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自己帰属感とは何か 〜デジタル空間まで延長する自己感覚〜|融けるデザイン2020 #5

融けるデザイン2020は出版5年を記念して、融けるデザインを著者なりに振り返りつつ、少しだけ融けるデザインその後を何回かに連載して書いていくものである。

今回は連載5回目。3章のタイトルは「第3章 情報の身体化――透明性から自己帰属感へ」である。

この章は本の帯にも書いている「自己帰属感」について書いている。おそらくインタフェース関連の書籍で自己帰属感という言葉を使うのは本書が初だろう。

道具は身体の延長、
カーソルもそういえるのか?

前回の記事で、インタフェースの理想系は石器時代のような道具やラケットやハンマー、ということを述べた。こういった道具は使い続けるとそれ自体を意識しなくなり、対象の活動に集中できるようになる。身体の一部になり、透明化する。そしてその道具のチカラをも得る。身体が延長、拡張されるわけである。

下の図を見てほしい。上が物理的な道具、ラケットやハンマー。下がパソコンである。

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ラケットもパソコン同じ道具のような「使う」がある。前者は手にラケットを持つ。後者は手でマウスやトラックパッドを使う。大きく違ってくるのはパソコンの場合「画面の中のカーソルを使う」ことであり、カーソルは非物理的な存在の点だ。

道具は身体の延長」といっても、カーソルまでを身体の延長と言っていいのかはやや疑問が残る。

ダミーカーソル実験と自己帰属感

そこで融けるデザインでは我々が研究で行っているダミーカーソル実験を紹介した。ダミーカーソル実験とは「自分のカーソルである」と感じるものを複数のダミーカーソルの中から当てる実験である。この動画を見てほしい。

この実験によって、ダミーカーソルの中から「これが他のどれでもなく、これが自分だ」と特定できることがわかった。このことから、動きの連動が「これが自分」という感覚が発生する。カーソルに遅延が入ると「自分の」カーソルの特定が急に難しくなる。動きが連動することで、ある特定のグラフィックが自分側に帰属してくる、これが自己帰属感である。自己帰属感身体所有感とも訳され、もともとは英語、sense of self-owershipである。

iPhoneはなぜ気持ちが良いのか?
サクサク感とは身体拡張が上手く言っている状態である

もはや今ではiPhone的なUIは目新しくない。なので気持ちが良いといわれてもわからないかもしれない。しかしiPhoneが出るまではUIの心地よさは、フレームレートが高いほうがよくてそれはサクサク感生み、フレームレートが低い場合や、遅延はもっさり感みたいな言い方があった。しかしこのサクサク感が良いのはなぜか?は説明が困難だった。

融けるデザインではこれをダミーカーソル実験と自己帰属感というキーワードを用いて、動きの連動が「画面の中にまで」「これが自分」という自己帰属感を生み出すことを説明した。そしてこれをiPhone設計で考察し、言語化した。

動きの連動にこだわるiPhoneは身体の拡張としての道具設計が優れていると言える。つまりサクサク感とは身体の一部感、身体拡張が上手くいっている状態といえる。この状態はどうやら人は心地がよいようだ(実世界ではそれが通常である)。

この実験や研究の詳細については本書を読んでほしい。またこの関係でVisualHapticsという視覚で触覚的な感覚を提示する研究などについても紹介している。

自己帰属感との出会い

なお自己帰属感という言葉との出会いはギブソンの生態心理学にも精通している河野哲也さんの著書『「心」はからだの外にある』であった。5章「世界は私の表象だろうか―身体図式と所有」のなかで自己帰属感の話が展開されている。河野さんは身体所有感ではなく自己帰属感をメインで使って説明している。

2012年に自己帰属感とiPhoneと結びつける

また融けるデザインの3年前2012年に自己帰属感とiPhoneやUIに初めて結びつけて論考を紀行したのが「テレスコープマガジン」だった。これは以下でも公開されているのでぜひ読んでみてほしい。まだ自己帰属「性」と言っている部分がある。

2020年、さらに身体的方向性を目指すテクノロジー

VRのデバイスも2015年と比べればだいぶ身近な体験となった。こうしたデバイスでも当然自己帰属感の重要性は高まる。むしろ前提といってもいい。自己帰属感は体験発生の根本原理ともいえる。なぜなら「私」の発生そのものだからだ。「私」の存在〈感〉「体験」は表裏一体だからだ。

融けるデザインではiPhoneを例に考察を展開し、VRの本という雰囲気は装丁からもタイトルからも感じないかもしれないが、自己帰属感の話はVRは直結している。自己帰属感をキーにスマホアプリから今後のVRデザインまでデザイナーやエンジニアの設計ヒントになればと思っている。

また、融けるデザインを書いてから、仕事の依頼でもっとも増えたのは「自動車関係」だったと思う。これは車との一体感、走る喜びみたいなところと関係してくるからだと思う。さらには雑談でも、自動運転になる中での自己帰属感が話題になる。

生き甲斐もデザインできるのでは?

個人的には自己帰属感は最終的には「自分がこの世界に生きているという帰属」「生き甲斐」みたいなことが自己帰属感と関係していると思っていて、講演ではそういったことも少しだけ話したりはしている。研究室では自己帰属感の社会的レイヤーとして「自分ごと化」の研究も行っており、いくつか楽しい実験や考察議論を行っている。これもいつか紹介したい。

さてそろそろ長くなるのでここで今回はここまでとする。自己帰属感についてはぜひ書籍を読んでほしい。もっともっとたくさん書いてある。

というわけで、今回の3章では理想論とされた道具の透明化や身体の延長になるといった道具と身体の話をダミーカーソル実験と自己帰属感で考察した。次回は、4,5,6章あたりをざっくりと振り返りたいと思っている。

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