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ずっと向こうで倒れた自転車

小学校での授業が終わりいつものようにデパートのパソコン売り場へ。
自転車ですすきのまで5分10分で着くので、ちょっとその辺のスーパーに行くような感覚だ。


ゲームも好きだったが当時はプログラミングに興味があり、パソコン売り場で簡単なプログラミングでゲームや占いを作るのが大好きだった。
そして行くたびに補導もされていたが別に気にしない。
自分がやりたいことをやる。誰にもそれは曲げられない。

なんて格好のいいことを書いてはいるが、やっていたことは幼稚も幼稚。
それらしい占いの入力画面を作り、名前や生年月日を入力させてリターンキー(今のエンターキー)を押した瞬間「お前はバカ」と一言出るだけのプログラム。

通りかかった学生達が早速入力をはじめて、「なんだよこれ!」と怒る一人と笑う友達ら。
その様子を柱の陰から見ながらほくそ笑むという何とも趣味の悪い遊び(笑)


10歳から11歳くらいだったと思う。
そんなスキルがいつか将来役立つ時が来るんじゃないかと思っていたが、結果全く来なかった。
魔改造したCGIゲームをホームページに置いていて、それを今でも遊んでくれている人達はいるが。
その常連さん達に食料を送ってもらったり、酒を奢ってもらったりしてるから少しは役に立っているのか(笑)

詐欺被害にあって家を失った後だったけれども、俺は夢に溢れていた。
夢に溢れながら顔面炎上したり弁慶の泣き所に穴を開けたりしていたが。


そんなある日。いつものデパートからの帰り道。
いつもと違う道を通って帰ろうと、すすきのの街中を自転車で走っていた時のこと。
「お前なに自転車に乗ってんだよ」と同じくらいの年齢の三人組に話しかけられた。

「は?」と素っ頓狂な声で返事をする俺。
そしてすぐに思い出した。
ここの学区にある小学校では、すすきのが目と鼻の先で交通量も多いこともあり自転車に乗ることを禁止されているのだ。

「あぁ!〇〇小じゃないんだ俺!俺のところ禁止されてないから」
ニッコリと答えた。
そして「ちょっと来いよ。自転車貸してくれよ」という言葉を素直に信じた俺。

すすきのからややはずれた辺りの建物と建物の隙間の、車が二台ほど入るような薄暗い空き地の中に連れて行かれた。
やはり先生やなんかに見つかると怒られるのかなぁと思いながら、周囲から見えないくらい奥に行った瞬間だった。

ガシッ!

一番大きな奴に突然後ろから羽交い締めをされた。
自転車に乗りたいんじゃなかったのか?!と驚いた瞬間顔面に痛みが走る。
「生意気なんだよ!」といきなり殴られたのだ。

身体が小さかった俺は全く身動きが取れない。
腹を蹴られ、倒れて胸を踏みつけられ、馬乗りになって殴られる。
羽交い締めしてる奴以外の二人が交互に全力で殴る蹴るの雨あられ。

ただこちとら顔面炎上や弁慶の泣き所強打に、爪を剥がしたりタクシーに轢かれたりしてるんだ。これしきで泣くなんて感情はない。
蚊に刺されたようなもん。

骨が折れようがどうでもいい。
俺はお前らを自転車に乗せてあげたかった。それだけだ。

いくら殴りつけても全く泣きもしない俺に対して奴らも意地になり始める。夕方4時前に殴られ始め、そのまま1時間、2時間、そして3時間。
もう日が暮れた。英語塾の日だったのに行けなかった。

「俺次ジャンボ鶴田のジャンピングニーやるー」
両膝をついたままの俺の腕を二人が引っ張って無理やり膝立ちをさせて、走り込んできた一番でかい奴が顔面に飛び膝を叩き込む。

鼻血なのか口から血が出ているのかもうわからない。
一体いつになったら俺は解放されるのか?それだけしか考えられない。

「きゃあああああ!!」遠くに響く女性の叫び声。
「おい!何やってるお前ら!!」と男性の声。

「やべぇ逃げろ!」と三人組は走り去り、ようやく俺は解放された。
「大丈夫か?」「大丈夫です」とありきたりなやり取りをして、倒れていた自転車を起こしてフラフラと走り去った。警察沙汰は俺も面倒だ。

振り向くと助けてくれた二人が心配そうに見つめていたので深々とお辞儀をし、慌てて信号を渡って大きな通りを渡り裏道に入る。
こんな顔で大きな通りなんて走れやしない。


薄暗い裏道を走りながら、母になんと言えばいいのか考えていた。
結果的に塾をサボることになってしまったのだ。
それよりもこの怪我だ。どう説明したらいいのだろうか?

一旦自転車を降りて押しながら足を引きずりトボトボと歩きつつ、言い訳を考えていた午後7時半頃。
「よお」という声に振り向く。さっき殴ってきた三人組の中のリーダー格の奴が目の前のアパートの階段に座っていた。

「ここ俺んち」

なんと俺は奴の家に向かって歩いていたのだ!
不運極まりない。

もう返事をする気力もない。
無視して通り過ぎようとする俺の肩を掴んで「ちょっと待てよ!」と引き止める。
まだやるつもりなのか・・・呆れながら「なに?」と返事をする俺。

「自転車・・・乗せてよ」

はぁ?何を今更。ふざけるな。
また無視をする俺になおも食い下がる。

「禁止されてるから買ってもらえないんだよ。羨ましかったからさぁ・・」

きっとそうだろうなと思ってさっき俺もついていったんだ。
乗せてあげようと思って。
裏切ったのはお前だろう。

「ちょっとでいいから!お願い!」

・・・・・・。
無言で俺は自転車を渡した。

「ありがとう!」という奴の声に少しだけ気持ちが救われる。
「もう帰るからちょっとだけだぞ」と路上でクルクル回る奴の背中に叫ぶ。
「わかってるわかってる」と嬉しそうな奴の顔を見て俺も少し笑ったが、笑うと怪我をしてる顔面が痛い。

ギュンギュンとペダルを漕いで戻ってきて、スーッと俺の後ろを回って俺の横に自転車を止める。
「ありがとう返すわ」と言う奴から自転車を受け取ろうとしたその時である。
10mほどいきなり目の前でダッシュして自転車から飛び降りたのだ。


暗闇の裏道を人を載せていない自転車が走っていく。
ずっと向こうでガシャーンという音を立てて倒れる自転車。


あ然ボー然。
「バーカ」と捨て台詞を残して奴は家に入っていった。
本当に俺は馬鹿だ。
保育園の時からそうじゃないか。人を信じた俺が悪いのだ。


倒れた自転車はチェーンが外れていた。
慣れた手つきでそれを直して、他に壊れていないか確かめてから自転車に乗り帰った。
もう裏道はやめておこう。もういい。

ペダルを漕ぐたびにキィキィと自転車が泣く。
ごめんな・・・ごめんな俺のせいで。
その瞬間込み上げてきたものが一気に溢れ出し、ワーワーと声を出すほど泣いた。周囲の人がギョッと驚くほど泣きながら帰った。

もう夜8時すぎになっていたが、何年かぶりに泣いている俺を見た母は驚きながらも「いいよいいよ・・」と何も聞かずにいてくれた。
下手に根掘り葉掘り聞かれるより、そして頭ごなしに怒られるよりずっといい。感謝しかない。


それからしばらくしたある日。
夕方に新聞配達の新聞を取りに行った時のことだ。
なんと営業所の中に奴がいたのだ!
どうやら今日から新聞配達を始めるらしい。

奴は俺を見つけるとニヤッと笑って「お前あん時の奴じゃねーか」と俺に掴みかかってきた。
そのまま俺を営業所の外に引きずり出そうとした瞬間「お前何やってんだコラァ!」と営業所の従業員。
「KT君に手出してみろよコラ!KT君はお前なんかと違うんだ!許さねーぞオラ!」とそこまでしなくてもというくらい凄みまくる。

本当にそんな事する必要なんかない。
俺はもう大丈夫。


中学生となった俺は学校でも奴と遭った。
入学してしばらく経ったある日の廊下で、ニヤニヤしながら向こうから奴がやってきた。

「よお!やっぱりお前もこの学校か!ついてねーなお前!」

というようなことを言ったと思う。
そのセリフをよく覚えていないのは、言い終わるか前かわからない内に俺が4~5発ぶん殴ったからだ(笑)

「こいつ手速いから気をつけた方がいいぞー俺でも勝てねぇし。負けもしねーけどな!」
俺と一緒に並んで廊下を歩いていた友達が、尻餅をついてる奴を見下ろしながら笑って話す。

その俺の友達の顔を見て奴はギョッとした。
そこらでは有名な奴であり、喧嘩が強く絶対に近づいてはいけない人物だったためだ。
入学早々俺と喧嘩をして引き分けて仲良くなり、つるむようになったのだ。

以前書いたように、貧乏でガリガリの男がすがる事が出来るものは筋力しかないとアホほど身体を鍛えていた。
だから俺はもう大丈夫だと言ったんだ(笑)


これを機に奴が俺に絡んでくることはなくなったどころか、俺の顔を見かける度に奴の方が逃げ回るようになった。
だが日本中からはみ出し者となった先生や(担任は生徒殴って小学校をクビになってやってきた(笑))生徒達が集まる学校なのに、残念ながらその中でもものすごく悪い奴として扱われてしまうことになってしまった。成績は良かったんだけどなぁ。


追記
これから半年後に俺は転校。
その機会に真面目キャラになろうとしたものの初日から喧嘩だのなんだのに巻き込まれる。
そして一緒につるんでいた例の友人は親に捨てられてしまい、遠くの施設へと行くことになった。

この時の自転車は一家心中騒動&引っ越しの時の話に出てきた自転車。
すすきのの路地裏に住む友人にあげたもの。



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