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ウォームアップの重要性

様々なトレーニングや運動をする前に、ウォームアップを行いましょうと言われますが、何故ウォームアップが必要なのでしょうか。
怪我の予防のためであったり、運動でのパフォーマンスを上げるためという回答は間違いではありません。
ですが、何故ウォームアップをすることで怪我の予防になるのでしょう?パフォーマンスが向上するのでしょう?その理由を説明できる人はそう多くはないのではないでしょうか。
では、そのカラクリを紐解いていきましょう。
まず、ウォームアップと聞いて思い浮かぶのは、準備体操やジョギングだと思いますが、準備体操や軽いランニングを行うことで、起きる身体の変化は何でしょうか。筋肉活動によるストレッチ効果などももちろんありますが、筋肉の動きは全てグリコーゲンなどの糖質や脂質の代謝によってエネルギーを生成する過程が行われています。その際の代謝活動によって、筋温などの身体の深部体温を高めることができます。
ジョギングなどであれば有酸素性機能により心肺機能も徐々に活性化され、心拍数の上昇とともにたくさんの中枢の温かい血流を抹消の毛細血管に促すことでより早く体温が高まります。
身体は元々平熱が36℃前後ですが、運動を始めると血流活動が活性化し、前述の通り筋活動も始まるため体温が高くなります。そして37℃を超えて、さらに高まると今度は高くなりすぎないように発汗をして放射冷却機能を使い体温を下げる作用が始まります。
細胞は37℃前後が1番活性化して働き始める温度であると言われています。それは暑い日に食物をそのままに放置しておくとすぐ腐ってしまうという現象からも理解できると思いますが、37℃に近い状態であれば微生物を含む細胞の活動が活性化されるのです。逆に温度は高すぎると細胞が死滅し始めます。熱菌消毒などという言葉もありますが、高温にさらされることで細胞は死滅してしまうのです。この作用を身体は無意識化で行います。風邪を引いたり何かウイルスに感染すると人は熱を出します。この生理作用は体内のウイルスを体温を上げて退治する自然な防衛反応なのです。
また一方で、夏場外気が30℃を越す状態で活動をするとほとんどの人はだるさを感じたりします。外気が高すぎるため発汗による身体の冷却機能がスムーズに行われず、身体内部の体温がどんどんと高くなりすぎることによるものなのです。
その状態が長く続くと熱中症になり、熱中症状態が続くと細胞が死滅し始め死に至ることもあります。このように何気ない人の身体の反応も正しく理解することで上手に体調を整えること、ご自身のコンディションを整えることに大きく繋がります。
ここまでで、身体の体温反応については概ね理解できましたでしょうか。
では次に、ウォームアップによって37℃に近い温度になり細胞が活性化した時、どうして身体は動きやすくなるのでしょうか。
冬場の体育の授業で、最初はカチコチに動きが固まっていたのが、運動をし始め汗をかき始めると身体がスムーズに動いていることを体験したことは皆さん少なからず1回はあるのではないでしょうか。これは筋温などの深部体温が上昇すると筋肉の粘性を下げる作用があることに由来しています。筋肉には伸びたら縮むゴムのような弾性の性質と粘り気のある粘性があります。粘性と言われてもどんなものなのかわかりにくいかも知れませんが、筋肉は概ね60%が水分でできています。『水分』と聞くと水道水のようなさらさら気な水を想像しますが、筋肉内の水分はさらさら気質でなく、粘性を多く含む水質です。粘性の高い水質は蜂蜜のような液体状態で、蜂蜜が入ったビンをひっくり返してもすぐに出てきてくれません。少し時間が立つとドロッと動いてきます。これが粘性です。そのため粘性が体温の上昇によって低下すると少し液体に近い状態になりさらさら度が増すため、筋肉の収縮活動や関節の動きをスムーズにしてくれます。イメージとしてはスライムのような粘度のあるものが温度が高くなると溶け始めてヌルヌル水っぽくなる感じで捉えていただけるのが良いかと思います。
その粘弾性を含むのが筋肉です。紙粘土のようなものを想像していただけるとより理解が高まりやすいと思います。ゆっくりと引っ張るとよく伸びますが、急激に引っ張ると千切れてしまう、これがウォームアップ不足による怪我の1番の肉離れです。
高齢者ほど入念にウォームアップをといいますが、これは子供に比べて年齢の召された方の体内の細胞は水分を保持することが出来ないからです。水分が少ないと粘性は高まりカラカラの粘土のようになってきます。粘度が高まることによって伸びが悪くなり、切れるリスクが高まるのです。
子供の時は急に運動を始めていきなり全力プレーが出来ていたのが、徐々にそのような運動ができなくなるのも、加齢に伴う潤いの低下が関係しています。
ここまでで、筋肉の粘弾性については理解できたでしょうか。

では最後に、筋肉の粘性が低くなると関節がスムーズに動き始めるようになることは理解できたと思いますので、体温と運動パフォーマンスとの関係について言及していきましょう。
関節がスムーズに動き始め、運動開始前より動く範囲が大きくなると筋肉はより伸長することができます。ゴムは伸びれば伸びるほど戻る時に大きな力を発生することができますので、それが筋出力発揮量=パワーを増やすことに繋がるのです。また身体全体の関節がスムーズに動くことで身体の最適な姿勢を維持しやすくなり、最適な姿勢は『てこの原理』を効率的に使うことができるので、強い力を生み出すことができます。
ここで、少し目線を変えて運動前のストレッチは運動のパフォーマンスを下げるということが言われますが、どういうことか見ていきましょう。感の鋭い方であれば、前述のように最適な姿勢を生み出せれば、パフォーマンスは高められるのではないの?だったらストレッチで可動域を高めたらいいのではないの?と考える方もいると思います。世間一般的にストレッチと呼ばれるものは、トレーナーの中では静的ストレッチと呼ばれる類になります。静的ストレッチは筋肉の伸長を運動前に行うことで、急激な伸長が起きる前に予備伸長を行い肉離れを防ぐことができます。怪我の予防や最適な姿勢を取ることだけであればこれだけで良いのかも知れません。
一方で、筋肉を一定時間伸びたままの状態が続くと筋肉に付着する腱も同時に伸長することとなります。腱は伸ばされると腱紡錘と呼ばれるセンサーが反応します。
短時間の伸長であれば、ほぼ筋につく筋紡錘の反応だけですが、腱紡錘が反応すると筋肉が伸ばされ引きちぎれないようにするため、脳は筋肉を緩めるような指令を送ります。これによって筋肉の弾性が下がり、パフォーマンスが落ちてしまう理由として考えられています。

以上のことから、ウォームアップでは、筋温などの深部体温を高めることを目的にジョギングなどを行います。その後、ムーブメントプレパレーションと呼ばれるダイナミックストレッチを行い、各関節を大きく動かしていくことで関節可動域を拡げ、より主であるメイントレーニングやスポーツパフォーマンス向上の効果を高めていくことができます。

ムーブメントプレパレーションについては、また別の記事で投稿することにしましょう。
今回の記事はここまでです。
またお会いしましょう。

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