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この濃密な時間が、たまらなく好きなのだ―『響け!ユーフォニアム3』最終話

ボクは吹奏楽部で、中学、高校、大学、合わせて10年過ごした。

思い起こせば、この10年間は理不尽なことが多かった。

中学ではなんとなく吹奏楽に入った。全然練習もせず、1年、2年とブラブラと続けた。確か1年生はなんとか金賞、2年はなんとなく銀賞

そんなだから2年の途中で退部しようと思った。

「ボク、吹奏楽やめようとおもうけん。ソフトボール部にはいるわ」

仕事中の母に電話越しにそのことを伝えた。当時ボクの中学では部活は必須。そんな中ソフトボール部は適当な生徒のたまり場になっていたのだ。

母は少し残念そうに、「……もうすこし続けたら」とだけ言った。

うーんと考えたボクは、もうすこし続けることにした。そんなこともあり、ちょっぴり練習に身が入るようになった。

そして迎えた3年。結果は見事金賞。「あ、やればできるんだ」と静かに舞い上がったような気持ちになった。


高校では吹奏楽を続けるつもりはなかった。

自分は楽器がそこまでうまいと思っていなかったからだ。だけど、入学式で演奏する先輩をみると、単純にかっこいいと思い、入部を決めた。

だが、当時は練習に集まらない先輩ばかりで、合奏するのがやっとだった。

1年のコンクールはもちろん、銅賞。しかしながら3年が卒業し、メンバーが入れ替わったタイミングで、全員の心が入れ替わり、みんな練習に打ち込むようになった。

そんな強い気持ちで挑んだ2年のコンクールでは、結果は銀賞。そこでボクたちは金賞の壁を、改めて思い知った。

そして、一皮むけた3年のコンクール。結果は、銅賞

その時のコンディション、選曲、プログラム順……運もあるだろう。

当時部長だったボクは、スポットライトで照らされたステージに立ち、ゴールド金賞に湧く隣の高校のとなりで、下を向きながら肩を落として小さくなっていた。


そして大学。大学は強豪校だったので、吹奏楽部に入るのは迷っていた。なんせ練習がきついらしいのだ。だが、これまた入学式で楽しそうに「宝島」を吹く先輩たちを見て、入部を決めた。

だけど、入ってみたは良いものの、毎日、練習練習練習。365日・毎日5~6時間、練習に明け暮れた。

1年のコンクール。もちろんボクはレギュラーになれず、全国大会のコンクールの音は、舞台袖から聴いた。結果は銀賞。演奏は結構いいサウンドだったが、前に演奏した大学の演奏が圧巻だったので、そちらのほうが印象に残っている。

2年のコンクール。この年は当時コンクールに存在した「3出ルール」でコンクールはお休み。招待演奏をすることになっていた。

この年は結構たいへんで、寝たきりだったじいちゃんが死んで、当時付き合っていた同じ吹奏楽部の彼女を、これまた部の先輩に取られた。

ズタズタの気持ちになりながら、迎えた招待演奏の当日。バスの出発時間になっても、同じパートのミナミが来ない。しかも連絡もない。ミナミの安否を案じつつも、バスが出発。

その瞬間、バスの後ろで歓声が上がった。

ボクも驚いてバスの後ろをみると、なんと遅刻したミナミが自転車でバスに食らいつき、必死にペダルをこいでいるのだ。

これには、ボクも胸が熱くなった。
(結局、無事ミナミはバスに乗り、一緒に会場に向かった)

3年のコンクール。金賞を目指すボクの熱い気持ちを尻目に、先輩はボクの後輩をコンクールメンバーに選んだ。

「最高の演奏をするにはなにがベストか?」を考えた先輩の難しい判断もあったと思う(いまだからこそ分かる)。

当時のボクは 「北宇治は実力主義である!」……とはなろうはずもなく、気持ちは荒れた。全国の日、「結果は銅賞」だった、と会場ではなく練習場で聞いた。

そして4年のコンクール。次こそ全国金賞を目指す、と意気込んだ。全国金を取るためには当然、都道府県大会・支部大会を勝ち抜く必要がある。

そして、挑んだ最初のステージ、都道府県大会。

結果は、ダメ金だった。
次の大会には進めず、ボクの最後の夏はあっけなく終わってしまった。

大会が終わり部室に戻った終礼で、ボクは部員全員の前で鼻水を垂らしてぐちゃぐちゃになって泣いた。こんな理不尽なことが許されるのか!と。その後は、定期演奏会を得て部活を引退をした。

そこからほとんど楽器は触っていない。

ぐちゃぐちゃになって泣いて以来、ボクは吹奏楽コンクールは大嫌いだった。結果は伴わないし、努力は実らないし、思えば惨めな思いしかしてない。

だけど、社会人になって20年経った今でも吹奏楽部だったころの夢をみる。

夢はいつも決まっていて、コンクール当日、一度もさらったことない曲を初見で演奏する―というもの。

(えっと、この譜面ならギリギリいけるか…♯多いぞ…そもそもオレ、最近楽器吹いてるんだっけ?いや、吹いてないよな…やべー!!)

…と、結局、演奏はせずステージ直前で目が覚める。

目が覚めた後は、くくく、と笑いながら、残りの睡眠時間を楽しむ。そして、あの10年間がボクにとって「濃密な時間」だったことを改めて噛みしめる。

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吹奏楽部は不思議な空間だ。

毎年メンバーが変わるなか、1年に1度の大会のために、練習を続ける。
理不尽で取り返しがつかないことがたくさん起きる空間だ。

でも、ボクがここが好きだ。

たった3年、3回しかない大会にすべてをかける。
この濃密な時間が、たまらなく好きなのだ。

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