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ボクたち30・40代の不安や焦りの正体とは?ー『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち 』

この本によると「ファスト教養」とは、

本来定義のあいまいな「教養」という概念を、周りを出し抜いてうまくお金儲けするためのツールとして転用されている状況

のことである。

この本では、ファスト教養的な姿勢を生み出す「ビジネスやお金儲けに関係しないものを無駄なものと位置づける姿勢」を言語化し、そうした空気が情勢された歴史的背景やメカニズムを紐解く。

筆者は、

「ファスト教養」を取り巻く状況を辿っていくと、「ビジネスで成功したい」「使えない人間になりたくない」という狭間のなかで平衡感覚を失っていくビジネスパーソンの姿が描き出される

という。

しかしながら、この本では、

「本来、高尚であるべき『教養』を、ビジネスで活用するのはけしからん。古き良き教養にもどれ!でも……そもそもお前たちはキルケゴールについて本当に理解できるんだっけ?ww」

という「古き良き教養論」を二元論的に振りかざすのではなく、より現実的な解決策(本書の中では『ポストファスト教養の哲学』)を提示している点が本当にありがたい(本記事でも、それは最後に記している)


自己啓発ブームの背景にあるボクたちが抱える「不安」

そもそも「教養」はすぐに役立つものではない。

でも、「教養としての●●」とか「ビジネスに効く●●教養」といった本やYouTubeコンテンツが山のように巷に溢れているのはなぜだろう?

そこには「ファスト教養」が生まれる背景にある、ゼロ年代に叫ばれ始めた

「自己責任」
「スキルアップ」

というキーワードがそれらを紐解く鍵になるという。


「自己責任」という考え方が一般化したゼロ年代

今ではすっかり浸透している「自己責任」という考え方。本書によると、この言葉は2004年頃に一般化したのだという。

その流れはこうだ。

バブル崩壊直後の閉塞感が真っ只中の日本で、小泉旋風が巻き起こった。彼らが声高に叫んだのは、旧来のシステムのアンチテーゼである

「自分の身は自分で守る」

ということだ。

そんななか、ITビジネスの成功から、フジテレビ買収騒動、プロ野球参入で一躍有名になった堀江貴文氏が登場。

堀江氏が社会に対して発信した

「実力で稼げ」「稼げない奴はいらない」

といったようなメッセージは、「自己責任の空気」のガソリンとなった。

そしてまた、ITバブルも相まって、ビジネスがカルチャーの上位に陣取る空気を醸成することにもなった。

そうした中で、「成功=金儲け」という図式がまん延。さらには金儲けのためには、とにかくスピードと結果が重要視されるようになった。

その結果、「いかに効率よく稼ぐ人間になるか?」という価値観が主流になっていったのである。


「お金のための勉強する、そのための努力をすべき」

堀江貴文氏の収監後は、勝間和代氏によって「お金のための勉強する、そのための努力をすべき」という考え方が広く受け入れられた。

彼女が主張したのは「英語、会計、IT」というスキルの重要性だ。

だが、こうした考え方が広がりすぎた結果、ビジネスパーソンの多くはこの3つの領域に何らかの形で手をつけてしまった。

さらには、SNS時代においてはこれら3つスキルは差別化にはならず、周りと異なる知見を身につける必要も生まれた。

そこで注目されたのが、「宗教」「サイエンス」「クラシック音楽」「ジャズ」などの「教養」という概念であるという。


「教養が時代を生き抜く処方箋」という発想は、幻想である

現代にまん延している空気感。それは、うまくやっていかないとビジネスシーンでは、使えない人材になってしまう、という不安である。

その不安の背景には、勝ち組たちによって日々SNSを通じて我々に提示され続ける「無限の選択肢」の存在がある。

ただ、「勝ち組」が本当に幸せなのかというと、残念ながらそうでない。至極当たり前のはなしだけども、彼らであっても、

自分の成功がこの先も保証されるのか?

という不安から逃れられないわけだ。

終身雇用で安定したい本音、だけどそれが難しい社会になりつつある現実、インターネットに溢れる成功譚に対する焦燥感、そして成功者の憂鬱。どこにどう転んでも正解のない時代である。

なので、そんな時代を生き抜くために効果的な処方箋は『教養』……などという話は幻想である、と筆者は訴える。


解決策:どう転んでも正解のない時代、ボクたちに求められるのはなんだろう?

それは、

  • ボクたちが漠然と考える「成長したい」という気持ちに対して、「そもそもなぜ成長したいんだっけ?」を問い直すこと

  • その上で、自己啓発的な成功者のエピソードではなく、専門的な知見に裏打ちされた専門的な「知識」を得ること

であるという。

更には、ビジネスで必要な知識といっても安直にトレンドを追わない。また、自分の根源的な「好き」を見つけて、「好き」を続けることが重要であるという。

究極をいえば、自分の「好き」を見つけて、無駄なことにも意味を見出しながら、自分なりの生き方に対する問いを育んでいく以外に道はない、と筆者は結論づけている。

すべてを読み終わった後、ボクはなんだかスッキリした。

これまで抱えてきた不安や焦りは、実はボク固有なものではなく、時代の空気という原因も大いにあったこと。また、新しい枠組み・価値観を見いだせるキッカケになったからだ。

もちろんお金や成功は大事だ。だけど、それだけに囚われすぎると、大きな流れを掴むどころか、波に飲まれてしまう。

そうした流れを俯瞰してみる視点を得ることで、一歩踏み出すキッカケになれる一冊である。

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