国内オペレーター数は72万人?
コンタクトセンター向けのシステムや事業を企画する上で、市場規模として就業人口が知りたい、という方がいらっしゃると思います。
これまで業界では通説のように「オペレーター人口は100万人」と言ってきました。果たしてこの「100万人」が正しいのか検証してみたいと思います。
「電話応接事務員」は26万人
まずは公的な統計調査から確認です。国勢調査では、「電話応接事務員」という職業分類があり、平成27年の時点では約26万人とされています。ただ、この数値は諸外国の統計や、アウトソーサーの売上規模から推測すると明らかに少ない数値だと思われます(下記プライムフォース社の記事も参考)。
国内のコンタクトセンターは、諸外国に比べてアウトソーシングの利用比率が高く、比例してオペレーターの有期雇用の比率も高いため、統計調査では捕捉しにくいという背景もあるかと思います。
アウトソーシングの売上は1.5兆円
そこで、まずはアウトソーサーにオペレーターがどの程度いるのか考えてみたいと思います。
アウトソーシングサービスの市場データは複数の調査会社・団体より発表されており、最新の市場全体の売上高は以下のようになっています。
いずれの調査も事業者公表の売上高を積み上げて推計しており、調査対象の企業数の違いから幾分異なる数値がでていますが、大きくは変わらない結果となっています。
ただ、少し解像度を上げて個々の企業の売上構成も分析してみると、最大手のトランスコスモス社ではデジタル関連事業や海外拠点の売上も多いことや、「事務サービス(BPOサービス)」を拡大している事業者もあり、上記の数値には、コールセンター以外の売上も少なからず含まれていると言えそうです。
その一方、これらの調査では上位企業の売上のみで数値が作られているため、調査に含まれない中小事業者の市場が存在していることも事実です。
こうしたプラスとマイナスの事情はありますが、ざっくり相殺して考えると、アウトソーサーの市場規模は、約1.5兆円(調査対象の最も多いコールセンター協会の数値)を使っても良さそうです。
アウトソーサーのオペレーターは39万人
この売上1.5兆円からアウトソーサーにオペレーターが何名いるのかを推計してみます。これはそこまで難しくない計算になります。
大手事業者であれば、多少のバラつきはありますが、1人あたりの時間売上は2,000円(約32万円/月)程度と思われます。これは、オペレーターやSVへの給与ではなく、管理費やシステム利用費などを含んだクライアントへの請求額になります。
この1人あたり売上から逆算すると、売上が100億円の場合は約2,600名、2,000億円の場合は約52,000名という計算になります。上場企業等で公表されているケースに照らし合わせても、大きくはズレていないように感じます。
そして、このロジックで2023年の市場全体の1.5兆円に当てはめると、アウトソーサーに従事するオペレーター・SVは約39万人と推計できます。
ただし、この数値はフルタイムで働く人数を計算しており、スポット業務で短期間従事するケースなどは考慮していないため、物理的な「座席数」や「のべ人数(センターの在籍者数)」はもう少し多くなりそうです。
インハウスの比率は席数ベースで46%
アウトソーシングに従事する人数が計算できたので、自社運営する"インハウス"側の就業人口も推計してみたいと思います。
ただ、インハウスの実態を掴むのは簡単ではありません。
アウトソーシングのように”売上”として実態が可視化されないことに加え、営業や総務の業務の一部として顧客対応が行われることも多いため、正確に実態が把握することができません。
手がかりは少ないのですが、「コールセンター白書」にて、センターの運営形態を毎年調査しているため、このデータを元に、アウトソーシングとインハウスの席数を試算してみました。以下の図にまとめています。
コールセンター白書の調査では、事業者数をベースにした比率になっていますが、運営形態によって座席の規模が異なるため、この数値をそのまま使うことはできません。
同じコールセンター白書の調査では、席数規模で最も多いのは10-30席でした。感覚的な部分もありますが、インハウスのセンターでは平均20席ぐらいが多いと考えられます。
一方、アウトソーサーですが、アルティウスリンク社の数値を参考にすると、取引1,300社で2,400億円になりますので、1社あたり1.8億円となり、平均の席数や約50席となりそうです。
運営形態別の比率に対して、それぞれの平均席数を加重すると、席数ベースでのシェアはインハウスが46%となりました。
オペレーター全体では72万人の試算
アウトソーサーを約39万人と見込んだため、上記の比率をあてはめると全体では72万人程度の試算になります。定説となっていた100万人からは少し低い見積になりました。
コールセンター白書の調査は、センターとして組織化されている一定規模以上を対象としていると考えると、まだコールセンターと呼んでいないような数名規模の体制はこの試算に含まれていないと言えます。こうした小規模な「問い合わせ窓口」の裾野が広いと考えると、見込みは増えて100万人に近づく仮定することもできるでしょう。
一方で、エンタープライズ向けのシステムやサービスを販売する対象として就業人口を見積もる場合、今回の72万人程度と捉えて良いように思います。
ちなみに上場しているビーウィズ社のIR資料では、下記のように市場を分析しており、全体市場の58%(2.6兆円のうち1.5兆円)がインハウスと見積もっているようです。この場合、全体の就業人口は約92万人となります。
今後は減少していく?
AIのさらなる進化により、電話対応の業務は減っていくと見込まれますが、急激に減ることはないと考えています。しかしながら、デジタルチャネルでの対応増加とともに、大規模な運用体制は減りつつあるため、インハウス主体のオペレーションがさらに増えてくるでしょう。
今回の試算では通説となっていた就業人口100万人よりは少ない、約72万人と試算しました。あくまで、様々なデータの繋ぎ合わせた一つの仮説になりますが、参考にしていただければと思います。
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