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川のせせらぎだけ

なぜここを歩いていたのだろう?
その衝撃で忘れてしまった。


気がついたらすすきのを散歩していた。
これはいつものこと。

今年の夏の話。何をしに行ったんだっけ?
暴行事件での顔の傷も少し癒えて・・・脚のリハビリするためだったか?
思い出しながら書いてみることにする。

日中まだ太陽が真上にある頃、すすきのから少し離れた駅で降り、いつものように酒を飲みながらゆっくりとゆっくりと。散歩するには暑すぎた。


今日はすすきのに用事があるわけではない。
リハビリがてら、壊れたスマホの修理のためだったような?(この時はまだスマホは壊れかけだった)
とにかくすすきのに行く予定ではなかった。

大きな川にかかる大きな橋の上で抜けるような青空の写真を撮って嫁さんにLINEで送った。
駅から500mくらいの場所だけれど、すでに500mlの第三のビールの2缶目を開ける。

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(これは自分で撮影したものではない。なぜなら写真を撮ったスマホは壊れたから。その後完全破壊で結局修理できず買い替え)

痛む腰と脚を押さえながら歩いていたがもう限界。
見つけたベンチに腰掛け残りの酒を飲み干して一服。
それでも痛みは引かず二服三服。ようやくまた歩き出す。

いつもは観光客で賑わうはずの二条市場。
コロナの影響もあって今年は流石に人が少ない。

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「どうだい?人少しは戻ってきたかい?」
「いやぁ全然だぁ!まいったよ!」
「すすきのも全然だもんなぁ・・・」と俺も頷く。

そんな世間話をしてじゃあと手を上げ頭をかきながら去る。
そしてコンビニで酒を買う。
暑さもあって今日は酔いが回るのが早い。

パチンコ屋の喫煙所で少し涼んだもののなかなか回復しない。
どうせ回復しねーんだったら飲んじまえ!となぜ思ってしまったのか?
そこから何本飲んだかわからないけれど、気がついた時にはすすきのの裏通りのベンチで寝転んでため息を吐いていた。失敗した。

この頃にはもう当初の目的を忘れていた。
今ある記憶もとぎれとぎれ。
すすきのでも地元民しか行かないような裏道に入り、ラブホ街の裏道を抜け、更に裏道に入る。

昔俺が引っ越す前の友達の家がまだそのままある。なんだか懐かしい。

コンビニでカップラーメンを買って食った後、市電の走る道沿いを歩く。
子供の頃集団暴行にあって、泣きながら自転車を押して帰ったあの道だ。
子供の頃にお世話になった皮膚科医院の前を通り、中島公園へ。
当時の彼女とボートに乗って池に落ちたあの公園。

このまま公園を抜けて酔いを覚ましながらまたすすきのに戻ろうと思っていた矢先、懐かしい音が耳に入ってきた。
公園の周りを通る小さな小川。その川のせせらぎ。

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何のことはないただの川の音。
だがその音を聞いて35年前の思い出が一気にフラッシュバックしてきたのだ。


この川のそばにも、35年ほど前の仲の良かった友達の家がある。
俺とその家の友達と、自転車の話に出てきた喧嘩が滅法強い友達との三人でよくこの川のそばで集まっておしゃべりをしていたのだ。

川のせせらぎを聞きながら小川を見ていると、当時の記憶が昨日のことのように思い出される。
三人で笑った。喧嘩もした。正直ちょっぴり悪いこともやった。すすきののゲーセンにも行った。

ある日この場で初めて会った、どこぞの知らない少し年下らしき細身の男の子。喧嘩の強い俺の友人と何やら揉めている。
「お前裏切ったしムカつくからシメる」とキレながら、拾った枝で殴りかかる喧嘩の強い友人。

無抵抗で涙を浮かべ謝る男の子。
「うるせぇ!」と更に攻撃しようとした俺の友人を真正面から止め「もういいだろ!お前も早く逃げろ!」と叫びなんとか逃した。

「てめぇは正義の味方か?!ぁあ?!」と声を荒げ俺に殴りかかってくる友人に「正義もクソもあるか!弱い者いじめは駄目だ!」と殴り返す。理由が何であれこれは許されない。
辛くて悲しそうな男の子の顔。きっとあれは何年か前に集団暴行にあって泣きながら自転車を押して帰った時の俺の顔。

一発一発がハンマーのような威力のパンチをぶっ放す友人。
ぶっ飛ばされ、すぐに起き上がりジャブのようなパンチを数発叩き込む俺。

どれだけ殴り合ってただろうか?
「あーもうヤメだヤメ!もういいよ!」とボコボコになった顔でお手上げのポーズをする友人。
それよりももっとボコボコになってボロボロな姿で肩で息をする俺。

「テレビだったら笑いながら並んで土手に座るやつだろこれ・・・」
「お前やるじゃねーかってか?あっはっは」と友人も大爆笑。
あいつに手出しはもうしないと約束をし、それまで以上に仲良くなった。

そんな時「お前ら何やってんの??」と川沿いの家に住むもうひとりの友人が不意に家から出てきてキョトンとしていた。


その川のそばで一服しながら当時を思い出し「よくやったよ」と自画自賛する俺。
そしてつい先日、また集団暴行にあってしまった自分のことを思い出し吹き出す(笑)
何回集団暴行に合うんだよまったく!死なないからいいけれど。

川沿いを歩きながらふと右手を見ると、あの時キョトンとしていた川沿いの友人の家が見えてきた。
どうしてるかな?もう30年近く会ってないな。最後に会ったのは俺がまだ真面目に働いていた時だ。真面目じゃなかったけど。

今の俺は顔面傷跡だらけ金髪チンピラ風の酔っぱらい障害者だ(笑)
気軽に会うことなんてままならぬ。
だが・・・

もうこんな俺だけど・・・あいつらならまた笑って、笑いあいながら肩を組み安い酒でも飲んで・・・

俺なんかがそんな夢みたいなことを考えてはいけないのに考えて、家の前に立っていた。
何分か悩み、震える手でインターホンを押した。

「はい・・・」
家の窓からウロウロしていた俺の様子でも見ていたのだろうか?
とても不安そうな女性の声がインターホンから聞こえた。

「突然すみません。中学の時に遊んでいた〇〇です。××君いますか?ちょっとたまたま通りかかってどうしてるかなって思って・・・」
そう正直に話をした。

しばらくするとドアが開き、怪訝そうな顔をしながら友人が出てきた。
金髪の俺の顔を見て少しギョッとしつつかなり警戒した様子。

「おお久しぶり!ちょっとたまたま通りかかったらまだ家あって、ついなんとなくいないかなって・・・」
「はぁ・・・」
「こんなナリしてるけどチンピラとかヤクザとか、あと変な勧誘とかでもねーから(笑)」
「フフ」

ジタバタと慌てる俺を見て笑う友人。
玄関先で少し話をしてようやく打ち解けた。

「お前あんまり変わんねーな」と友人。
「お前は・・・結構でかくなったな」と俺。
記憶よりかなり恰幅が良い感じになっていたのだ。

笑いあいながら近況報告。暴行にあったことなんかも話した。
他の友達の話なんかも聞いた。
ひとつひとつが全部懐かしい。

「ところでさ」
そう。肝心要のアイツのことを聞かねばならぬ。
俺はまた三人で遊びたいのだ。
「あいつどうしてるんだ今。△△」

「ああ死んだよ」

「え・・?」
衝撃が走る。

親に捨てられ道東の施設に行き、紆余曲折ありつつ大人になって何かの仕事に就いたこと。その後病気で亡くなったこと。
亡くなったのはどうやら結構前の話らしい。が、頭に入ってこない。
奴はさっきまで俺の頭の中で殴り合って笑い合っていたのだ。

「そうかぁ・・・」としか声が出なかった。
もう三人で遊ぶことは叶わないのだ。
ただただ寂しく思う。


「でもお前だけでも元気そうで良かったよ」
心の底からそう思った。
せめて俺達だけでも、あいつを偲びながら一緒に酒を飲んで送り出してやりたい。そう思ってLINEの連絡先の交換を頼んだ。

「え?ああ俺LINEやってないんだわ」

ん?あれ?
いきなり真剣な目をしてきっぱりと断られた。
じゃあ電話かメールは・・・なんて聞ける様子でもなさそうだなこれは。

「お、おう・・・じゃあ今度お金でも入ったら一緒に飲もうよ。今ちょっと貧乏であれだけど」
「ああそうだな。じゃあ」と言いながらガチャンとドアを閉められた。


・・・・・・。
日もちょうど落ちて空が暗闇がかる。
またトボトボと先程来た道を戻りながら、耳に聞こえるは川のせせらぎだけ。

思い出をほじくり返してもろくな事にはならないということを実感しながら、夜のすすきのに俺は消えた。
その後の記憶もやけ酒とともに消えた。



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