「親の習字」

小4の頃の話です。



いつものように帰りの会をしていると、先生が言いました。



「学級プリントを配りまーす、後ろに回してくださーい」



そこに書いてあった内容は、



「親に習字で言葉をしたためてもらおう」



でした。



家に帰って学級プリントを母に渡すと…



「はい、分かりました」



と、少し緊張した面持ちでそれを受け取りました。



そして次の朝起きて、リビングに向かうと。



何故かおびただしい数のクチャクチャになった藁半紙に鮮血のように飛び散る墨汁…そしてテーブルにへたり込んで眠る母。



朝からパンチのある絵面でした



母がむくっと起き上がり言いました。



「これ書けたから、持って行って」



それは、書き留めで送んのかと言わんばかりのセロハンテープでぎっちりと止められた分厚い封筒でした。



僕は「何でこんなに厳重やねん」と思いましたが、黙ってそれを学校へ持って行きました。



そして1週間が経ったある日、



朝学校へ行くと教室の後ろの壁一面に、みんなのお父さんやお母さんが書いた習字が張り出されていました。



「優しさ」「笑顔」「努力」「夢」



そこには親から子に対する、様々なメッセージがしたためられていました。



それを見ていると



親というものはやっぱり、子供の事を大事に想っているんだなー。



と、なんだかあったかい気持ちになりました。



そうして浸っていると、



何やら教室の左端の方がガヤガヤと騒がしくなっていました。



何だと思い駆け寄ると



何故か、みんなが僕の顔を見てクスクスと笑っているのです。



「何やねん、何で笑ろてんねん」



と思っていると



そこに僕の母が書いた習字が貼られていました



「あ、そういえば何て書いたんだろう」



と、見てみると





「一刀両断」



頭が真っ白になりました。



これを僕はどう受け止めれば良いのか、母は何を僕に伝えたかったのか。



そんな事が頭を駆け巡っていると



普段から喋った事もない様な真面目そうな子が、



こちらにコツコツとやって来て言いました。



「実家、道場なん?」



僕は一気に体が熱くなり、顔を真っ赤に染め



気が付けば泣きながら教室を飛び出していました。



そのあと何日か、仮病で学校をお休みしました。

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