由紀母さんだ。由紀母さんもただならぬ様子で俺を呼ぶ。
「将人くん、よく聞いてね。健太が交通事故で死んでしまったの・・・。」
 由紀母さんは冷静に、健太が交通事故で死んでしまったと言った。
「バイクの事故だったの・・・。」
 由紀母さんはさらに詳しく言った。健太はバイクの事故で死んでしまった。
「俺が見たのは健太だったのか・・・。」
 そうすると、本当にはわからないが、俺が見たバイク事故の被害者は健太だったともいえる。だが酷い傷を負っていたのも、あまりに一瞬の事故だったのもあり、俺も健太とはわからなかった。
「病院に向かいます。病院の場所を詳しく教えてください。」
 俺は病院の場所、連絡先を詳細に聞いて、その病院に向かった。
「亜子だぜ。」
 俺が病院に到着した時に、亜子も受付の仕事をしていた。
「菜月!」
「将人くん。」
 誰を呼べばわからなかった俺は、真っ先に菜月を呼んだ。菜月も冷静に応えた。
「健太が事故で死んだって・・・。本当か。」
「信じられないわ・・・。」
 俺も菜月も、健太が亡くなったという事態を信じられないでいた。
「こちらです。」
 徹父さん、由紀母さん、響希、琴音、菜月、俺は病院の霊安室に通された。
「健太が眠っているみたいだぜ・・・。」
 顔に白い布をかぶせられた健太の亡骸は眠っているみたいで、俺にも亡くなっているとも、この世にいないとも思えなかった。
「にいさああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 琴音が健太の亡骸に縋りついて泣き崩れた。三姉妹とも仲が良い、兄弟とも仲が良い琴音の悲しい気持ちも、俺もよくわかる。
「兄さん・・・。」
 響希も、一言で健太を呼ぶしかなかった。
「健太・・・。俺も嫌だぜ・・・。嘘だって言ってくれ・・・!」
 我慢していた俺も健太の亡骸を見て堪えられなくて、目を押さえて泣いた。
「健ちゃん・・・。皆・・・。」
 菜月も辛い悲しい声で、俺達を呼ぶしかなかった。
「全身に傷を負ったのね・・・。」
「酷い怪我だぜ・・・。」
「頭部を酷く打撲して、脳挫傷を起こしていました。全身にも骨折や外傷を負っています。」
 菜月、医師、俺も確認したのだが、健太は顔にも全身にも骨折や外傷を負っていた。皆も可愛い健ちゃんともよく言った、少年のような童顔には、凄惨な傷が刻まれていた。
「将人くん・・・。」
「琴音、俺も悲しいぜ。琴音は事故に遭わないでくれ。」
 悲痛な声で俺を呼んだ琴音に、俺も事故に遭わないでくれと言うしかなかった。
「まさか健太もバイクの事故で死んでしまうとは・・・。自業自得かもしれないが悲しいぜ。」
 俺もバイクの事故で死んでしまった者も、今までにも何人も見てきたが、健太もバイクの事故で死んでしまった。加害者が逮捕される交通事故と違って、単独での事故は自業自得とも、かわいそうともいえる。
「また電話だぜ。」
 少しして、宮本家からの電話が再び来た。
「天野将人です。」
「将人くん。」
 俺にも追伸だろうか、また由紀母さんだ。
「響希が首を吊ってしまったの・・・。」
 何と健太が交通事故で死んだ後追い自殺か、響希が首を吊ってしまった。
「響希まで死んでしまったぜ・・・。」
 長男も次男も相次いで失った宮本家の皆を思うと、俺も悲しいがどうにもならない。
「死んでしまった者はどうにもならないが、俺は命を大切に頑張らないとならないぜ。」
 大切な者を失ったことで、死んでしまった者はどうにもならないが、俺は命を大切に頑張らないとならないと改めて感じている。

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