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私がバーに行く理由

——薄暗い店内に流れる落ち着いたジャズ。目の前にはずらりと並んだボトルと、静かにグラスを拭くマスター。竹やんには絶対降りられない椅子に座り、私はウイスキーのグラスを傾ける。実に優雅なひとときだ。

「あちらのお客様からです」

カウンターの一番端に座る女性の前にカクテルが差し出された。顔を上げた女性と目が合ったが無論私からではない。私より少し奥、彼女の反対端に座る初老の紳士が頼んだのだろう——

いや、あの…ちょっとこういうの書いてみたかっただけです。無論とか言ってみたかっただけです。すみません。

竹やんって誰?と疑問に思った方は[やしろあずき 竹やん]で検索してみてください。しなくてもいいです。

にしても見ず知らずの異性からいきなり奢られるお酒ほど怖いものはありませんね。

さて、2020年4月現在、緊急事態宣言発令中であり、バーに行くどころか家から出ることすらままならない状態です。

だからこそ、あらためてなぜ私はバーが好きなのか、なぜ私はバーに行くのかを唐突に書き綴ろうと思います。隙あらば自分語りです。長いクソリプだと思って読んでください。自分発信にもかかわらずリプとはこれいかに。

バーに行く理由は人それぞれです。1人で好きなウイスキーを飲むため、飲んだことのないカクテルを飲むため、好きなあの子を落とすため……etc(料金所)

例えば吉野家に行く理由は牛丼を食べるためだと満場一致するであろうに、バーに行く理由は人それぞれだなんて、不思議なものです。

無論バーに行けば皆お酒を飲むわけですが……。無論。

私がバーに行く理由。もちろん美味しいお酒を飲みたいというのは前提にありますが、何より人と話したいから、のような気がします。

気がしますってなんとも無責任な文章だこと……。なんせ最初に行った理由が勉強のためだったものですから。バーでお酒を飲んだことすらないのに20歳になってすぐバーテンダーになったものですから。今は違う仕事をしておりますが。

それが今やふらっと行くようになって、自分でもなんで行くのかよくわかりません。でも行きたくなってしまうのです。つい吸い込まれるようにバーに入ってしまうのです。

ここのところお金が無さすぎてあまり行けておりませんでしたけど。

人と話したい。それは一緒に行く人がいればその人と。でなければバーテンダーと、初めて知り合ったお客さんと。

寂しがり屋なつもりはないのですけど、人と話すのが好きなんです。

居酒屋で大人数でワイワイ喋るのも悪くはありませんが、友達や同僚と1対1で話すのが好きなのです。よりその人のことを知れるというか、より自分のことを知ってもらえるというか。

あの落ち着いた雰囲気だからこそ話せる話もあります。

1人でバーに行くのも好きですよ。

何度行ったバーでも、入り口の扉を開けるのはなぜか緊張するもの。それがまたよい。

カウンターに座りボトルの棚を見ながら飲むお酒を決める。

しばらく悩んでいると「わからないことがあればなんでも聞いてくださいね」とバーテンダーに声をかけられ。

カクテルが飲みたいと伝えれば「お好みはありますか?甘いのが好きとか、お酒の強さとか」なんて聞かれるので、甘めで、アルコールは強くても弱くても大丈夫です、と答えればバーテンダーはボトルを選んでゆく。

素早い手つきでお酒と氷をシェーカーの中へ。

手慣れたシェーク、お酒の混ざる軽快な音に高まる期待。

まるで宝石のように美しい色のカクテルが脚の細いグラスに注がれてゆく。

「おまたせいたしました」

いただきます。とグラスを傾ける。

(ここでお酒の味を表現しようとするも2分考えたところで断念)

思わず「おいしい」と言葉が漏れる。そこからバーテンダーとの会話が始まるのです。「それはよかった。このカクテルはね…」なんて会話が始まるのです。

この、バーの扉を開ける瞬間からお酒が来るまでの緊張感が、お酒を飲みバーテンダーと話すことで徐々にほぐれてゆくさま…

そこに心地よさを感じます。

くだらない話も真剣な話もできるのがバーのよいところ。

仕事とは全く関係ない場所だからこそ話せる話もあります。バーテンダーと仲良くなっても友達とはまた違う適度な距離感がちょうどよいのです。

カウンターで飲んでいるお客さんと仲良くなるのもバーの醍醐味。

とはいえ、いきなり初めましての人に声をかけるのはあまり褒められたものではありません。

バーテンダーと話すうちに自然と周りのお客さんとも交流が生まれる。それがよいのです。

なんて言ってますけど、私も素敵な出会いがあればいいなーなんて思いながらバーに入ることもあります。

なんせ大人の社交場ですから。

下心はほどよく隠してください。照明が暗いのはその為です。知りませんけど。

私が働いていたバーでも、お客さん同士がカウンターで出会い、やがて結婚した方々がいます。

無論、私はバーで知り合った人と付き合ったことはありませんけどね。

バーテンダーとお客さんが付き合ったなんて話もいくつか聞きましたし。

無論、私はありませんでしたけどね。


恋愛としての出会いでなくても、初めて知り合った人と言葉を交わすのは楽しいものです。

自分とは全く違う世界の人と話せるのもバーならでは。

この前はAV業界の人と話が盛り上がりました。それはもう面白かった。


コミュニケーションという話で言えば、飲んだことのないお酒をバーテンダーから教えてもらうのもバーならではのコミュニケーションであり、バーの楽しさのひとつです。

ひとえにウイスキーといっても銘柄によって味はまるで違います。

カクテルだって何千種類とあり、オリジナルカクテルを出しているバーも多くあります。

「こんなお酒が飲みたい」と伝えれば、バーテンダーはその膨大な数のお酒から自分のための1杯を考えて作ってくれるわけです。

それこそがバーのよいところ。

バーテンダーはただお酒を作るだけの人ではありません。

お客様の好みに合わせたお酒を選び、作り、提供する。お客様の性格や気分に合わせたコミュニケーション、場の雰囲気を壊さないための会話の舵取り……etc(料金所)

お客様が気持ちよくお酒を飲めるよう、その場を楽しめるよう、バーテンダーは至るところへ気を配っているのです。

だからこそバーは楽しいのです。

バーの雰囲気、お酒、人、その全てが私にとって行きたくなる理由なのです。


さて、ここまで読んでいただいてお分かりかと思いますが、本当にただ思ってることを書いているだけです。

あなたの大切なお時間をいただいております。ありがとうございます。

それにしても、

行きたいなー。

またあの場所に行けることを願うばかり。

「おっ!ひさしぶり〜」「いやー大変だったね」

なんて会話ができることを信じて。

しかしまたバーに行けるようになったとしてお金が…。

もし、バーを支援したいけど自分はお酒を飲めない、なかなか家を開けられないという方、サポートという形で私に投げ銭していただければ全てバーで使います。本当です。飲みに行きたいです。本当です。

…失敬。

何はともあれ、今までバーに行ったことがない人も、もし気になっているようであれば再びバーに行けるようになったそのときには、どうかほんの少しだけ勇気を出して、その扉を開けてみてください。

あなたの日常が少し変わるかもしれません。

落ち着いたら、私は新たな出逢いと楽しい会話、美味しいお酒を求めてバーに行きます。必ず行きます。どうかそれまで……。


それでは、いつかどこかのカウンターでお逢いしましょう。

(この締め気に入ってます)

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